都内スタートアップの海外進出を支援するX-HUB TOKYOは12月3日、第4回海外展開セミナー「先輩起業家が語る海外進出のリアル」を開催しました。不確実な時代にグローバルで戦うための実践的な情報やノウハウを、実例を交えてご紹介いたしました。

今回のイベントでは、アジアを中心に事業を展開するGlobal Mobility Service株式会社の中島徳至氏、東アジアを中心にビジネスを展開するWAmazing株式会社の加藤史子氏、同社で中国事業の責任者を務める大内昭典氏、そして株式会社Trigence Semiconductorの岡村淳一氏に、海外進出のリアルなストーリーを語っていただきました。

海外展開を目指すスタートアップだけでなく、VCや大企業といった、スタートアップのサポート機関の方々にも有益な最新情報を共有しました。


起業家の力で、世界の社会課題を解決する

Global Mobility Service株式会社 代表取締役 社長執行役員/CEO 中島 徳至氏

まず初めに、これまで3社を起業したシリアルアントレプレナーであり、2013年にはGlobal Mobility Service株式会社を設立した中島氏に、海外事業について話を伺います。
弊社はモビリティとIoT、そしてFinTechを組み合わせ、これまで金融サービスを受けられなかった方々を対象に、金融包摂(ファイナンシャル・インクルージョン)の実現を目指したサービスを展開しています。2013年の創業以来、フィリピンやカンボジア、インドネシアや日本で事業を拡大し、ローン審査を通過できない低所得のタクシー運転手や配送ドライバ―向けに、ローンを組んで車両を購入できるFinTechサービスを提供してきました。 私たちはイノベーションを通じて社会問題の解決を目指しており、2030年までには新たに1億人の人々に金融へのアクセスを届けようと考えています。
海外進出にあたって、工夫されてきたポイントはございますか?
海外に進出する際は、相手の文化を尊重することを重視しています。地元の人々と共に1つの産業を育てるという気持ちをもって、常に「対話する姿勢」を大事にしてきました。まずは現地の課題を分析し、相手がどうしてほしいのかを考える。それから、我々に何ができるのかを検討するようにしています。相手の利益をどれだけ真剣に考えられるかどうかが、事業を展開するうえで欠かせないポイントではないでしょうか。 これまで私は3社の起業を経験し、逆境こそが人を強くさせると思うようになりました。特に海外事業では予期せぬ出来事が多く発生しますので、経営者には胆力が求められます。そして周りを巻き込んで事業を推進するうえでは、何よりも自分自身がしっかりとしていなくてはいけません。突き詰めると、人間としての魅力がなければ、事業の成功は難しいでしょう。ですが起業家の力で社会は必ず良くなりますし、皆さん一人一人の力できっと世界を変えることができます。まずは行動に移すために、ぜひ新たな一歩を踏み出してみてください。

マーケットの特徴を分析し、それぞれにあった戦略を立案する

WAmazing株式会社 代表取締役/CEO 加藤 史子氏

続いて、訪日外国人旅行者向けに観光プラットフォームサービス「WAmazing」を展開する加藤史子氏に、現在の訪日観光市場について伺います。
新型コロナウイルス感染症の影響をうけ、国際観光旅行市場は大きな打撃を受けています。海外の渡航制限や外出禁止の措置をとる国が拡大したことで、2020年4月の訪日外国人旅行者数は昨年対比で99.9%減少しました。日本への訪日外国人旅行者数としては、統計を開始した1964年以降、過去最小の数字です。 これまで日本は、観光事業を国の重要な産業として位置付けてきました。国としては、2030年にはインバウンド消費額を15兆円まで伸ばすことを目指しています。国内の旅行消費額は約20兆円のため、合計35兆円の産業が誕生するとなると、日本のGDPとしては観光事業がナンバーワン産業に成長する計画です。 そこで弊社では、2016年から訪日外国人旅行者をターゲットにしたビジネスを展開してきました。弊社のアプリをダウンロードした外国人旅行者は、旅程や個人情報を登録すると、到着した日本の空港内に設置してある専用機で、一定量無料で利用できるSIMカードを受け取ることができます。旅行者はアプリを通じて、国内1万件以上の宿泊施設やアクティビティーなどの予約が可能です。現在は日本国内の国際空港22箇所で、SIMカードの配布を行っています。
訪日外国人市場のなかで、特に注力されているマーケットはございますか?
訪日外国人の内訳を見ると、東アジアが約7割を占めているため、現在は中国や香港、台湾のマーケットに注力しています。海外進出にあたっては、現地の特性をふまえて研究をし続けることが重要です。例えば香港はメディアが発達していますので、弊社では現地のエージェントと組んでPRイベントを行い、メディア向けの発表会なども定期的に開催しています。中国の場合はインターネット環境が独特であり、人口も約14億人と巨大な市場ですので、特に独自のマーケット戦略が重要だと痛感しています。

