都内スタートアップの海外進出を支援するX-HUB TOKYOは11月6日、第3回海外展開セミナー「北米スタートアップエコシステムの活用法・日本発スタートアップが知っておくべき海外マーケットの攻め方」を開催しました。日本発のスタートアップが北米で戦うために必要なスキルセットやマインドセット、そして知っておくべき海外マーケットの攻め方などをご紹介しました。

今回のイベントでは「米国のエコシステム紹介」と題した講演に続いて、北米スタートアップエコシステムの活用法、そして日本発スタートアップが知っておくべき海外マーケットの攻め方に関しての講演を実施しました。海外展開を目指すスタートアップだけでなく、VCや大企業といった、スタートアップのサポート機関の方々にも有益な最新情報を共有しました。


米国のエコシステム紹介

シリコンバレー・ジャパン・プラットフォーム  プレジデント Jon Shalowitz氏

まず初めに、米国と日本で産業育成などを手がけるシリコンバレー・ジャパン・プラットフォームについて、プレジデントを務めるShalowitz氏にお伺いします。
シリコンバレー・ジャパン・プラットフォーム(SVJP)は、日本とシリコンバレーの両地域を代表する経営者や学識者、そして政策立案者が交流するプラットフォームを提供しています。交流を通じて「人と人を結ぶこと」を重要視し、これまでに様々なパートナーシップを締結してきました。
私はキャリアの大半をシリコンバレーで過ごしてきました。そして連続起業家としてスタートアップの立ち上げやエグジットに約25年間携わるなかで、スタートアップが成功するために必要な4つのポイントがみえてきました。
まず1点目は、自社のサービスや商品を過信しないこと。時には自社のパフォーマンスを批判的に分析する力が必要です。2点目は、投資家などと議論する際には、快く支援をしてもらえる方法をじっくりと考えること。相手との衝突を避けるのではなく、議論を通じてお互いの意見をより深く理解するように試みてください。3点目は安易に平坦な道を選ぶのではなく、厳しい道を選択すること。そして最後の4点目は、想像力や共感力を養うことです。自社の商品やサービスを手にしたユーザーやステークホルダーが、どのような影響を受けるのかを日々考えるようにしましょう。
日本のスタートアップが米国に進出するメリットや、米国のエコシステムの特徴を教えてください。
日本のスタートアップが米国に進出するメリットは、大きく分けて3点あると思います。1点目は、世界最大のテクノロジーマーケットにアクセスできることです。最先端のトレンドを専門家から直接学べる環境は、スタートアップにとって大きなメリットになるでしょう。2点目は、優秀な人材にアクセスできる点です。スタートアップが事業を進めるうえでは、共に働く仲間が何よりも重要な要素になります。そして3点目は資本へのアクセスがしやすい点です。米国にはVCが多く集まっていますので、対面で直接話を進めることができます。
また、米国のエコシステムと一括りで言っても、地域によって特徴は少しずつ異なります。例えばニューヨークには金融市場があるため、フィンテックに関する事業を手がけるスタートアップとの相性が良いでしょう。ほかにも、シアトルはMicrosoftやAmazonからスピンアウトした企業が多く集積しており、起業家や投資家のコミュニティーがしっかりと形成されています。その一方で近年「次世代のシリコンバレー」として注目を集めつつある南部のオースティンは、生活費が安価で豊かな自然に恵まれており、のびのびとビジネスができる環境と定評があります。米国への進出を視野に入れる際は、ぜひ地域の特徴との相性を見極めながら、準備を進めてみてください。

