東京から世界を目指す起業家、世界のイノベーションエコシステムの関係者が集うプラットフォーム「X-HUB TOKYO」。2月19日に東京・丸ビルホールにて「X-HUB TOKYO EVENT ~米国・欧州・アジアに挑戦するスタートアップと現地エコシステム〜」が行われた。

このイベント後半で実施されたのは、株式会社ソラコム 代表取締役社長 玉川憲氏と、ラクスル株式会社 代表取締役社長CEO 松本恭攝氏を迎え、Forbes JAPAN 編集次長 兼 WEB編集長 九法崇雄氏がモデレーターとなって行われた「日本発グローバルスタートアップへの挑戦」トークセッション。

IoT/M2M向けワイヤレス通信を提供するプラットフォームを手がけ、アメリカ(3箇所)をはじめフランス、シンガポールと、海外拠点も設置、国外への展開を進めるソラコム、クラウド型ネット印刷やネット運送サービスを手がけ、東南アジアを中心に現地スタートアップに投資することで、各国市場との結びつきを強めているラクスル、2社の海外進出の現状が語られた。

トークセッション冒頭に挙がったのは、「なぜ海外に進出しようと思ったのか」という話題だ。


両社が海外進出を始めた理由

玉川:
2015年の創業当初から「日本発」のプラットフォーム事業を作りたいという思いがあり、その当時から「どうやって海外にこのサービスを持っていくか」を考えていました。海外の通信事業者との協働や、法規制などを探りながら、まず2016年にアメリカでの展開を開始、2017年にヨーロッパでの展開を開始しました。お客さんがグローバルで9,000いて、海外が2,000を超えてきたところです。
海外進出を考える際には人材の確保も重要な要素です。弊社の場合は、(自社のサービスが通信事業者との提携が不可欠となるため)海外での展開を開始する前から、海外ビジネス担当者を採用して通信キャリアとの交渉を開始していました。

松本:
弊社は2009年に設立し、(最初の海外展開としては)2015年10月にシンガポールに子会社を作って、インドネシアで投資をして、そのあとインドでも投資。投資家としてのレピュテーションがついたことで、ヨーロッパ、アフリカ、アジア、南米など各地域で同じビジネスモデルの出資の依頼が来るようになりました。うちの場合は自社サービスの海外進出というより、投資でマーケットインをして、徐々に持ち株比率を上げていく形ですね。
世界各国のアントレプレナーとじっくり関係性を構築し、将来的には自社事業としていくことのできる関係性をつくっていく。いわばM&Aに近いアプローチになりますが、長い時間をかけて、現地のマネジメントチームと信頼関係を築きながら内製化をしていくイメージです。

九法:
玉川さんは元々海外展開をすることが前提でアメリカでのサービスを開始し、松本さんは東南アジアへの投資を中心に海外展開していったと。お二方とも異なる手段で海外展開を進めていったとのことですが、進出後、どのような戦略で規模を広げていったのですか?

玉川:
グローバルと言っても、国ごとにマーケットや規制状況は異なります。特にIoT領域のフェーズはまちまち。そんな中ではまず可能性のある地域に広く浅く展開してみて、うまくいきそうな場所に一気にリソースを投下する形をとっています。
我々の場合は広く浅く見ていた結果、アメリカに良いお客さんがいることが分かり、いまはアメリカに振り切って事業展開をしています。アメリカは様々な国の様々なカルチャーを持つ人々がいます。その環境で勝てないとやはりグローバルのプラットフォームにはなれないし、アメリカで多く使ってもらえるサービスへ育てることができれば、他の国への展開も見えてくるだろうと考えています。

