都内スタートアップの海外進出を支援するX-HUB TOKYOは1月21日、第5回海外展開セミナー「事例で学ぶ、日本企業とグローバルオープンイノベーション〜インパクトを起こす事業創出〜」を開催しました。

今回のイベントには、SOMPO Light Vortex株式会社でExecutive Vice Presidentを務める上原高志氏をはじめ、株式会社NTTデータコーポレート統括本部グローバル戦略室デジタル戦略担当部長の渡辺出氏、そして日産自動車株式会社総合研究所所長の土井三浩氏にご登壇いただき、国内企業におけるグローバルオープンイノベーションの事例をお伺いしました。

また、国内外のスタートアップとの協業時のポイントや、オープンイノベーションを望む企業が留意すべき点などについてもヒントをいただきました。


オープンイノベーションの推進にあたって必要な心構えとは

SOMPO Light Vortex株式会社
Executive Vice President
上原 高志 氏

まずはじめに、SOMPO Light Vortex株式会社でExecutive Vice Presidentを務める上原高志氏に、事業内容やオープンイノベーションの事例についてお伺いします。
SOMPO Light Vorte(ライトボルテックス)は、SOMPOホールディングスのデジタル事業を担う子会社として2021年7月に設立されました。デジタル技術を活用した商品・サービスの企画から開発、販売までを一貫して手がけており、受託開発をはじめ、国内外のスタートアップと連携して、新規事業の立ち上げを進めています。

SOMPOグループには日本以外に、米国シリコンバレーやイスラエルのテルアビブにもデジタルラボがあり、メンバーを有します。社内でアジャイル開発を実行する「スプリントチーム」はダイバーシティーに富む約50人のメンバーで構成されており、SOMPOグループで実施してきた300件を超えるPoC(概念実証)の知見を活かし、オープンイノベーションを推進しています。

SOMPOグループにおけるデジタル活用事例として、介護事業会社のSOMPOケアでは、自動走行の車椅子や見守りを目的とした浴室センサーの開発に着手。保険分野では、過去のデータを元にAI(人工知能)が保険商品を提案したり、社内外からの問い合わせに対応するサービスの検証も進めています。また、複数のオークションサイトとAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)で連携し、自動車保険の契約者から引き取った事故車の売却事業なども展開しています。
これまでのオープンイノベーションの事例を振り返って、今後新たに事業創出を目指す企業の皆さんに向けてアドバイスを頂戴できますか?
特に組織の規模が大きい企業においては、新規事業の開発やオープンイノベーションの推進にあたって、「失敗が許されない」という雰囲気を強く感じる場合もあるでしょう。私たちも過去の事例を振り返ると、データや経験不足のためにサービスやプロダクトの開発が上手くいかず、失敗したプロジェクトも数多くありました。ですが当時の失敗から、市場の見極めをしっかりと行い、明確なビジネスモデルを描く必要性を学ぶことができました。

事業創出やオープンイノベーションをはじめ、変革には失敗がつきものです。特に社会的なインパクトの創出を目指す事業の場合は、3年、4年というスパンでは結果が出ないケースが大半だと言っても過言ではありません。大切なのは失敗を恐れすぎないこと。早い時期に失敗すればするほど、早く立ち直ることができます。根幹に据えるべき全体の方針やカルチャーはぶらさず、ゴールに向けての方法論はその都度変えながら、腹を括って事業創出に向き合うと次第に結果が見え始めるはずです。

国内外スタートアップと連携する際のポイント

株式会社NTTデータコーポレート統括本部
グローバル戦略室 デジタル戦略担当部長
渡辺 出 氏

次に、株式会社NTTデータコーポレート統括本部グローバル戦略室デジタル戦略担当部長の渡辺出氏に、現在ご担当されている業務内容についてお伺いします。
コーポレート統括本部グローバル戦略室では本社直轄のデジタル戦略部門として、NTTデータのオープンイノベーションを推進しています。

2013年には弊社とお客様企業、そしてスタートアップの3者が共に新しいビジネスを創り上げるべく、オープンイノベーションフォーラム「豊洲の港から」を発足。国内外、社内外から集まった4000人を超えるメンバーをつなげながら、数多くのサポーター企業やパートナー企業、そして世界各地のアクセラレーターと提携してきました。また、事業課題を持つ方からの問い合わせや相談にも幅広く対応しています。

