都内スタートアップの海外進出を支援するX-HUB TOKYOは10月5日、第2回海外展開セミナー「欧州のスタートアップエコシステムの活用法」を開催しました。欧州を目指すスタートアップが知っておくべきポイントや、海外を目指すスタートアップが押さえておきたいピッチ(プレゼンテーション)のコツなどをご紹介しました。

今回のイベントでは「イノベーションを希求するドイツ」と題した講演に続いて、欧州のスタートアップエコシステムの活用法、そして日本のスタートアップが押さえるべき海外ピッチの攻略法に関しての講演を実施しました。海外展開を目指すスタートアップだけでなく、VCや大企業といった、スタートアップのサポート機関の方々にも有益な最新情報を共有しました。


企業やスタートアップの活動を支援するドイツの取り組み

ドイツ貿易・投資振興機関 日本代表ダイレクター 岩村 浩氏

まず初めに、ドイツで企業やスタートアップのサポートを手がけるドイツ貿易・投資振興機関の概要について、日本代表ダイレクターの岩村氏、イノベーション・スカウティング部門でダイレクターを務めるヌンゲッサー氏、そして投資サポートサービス部門の法務・税務サービス担当でシニアマネージャーを務めるシェーン氏にお伺いします。
ドイツ貿易・投資振興機関(Germany Trade & Invest)は、ドイツ国内外の経済振興をサポートする公的な機関です。世界50ヶ所以上に拠点を構えており、さまざまな経済界とのネットワークも有しています。ドイツ系企業の対外的な貿易を支援するだけではなく、海外企業のドイツ進出も後押しし、企業の誘致なども手がけています。
深センに進出している日系企業の数は、2017年に400社を突破しました。京セラがイノベーションセンターを開設したり、EV(電気自動車)の日本での具体的活動としては、年に一度開催される日独産業フォーラム(本年は11月10・11日の両日、デジタルにて開催予定 www.jgif2020.com )をはじめ、定期的にフォーラムやセミナーを開催し、ドイツの最先端の取組ならびに、投資立地としてのドイツの魅力を紹介し、日独の交流を促す取り組みを行っています。東京事務所を常設の相談窓口としてドイツ進出を視野に入れている日系の企業への市場分析の提供や立地候補地選定支援、並びにドイツでの研究に興味を抱いている企業・研究機関に対して、ドイツの産業団体や産業クラスターのご紹介を行っています。
ドイツで実施されているスタートアップの支援やプログラムには、どのようなものがございますか?
ドイツは国を挙げてエコシステムの醸成に力を入れています。例えば、ドイツの経済エネルギー省が主体となって運営する「de:hub」は、デジタル・エコシステムの構築に向けて、国内に12のハブを設けています。また、1500社を超える企業と500社以上のスタートアップとのネットワークを形成し、これまでに240を超える国際連携プログラムを実施しました。現在は新型コロナウイルス感染症の影響をうけ、オンラインでイベントや座談会のほか、ワークショップなどを開催しています。
ほかにもドイツ政府の取り組みの特徴としては、企業やスタートアップの研究開発を促進している点があります。2018年に打ち出した「ハイテク戦略2025」は、現在の対GDP比3%のR&D(研究開発)投資を、2025年までに3.5%まで引き上げる目標です。なかでも、ライフサイエンスやモビリティー分野での研究や開発に多くの注目が集まっています。
ドイツは2017年に、欧州で初めて公道での自動運転を可能にしました。現在は人が運転を操作しない「レベル4」の実験ができるフィールドが、国内に14ヵ所設けられています。自動運転に関しての研究開発は、日本の自動車産業とも親和性が高いように感じています。
ドイツでは連邦政府、州政府それぞれのレベルで企業やスタートアップの研究開発をサポートするプログラムを充実させています。企業やスタートアップは、一つのプロジェクトに対して、複数レベルの助成プログラムに応募することが可能です。また研究開発プロジェクトの成果は、支援を受けた地域で商業化する義務も発生します。欧州連合(EU)が企業を対象に様々なサポートを提供するプログラムもあり、多様なステークホルダーと関係を築ける点も、ドイツ進出のメリットではないでしょうか。

