都内スタートアップの海外進出を支援するX-HUB TOKYOは7月16日、第1回海外展開セミナー「欧州の心臓 ドイツに挑む」を開催しました。

今回はドイツにフォーカスをあて、エコシステムの紹介及び進出のヒントをテーマとした講演と、海外を目指すスタートアップが知るべき事業戦略の描き方についての講演を実施し、海外展開に向けた機運醸成を図りました。

海外展開を目指すスタートアップ企業だけでなく、スタートアップのサポート機関であるベンチャーキャピタルや大企業の方々にも有益な最新情報を共有しました。


ドイツのエコシステム紹介

本貿易振興機構(JETRO)デュッセルドルフ事務所 次長 木場 亮氏

はじめに、日本貿易振興機構(JETRO)デュッセルドルフ事務所 次長 木場 亮氏に、ドイツのエコシステムについて伺います。
ドイツはEU加盟国の中でも人口・GDPともに最大規模を誇り、9か国と国境を接していいます。国内には自動車や自動車部品、産業機器、化学等を中心に、多くのグローバルプレーヤーを抱え、さらに国内に点在する中小・中堅企業が経済の中で重要な役割を果たしています。その中小・中堅企業の中には、いわゆる「隠れたチャンピオン(Hidden Champion) 」として、EU域内はもちろん、域外の新興国市場も含めグローバルに活躍している企業も多くあります。
各州の特徴としては、ノルトライン・ヴェストファーレン州が国内GDPの20.9%を占め、次いでバイエルン州の18.3%、バーテン・ビュルテンベルク州の15.0%となっています。
経済動向はどのような予測をされていますか?
ドイツの主要経済研究所(2021年4月15日)によると、2020年に4.9%に減少したGDPについて、2021年に3.7%、2022年は3.9%のプラス成長を予測しています。2021年の予測値は、昨年秋以来のロックダウンによる経済の回復プロセスの遅れを受け、前回2020年10月の予測より0.1ポイント下方修正していますが、コロナによる影響は少なからず受けたものの、2022年には持ち直すと予測されています。
ドイツのスタートアップ市場の現在をお聞かせください。
産業別に見ると、IT・サービス関連産業のスタートアップが最も多くなっていて、IT技術(31.8%)、食生活・食品・中間消費財(10.7%)、医療・健康(9.2%)、自動車・モビリティ・物流(6.0%)等が高い割合を占めています。さらに、デジタル系が66.5%を占めており、特にSaaS、オンラインプラットフォームが多く、デジタルとアナログを組み合わせた技術開発・製造関係も多いです。
しかし、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で74%のスタートアップがビジネス創出の機会を失ったとされています。特に、観光(91.7%)、メディア・クリエイティブ産業(85.7%)、人材(85%)が最も多いですが、教育(62.2%)、金融/保険(62.7%)、医療・健康(65.7%)、化学・医薬(65.7%)は比較的影響が少ないです。
ベンチャーキャピタル(VC)の投資は着実に増加しており、VCから調達を受けたスタートアップの割合は、ベルリン、ミュンヘン、ハンブルク、ライン・ルール地域(デュッセルドルフ等)で多くなっているほか、公的ファンドの割合も高いのが特徴です。
ドイツ独自の特徴として、スタートアップの多くが他のスタートアップや既存産業、研究機関等との協業に従事していることが挙げられます。さらに、工科大学発のスタートアップも多いです。
最後に、エコシステムの特徴から見た日本のスタートアップのドイツ進出に際してのヒントについてお聞かせください。
ドイツは中央集権ではなく地方分散型経済であり、スタートアップの集積も各地に分散しているため、自社に合った地域に注目することが必要です。
産学連携が非常に盛んであり、工科大学院のスタートアップも多数いることから、ドイツの研究機関との連携も市場開拓の手段として取ることが可能です。また、多くの大企業がアクセラレーションプログラムを展開しているため、これに挑戦することで市場開拓することも一案です。
JETROでは、現地の最新エコシステムや展示会等の情報を配信しているため、情報収集の手段として利用することをお勧めします。

