2017年、イギリス、ロンドンのテック領域における投資額が過去最高額を記録した。ヨーロッパでは、テック領域における米国の人材流出なども危惧されていたが、ロンドンはそうした悩みとは無縁のようだ。
そんなロンドンに本社を構えるベンチャーキャピタルが「Tech City Ventures」だ。中小企業や大企業、政府を対象に、優れたアイディアをスケールさせるための意思決定や、効率的な組織づくりを専門としている。2014年の設立以来、2000を超えるスタートアップと150以上の国内外のリーダー、また大企業の300人以上の経営幹部、意思決定者を支援してきた。
ロンドンでは、どのようにスタートアップエコシステムが育まれてきたのか、そして日本に足りないものとは何なのか。「Tech City Ventures」のCEOを務めるGeorge Johnston氏に伺った。
中小企業から政府まで、組織の継続的な成長をサポートする
- 「Tech City Ventures」は“イノベーションプラットフォーム”を掲げています。具体的にどのように企業や政府を支援しているのでしょうか?
- 主に2つのアプローチがあります。1つ目は新プロダクトの検証のために想定顧客をつなげること、2つ目は彼らに協力してくれるであろう企業のトップを紹介することです。私たちは、彼らの必要としている顧客や、影響のある企業についての知見を持っていますから、それらを活かして、組織を持続的に成長させるための支援を行なっています。
- 支援先はイギリスの組織が中心になるのでしょうか?
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イギリスに進出した外国企業も多いです。後はロンドンを拠点に世界を繋いでいきたい。すでにニューヨークやシンガポール、バルセロナ、ベルリンなど、都市間のネットワークを持っています。
すでに設立から5年が経ち、ロンドンのスタートアップコミュ二ティの成長と共に、「Tech City Ventures」も成長を遂げてきました。今度は世界の至る所でで、イノベーションを起こすための“入り口”を提供していきたいです。
ロンドンはイノベーションへの貪欲さと強固なインフラの共存する街
- 「Tech City Ventures」はロンドンに本拠地を構えていますが、スタートアップエコシステムにはどのような特徴があると思いますか?
- ロンドンのスタートアップエコシステムには、“ダイナミックさ”があると考えています。イギリスは法律や政治、経済、メディアの仕組みが生まれた場所であると同時に、企業もカスタマーも変化を貪欲に求めています。ビジネスを支える土壌が揃い、市場もテクノロジーに対して抵抗がない。イノベーションが生まれ、広がりやすい環境なんです。
- 確かにロンドンではフィンテック領域で、政府や大企業、スタートアップが密に連携を取っていますよね。なぜなのでしょうか?
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大企業はスタートアップを脅威と捉えるのではなく、自分たちのビジネスに恩恵をもたらしてくれる存在として協力しています。パブリックセクターも同じ意識なのだと思います。
とはいえ、スタートアップと政府のつながりはもっと深めていけるはず。引き続き、両者を繋げる仕組みを整えていく必要があると考えています。
- ロンドンではフィンテック以外にどのような領域が盛り上がっているのでしょうか?
- あらゆる領域に大きなイノベーションの余地があると思います。なぜなら、今多くの組織は従来の枠組みを脱し、より効率的で利益を得やすい構造へ移行しようとしているからです。リテールテックやリーガルテック、アドテックなど挙げればきりがありません。
スタートアップエコシステムに欠かせない6つの柱
- 日本のスタートアップや彼らを取り巻く環境について、どう感じているか教えてください。
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日本はイノベーターとして世界に認知されています。それは今後も有利に働くでしょう。特に工業分野、自動車製造におけるプロセスの効率化や自動化の技術は、他の分野でも活かせるはずです。
今後は、より政府や経済についての支援が必要になるでしょう。スタートアップであっても、R&Dに多大なリソースをかけ、プロダクトを構築するのが当然になっていますから。
- X-HUB TOKYOは日本から世界規模のスタートアップを生み出すことを目指しています。そのために何が必要だと思いますか?
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エコシステムには以下の6つの重要な柱があります。
・コミュニティ:個人と組織が互いに支援しながら成長できる繋がり
・インフラ:コミュニティが育つコワーキングスペースなどの場
・ブランディング:起業家や顧客、投資家、顧客に対する魅力の発信
・エデュケーション:必要なスキルを提供する教育やトレーニング機会の提供
・フレームワーク:イノベーションを支える行政や法律の枠組み
・ファンディング:スタートアップの活動を経済的に支える仕組み
ロンドンはこの6つが揃っていたからこそ、成長できました。もちろん日本も、この6つの要素を備えた場であるはずです。各要素をバランス良く強化しようとする姿勢が重要なのではないでしょうか。
リーガルテックやフィンテックなど、テクノロジーによる変革は実社会にも着実に広がっていく。その過程では、大企業や政府、スタートアップが協働して、イノベーションを生むエコシステムを構築していく必要があるだろう。規模や立場を超えたコラボレーションの進むロンドンの取り組みから、日本のスタートアップエコシステムが学べることは少なくないはずだ。