都内スタートアップの海外進出を支援するX-HUB TOKYOは7月23日、2025年度 X-HUB TOKYO #4海外展開セミナー「スタートアップのグローバル戦略~顧客獲得方法と海外展示会~」を開催しました。

本イベントでは、X-HUB TOKYOの概要説明をはじめ、海外で勝負するスタートアップがとるべき戦略や、顧客獲得方法の一つとしての海外展示会出展についてお届けしました。

イベント前半では、CIC Instituteのディレクターである名倉 勝氏に、スタートアップの海外市場開拓に向けた戦略や海外展示会に出展する重要性、準備方法を解説いただきました。続くイベント後半では、本事業に採択され、現地エコシステムや海外展示会で活躍した先輩スタートアップである株式会社Ashirase(あしらせ)の取締役COO 香山 由佳氏とOlive株式会社のCEO 竹内 精治氏をゲストに迎え、名倉氏のファシリテートのもと、海外展開の取り組みや展示会出展の経験について、パネルディスカッション形式でお話しいただきました。


基調講演『スタートアップの海外市場開拓に向けた戦略』

CIC Institute ディレクター
名倉 勝氏

はじめに、CIC Institute でディレクターを務める名倉 勝氏に、スタートアップの海外市場開拓に向けた戦略についてお伺いします。日本のスタートアップが海外展開を目指す際、最初に取り組むべき準備と心構えについて教えてください。
まずお伝えしたいのは、「日本市場でまず成功してから海外へ」という発想では、手遅れになることが多いという点です。というのも、日本市場に最適化されたプロダクトは、グローバル市場では受け入れられにくい場合があります。特に文化や言語、価値観が大きく異なる海外では、日本の常識が通用しないことが少なくありません。そのため、事業の初期段階からグローバル展開を見据えて、プロダクト設計や仮説構築を行うことが重要です。

進出先を選ぶ際には、市場規模や成長性、参入障壁、第三国への展開可能性、アクセス可能なリソース、進出コストなど、複数の観点から総合的に評価することが求められます。たとえば、アメリカは巨大な市場を持つ一方で、競争が激しく、進出コストも高くなります。一方で、中東やアジア諸国は一定の成長余地があり、言語や商習慣の共通点から周辺国展開の足がかりとなるケースもあります。それぞれの国のメリット・デメリットを的確に見極めることが重要です。
海外で顧客を獲得する方法について、ご見解をお聞かせください。
海外市場に進出しても、すぐに最適な顧客やチャネルに出会えるとは限りません。だからこそ、「仮説検証のスピード」を意識し、市場調査・仮説構築・顧客との対話・検証というサイクルを、何十回も、できる限り高速で回すことが鍵となります。ターゲットとなる顧客層、そのニーズやペインポイントは何かを現地で確かめながら、柔軟に仮説を修正していく姿勢が求められます。

私自身も毎年、多くの海外展示会に足を運んでいますが、現地の来場者や他の出展者との対話を通じて、その場でリアルタイムに反応を得られる点が、展示会ならではの大きな利点だと感じています。実際にその場で商談が始まることも多く、展示会は顧客開拓に加え、PR、マッチング、競合調査、産業トレンドの把握にも大いに役立ちます。 加えて、展示会後のフォローアップも極めて重要です。日本では名刺交換で終わってしまうケースが多いですが、海外では「しつこいくらい連絡して、ようやく商談が進む」というのが常識です。粘り強く何度もコンタクトを取ることが、結果につながります。
展示会に出展する際、自社に合った展示会を選ぶポイントや効果的な活用方法を教えてください。
展示会の選定においては、進出を想定する現地市場の規模や成長性に加えて、外資規制などの参入障壁の有無も確認が必要です。また、その国への進出が周辺国展開につながるかどうか、言語や文化の共通性があるか、資金や人材といったリソースにアクセスしやすいかどうかも判断材料となります。さらに、出展や運営にかかるコストが現実的かどうかも冷静に見極めましょう。

たとえば、フランス・パリで開催される最新技術の見本市「Viva Technology」は、欧州市場を狙うスタートアップにとって非常に有効な展示会です。オープンイノベーションを重視しており、大企業との接点が多く、連携機会も豊富に提供されています。ただし、米国市場を主眼に置く企業には、他の展示会の方が適している場合もあります。
そして、出展が決まった後の準備が、最終的な成果を大きく左右します。多言語対応の資料作成、SNSやWebサイトの整備、英語でのプレゼン資料やデモの演出まで、「どこまで本気で準備できるか」が問われます。展示会はまさに「何でもあり」の舞台です。創意工夫と戦略的な活用こそが、成功の鍵を握ると確信しています。

パネルディスカッション

(左上)Olive株式会社 CEO 竹内 精治氏
(右上)株式会社Ashirase 取締役COO 香山 由佳氏
(下)CIC Institute ディレクター 名倉 勝氏

