都内スタートアップの海外進出を支援するX-HUB TOKYOは9月17日、第3回海外展開セミナー「ニューヨークへの挑戦~進出時の事業戦略の描き方~」を開催しました。

今回のイベントには、ニューヨーク市経済開発公社(New York City Economic Development Corporation)でVP兼ビジネスディベロップメント・ディレクターを務めるDaniel Clark氏をはじめ、Curina株式会社CEOの朝谷実生氏、そしてEntrepreneurs Roundtable Accelerator (ERA)共同創設者兼マネージングパートナーのMurat Aktihanoglu氏にご登壇いただき、ニューヨークのエコシステムの特徴やビジネス展開における成功の秘訣をお伺いしました。

また、ニューヨーク進出を目指す日本企業やスタートアップが知るべき事業戦略の描き方についてもヒントをいただきました。


ニューヨークの都市の魅力とエコシステムの紹介

ニューヨーク市経済開発公社(New York City Economic Development Corporation)
VP&ビジネスディベロップメント・ディレクター
Daniel Clark氏

まずはじめに、ニューヨーク市経済開発公社(New York City Economic Development Corporation)でVP兼ビジネスディベロップメント・ディレクターを務めるDaniel Clark氏に、ニューヨークでビジネスを展開する際の魅力やエコシステムの特徴についてお伺いします。
ニューヨークのビジネスシーンには大きく分けて3つの魅力と特徴があります。一点目は、優秀な人材が多く集まっている点です。ITやテクノロジー分野に長けたテック人材だけでも、約33万人が同市内で勤務していると言われています。また、ファッションや医療、メディアや金融など、それぞれの業界を第一線で牽引する人材がニューヨークに集まっています。
二点目は、人材や文化の多様性です。ニューヨークの人口の過半数は移民で構成されており、多様なバックグラウンドをもつ人々や文化が集まることで、日々イノベーションが生まれる土壌が形成されています。ニューヨークのエコシステムを語るうえでも、この多様性は欠かせないポイントです。
最後の三点目は、豊富な顧客層を抱える点です。ニューヨークにはトレンドに敏感な2000万人超の消費者が集まっています。そのため、企業が新サービスや新商品について検討する際には、スピード感を意識しながらトライアンドエラーを進め、サービスの検証に取り組めるというメリットがあります。もちろん顧客だけでなく、同市には9000社以上のスタートアップや20万を超える中小企業のほか、100を超える高等教育機関が集積しており、それぞれが有機的に繋がってニューヨークという都市やエコシステムを形成しています。
2020年から2021年にかけては、米国も新型コロナウイルス感染症の影響を大きく受けました。現状と様子とニューヨークの今後の見通しについて教えてください。
新型コロナウイルス感染症の拡大をうけ、2020年はニューヨークも非常に厳しい時期を経験しました。しかし現在はワクチン接種も順調に進み、日常生活が戻りつつあります。スポーツや音楽イベントのほか、今年の9月には約1年半ぶりにブロードウェイミュージカルが本格的に再開しました。ニューヨークはこれまでにも、金融危機やアメリカ同時多発テロ、そして自然災害など様々な危機に見舞われてきました。しかしその度に市民が団結して立ち上がり、レジリエンスを高めてきたという自負があります。
業界別にみると、昨今はライフサイエンスの分野が特に盛り上がりを見せています。ニューヨークの行政機関は多額の資金を投じて、100を超えるライフサイエンス企業と優秀な学生や専門家をつなげるインターンシッププログラムの開発を進めています。また、ニューヨークには大手金融会社や世界的なメディア機関も拠点を構えており、サイバーセキュリティーに関する技術やサービスを展開する企業にも注目が集まっています。
ご存知のように、ニューヨークはビジネスに対して非常にオープンな都市です。そして、コロナの危機を乗り越えつつある今こそ投資や進出の絶好のタイミングだと確信しています。日本の企業の皆さんもニューヨークできっと明るい未来図を描けると思いますので、ぜひニューヨーク進出に積極的に挑戦してみてください。

