都内スタートアップの海外進出を支援するX-HUB TOKYOは3月17日、「2021年度 X-HUB TOKYO 成果発信イベント」を開催しました。

海外のテクノロジーの最新動向、及び海外展開のリアルをテーマにした基調講演では、ベンチャー投資家であり、京都大学大学院で客員教授も務める山本康正氏のほか、株式会社トヨコー代表取締役社長CRCの茂見憲治郎氏が登壇し、都内スタートアップが海外展開を目指す際に有益な情報を共有しました。

イベントの後半では、2021年度X-HUB TOKYOの各種プログラムに参加した国内外のスタートアップが成果を発表。それぞれの立場からプログラムで得た学びや気づき、そして今後の展望を語りました。


基調講演〜テクノロジーの潮流〜

ベンチャー投資家・京都大学大学院客員教授
山本康正氏

まずはじめに、ベンチャー投資家であり、京都大学大学院で客員教授を務めていらっしゃる山本康正氏にお話を伺います。テクノロジーの発展が目覚ましい昨今、日本の企業やスタートアップは今後どのように最新テクノロジーに向き合うべきでしょうか?
これからの社会において、テクノロジーは様々な側面で重要な役割を果たします。つまり、テクノロジーによって土台が築かれ、その上ですべての企業や組織が活動するような状態が加速する、まったく新しい世界が出現するでしょう。

その際に大切なことは、新たなテクノロジーが生み出された際に「どのような価値があるのか」「どのように利用できるのか」、そして「どのような未来がやってくるのか」を予想することです。現状を把握して分析するだけでなく、テクノロジーによって未来がどのように変化するかを考えるようにしましょう。

例えば、近年注目を集めている自動運転の技術が日常生活においても浸透すると、運転手の人件費の削減につながり、タクシーや公共交通の運賃が低くなる可能性もあります。このようにして、テクノロジーがどのように私たちの生活を変えるのかを整理して考えると、サービスや事業の作り方も変わってくるはずです。
これまで数々のスタートアップを支援されてきたお立場から、海外展開を目指す日本のスタートアップに向けてメッセージをお願いいたします。
自分たちが最も価値を出せる領域や「座組み」を見極めたうえで、海外を目指しましょう。ビジネスの初期段階から海外展開を見据えることができると、より着実に事業が進むはずです。海外でビジネスをする際には英語力は欠かせませんので、日々訓練を重ねることをおすすめします。

また、新たなトレンドやテクノロジーはその多くが海外で生み出されています。日本のメディアのみから情報を得るのではなく、海外発の情報にもアンテナを張るようにしましょう。可能であれば実際に現地を訪ねたり一定期間住んだりして、地に足がついた情報を得ることができると、見えてくる景色も変わってきます。

今後は、海外の企業やスタートアップにも日本に積極的に進出していただけたらと考えています。過去には、京都で事業のインスピレーションをうけ、大きく成長した海外のスタートアップもあります。事業の拠点としてだけでなく、アイデアやインスピレーションを得る場所、そしてアジアのゲートウェイとして日本を利用してもらえたらとても嬉しいですね。

起業家による海外展開経験談〜“グローバルスタートアップへの挑戦〜

株式会社トヨコー
代表取締役社長CRC
茂見憲治郎氏

次に、株式会社トヨコー代表取締役社長CRCの茂見憲治郎氏に、事業概要や海外でのビジネスについてお伺いします。
私たちは3K(きつい・汚い・危険)と呼ばれる建設業界を3C(Cool,Clean,Creative)に変えるという使命感を持ち、「SOSEI」と「CoolLaser」、2つの独自技術を軸に世界を見据えて新市場の創出を目指す企業です。CoolLaser技術では、橋や鉄塔など鋼材についたサビ、塗膜、塩分をいとも簡単に取り除くことができるオンリーワンのレーザー技術です。屋根の補修では「SOSEI」と呼ぶ独自の工法を考案し、屋根に塗料を吹きつけると、耐震補強や雨漏り防止につながる技術を確立しました。鉄板などを使った補強よりも素材が軽いのが特徴で、生産ラインを止めることなく、短期間で施工できる点も強みの一つです。現在は環境負荷の軽減に向けて、太陽光パネルや環境配慮建材とコラボし、製造業へゼロカーボンの提案なども行っています。

橋や鉄塔、そして高速道路といった公共の建築物やインフラの老朽化は、日本だけでなく世界各国で深刻な問題となっています。例えば米国では年間で約110兆円規模の予算をつけ、橋や道路、鉄道といった老朽化したインフラの刷新計画を打ち出しています。

そこで私たちも2021年には、さび問題に直面している米国のゴールデンゲートブリッジ(金門橋)の保守を担う工事担当者に、自社のCoolLaser技術を提案する機会を得ることができ、現在も交渉が続いています。
海外展開の進捗や今後の展望について教えてください。
海外ではタイに子会社を設けており、米国ではカリフォルニア州政府とも話を進めています。グローバル展開においては、海外拠点に日本の駐在員を置くのではなく、その国の事情をよく知る現地の方に経営トップに立っていただこうと考えています。そのため、タイの子会社にもタイ人の社長を起用しました。

