国内スタートアップの海外進出を支援するX-HUB TOKYOは1月14日、スリランカでのビジネスに関わる方々をお招きし講演を開催した。成長市場として注目されるインド、中国、アフリカ。スリランカはそれらの国へのゲートウェイとして多くの企業が進出を始めています。講演ではスリランカに展開中の日本企業の事例、政治状況や貿易方針や国内ビジネス環境などについてお話しいただいた。


スリランカの市場概況と進出日系企業の動向

〈講演者〉
日本貿易振興機構(ジェトロ)企画部 
海外地域戦略主幹(南西アジア)
小濱 和彦氏

スリランカの地政学的重要性についてお話しします。いま南アジアのインド以外の国で、将来のビジネスモデルを立てていくのは難しい状況です。南アジアで、3Gや4Gが最初に導入されたのがスリランカだったように、一番わかりやすいビジネスの例は通信インフラの試験的導入です。世界展開をするときに、南西アジアの最初の市場にインドを選択するとコストがかかり難しいため、国の規模が小さく所得の高いスリランカはプロトタイプの導入場所として非常に適しています。

 

世界のコンテナ船の3分の1、オイルタンカーの半分がスリランカの沖合を通っていることから物流において非常に重要な位置にあることがわかります。経済活動の中心地となっている商業都市コロンボは水深が深く大型船が停泊するには理想的な地形であるため、燃料補給など様々な理由で利用されています。取扱貨物量は、東京港は世界27位で、他の国の貨物を大量に引き取っているコロンボは世界22位です。

中国は中東からヨーロッパまでを海のシルクロードでつなげるためスリランカに投資をしています。それに対してスリランカで扱われる貨物の75%を占める積み替えの大半を使っているインドや他の国からすると、ここが自由に使えなくなるというのは非常に脅威であるため、アメリカやインドは自分たちのルートを確保しようと積極的に投資しています。

通常は財政状況が悪く、経済成長が振るわない国には他国からの投資は集まらないのですが、スリランカは経済指標が悪くても地理的優位性で投資を集めているのです。

スリランカ全体のGDPは、インドの数百分の1程度です。しかしこれを国民1人当たりに換算すると、インドの2倍の経済力があるという数字となります。加えて、識字率も9割超えていてインドやバングラデシュより高いです。聞きなれない数字ですが、絶対的貧困率も少なくなっています。


スリランカの貿易についてもお話しします。現在は輸出の赤字が膨らんでいて、その貿易赤字を補っているのが、観光業の収入や海外からの送金です。しかしそれでも赤字は解消されないので、投資を呼び込みさらに輸出できる産業を育てなくてはならないのが状況です。

スリランカの主な輸出品目は、セイロンティーや紅茶のイメージがあると思います。しかし紅茶の輸出ランキングは世界第2位で輸出全体の12%です。最も輸出が多いのは衣類で44.7%を占めています。約9割を欧米に輸出しています。中でも輸出額が高いのが女性用の下着です。ハリウッド女優たちが身に付けているものや、日本では空港の免税店に入っている高級下着ブランドはメイド・イン・スリランカが多いです。スリランカの衣類業界はヨーロッパの名だたる高級ブランドと取引している企業が多くあります。アパレルは、バングラデシュのように安い人件費で大量の人を集めて単純労働をしているイメージがあるかもしれませんが、スリランカではブラやスポーツウエアといった高機能アパレルを作っているため、非常に高度な技術が評価されています。

 

もうひとつ収益を上げていかなくてはいけないのは観光業です。内戦が終わってからは右肩上がりで、2018年には年間230万人の観光客が訪れましたが、昨年4月にテロがあり観光客は減少しました。観光業はスリランカの稼ぎ頭であったため非常に大きな痛手ではありましたが、徐々に回復してきています。外務省が示している危険レベルもテロ直後はレベル2で、不要不急の渡航は見合わせるようにという状態でしたが、2019年8月にはレベル1まで戻りました。それは安全が確保されたということと共に、内戦の経験から軍や警察の有事への対応能力が高いということが再認識されたためです。しかしここでポイントなのは観光客の多さではありません。隣国のインドからの観光客が多いことに加えて、いまスリランカに多く投資している中国や、もともと宗主国だったイギリス等の他のヨーロッパの国々からも10万人を超える観光客が来ています。つまり、スリランカには様々な国から観光客が訪れており特定の地域や国に依存していないので、仮にどこかが不景気になったとしても観光産業が不安定にならない、これがスリランカの魅力の一つでもあります。

 

投資分野では、中国からの投資が復活しています。一度、政権が代わって減っていましたが中国は投資を再開しました。また、インドとスリランカの関係が急速に改善してきています。また、現在日本からの投資は伸び悩んでいますが、日本と仲のいい国のひとつであるインドとが連携してスリランカに投資するということも今後はあると思います。

政府は教育や医療に多くの財政を割いているます。そのため高等教育も含めて教育費が無料で、病院や薬代も国公立の病院であれば無料です。そういった背景から高学歴化が進む一方で、高学歴の人材を吸収する産業が育っていないため、学歴が高くなるほど失業率が高い傾向にあります。高学歴の人が職業を選ぶ様になるとなかなか職につけないことが多いため、高学歴の人材を比較的安価に雇用することが出来ます。


最後に都市開発についてです。スリランカは都市化が進んでいません。各国の都市化率を見るとアジア最下位です。長い内戦で都会が危険だったことも原因です。ようやく内戦が終わりこれから経済成長していくため、他のASEANの国と同様に都市に人が集まると予測されます。都市化が進むとごみの収集、ビルの高層化、交通渋滞といった様々な問題も起きてきます。しかしそこにビジネスチャンスがあると思います。

スリランカはそこでビジネスをするというよりは、諸外国に進出を考えたときにどこかで出会う国です。物流、スリランカ人、旅行のトランジットなど、皆さんが10のビジネスプランを考えたときに1、2個ぐらいスリランカと関与するビジネスもあるのではないかと思います。ご清聴ありがとうございました。


スリランカの政治概況と通商政策

〈講演者〉
在日スリランカ大使館 公使参事官
Mr.Samantha P.K. Wijesekera

スリランカは2009年5月、30年に及ぶ内戦が終結しました。現在はラージャパクサ大統領のもと更なる経済成長に取り組まれています。日本も輸送、物流、エネルギー分野などの戦略的支援事業を行っています。講演ではスリランカの内戦の歴史、政治情勢、ビジネスでの強みなどを紹介いただいた。


スリランカにおけるビジネスチャンス
~キャッシュレス化に向けた挑戦

〈講演者〉
株式会社ジェーシービー・インターナショナル
国際営業一本部 副本部長
門脇 裕一郎氏

シェーシービー・インターナショナルは、日本人が海外渡航する際のニーズを取り込むために海外加盟店と独自契約を結ぶことに始まり、積極的に海外展開を行っています。スリランカ国内でもカード発行などのサービスを展開しています。講演では海外での事業展開について、スリランカのカード市場の概況、スリランカでの展開状況についてお話しいただいた。