ドイツ現地企業等との連携方法と海外へのサービス展開のヒント

株式会社Xenoma Co-Founder & 代表取締役 CEO 網盛一郎氏

次に、株式会社Xenoma Co-Founder & 代表取締役 CEOを務める網盛一郎氏に、同社のドイツ進出について伺います。
創業時の海外進出において、アメリカ・中国・EUでそれぞれ進出仮説を立てていましたが、現在では創業時の仮説とは大きく異なる結果となり、最終的にEUの中でもドイツの学術機関と事業連携したり共同開発したりすることが多くなっています。現状、売上として中国の割合が高いものの、協業に関してはドイツ企業が非常に多くなっています。
市場進出の仮説検証について、例えば、アメリカは市場が大きく、参入障壁も低いと考えていましたが、実際にマーケティングをするとあらゆる分野の新製品に溢れ競合が多いことに加え、官僚的で参入障壁が高いことがわかり、撤退しています。
ドイツ参入のきっかけは、IFA Berlinに出展した際に当該展示会にて日系某社ドイツ現地法人と出会い、同社を介してHUGO BOSS と協業を開始したことです。
また、ドイツ中小企業ミッションではじめて代理店を獲得し、NRW.Investと連携し、Essen University Hospital(エッセン大学病院) との協業を開始したほか、CeBITに出展した際にはDFKI(ドイツ人口知能研究所)の開発者と出会う機会があり、TUK(カイザースラウテルン工科大学)を巻き込んで協業を開始しました。
協業実績として、モーションキャプチャではHUGO BOSS、DFKI(ドイツ人工知能研究所)、KAISERSLAUTERN(カイザースラウテルン市)、その他分野ではUniversitätsklinikum Essen(エッセン大学)、Deutsche Sporthochschule Köln(ドイツ体育大学ケルン)。また、RYOSHO EUROPE GmbH社及びNRW.INVESTは、ドイツ国内でネットワークを作る際に支援いただいています。
ドイツ進出時の留意事項をお聞かせください。
合意したタスクは責任をもってこなしてくれるので、具体的かつ明確なタスク指示を与えるために事前の丁寧なコミュニケーションが重要です。また、契約締結時に無理な要求はしてこないため、綿密に協議を行い、内容について明確に意思表示をしていくことも重要です。
特に中堅以上の年代では英語が苦手なドイツ人も比較的多いため、英語の上達度合いに関わらず臆することなくコミュニケーションをとることができ、コミュニケーションに対する心理的障壁が比較的低いです。 ただし、文化として融通が利かない、電車が頻繁に遅れる、12月はクリスマス休暇のため音信不通となることが多く仕事が進まない等、ビジネスの方向性が不利に進まないように状況に応じてうまくコントロールする必要があります。

ドイツ進出を目指すスタートアップが知るべき事業戦略の描き方

CROSSBIE UG 代表&マネージング・ディレクター 山本知佳氏

CROSSBIE UG 代表を務める山本知佳氏に、海外展開の戦略ついて伺います。まずはドイツのスタートアップエコシステムの特徴をお聞かせください。
ドイツのスタートアップエコシステムは、ベルリンやバイエルン、デュッセルドルフ等、各都市で分散しています。ベルリンは、他都市と比較すると全体的にエコシステムが確立している印象があります。例えば、アウディやボッシュ等、本社がベルリンにない企業が多いものの、イノベーションの集積地として機能しています。また、ベルリンではさまざまな産業界と繋がることができる特徴があります。
投資市場では、モビリティ分野が国内投資額のトップとなっており、次点でソフトウェアやアナリティクス、SaaS等が席巻しています。
ドイツのスタートアップは、ドイツ国内だけで競争関係にあるわけではありません。例えば、ベルリンは、転入者の約半数が外国人で、世界180か国の人々が暮らす国際的な街であり、スタートアップも非常に多く国際的にも活躍しています。
ベルリンでアメリカ発アクセラレータのテックスターズがプログラムを開催した際、採択企業10社のうち、約半数以上がドイツ発以外のスタートアップが占めるほど、非常に多様な国籍のスタートアップが拠点を置いています。そんなドイツのエコシステムの盛り上がりとは反対に、世界的に見て日本の市場は縮小傾向にあるとされています。ですが、日本のスタートアップは技術力や品質等に信用があり、それが強みとなっています。
スタートアップエコシステムの具体例をお聞かせください。
自分の産業や成長ステージに合ったエコシステムを探すことが重要です。ドイツのエコシステムの例として、The Drivery(ウルシュタインハウス)を紹介します。
欧州最大規模のモビリティ分野に特化したイノベーションコミュニティで、ドイツ国内のみならず、アメリカや中国等、世界各国から約140社のスタートアップや大企業が集まり、互いに連携しながら新たなプロダクト、ビジネスを生み出しています。入居している企業の事業領域は、ハードウェア系からデータアナリティクスやシェアリングサービス、EVのアプリケーション等、多種多様なスタートアップです。
単なるシェアオフィスではなく、ビジネスを生み、イノベーションを加速させることに主眼を置いており、入居するスタートアップ企業のビジネス構築を手厚く支援しています。
コミュニティ内の企業の協業はもちろん、国内外の大企業、ドイツ国内の政府機関等との協業を積極的に後押ししており、オープンから2年間で資金調達総額6,500億円を超える確かな実績を生み、ユニコーンを輩出しています。
こうしたクラスターに所属すると、直接ビジネスや資金調達に結びつくような企業やVC等との出会いを容易にすることができます。また、スタートアップの成長スピードを加速させるために、メンターとのネットワークを構築していくことも重要であり、そうした成長をするための環境を整えていくことが成功の重要な要素となります。

当イベントでは、日本のスタートアップ企業が海外展開を実現させるための戦略についてお伝えしました。引き続きX-HUB TOKYOでは様々なイベントを通じて、海外展開を目指すスタートアップにとって有益な情報のほか、オープンイノベーションの最新トレンドなどを発信していきます。