都内スタートアップの海外進出を支援するX-HUB TOKYOは10月22日、第4回海外展開セミナー「スタートアップに求められるシリコンバレー進出の秘訣」を開催しました。

今回のイベントには、日本研究プログラムリサーチスカラーで、キヤノングローバル戦略研究所インターナショナルリサーチフェローを務める櫛田健児氏をはじめ、株式会社ABEJAの代表取締役CEO 岡田陽介氏、そして500 Globalから日本担当ディレクターの大出歩美氏とプリンシパルのローランド・オズボーン氏にご登壇いただき、シリコンバレーのエコシステムの特徴や進出時のポイントをお伺いしました。

また、シリコンバレーでの事業展開を目指す日本企業やスタートアップが留意すべき事業戦略の描き方などについてもヒントをいただきました。


世界のイノベーションの中心、シリコンバレーのエコシステムの特徴

日本研究プログラムリサーチスカラー
キヤノングローバル戦略研究所インターナショナルリサーチフェロー
櫛田健児 氏

まずはじめに、日本研究プログラムリサーチスカラーで、キヤノングローバル戦略研究所インターナショナルリサーチフェローを務める櫛田氏に、シリコンバレーの全体像をお伺いします。
シリコンバレーはカリフォルニアの中央部に位置する、「地図上に地名が掲載されていない」経済圏です。世界のイノベーションの中枢として強い求心力をもち、これまでにIntel (インテル)、Apple (アップル)、Google (グーグル)、Twitter(ツイッター)、Uber Technologies(ウーバー・テクノロジーズ)やTesla(テスラ)といったテクノロジー企業を生み出してきました。

新型コロナウイルス感染症は、シリコンバレーを含めた米国全域に甚大な被害をもたらしました。しかしシリコンバレーではコロナ禍でも新規株式公開(IPO)が活発で、ビジネス環境の強さも証明されています。VC(ベンチャー・キャピタル)ファンドの運用資産残高を示す「AUM」を比較すると、シリコンバレーが位置するカリフォルニア州は2020年で3130億円と、米国内でも圧倒的なトップを誇りました。

現在はシリコンバレーの土地や人件費の高騰をうけ、テキサス州のオースティンをはじめとした他の地域に拠点をうつす「脱シリコンバレー」の動きも指摘されています。その一方で、トップVCは依然としてシリコンバレーにおり、優秀な人材や世界トップクラスのVCにアクセスするため、シリコンバレーでの起業とこの地への進出を重視する企業や人材はまだ多いように感じています。
シリコンバレーはこれまでに様々なテクノロジーや新たなサービスを生み出してきました。同エリアのエコシステムの特徴や強みを教えてください。
シリコンバレーのエコシステムを語るうえでは、4つの重要な要素があります。それは世界トップVCの強い存在感、人材の高い流動性、産官学の連携、そしてスタートアップと大企業の共創です。これらの要素が互いに補完しながら成長を遂げてきたことで、世界中から優秀な人材やVCがシリコンバレーに集まり、結果的にクオリティーの高い企業やスタートアップも集積してきました。こうした「好循環スパイラル」こそが、シリコンバレーのもつ最大の強みと言えるでしょう。

もちろんシリコンバレーでビジネスを続けるうえでは、厳しい競争に勝ち続ける必要があります。しかし良い仲間に出会えれば世界トップ級のビジネスを作り出すことができますし、必ず力が着く環境です。また、日々新しい技術やプロダクトが生まれるシーンに立ち会えることで、シリコンバレーでしか味わえないワクワク感を楽しめることも醍醐味と言えるでしょう。

シリコンバレーへの進出を目指す起業家のマインドセットとしては、「絶対にこれで勝負するぞ」という強い意志と、その想いを達成するための仲間が重要です。ですが、自分の思い込みだけでサービスやプロダクトを作り始めると、社会のニーズに合致しないものが出来上がる可能性があります。ですので常にユーザーの言葉に耳を傾けて課題を深堀しながら、仮設を立てて検証を続ける姿勢が求められます。

一度や二度の失敗で簡単に折れてしまうようでしたら、シリコンバレーへの進出はおすすめできません。ですがチャレンジ精神があれば、無限大の可能性があります。なぜシリコンバレーで事業を行いたいのかを突き詰めて考えたうえで覚悟をもって臨むと、明るい展望が見えてくるでしょう。

先輩起業家に聞く、米国進出のリアル

株式会社ABEJA 代表取締役 CEO
岡田 陽介 氏

次に、株式会社ABEJAの代表取締役CEO岡田陽介氏に米国進出のきっかけや事業内容についてお伺いします。
ABEJAは「ゆたかな世界を、実装する」をビジョンに掲げ、ディープラーニングや高度な機械学習による画像解析や自然言語処理などの技術を用いたサービスを展開しています。2012年の設立以降、米グーグル本社などから出資を受けながら、これまでに200社を超えるお客様のデジタルトランスフォーメンション(DX)をサポートしてきました。