欧州のスタートアップエコシステムの特徴

株式会社SWAT Lab Co Founder / 共同代表 矢野 圭一郎氏

続いて、ドイツのベルリンを拠点に活動されている株式会社SWAT Lab Co Founder /共同代表の矢野氏に、欧州のスタートアップエコシステムの特徴についてお伺いします。
欧州のスタートアップには優秀なチームを国を越えてリモートで束ねたり、小さく自前でビジネスを展開したりといった、シリコンバレーとは異なる特徴があるように感じています。市場の成熟度や注目されているトレンドについても、日本とは異なるケースが多いのが実情です。欧州では学術論文レベルの最先端技術やアート、そして環境などの分野に対しての理解やサポートが充実していますので、是非こうした分野でビジネスを展開することをおすすめします。
その一方で、日本のスタートアップが欧州に進出する際には気をつけておきたいポイントもあります。現地でビジネスを手がける際には、これまでの実績と信用が何よりも重要になります。また、フランスやドイツなどは法人税が高額であるため、法人を維持するだけでも高いコストがかかります。データプライバシーについての考え方は日本よりとても厳しいことを念頭においておきましょう。
日本の企業やスタートアップが欧州進出を目指す際には、どのような点を意識することが大切でしょうか?
欧州では国だけでなく、州ごとに法の規制や税制が異なるため、それぞれの特徴をしっかりと理解することが重要です。EUの加盟国として受けられるメリットや、加盟国でないからこそ得られる優位性もあります。そのため欧州への進出を検討する際には、展開したいと思うビジネスの内容を見極め、規制やレギュレーションをきちんと把握するようにしましょう。その際には、政治的なリスクを考慮することも大切です。
私がドイツのベルリンを拠点に活動するなかでは、信頼できる人とビジネスを行うためにも、しっかりと事前の調査を行うことがとても重要だと感じています。欧州は言語や通貨、法律が多様で、とても複雑です。いきなり現地に法人を設立するのではなく、リモート営業などを通じて市場を調査したり、実際に現地でビジネスをしている人の話から情報を収集したりしてみてください。
欧州では時短勤務などを通じて仕事を分け合う「ワークシェアリング」が、一般的な働き方として浸透しています。また、リモートで働くという環境も当たり前に受け入れていますので、国を越えて優秀な人材と一緒にビジネスに挑める醍醐味があります。信頼できる現地のパートナーと一緒に、是非地道にビジネスをつくり続けてみてください。

日本のスタートアップが押さえるべきピッチの攻略法

500 Startups 日本責任者 大出 歩美氏

最後に、世界中でオープンイノベーションの支援を手がける500 Startupsの活動について、日本責任者の大出氏にお伺いします。
500 Startupsは米国のベンチャーキャピタルとして、世界中でスタートアップエコシステムの構築をサポートしています。2010年の創業以降、76ヵ国で2450社を超える企業に投資を行ってきました。
日本では大企業のオープンイノベーション活動もサポートしています。これまでに55社以上の企業に投資した実績をもち、2016年からは起業家育成プログラムとして「500 KOBE ACCELERATOR」も運営しています。同アクセラレータープログラムは日本発のスタートアップエコシステムを神戸から生み出すことを目指しており、参加企業は71社を超え、資金調達の総額は110億円に達しました。

500 Startups Kobe アントレプレナー・イン・レジデンス アジェイ・チャイナニー氏

ありがとうございます。では500 Startups Kobeでアントレプレナー・イン・レジデンスを務めるアジェイ・チャイナニー氏に、海外を目指すスタートアップが知るべきピッチの攻略法についてお伺いします。
ピッチを構成する際には、4つの重要なポイントがあると考えています。まず1点目は、トラクション(事業の推進力)を盛り込むこと。企業やサービスがしっかりと成長しているデータを伝え、もし追加の投資があれば、さらに成長する可能性が大きいことを訴求しましょう。2点目はプロダクトの紹介です。自社で展開しているサービスや商品は、どういった課題をどのように解決できるのか、ビジネスモデルも含めてしっかりと伝えましょう。また、マーケットに参入するタイミングとその理由も盛り込んでください。
3点目は、チームメンバーの紹介です。ビジネスを推進するために必要な知識や経験をもつメンバーが集まっているのか、どれだけの熱意をメンバーが抱いているのかを伝えましょう。スタートアップにとっては、共に働く仲間が何よりも重要な要素です。そして4点目は、市場規模です。自社サービスや商品に対して、どれほどのニーズが市場にあるのかを明確に打ち出すようにしましょう。
これら4つのポイントをピッチイベントで発表する際には、一連のプレゼンテーションにストーリー性をもたせ、より強みのあるポイントから話を始めるようにしてみてください。また、ピッチの最後には投資家やオーディエンスに対して、自社が必要としているサポートをしっかりと伝えましょう。
これまで日本のスタートアップのピッチをみてきたなかで、お気づきになった点はございますか?
ピッチの資料に関しては、文字がとても多いケースが頻繁にあります。なるべくわかりやすい資料を作成するためには、文字は少なめにして、投資家の頭にしっかりと残るような「キラースライド」を用意してみてください。
また、デザインが洗練されておらず、プロダクトの紹介にばかり偏ってしまっているケースもありますね。ピッチの資料はビジュアルも非常に重要なポイントになりますので、作成をデザイナーに依頼するなど、しっかりと事前にブラッシュアップしましょう。アクセラレーターのイベントなどで優勝経験のあるスタートアップのピッチの資料をみたり、プレゼンテーションの方法をみたりすると、とても勉強になると思います。
当イベントではドイツをはじめとする欧州のスタートアップエコシステムを中心に、その活用方法や特徴、そして日本のスタートアップが海外に進出する際に気をつけておきたいポイントなどをお届けしました。引き続きX-HUB TOKYOでは様々なイベントを通じて、海外展開を目指すスタートアップにとって有益な情報のほか、オープンイノベーションの最新トレンドなどを発信していきます。