松本:
私の場合、投資対象はもちろん世界各国ですが、自社の資本との兼ね合いで最初は東南アジアでした。当時は40億円の資金調達をシリーズCで終え、累計で約58億円になったタイミング。スタートアップとしては大きな資金調達でしたが、M&Aをするには資金が足りない状況でした。世界中の市場でビジネスとしてのスケーラビリティを確保するには小さいものの、海外ではチャレンジしたいと。
そんな中で、まず私は印刷業界に対してネット化している比率は何パーセントかと国ごとに洗い出すことから始めました。さらに印刷業界の市場環境、EC環境、競争環境を調べていくと、例えばインドは巨大な国にも関わらず大きなプレーヤーが3社しかいなかった。
そこで、「市場は大きいけれどEC化できていない」市場を「きっと2025年頃にはEC化も進んで大きな事業になるだろう」と大きな軸で見て投資していきました。

現地のエコシステムに入ること

九法:
海外展開をする場合、現地の法規制や慣習の遵守、さらにローカルなコミュニティに入り込むことは非常に重要だと思います。その点はどのようにして、現地に溶け込んでいったのでしょうか?

玉川:
我々の場合は通信事業なので、規制への対策や行政への届出はとても慎重にしました。イノベーションへの踏み込みと、守るべきところはしっかりと守るというバランスを上手に保つことは大事ですね。
また、良い人材の獲得も重要。人材確保で悩み1ヶ月ほど眠れない日々を過ごしていたことがありましたが、結局質の高いサービスと我々の目指すビジョンに共感して入社してくれる人たちが多かった。実際に、現地のグローバル企業で、ビジネス責任者を勤めていた人が入社してくれましたが、その人のネットワークで一気に人が集まりました。そういった、現地のパワフルなマネジメント層をどう引っ張ってくることができるかも大切ですね。

松本:
各国のエコシステムの真ん中に入っていくことが大事です。なぜなら、エコシステムの中と外は見える世界が全く違うから。郷に入れば郷に従えで、インドでも香港でも、私は現地のエコシステムに入っています。
エコシステムに入っていることで、人材獲得の際は横のつながりによるレファレンスが取りやすいですし、その国の産業やマーケットに対する知見が圧倒的に溜まります。
エコシステムに入り込んでいくためには、ForbesやEndeavorのようなグローバルなメディアに「注目のスタートアップ」として掲載されていたり、クランチベース(スタートアップのデータベース)上で健全なファイナンス状況を公開していたりすることが大切です。

九法:
最後に、「日本のスタートアップエコシステムに足りないこと」についてお聞きします。松本さんは2009年の起業前後からスタートアップ業界を知る者として、玉川氏は2017年、KDDIによるソラコムの子会社化を経験した立場から、それぞれご意見をお聞かせ下さい。

松本:
リーマンショックを境に日本のスタートアップエコシステムは変わったと思います。VCはほとんど新しい世代に変わり、情報源は一気にアメリカ発のものに寄り出しました。インドでも中国でもアフリカでも、同じようにアメリカ・シリコンバレーの情報が伝わってくるようになり、一気に世界中のクオリティが上がったような気がしています。
ただそれは情報のみで、グローバルで活躍するためのノウハウはほとんど出ていません。日本の場合は、ようやく世界に進出していく動きが始まったばかり。第一世代として、玉川さんをはじめとする方々がその動きを作られているなと見ています。

玉川:
日本国内では小規模でもIPO出来てしまい、海外に出ていかない会社もあります。それはその会社の判断によるところなので、もちろん良し悪しではありませんが、日本全体として、グローバルに果敢にチャレンジしていく割合が増えたらいいなと思います。
スタートアップでは基地局やインフラへの投資はなかなか出来ませんが、いま私たちはKDDIの傘下にいることで、KDDIの持っているリソースを使ってグローバルに進出できるという非常にwin-winな関係です。
M&Aも、ビジョンを達成するための手段として悪いことではありません。シリコンバレー的なベストプラクティスを踏まえると、IPOを狙うか、M&Aを狙うかのバランスはもっと良くなればよいですね。


松本氏は「苦しみながらもやってみると楽しい」、玉川氏は「大変だけれど幸せを感じるときもある。」と、両社ともに海外進出を楽しむ姿勢で展開しているようだ。X-HUBでは、日本発のスタートアップがグローバルに進出する際のヒントになるイベント、サポートするプログラムを今後も継続的に実施していく。