WAmazing株式会社 取締役/CFO 大内昭典氏

中国市場の特徴について、中国の事業責任者を務めてきた大内昭典氏にお伺いします。
私たちは2018年9月から中国展開を進めてきました。その中で、中国市場の徹底的な理解のほか、現地で勝てる商品力の強さ、そして現地に精通したパートナーや社員の力が必須だと感じています。 中国ではGoogleやFacebook等が使用できず、中国国内ではAlibabaやTencentといった独自のプラットフォームが発展しています。また、検索ポータルサイト大手のBaiduでは、検索結果の上位に表示されるコンテンツが広告であることが多く、SEO対策も難しいのが実情です。ウェブサービスの閲覧スピードを担保するには、中国内でのサーバーの設置が不可欠ですので、中国法人の設立も必要になります。 そのため弊社では個人顧客向けのマーケティングとして、利用ユーザーの多い対話アプリ「WeChat」内でウェブサービスを展開。また、訪日観光客の旅行予約などを手がける企業とも連携して、情報を効果的に発信するようにしています。どれだけ深くマーケットを理解できるかどうかが、中国で事業を展開するうえで成否を分けるポイントだと感じています。

海外事業では、想定外の問題を楽しむ心構えが必要

株式会社Trigence Semiconductor Executive Vice President and Founder 岡村 淳一 氏

最後に、株式会社Trigence Semiconductorの岡村氏にこれまでの海外進出ストーリーを伺います。
私たちは法政大学発の産学連携スタートアップとして、デジタルスピーカー向けのデジタル信号処理技術の開発を手がけています。同技術「Dnote」は、消費電力を大幅に削減しながら、音質の向上を実現する技術です。これまでにインテルや産業革新機構等などから支援を受け、研究開発を進めてきました。Dnoteはすでに、シャープやレノボなどが販売する機器に採用されました。 弊社は2014年に米国支社、2016年に香港支社や台湾オフィスを設けるなど、海外展開にも注力してきました。特許をコアに据えながら、海外の大手企業との連携を軸にした成長を目指していました。
これから海外進出を目指す皆様に向けて、アドバイスをお願いいたします。
海外では想像できないような問題が多く発生します。そのため常に「プランB」の選択肢を考えておくことが重要です。弊社は米国の子会社を設立する際に、現地の責任者と連絡がとれなくなってしまったり、中国で商標権がなかなか取得できずに苦労したりといった経験がありました。想定外の事態を真に受けすぎず、気持ちに余裕をもって、むしろ楽しむくらいの気概が大切ではないでしょうか。 また、VCや協業パートナーを探す際には、相手のニーズを汲み取る力も求められるでしょう。VCは何を望んでいるのか、協業先のパートナーはどのようなシナジーを得たいと考えているのか。目的や目標を共有することで、より良い効果を生み出せるはずです。

当イベントでは、海外展開を進める先輩起業家の皆様にご登壇いただき、不確実な時代にグローバルで戦うための実践的な情報やノウハウを、実例を交えてご紹介いたしました。引き続きX-HUB TOKYOでは様々なイベントを通じて、海外展開を目指すスタートアップにとって有益な情報のほか、オープンイノベーションの最新トレンドなどを発信していきます。