私たちが重視しているのは、テクノロジーでイノベーションを実現し、インパクトのある社会貢献を行うことです。ソフトウエアやテクノロジーの分野に関しては、日本でも日々多くの新たな技術が生まれていますが、それらの技術を社会で使える形に変えて広めていくことは決して容易ではありません。ですので弊社は技術と社会の橋渡しになるべく、事業を推進しております。

ABEJAは創業当初から「何としてでもグローバルに事業を展開する」という強い意志を掲げており、現在は米国カリフォルニアなどにも海外オフィスを構えています。

ソフトウエア事業を手がける日本発のスタートアップのなかで、グローバルに影響力をもつ企業は残念ながらまだ登場していません。そこで「私たちこそが世界で戦える企業になりたい」という想いをもち続けて、今日までビジネスを拡大してきました。
シリコンバレーで事業を推進するなかでお感じになった特徴や、これから進出を目指す日本の企業に向けてのアドバイスをいただけますか?
シリコンバレーのエコシステムには、すぐにあきらめてしまうと二度と相手にされなくなる冷たさがあります。ですが同時に非常にオープンな環境でもありますので、相手から一度興味を持ってもらえると、その後も関係性が続きやすいように感じています。

相手に興味を持ってもらうためには、起業家自身が企業やサービス、そして商品がもつ本質的な価値をどれだけ伝えるどうかが重要になります。口頭のみで価値を伝えることが難しければ、図やテキストをふまえたビジュアルでも伝えるようにするなど工夫をしてみましょう。

私たちが米国に進出する際は「なぜ海外で事業を展開したいのか」を整理すると同時に、マーケットのニーズを見極めることを大切にしていました。現地の情報やコネクションがないなかで進出を検討するのは非常に難しいため、まずはJETROなどの日本の機関に相談すると次の一手につながるはずです。

シリコンバレー進出を目指すスタートアップが知るべき事業戦略の描き方

500 Global 日本担当ディレクター
大出 歩美 氏

最後に500 Globalで日本担当ディレクターを務める大出氏に事業内容をお伺いします。
私たち500 Globalは、主にアーリーステージ段階のテクノロジー企業への投資を手がけるベンチャーキャピタルです。テクノロジーやイノベーション分野の市場に注視して投資を行うことで、長期的な企業価値を高めながら、経済成長を促してまいりました。

2010年の設立以来、私たちは77カ国で2,500社以上の企業に投資を行っています。現在出資をしている企業の半数弱は米国外に位置しており、世界中の有能な人材や企業の成長をサポートしながら各地のスタートアップエコシステムとも連携できるよう、投資家や経営者として経験を積んだメンバーが15カ国以上で活躍しています。

500 Global プリンシパル
ローランド・オズボーン氏

500 Globalでプリンシパルを務めるローランド・オズボーン氏からみて、シリコンバレー進出を目指す企業が重視すべきポイントを教えてください。
シリコンバレー進出を検討されているみなさんには、3つのポイントを軸に事業戦略を考えることをおすすめしています。一つ目は、自社の得意分野や強みを深く理解すること。テクノロジーに優位性があるのか、戦略に勝算があるのか。ライバルと比べてどこに自分たちの強みがあるのかを見極めたうえで、海外進出を目指しましょう。

二点目は、現地の課題やニーズを深く知ることです。現在はインターネットでも情報を集められますが、現地のアクセラレーターや起業家に直接話を聞くことができると、より理解が深まるでしょう。シリコンバレーには成功事例が多くありますので、ビジネスを色々な側面から学ぶことができるはずです。

三点目は、現地の人々よりも現地のことをよく知るつもりで、徹底してマーケットを理解しましょう。海外進出を考える際には、市場とタイミングの見極めが最も重要なポイントです。

新型コロナウイルス感染症の影響を大きくうけたシリコンバレーも、状況はかなり回復してきました。なぜ海外で事業を展開したいのか、そのなかでなぜシリコンバレーに進出したいのか。これらを見極めたうえで、皆さんがもつ優位性がシリコンバレーで発揮されそうであれば、ぜひ積極的に進出してみてください。

当イベントではシリコンバレーのエコシステムの特徴や魅力、そして海外展開を考えるうえで大切なポイントなどを共有しました。引き続きX-HUB TOKYOでは様々なイベントを通じて、海外展開を目指すスタートアップにとって有益な情報のほか、エコシステムやオープンイノベーションの最新トレンドなどを発信していきます。