ニューヨークでのビジネス展開成功の秘訣

Curina株式会社CEOの朝谷 実生氏

続いて、ニューヨークでアート作品のサブスクリプションプラットフォームを展開されているCurina株式会社CEOの朝谷実生氏に、事業内容やコロナ禍の様子についてお伺いします。
Curina(キュリナ)では、誰でも簡単に気軽にアート作品のレンタルや購入ができるサブスクリプションプラットフォームを運営しています。私がアメリカにてこのサービスを展開した理由は、この国が世界最大の美術市場であるからです。サブスクリプション費用は月額38ドルからに設定しており、顧客はレンタル期間中いつでも作品を購入することが可能です。
私たちの事業も新型コロナウイルス感染症の影響を大きく受けた時期もありましたが、2020年には人々が長期間在宅していることから、自宅への投資をはじめる人が増え、現在は需要も堅調に回復しています。また、医療従事者のマスクを製造するNPOに売り上げの一部を寄付するキャンペーンを実施するなど、コロナ禍でも事業を推進するために色々な施作を打ち出してきました。
起業当時を振り返ると、私の場合はまず解決したい課題をしっかりと定義したうえで、競合調査やターゲット顧客の具体化を進めていきました。想定顧客のインタビューはSNSなどを駆使して1ヶ月で100人ほどを行い、その後マーケティングの戦略などを練り上げていきました。
2019年の創業以来、ニューヨークでビジネスを進めるうえで大切にされてきたポイントを教えてください。
これまでの経験をふまえると、海外でビジネスを行ううえでは3つのポイントが大切だと感じています。一点目は、とにかく人に頼って話を聞くことです。海外で事業を進めていると、ビジネスの基盤やコネクションがなければ解決できないような課題が多々発生します。そのため、周囲の人々のサポートやアドバイスは欠かせません。
2点目のポイントは、とにかくスピード感を意識してサービスを世に出すことです。ビジネス環境は刻一刻と変化していきますので、試作品を短期間で製作して周囲から積極的にフィードバックをもらうようにすると、実際のマーケットのニーズにあった事業やサービスの創造につながるはずです。そして最後の3点目は「強いメンタル」です。海外でビジネスを進めるうえでは、日本では想像していなかったような様々な課題に直面するため、メンタルを良好に保つ強さが求められます。
私たちも今後はチームやビジネスの拡大に向けて、アクセルをより一層全開にして進んでいきます。皆さんも事業を通じて解決したい課題やソリューションを明確にしたうえで、アメリカ進出にチャレンジしてみてください。

ニューヨーク進出を目指すスタートアップが知るべき事業戦略の描き方

Entrepreneurs Roundtable Accelerator (ERA)共同創設者兼マネージングパートナー
Murat Aktihanoglu氏

最後に、Entrepreneurs Roundtable Accelerator (ERA)の共同創設者で、マネージングパートナーを務めるMurat Aktihanoglu氏に、ERAの活動やニューヨークの魅力についてお伺いします。
私たちERAはスタートアップのアクセラレーターとして、2011年からニューヨークで活動しています。メインプログラムである3カ月間のプログラムでは、主にアーリーステージのスタートアップの育成を目的に、プロダクトの開発やセールスマーケティングなどのサポートを実施。メンターのネットワークは1000人を超え、これまでに数々のユニコーンを輩出してきました。
様々なアクセラレータープログラムの提供を通じて多くのスタートアップや企業と関わってきたなかで、ニューヨークは非常にチャンスが多い都市だと感じています。また、文化的な多様性も相まってオープンな環境が形成されていますので、海外のスタートアップが米国進出を目指す際にはとてもおすすめのエリアだと言えるでしょう。
ニューヨーク進出を目指す日本の企業やスタートアップに向けて、アドバイスをお願いいたします。
私からは2点のポイントをお伝えします。一点目は創業当初からグローバルな視点をもつことです。リミットを設けずにいれば、世界中どのような場所でもユーザーやお客様を見つけることが可能です。2点目は海外進出を見据えて、まずはしっかりと日本で強いチームを構築しておきましょう。意思決定を任せられるような、信用できるメンバーを育てておくことが重要です。
海外進出について検討を始めると、周囲から色々なアドバイスを耳にする機会が増えてきます。もちろん、他者から話を聞いて学ぶ姿勢も大切ですが、最終的には自分自身が納得のいく形で意思決定をするように心がけてください。
ビジネスをスタートさせると毎日が挑戦の連続です。事業やサービスがうまく軌道に乗らないなど、時には苦しい時もあるかと思いますが、一定期間しっかりとコミットすることで初めて結果は目に見えて現れてきます。日本の企業やスタートアップの皆さまも決してすぐにはあきらめず、根気よくビジネスと向き合ってみてください。

当イベントではニューヨークの魅力やエコシステムの特徴、そしてニューヨーク進出の成功の秘訣についてお伝えしました。引き続きX-HUB TOKYOでは様々なイベントを通じて、海外展開を目指すスタートアップにとって有益な情報のほか、オープンイノベーションの最新トレンドなどを発信していきます。