北米進出を目指すスタートアップが意識したいポイント

WiL 共同創業者兼 CEO 伊佐山 元氏

続いて、日本とシリコンバレーを拠点にイノベーションの促進を手がけるWiL共同創業者兼CEOの伊佐山氏に、北米スタートアップエコシステムの最新情報についてお伺いします。
2020年の米国は新型コロナウイルス感染症の影響を大きくうけました。11月現在でも1日あたりの新規感染者数は10万人を超えており、社会環境が大きく変化しているため、子どもも大人も様々なストレスを抱えています。
その一方でスタートアップをめぐる環境は、決して悪くはありません。2020年の米国におけるスタートアップ投資額は、2018年を上回る勢いで推移しています。特にシリコンバレーを中心とした米国の「ベンチャースピリット」は、盛り上がりを見せているとも言えるでしょう。新型コロナをきっかけに働き方が変わり、健康や衛生への意識が高まったことで、デジタルトランスフォーメーションやヘルステックに注目が集まってきています。
同様の過去の事例として記憶に新しいのは、2008年に発生した金融危機です。人々が既存の金融機関に対して抱いた不信感が原動力となり、フィンテック関連の投資額はその後10年間で約5600%成長しました。今回の新型コロナに関しても、危機こそがイノベーションを生み出すことを実感しています。
実際に日本の企業やスタートアップが北米進出を目指す際には、どのような点を意識することが大切でしょうか?
北米進出を視野に入れる場合は、4つのポイントが重要だと思います。まず1点目は、株主を日本国内に限定せず、北米進出を念頭に入れて資金を調達するようにしましょう。資金調達の選択肢を米国のVCに拡げたり、米国のVCと接点をもつ日本の投資家から資金を調達してみてください。2点目は、北米への事業展開を織り込んで事業を計画し、プロダクトを設計することです。日本での既存事業に囚われ過ぎずに、現地の事情を取り入れるようにしましょう。3点目は、事業成長のスピード感覚を米国のVCの水準まで引き上げることです。「日本の企業の成長スピードは遅い」と捉えられるケースも多いため、常に意識するようにしてください。そして最後の4点目は、創業チームやコアメンバーに、海外人材を採用することです。事業を進めていくうえでは、メンバーはとても重要な役割を担います。
実際に米国進出に成功したメルカリや、KDDI傘下のソラコムといった日本のスタートアップの事例をみてみると、UI(ユーザーインターフェース)をアメリカ人に好まれるデザインに変え、創業当初からグローバル展開を視野に入れるなど、海外進出への強い意志をもって事業を育てていました。是非世界地図を見据えながら経営を進め、米国進出を目指してみてください。

日本発スタートアップが知っておくべき海外マーケットの攻め方

テラドローン(株)代表取締役社長兼テラモーターズ(株)代表取締役会長 徳重 徹氏

最後に、積極的に海外で事業を展開しているテラドローン株式会社代表取締役社長兼、テラモーターズ株式会社代表取締役会長の徳重氏に、海外マーケットに挑戦する際の心構えをお伺いします。
私たちは電動のバイクといったEV(電気自動車)事業、そしてドローン用ソフトの開発事業などを手がけており、設立当初からグローバル市場で戦うことを念頭においていました。これまでアジアを中心に海外展開を進めてきたなかで、様々な修羅場を乗り越え、精神力が鍛えられてきたように思います。
まず海外マーケットに挑戦する際の心構えとしては、予想できないようなトラブルが多く発生しますので、攻める以上にリスクヘッジを取ることが重要です。特に新興国に進出する場合は、例えビジネス相手が政府や大手企業だとしても、慎重に取り組んでください。弊社では現地のパートナーシップ締結など、事業戦略に関わるビジネスの上流の工程に関しては、社内の意思決定者が判断するようにしています。
日本のスタートアップが海外マーケットを目指す際は、どのようなポイントを意識することが大切でしょうか?
挑戦する場所が海外マーケットであったとしても、ビジネス面での基本的な事業創造のポイントは同じだと思います。しかし最も重要な点は、サービスやプロダクトが市場のニーズにフィットするかどうかを見極めることです。まずは小さな規模から始めてトライアンドエラーを繰り返しながら、現地の感覚を養ってみてください。
人材の面でいうと、ローカルのキーパーソンや日本人の経営人材の育成は不可欠です。世界各国でビジネスを展開している私たちは、「事業を通じて人を創る会社」として、若手に積極的に海外で経験を積ませるようにしています。もし一度や二度大きな失敗をしたとしても、クビにするようなことはしません。挫折こそが将来の成長につながると考えており、修羅場の体験こそが、人を育ててくれるものだと感じています。
そもそも新規事業は「神の領域」とも言えるほど、想像もつかないことが多々発生します。しかしこれまで世界を相手にビジネスを続けてきたなかで、日本人のレベルやポテンシャルは高いと感じる場面が多くありました。ぜひリスクヘッジをしっかりとしながら、海外でも思い切り挑戦してみてください。
当イベントでは米国のスタートアップエコシステムを中心に、その活用方法やそれぞれのエリアの特徴、そして日本のスタートアップが知っておくべき海外マーケットの攻め方をお伝えしました。引き続きX-HUB TOKYOでは様々なイベントを通じて、海外展開を目指すスタートアップにとって有益な情報のほか、オープンイノベーションの最新トレンドなどを発信していきます。