続いてイベントの後半はパネルディスカッションに移ります。ファシリテーターは、基調講演から引き続き、CIC Institute ディレクター名倉 勝氏が務めます。パネリストには、X-HUB TOKYO OUTBOUND PROGRAMに採択され、現在海外展開を進行中の株式会社Ashiraseの取締役COO 香山 由佳氏とOlive株式会社のCEO 竹内 精治氏をお迎えしています。まずは皆さまの自己紹介と海外展開の進捗についてお聞かせください。
香山 由佳(以下、香山):初めまして、Ashiraseの香山と申します。弊社はホンダ発のスタートアップで、視覚障がい者の歩行を支援するナビゲーションデバイスを開発・販売しています。海外展開を本格的に意識するようになったきっかけは、2023年に米国のテクノロジー見本市「CES」に出展し、イノベーションアワードを受賞したことで、「この技術は世界でも通用する」という手応えを得たことでした。

その後、2024年にはX-HUB TOKYO OUTBOUND PROGRAMのヨーロッパコースに参加。プログラム中に得たネットワークや、2025年3月にスペインで開催されたモバイル業界最大級の展示会「MWC(4YFN)」でのつながりを活かし、海外展開を本格化しています。

竹内 精治(以下、竹内):Oliveの竹内です。弊社では生体データを解析し、人の感情と行動・意思決定との因果関係を可視化する「感情分析サービス」を提供しています。

「感情をデータ化する」という取り組みは世界的にも珍しく、多くの方に興味は持っていただけるのですが、「具体的にどう活用するか」については課題も多くあります。そこで、海外でのニーズや適した市場を見極めるべく、X-HUB TOKYO OUTBOUND PROGRAMのシンガポールコースを含む3つの展示会に参加し、現在も事業の国際展開を強化しているところです。
海外展開において支援制度をどのように活用されたのか、そして海外展示会で得られた学びやメリットについて教えてください。
香山:X-HUB TOKYOのプログラムに参加したことで、展示会前にはトレーニングやビジネスマッチングの機会を数多く提供していただきました。特に、日本市場とは異なる視点でのスライド作成やパンフレットの構成について、メンターから具体的なアドバイスを受けられたことは非常に貴重でした。

展示会では、目的意識を持って臨むことが重要だと感じています。弊社の場合は、ターゲットは視覚障がい者の方々であり、来場者の中には直接的な関係者が少ないこともありますが、思わぬ業界の方が関心を持ってくださることもあり、そうしたニーズの調査としても有益でした。例えば、スペインでの展示会では、サッカーチームのテクノロジー部門からお声がけいただき、非常に学びになりました。また、出展時はブース担当と営業担当を分けるなどの役割分担も効果的だったように感じています。

竹内:私もX-HUB TOKYOのプログラムを通じて、展示会前の支援のありがたさを実感しました。ただし、「準備が万全でなければ参加すべきでない」と考えるのではなく、まず現地に足を運ぶこと自体がスタートアップにとっては重要な第一歩だと思います。

弊社はもともと多国籍なチームで構成されており、英語でのコミュニケーションが可能な体制が整っていたのは強みでした。加えて、展示会の開催地によっては通訳を導入し、現地言語での会話も心がけました。言葉が通じることで、相手の反応や信頼度も大きく変わると実感しています。

また、展示会ではさまざまなタスクをこなしたくなるものですが、欲張りすぎないことも重要です。例えば弊社の場合は、昨年は「市場ニーズの把握」に注力し、今年は「顧客獲得」にフォーカスするなど、フェーズに応じて目標を明確に設定することが、より効果的な成果につながるように感じています。
最後に、これから海外展開を目指すスタートアップに向けて、メッセージをお願いします。
香山:私自身、海外展開については「飛び込んでみないと見える景色が違う」と、身をもって体験しました。英語に対しては今も苦手意識がありますが、それでも「なんとかするしかない」と覚悟を決めて取り組んでいます。スペインでは、現地でスカウトした2名の仲間とともに事業を進めており、語学力以上に「一緒に未来を描けるか」が大切だと感じています。ぜひ、怖がらずにチャレンジしてみてください。

竹内:とにかく、まずは海外に行ってください。その経験が、結果的に日本国内での事業活動にも良い影響をもたらします。現地で得た知見や視点は、想像以上に大きな収穫になるはずです!
皆様、貴重な体験に基づくお言葉をありがとうございました!

当イベントでは、海外展開を進めるスタートアップや先輩起業家の皆様にご登壇いただき、実例を交えながら、海外顧客開拓の方法や、展示会の具体的な活用方法をお伝えしました。引き続きX-HUB TOKYOでは、様々なイベントを通じて、海外のエコシステムや市場の特長、海外進出時のポイントなどを発信していきます。