私たちは第二創業をきっかけに、グローバル展開を目指すことを決めました。それは、私たちの技術や事業が世界で必ず役に立つという確信を持っていたからです。海外でのビジネスはまだ始まったばかりですが、技術への確かな信頼と熱意を持ち続けて、今後も四苦八苦しながら取り組んでいきたいと考えています。

OUTBOUND PROGRAMの成果発表

X-HUB TOKYOが2021年に実施したOUTBOUND PROGRAMは、独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)が運営し、海外進出を目指す都内スタートアップを対象に海外展開を支援しました。

コースとしては、進出先の希望にあわせて欧州カンファレンス、深セン、ドイツ、シンガポール、ニューヨーク、シリコンバレーの6コースを提供。各地域のエコシステムに精通しているグローバルアクセラレーターと連携し、ブートキャンプやメンタリングに加え、ビジネスパートナーとの提携や投資家からの資金調達につながる機会を創出しました。

本プログラムでは、新型コロナウイルス感染症の拡大をうけ、オンラインでも海外展開を積極的に進めるヒントやアイデアが提供されました。

衛生データを活用した気候や土地の分析によって、顧客のビジネスの効率化・高度化を支援する株式会社天地人(東京・港)は「欧州カンファレンスコースを通じてオンラインで参加した、フランスの大型イベントのVIVATECHNOLOGYでは、約30社とコンタクトを取ることに成功しました。その後のフォローアップも積極的に行い、3社と協業の可能性を探っています」と共有。灰のリサイクルや材料開発を手がけ、ドイツコースに参加したAC biode株式会社(京都市)は「業界専門のコンサルタントにつながる機会を得られたほか、人生で初めてオンラインのみでの受注ができました」と振り返りました。
また、株式会社biomy(東京・渋谷)は「ニューヨークコースのプログラムはほぼ全てが英語で実施されたため、ハードな部分もありましたが、米国進出にあたってのノウハウを得られました」と言及。シリコンバレーコースに参加し、AIの作曲サービスを展開するSOUNDRAW株式会社(東京・渋谷)は「海外進出のノウハウや注意点などのレクチャーから、非常にたくさんの学びを得ました。ビジネスSNSのリンクトインでのやりとりを通じて協業に向けた話し合いも進んでおり、非常に成果があったように感じています」と話しました。

OUTBOUND PROGRAMでは、海外展開を進めるうえでの実務的なサポートも提供しました。深センコースに参加し、カラー暗視カメラを開発する株式会社ナノルクス(東京・港)は「海外での現地法人設立に向けてオフィス開設の相談にもご対応いただき、非常に柔らかな姿勢でサポートしていただいた点が印象に残っています」と共有。シンガポールコースに参加し、自由な視点で簡単に撮影や配信ができる動画サービスを展開するAMATELUS株式会社(東京・渋谷)は「メンタリングやビジネスマッチングなど、とても充実した8週間を過ごすことができました。今も商談を進めており、今後海外展開を考えるスタートアップや企業にとって、とてもおすすめのプログラムだと思います」と振り返りました。

INBOUND PROGRAMの成果発表

X-HUB TOKYOが2021年に実施したINBOUND PROGRAMではFinTech、Mobility、CleanTechの3つの事業領域において、海外スタートアップと都内企業・スタートアップなどの交流をオンラインでサポートしました。経験豊富なビジネスプロフェッショナルによるメンタリングや東京進出に必要なマーケットなどに関するレクチャー、そして都内の大企業・VC・スタートアップとのビジネスマッチングやピッチイベントなども開催しました。

本プログラム内では、東京や日本進出にあたって留意したい法規制に関するレクチャーも実施されました。シンガポールに拠点をおき、SAASサービスを提供するRegTank Technology Pte Ltd.は「X-HUB TOKYOのプログラムは、日本市場のフィンテックのエコシステムやローカルマーケットの理解に非常に役立ちました。弊社は暗号通貨も取り扱っているため、法律などの規制面でのレクチャーも大変参考になりました」と話しました。

X-HUB TOKYOが創出したマッチング機会を通じて、日本進出に向けて商談が進んでいる海外のスタートアップもあります。ドイツに拠点を構え、モビリティーデータの分析を手がけるtriply GmbHは「日本では車を所有する人が減っていると伺い、新たなモビリティーサービスの可能性を感じました。また、不動産や位置情報などのデータの活用方法についても、日本の企業と引き続き話し合いを進める予定です」と成果を報告しました。

カナダや韓国に拠点を設け、空気の質の改善や運用・保守コストの削減に向けて、IoTデバイスの開発などを手がけるWeavAir Co.は「X-HUB TOKYOのプログラムを通じて、様々な企業と連携する機会に恵まれました。今後も代理店パートナーを引き続き募集していきたいと思います」と振り返りました。