「聴こえの常識を塗り替え、聴こえの未来を変えていく」をビジョンに掲げ、難聴者への支援をもっと手軽に、的確に行える対話支援スピーカー「comuoon」を開発しているユニバーサル・サウンドデザイン。「comuoon」は現在、全国の医療機関や自治体を中心に広がりを見せている。

今回はX-HUBプログラム「シンガポール進出コース」の参加企業でもある同社代表の中石真一路氏に、開発製品「comuoon」の可能性と課題、今後の展望について話を伺った。


ユニバーサル・サウンドデザインは2012年に創業されています。これまでどのような活動をされてきたのでしょうか?
2013年12月から、本格的に「comuoon」の受注・生産をはじめ丸5年が経ちました。現在、一般の方はもちろん、病院や自治体に「comuoon」を導入していただき、広げる活動をしています。

そもそも「comuoon」は、健聴者の方が難聴の方とのコミュニケーションに使う製品なので、まずは、難聴の方には音がどのように聴こえているのか、高齢者も含めて難聴の方が増えている、と説明するところからはじめています。スマホが出始めて「なんだこれ」と言われていたときと同じ状況なので、製品を理解していただくためにはきちんと説明をし、浸透させていく時間が必要なのです。

当たり前ですが、音がちゃんと聴こえている健聴者の方には難聴の体験ができません。なので、聴覚障害の方たちに協力してもらい、健聴者の方たちの目の前で「聴こえる音の違い」を体験していただいています。すごく地道な活動ですが、「comuoonから出る音の方がよく聴こえる」となれば証拠になりますし、「何人中何人が聴こえました」というデータを提案すると、「これはいいね!」と理解していただくことができます。

「comuoon」を使用して音が聴こえやすくなると、どのようなことが解決されるのでしょうか?
コミュニケーションが円滑になります。例えば病院で、看護師さんが高齢者の方に「これから注射をしますね」と伝えたとします。そのとき、話が聴こえていないのに「うん、うん」と反応してしまった場合、看護士さんが腕をもつと「何をするんだ!」と言われてしまうわけです。

また、難聴の方と話すときに大きな声を出す必要がなくなります。現在、難聴の方は補聴器を嫌がることも多いので、話す側が大きな声を出さざるをえない状況です。ですが、「comuoon」があれば補聴器がなくても大きな声を出す必要がなくなります。

このように、話し手の負担を軽減しながら難聴者の方も音が聴こえやすくなるんです。

イベント会場や学校の教室などへの導入を検討している、大型サイズの「comuoon」

アジアにも展開しているとお聞きしましたが、どのような反応が得られているのでしょうか?
まず、リサーチと「comuoon」の販売をはじめて1年以上経っている国が韓国です。他にも台湾とシンガポールで展開を進めています。

特に台湾では、「台湾ではまだ論文が出ていないので一緒に出しましょう」と、共同研究を含め一緒に取り組みをする話をしています。

あとは、エビデンスを取ったことが海外展開でも大きな影響がありました。現在は、九州大学や広島大学と論文を出していて、「Neuron(ニューロン)」にも掲載されたことがあります。そのため、海外でも「そこまでしているのなら問題ないね」と、話を聞いてくれるんです。


X-HUBでは「シンガポール進出コース」に参加されていました。どのような参加目的だったのでしょうか?
もともと、シンガポールの「聴覚」と「高齢者」について気になっていたので、市場を見てみたかったんです。いわゆる、リサーチをしに行きました。

結果的に、やはり「comuoon」と類似したプロダクトはなかったですし、日本と状況が似ていましたね。補聴器を嫌がる人は多いですし、高齢化が進んでいる。現地のドクターも「私たちも大声で話している」と言っていました。シンガポールの大学の先生も興味をもってくれています。

X-HUBをきっかけにシンガポールにも市場があるということがわかったので、これからシンガポール用に「coomuoon」のカスタマイズをしています。あとは出荷のことを考えると、最低1000台は受注を取らなければいけないですね。代理店さんとも話をしているところなので、もうすぐ進められると思います。

X-HUBに参加して得られたこととは?
やはり、難聴の方や高齢者の方とのコミュニケーションは海外でも重要な課題だということがよくわかりました。

他にも、提案資料のプラッシュアップをしていただいたおかげで、資料を見ていただいたときの反応も良くなりましたし、参加してよかったと思っています。

シンガポールでは今後、どのような戦略で展開を進める予定ですか?
今後は、シンガポールを基点に開発・研究を行いたいです。そうすると、シンガポールはアジア圏の病院などの中でも「情報の基点」となっているので様々な国に弊社の情報が行き渡るのではないかなと。

また、実際に「comuoon」を使用してシンガポールの病院でも検証を始めます。それには、シンガポールにいる難聴の方が、どの程度の難聴なのかを検査しなければいけません。どのくらい聞こえにくくて、どのくらい聞こえるようになったのか、効果を調査するんです。そうしないと評価ができないので、まず日本で行なったような細かい検証をする必要があります。


日本と海外とどちらも進めていますが、プライオリティはどこにおいているのですか?
もちろん海外展開も進めていきますが、まずは日本からしっかりと固めていこうと思っています。現在は、福岡大学と一緒に「認知症と聴覚の影響」を研究中です。さらには、九州大学さんとの別な研究もはじまりましたし、「難聴の治療」もはじめる予定でいます。しばらくは、これら3本の研究活動が主軸になりそうです。

そして、日本での研究が終わったら海外にも展開し、論文を書いていこうと考えています。日本以外の各拠点でもエビデンスをとって、どんどん広げていきたいですね。

あとは、想いを持った上で各施設や利用者に対して製品の説明ができる、私の分身のような人を増やすために「comuoon検定」をスタートしました。検定に受かった人や代理店は「comuoonアドバイザー」と認定し、仕入れ値を低くできたりなどのメリットを付与していく。将来的には、海外でもエバンジェリストの育成を進めていくつもりです。