X-HUB TOKYOが実施する3ヶ月のアクセラレーションプログラム、「ドイツ ベルリン・ミュンヘン進出支援コース」が修了した。ドイツへの進出を見据える企業に対し、海外投資家へのピッチの指導やメンタリング、事業提携先とのマッチングなど、多様なサポートを行う同プログラム。密度の濃い3ヶ月間を経て、参加した5社はどのようなチャンスを掴んだのだろうか。4月16日に開催されたX-HUBイベント内ドイツコース成果発表でプレゼンされた各企業の事業内容とともに紹介していく。
Tokyo Hearth(東京ハース)
日本では、およそ8割の不動産オーナーが外国人の入居を断っているといわれる。Tokyo Hearthは“東京から日本を国際化”を掲げ、賃貸契約や保証、支払いなどの運営をオーナーに代わって行う多言語のオンライン賃貸管理サービスを提案している。 CEOの紀野知成氏は、今後ユーザーのデータから浮かび上がるニーズを元に、特定の層に特化したコンセプトハウスなど多様な事業展開を構想している。プログラムでは、提携パートナー探しや現地情報の聞き取りを実施。今後も引き続き、海外のVCや企業と連携を深めていく予定だ。
Ascent Robotics(アセントロボティクス)
人間と同等以上の能力を持つAIが高度なタスクを行う。そんな未来図を描くのがAscent Robotics だ。同社は深層強化学習を用いて自動車や産業用ロボット向け人工知能ソフトウェアの開発、より効率的にAIをトレーニングするためのフレームワークを提供している。 自動車の開発にも乗り出す同社は、今夏から自社車両8台を稼働して東京でのテスト運転を開始する。今後は欧州の企業との共同研究や、欧州での製品販売も計画中。拠点の設立を見越して、X-HUBプログラムに参加した。Chief ArchitectのFred Almeida氏は「今年または来年のはじめにはBMWなどドイツ企業との商談を進める」と、本プログラムを通じて欧州展開への確かな足がかりを掴んだようだった。
LPixel(エルピクセル)
エルピクセルは、画像解析や画像診断支援技術を用いて、医療や製薬、ライフサイエンス領域のイノベーションを展開する東大発スタートアップだ。NVIDIAやマイクロソフトといったIT企業や、東京大学を含む複数の研究機関などと提携し、AIを駆使した高精度のソフトウェアを開発してきた。現在、研究開発中の画像診断支援を行うソフトウェア『EIRL(エイル)』では、脳のMRI画像に対してAIが診断支援を行い、放射線診断医をサポートすることを目指している。 今後、ヨーロッパ展開も視野に入れているという事業開発部 シニアセールスマネージャー 瀧野望氏は「ヨーロッパ市場で展開する上でピッチ資料のブラッシュアップや、現地のスタートアップエコシステムへの理解が深まった」とプログラムを振り返った。
Coaido(コエイド)
日本で突然の心停止で亡くなる人は年間7万人以上。救急車が到着するまでに心肺蘇生やAEDの使用ができないケースが多く、大きな社会問題である。特に東京都は心肺蘇生実施率が全国最低であり、2020年の訪日外客の急増により救急需要が増大するため、その対応が重大な懸念となっている。そんな中、Coaidoは『救命 × テクノロジー』という新たな領域に解決策を見出している。 同社は119番通報をしながら周囲の医療有資格者等にSOSを発信できる緊急情報共有アプリ『Coaido119』を開発、“無料の共助ネットワークの構築”を目指す。CEOの玄正慎氏はプログラムを通して「具体的な提携先候補との対話を通して、欧州でもニーズがあると確認でき、展開に可能性を感じられた」という。今後も国内での実証実験と並行し、海外進出も加速させていくという。
Trillium(トリリウム)
コネクティッドカーの普及と自動運転の実用化に期待が集まる一方、運転中のハッキングへどう対応すべきかはまだ明確な解が無い。「ハッキングの脅威はすぐそこにある」と語るのは、Trillium 事業開発マネージャー Sossna Adrian V. J氏だ。同社は暗号化技術や鍵管理技術をIoT機器に実装する堅牢で軽量な多層型サイバーセキュリティソフトウェアソリューションを開発・提供し、安全かつ安心なコネクティッドカーと自動運転車の実現を目指す。 同社はすでに欧州のいくつかの企業と日本においてパートナーシップを結び、事業を拡大してきた。ドイツを足がかりに欧州での本格展開を狙う彼らは、X-HUBプログラムを通じて複数の提携候補先と協議を開始し、欧州での拠点設立の足掛かりとして大きな可能性を感じている。
欧米のスタートアップシーンに挑む5社は、プログラムを通して海外進出に対する解像度を高め、すでに次のステップに向けたアクションに移り始めている。彼らのサービスを欧州で目にする日が今から待ち遠しい。