都内スタートアップの海外進出を支援するX-HUB TOKYOは3月26日、2020年度X-HUB TOKYO成果発信イベント「先輩起業家が語る海外展開の魅力」を開催しました。Forbes JAPAN Web編集長の谷本有香氏のモデレートのもと、海外展開に成功した起業家の方々が、これからの海外展開の在り方や成功の秘訣をパネルディスカッション形式で議論しました。

今回のイベントでは、Aniwo Ltd. Founder兼CEOの寺田彼日氏のほか、株式会社イノフィス代表取締役会長の古川尚史氏、そして株式会社スマートドライブ代表取締役(CEO)の北川烈氏に、海外マーケットの魅力や海外展開を成功に導くポイントなどをお伺いしました。

イベントの後半では2020年度X-HUB TOKYOのプログラムに参加したスタートアップが成果発表を行い、海外展開を目指すスタートアップだけでなく、VCや大企業といったスタートアップのサポート機関の方々にも有益な最新情報を共有しました。


先輩起業家が語る海外展開の魅力

(左上から)Forbes JAPAN Web編集長 谷本 有香氏、Aniwo Ltd. Founder兼CEO 寺田彼日氏
株式会社スマートドライブ代表取締役(CEO) 北川烈氏、株式会社イノフィス 代表取締役会長 古川尚史氏

まずはじめに、登壇者の皆様の事業内容やサービスについて教えてください。
寺田氏:私たちAniwo Ltdはイスラエルに拠点を構え、イスラエルと日本をつなぐイノベーションアドバイザリーサービスを展開しています。また、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進事業や採用オンラインプラットフォームの運営のほか、サイバーセキュリティサービスなど手がけています。

北川氏:スマートドライブでは、移動にまつわる多様なデータを収集、解析し、モビリティーの分野で新たなサービスを創造しています。移動に特化したデータプラットフォームも幅広く展開しており、国内外を問わず様々な企業と協業を進めています。

古川氏:イノフィスは大学発スタートアップとして、人工筋肉を使用したウェアラブルロボット「マッスルスーツ」の開発や販売を手がけています。製品は介護や農業の現場などに導入されており、課題を抱えたユーザーの困りごとを解消するための商品開発に力を入れています。

Aniwo Ltd. Founder兼CEO 寺田彼日氏

新型コロナウイルス感染症の拡大をうけ、人々の生活様式は大きく変わりつつあります。現在ビジネスを進めるうえでは、どのような変化を感じていらっしゃいますか?
寺田氏:リモートワークが進んだ結果、情報漏洩対策としてサイバーセキュリティー関連のスタートアップが多く活躍しているように感じています。イスラエルではスタートアップへの投資が既に回復基調にあり、2020年の1年間では1兆円前後の投資が行われました。この数字は、日本のスタートアップ投資額の2倍の金額に相当します。

古川氏:新型コロナの拡大で展示会の開催が難しくなったため、弊社では商品の販売に影響が出ています。お客様に商品を購入いただく際には、事前に一度体験してほしいというのが私たちの本望です。現在はオンラインの活用を進めて新たな販路の開拓にも注力していますが、従来の販促活動とは異なる課題もあるように感じています。
コロナ禍では海外進出のタイミングに悩むスタートアップも少なくありません。海外展開のタイミングを決める上では、どのようなポイントが重要でしょうか?
北川氏:あまりタイミングばかりに囚われ過ぎずに、とにかく海外に進出する勢いが重要だと考えています。国や地域によっては、規制やルールが日本と大きく異なる場合があります。だからこそ、ゼロからビジネスを創り上げる覚悟をもつことも大切です。

古川氏:私自身の見解では、海外では「Made in Japan」がメリットになる場合があります。そのため、日本でしっかりと実績を積んでから海外に進出した方が、うまくいくケースが多いように感じています。

株式会社スマートドライブ代表取締役(CEO) 北川烈氏

これまでの海外展開のなかで、失敗談などがございましたら教えてください。
北川氏:海外で事業を立ち上げる際に、現地では手続きにかなりの時間を要しました。現在はオンラインでも情報を収集しやすいため、例えば駐在員の方々に事前に話を伺うだけでも、現地の肌感覚を掴みやすくなるはずです。

寺田氏:イスラエルは物価や人件費が高く、事業をスタートしたばかりの頃はかなりのコストがかかりました。また、ビザの手続きなども大変でしたね。何のつてもない状態で進出しましたが、事前の情報収集や人脈形成はやはり重要だと感じました。

古川氏:私たちの場合は、進出先の地域と日本で法規制が大きく異なっており、商談が思うように進められないことがありました。海外展開前には市場調査や法規制の調査が不可欠でしょう。
日本のスタートアップが海外で成功するためには、どのような点を意識すべきでしょうか。
北川氏:自社のビジネスを通じて、何の課題をどのように解決できるのかを見極めましょう。アジアでは日本をリスペクトしている企業やスタートアップ支援に注力している政府も多いため、事前にしっかりと戦略を立案できれば、海外でのビジネス展開もうまくいくように思います。

寺田氏:外務省やJETRO、各国大使館など様々なソースから情報を集めて、事前に現地の市場分析や競合調査を行い、日本人としての価値を発揮できるかどうかを重視してみてください。また、海外では予期せぬ出来事が多々発生しますので、いざという時に助け合える信頼関係を周囲と築くことも重要です。

