国内スタートアップの海外進出を支援するX-HUB TOKYOは2月18日、世界に挑戦する起業家や支援者が集う『X-HUB TOKYO DEMO DAY ~LEAP into the WORLD~』を開催。デモデイ当日には、X-HUBプログラム採択企業によるピッチや、海外VCが「日本スタートアップが世界で勝つための方法」を語るセッションが行われた。

デモデイのキーノートスピーチで登壇したのはMistletoe代表取締役でありスタートアップの創業・成長支援を行う孫泰蔵氏。本記事では、会場中が首肯した孫泰蔵氏のスピーチ「海外進出なんてもう古い」をお届けする。


わたしは、フィンランド発のスタートアップイベント「Slush」を中心に、若者たちのスタートアップのムーブメントに5年前から参加させていただいています。この活動にとても感激して、「じゃあこれを日本にも持ってこよう」と4年前に「Slush Asia」(現Slush Tokyo)を始めました。

そして今、「Mistletoe(ミスルトゥ)」という、若い起業家たちを応援するコミュニティを作っています。わたしたちは、「イノベイティブなテクノロジーを作り出し、それを社会に実装して世界を変えていこう」と活動する若い世代の起業家たちを応援して、世界に大きなインパクトを与えることがミッションです。

なので、ミスルトゥのメンバーはわたしのように起業家だった人や法律家、デザイナーなどが専門的な知見を提供し、全方位的に応援していく体制を整えています。そして「ゆりかごから墓場まで一緒に行こう」と、事業立ち上げ時だけでなく事業を閉じるときまで一緒にやっていく。なぜなら、わたしたちは成功だけが大切なのではなく、失敗を経験することも非常に大きな学びがあると思っているからです。失敗をした人たちは絶対に次もまたやるし、絶対にもっといいものを作る。だから失敗で終わらせるのは非常にもったいない。失敗したときこそ、全面的に応援をすることを心がけています。

今日は、「日本のスタートアップを世界に」というテーマで、海外進出について色々と話をしていきます。起業家の方々へ、アドバイスをさせていただきたいと思います


壮大なビジョンを描き、仲間を集めよ

まず1つ目は「ビジョンを作る」こと。最近ではだいぶ良くなってきたと思うのですが、最初に、自分が作っている商品やサービスが世界中に広まったときに「どのように世の中が変わるのか」をはっきりと描いてほしいのです。

具体的にその光景が目に浮かぶものを「ビジョン」と呼び、そしてその世界観が素晴らしいと、わたしたちは「絶対に実現したほうがいいね、じゃあ応援するよ」となるのです。よく「理念」と「ビジョン」を混同させてしまっている人がいますが、それは違うのです。

特にアーリーステージのシードラウンドの起業家こそ、大きな素晴らしい世界を描いて「これを実現するために応援してほしい」と言うことがすごく大事なのです。しかし日本人の起業家の多くは、日本語でしかビジョンを考えずに「まず国内市場でうまくいったら世界へ」と思っている。世界進出をするのであれば、とにかく、最初のビジョンを作る段階から英語で取り組んでください。

2つ目は「仲間を探せ」ということです。わたしもそうでしたが、スタートアップでは95%くらいの時間を「仲間集め」に使います。ビジネスプランを描くことなどに時間を費やし、「忙しいから」という理由で人の採用を後回しにするケースが多いですが、それは逆なのです。

そのためにはビジョンが必要なのですが、素晴らしいビジョンを作ると「ぼくも手伝いたい」「わたしも一緒にやらせてくれ」となり、描いていた世界が実現できる可能性が高まります。ただし、世界進出をするのなら最初からインターナショナルを目指し、仲間を日本人だけで固めないことが大切です。

3つ目は「人に習うな」。これは、「自分一人で、恐れず我が道を進んで欲しい」という意味です。日本のスタートアップは、シリコンバレーで成功しているものを真似したサービスやビジネスモデルが多いのですが、せっかくの「技術・才能・情熱」を、クローンを作ることに使わないで欲しいのです。みなさんが思う以上に、世界では日本のオリジナルが求められています。なので、クローンを求めないでください。


大きな目標を持ち、課題を解決せよ

4つ目は「Think Big」。世界を目指すのであれば、大きくものを考えましょう。「世界を救う!」くらい、とにかく大きく考えて欲しいのです。

わたしが出会った起業家の中で1番若く、1番感動した起業家がいます。彼はBoyan Slat(ボイヤン・スラット)というオランダ人です。彼は海水浴に行ったとき、海にプラスチックのゴミがいっぱい浮かんでいたのを見て「これを片付けて、きれいな海で泳ぎたい」と思ったことから、海のゴミを片付けるための実験を始めました。その実験の動画をYouTubeに上げて「こんなことをやっています!」と宣言をしたら、いろんな人たちが「いいね!うちの研究室にきなさい!」と次々と声がかかり、協力者たちがどんどん集まったのです。そして今、日本円でいうと50〜60億円の資金を集めて活動しています。

実際、いま日本でも大きな社会課題を解決しようとする若い起業家がたくさん生まれようとしています。大きな視野・高い視座でものごとを考えている子が増えているので、それをわたしたちは応援しています。

最後、5つ目は「一隅を照らせ」です。これは「一隅を照らす者是国士なり」からきていて、わたしの座右の銘でもある最澄の言葉です。「一隅」とは「みんな気付いていないけれど実は大事なこと」、もしくは「本当はしっかり向き合うべきだけど、見ないようにしていること」です。

最澄のこの言葉は、そんな一隅にスポットライトを当て「これはなんとかしたほうがいい」「こうやったらうまくできるのではないか」と動く人は国の宝である、最も尊敬すべき人である、という意味です。

日本は、1,000年以上も前から続く深い思想が受け継がれている国です。当時、中国から仏教や建築の技術を持ってくること、つまり世界の最先端を日本に持ってきたのが最澄だった。わたしたちの国には元々、スタートアップのような精神があったのです。

これら5つのことを胸に刻んで、ぜひ起業家の皆さんには頑張っていただきたいと思います。ありがとうございました。