オープンイノベーションの推進にあたっては、関連事業部を通じて顧客ニーズや社会課題への理解を深めた後に、適切な情報や必要なサポートを提供。ほかにもビジネスの種を醸成するために、特定のテーマを決めて関連するスタートアップにご登壇いただく「定例会」も開催しています。

株式会社NTTデータコーポレート統括本部
グローバル戦略室
顔澤 シン 氏

同じくグローバル戦略室でオープンイノベーションの推進に取り組まれている顔澤シン氏に、国内外のスタートアップと協業を進める際に意識されている点をお伺いします。
オープンイノベーションや事業創造に向けてスタートアップと協業する際は、主に3点を留意しています。1点目は、弊社NTTデータと連携するメリットを相手に明確に伝えること。ファクトベースで論理的にメリットを共有することで、相手も納得感を持てるようになります。協業に向けたヒアリングや打ち合わせ時には、相手の貴重な時間をもらっているという意識も忘れないようにしたいですね。

2点目は、信頼できるビジネスパートナーとなるために、お互いをよく理解するよう心がけること。私たちが過去に中国のスタートアップと協業した際には、言語や文化、そしてビジネス習慣が異なるため、互いの認識に齟齬が生じてしまったこともありました。そこで中国市場に明るいメンバーを中心に据えてプロジェクトを推進することで、PoC(概念実証)で問題が生じた際にも、チーム一丸となって解決に向けて舵を切ることができました。

3点目は、メンバー一人ひとりがプロジェクトの成功を信じて、熱意をもって取り組むこと。新規ビジネスやプロジェクトが成功する可能性や、成功した際のインパクトを数字やファクトをもとにチームメンバーに共有すると、より熱意をもって目の前の事業と向き合えるはずです。

数あるスタートアップのなかから協業相手を選ぶのは、選考に要する時間なども含めて大変なことが多々あります。ですが協業の目的を今一度整理することができれば、良いオープンイノベーションを生み出すことができるでしょう。

自動車業界で求められるオープンイノベーションとは

日産自動車株式会社 総合研究所 所長
土井 三浩 氏

最後に、日産自動車株式会社総合研究所で所長を務める土井三浩氏に、自動車業界のオープンイノベーションの必要性についてお伺いします。
自動車を取り巻く環境はここ数年で大きく変化しています。公共交通の需要の高まりや、AI(人工知能)などの新技術を搭載した自動車の登場もその一例です。「車を生産して販売する」という従来のビジネスモデルが変わりつつある時代においては、自動車業界は車やモビリティのあり方を改めて多角的に考える必要があります。

自動車業界にとってのオープンイノベーションは、ビジネス領域の拡大や新技術の開発が進む昨今において、競争力を維持するために必要不可欠な取り組みです。その一方で、品質面を考慮すると、すべての挑戦が実を結ぶとは限りません。技術が最先端になればなるほど、モビリティーの基本である安全や品質にも目をむける必要があります。例えば、次世代電池と期待されている「全個体電池」のモビリティーへの応用を考える際には、安全性の配慮が欠かせないと言えるでしょう。
オープンイノベーションとの向き合い方や、これまでの事例について教えてください。
日産自動車の総合研究所では、将来のモビリティや社会に貢献する新たな価値の創造に向けて、オープンイノベーションやR&D(研究開発)を進めてきました。日本国内だけでなくイスラエルのテルアビブ、中国の上海、そして米国シリコンバレーなどのイノベーションハブを拠点に、オープンイノベーションのパートナーの探索や技術開発にも注力。過去には神奈川県や福島県などでも実証実験を実施し、中国の蘇州では現地のスタートアップとの協業を通じて自動運転の開発に着手しています。

私たち日産の技術は、車以外にも幅広い用途を見込むことができます。過去には、部品加工技術を用いて所定の金型を制作しお菓子を製造したり、低価格な熱画像センサー技術の提供によって新型コロナ対策を講じるための温度チェッカーの開発につなげることができました。

スタートアップや企業との協業を通じて、戦略的に自社の技術開発やビジネス構築を進めるためには、協業先を検討する際に「相手の強み」を見極めることが重要です。協業に向けて特にクリアにしたい部分を事前に固めることができれば、自社が求める最適なパートナーと出会えるでしょう。

当イベントでは大企業を中心に、スタートアップとのグローバルオープンイノベーションの必要性や課題、そして協業時のポイントなどを実際の事例を踏まえてご講演いただきました。引き続きX-HUB TOKYOでは様々なイベントを通じて、海外展開を目指すスタートアップにとって有益な情報のほか、エコシステムやオープンイノベーションの最新トレンドなどを発信していきます。