株式会社イノフィス 代表取締役会長 古川尚史氏

ありがとうございます。では最後に、今後海外展開を目指すスタートアップに向けてメッセージをお願いいたします。
古川氏:海外ではスタートアップに寛容な企業が多く、自身の想いや熱量が相手に伝わると、事業展開が勢いよく進む醍醐味も味わえます。やりたいことを積極的に発信して、事業やサービスを創造してみてください。

寺田氏:海外進出のタイミングばかりを気にしていまい、実際にはなかなか海外に出られない企業の姿も散見されます。スタートアップの場合は大きな組織や企業の駐在員とは少し環境が異なるため、長期的なスパンで海外の事業にコミットできる魅力があります。ぜひ思い切って海外に飛び込んでみてください。

北川氏:コロナでDXが進んだ結果、普段は会えないような経営者とオンラインで気軽に会える機会や、効率良く海外展開ができるチャンスが増えています。スタートアップならではの「逆張り志向」をもって、積極的に海外で挑戦してみてください。

OUTBOUND PROGRAMの参加企業による成果報告

X-HUB TOKYOが2020年に実施したOUTBOUND PROGRAMは、独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)が運営し、海外進出を目指す都内スタートアップを対象に、現地企業とのマッチングや商談といった展開支援を行いました。進出先の希望にあわせて、北米(西海岸・東海岸)やアジア(深セン・シンガポール)、欧州(ドイツ・WEB Summit)の6つのコースが提供されました。

同プログラムは本来、海外に渡航しなければ受講できませんが、今年度は新型コロナの影響を受けて完全オンラインでコンテンツを提供。JETROイノベーション・知的財産部スタートアップ支援課の新田沙織氏は「スタートアップにとって時間と資金は貴重な資源です。オンライン上でプログラムを展開することで、これらの資源の節約につなげながら、東京都の全面バックアップを土台に世界中のエコシステムへのアクセスを可能にしました」と、プログラムの魅力を伝えました。

X-HUB TOKYOのサポートを通じて、海外への進出が具体的に進み始めているスタートアップもあります。人工衛星の分野でアンテナのシェアリング事業を展開するインフォステラは、2021年に米国に子会社の設置を予定。動画解析のAIサービスを展開するI’m beside youは、中国のパートナー候補企業とNDA(秘密保持契約)を締結し、現地の大学との共同研究も実施しました。

OUTBOUND PROGRAMでは、ビジネスパートナーとの提携や投資につながるような機会を数多く創出しました。介護スタートアップのトリプル・ダブリュー・ジャパン米国オフィスで支社長を務める高柳太一氏は、効率的にパートナー企業の開拓を行うツールの活用が進んだと言及。また、炭素バッテリーの開発や販売を手がけるPJP Eyeで執行役員を務める翁詠傑氏は「プログラムを通じてイベント登壇のお声がけをいただく機会が増え、様々なご縁を感じています」と振り返りました。

海外展開には欠かせない現地のユーザーインサイトの獲得や市場調査についても、X-HUB TOKYOは様々なサポートを手がけました。同時通訳のチャットボット開発と販売を行うキアラ代表の石井大輔氏は、「アジア各国のトレンドをインプットできたことで、東南アジア市場の見込み顧客の属性分析が可能になりました」と共有。また、全樹脂電池の開発や生産を手がけるAPBの石田豪伸氏は「再生可能エネルギーにかけるドイツ企業の熱い思いを肌で感じ、日本の市場を改めて俯瞰できました」と語りました。

INBOUND PROGRAMの参加企業による成果報告

X-HUB TOKYOのINBOUND PROGMRAMでは、日本進出を目指す海外のスタートアップを対象に、FinTechとMobility、そしてLifeScieceの3つの領域に分かれて、メンタリングや日本企業とのマッチング機会を創出しました。グローバル起業家同士のネットワーク構築や、スタートアップ支援の専門家によるピッチのブラッシュアップにも注力。ピッチ会では、合計で81件のマッチングリクエストをいただくことができました。

プログラム内では、東京への進出にあたって必要な法規制やマーケットに関するレクチャーも実施。医療サービスを展開するアイルランドのOaCP IE LTDでCEOを務めるEnrico Di Oto氏は「幅広いネットワークの構築に加えて、法規制について詳しく学べた点が弊社にとって大きな収穫となりました。現在は日本のがん患者を対象にしたサービスの提供も視野に入れています」と、今後の展望を語りました。

X-HUB TOKYOが創出したマッチング機会を通じて、実際に日本進出に向けて商談が進んでいるスタートアップもあります。投資分析プラットフォームを手がけるシンガポールのHedgesSPA創業者兼CEOのBernard Lee氏は、「アドバイザーや日本ユーザーから得た実践的なフィードバックをもとに、日本での会社設立を具体的に進めています」と共有。また、AIプラットフォームを展開するイギリスのHumanizing Autonomy LtdでStrategic Partnershipの責任者を務めるPatricia La Torre氏は、「プログラムを通じて日本のマーケットの特徴やベストプラクティスを学ぶことができ、現在は新たな顧客との話し合いも進んでいます」と、プログラムの成果を振り返りました。