都内スタートアップの海外進出を支援するX-HUB TOKYOは9月30日、2022年度X-HUB TOKYO#4 海外展開セミナー「世界最大のイノベーション都市に学ぶ~シリコンバレーへの進出方法~」を開催しました。

本イベントでは、X-HUB TOKYOの概要説明をはじめ、シリコンバレー市場の特徴や魅力、そして北米進出を目指すスタートアップが知るべき事業戦略の描き方についてご紹介し、海外展開を目指すスタートアップや海外スタートアップとの連携を検討している支援機関の方を対象に、有益な情報やノウハウを共有しました。
イベント前半では、Plug and Play Tech CenterでDirector, Japanese Partnershipsを務める石井莉咲氏が、シリコンバレーの最新エコシステム情報を紹介。続いてサイボウズ株式会社の組織戦略室長(元副社長)である山田理氏が、シリコンバレーでビジネスを展開するなかで感じた魅力やリアルな体験談を語りました。
最後に、グローバル・ブレイン株式会社でPartner and US Office Representativeを務める加藤貴士氏が、北米進出を目指すスタートアップが知るべき事業戦略の描き方を共有しました。


シリコンバレーのエコシステム紹介

Plug and Play Tech Center Director, Japanese Partnerships
石井 莉咲氏

はじめに、世界最大級のアクセラレーター/VCであるPlug and Play Tech CenterでDirector, Japanese Partnershipsを務める石井莉咲氏に、シリコンバレーの魅力やエコシステムの特徴を伺います。
皆さんもご存知の通り、シリコンバレーは世界最大のイノベーション都市として、スタートアップや投資機関、大手企業や研究機関など、世界中から多くの人々を惹きつけてきました。スタンドフォード大学やカリフォルニア大学バークレー校など、世界最高峰の大学と民間による産学連携が盛んなほか、2021年にはシリコンバレーのみで17兆円ものVC投資が集まるほど、圧倒的な資金力を誇ります。もちろん、昨今話題に上がることの多い「web3」やバイオテック、フィンテックに関するスタートアップも集まっており、それらにも多くの投資が行われています。
シリコンバレーのビジネスシーンにおいては、決断のスピードがとても早く、ミーティングは基本的に15分ごとで設定されるなど、お互いの時間を尊重する文化が浸透しています。また、個々人が好きな仕事に取り組みながらも、しっかりと結果にこだわることが重視されています。
ほかにも、私がシリコンバレーで5年ほど生活を送るなかで個人的に感じたのは、多様な人種や人々が集まっていることが最大の特徴であり、魅力だということです。米国の他の都市や州において、住民のなかで移民が占める割合は1割前後ですが、シリコンバレーは約4割と、非常に高い割合を占めています。この多様性こそが、シリコンバレーやエコシステムの魅力を形成しているように感じています。
これまで数多くの企業をサポートされてきたなかで、「世界で通用する起業家に求められるスキルやマインドセット」とはどのようなものだとお考えか、ご見解をお聞かせください。
私自身に起業経験はないのですが、これまで多くのスタートアップや起業家の皆さんと話をさせていただいたなかで、対人関係と事業戦略、そして学習能力の3つの点は大きなポイントになるのではないかと、僭越ながら感じています。
スタートアップというのは、人もお金も実績もなく、ブランドもまだ確立されていません。だからこそ、まずは自社の会社やサービスの価値を言語化し、相手にきちんと伝えることが求められています。懇親会やピッチイベントなど、その時々の場や相手に合わせてきちんとコミュニケーションを取ることを重視してみてください。また、テクノロジーの進展によって社会が猛スピードで変わっていくなかでは、自分自身の今までの経験や学びを「疑い」、アップデートして学び直していくことも大切です。
これまで多くの企業の方々にサポートを提供してきましたが、「これがシリコンバレー進出の方法だ」という決まったルールや方法はありません。ですので、もし本気でシリコンバレー進出を目指されているのであれば、今すぐにでもぜひ飛び出していただけたらと思います!

先輩起業家による、シリコンバレー進出の魅力と苦悩

サイボウズ株式会社 組織戦略室長(元副社長)
山田理氏

次に、サイボウズ株式会社の組織戦略室長(元副社長)である山田理氏に、シリコンバレー進出の経緯についてお伺いします。
僕たちは日本の事業の更なる拡大を目指し、2001年と2014年の二度シリコンバレーに進出しましたが、はじめに皆さんには「米国進出はめっちゃ大変です」という言葉をお伝えしたいと思います。海外では言語や文化が違うことは当たり前ですし、商品やサービスがどれほど売れるのかもわからない、まさに課題だらけと呼べる状態です。私たちもさまざまな課題に直面し、2001年の進出時は3年であえなく撤退。ですがそこから体制を立て直し、2014年に再度シリコンバレーに進出し、今に至ります。
2001年の進出時は日本人の拠点長のもと、現地社員の採用、そして商品のローカライズ化を進めました。しかし次第に日本での経験やノウハウではカバーできなくなってしまったことが、撤退の主な理由でした。当時日本のサイボウズは上場したばかりでしたので、非常に限られたリソースで米国の事業を進めなければならなかったこと、そして当時の米国のカルチャーとはフィットしない製品を販売していたことも、失敗の原因だったと思います。
その後日本側の体制を立て直し、2014年に二度目の挑戦でシリコンバレーへ向かいました。現在は日本で製品の開発を主導し、米国のチームはマーケティング戦略に力を入れています。まだまだ課題は山積みですが、1度目の失敗をふまえつつ、「100人100通りの働き方がある」ことを肝に銘じてチーム作りを行い、事業を展開しています。
二度の進出を経て、改めて感じたシリコンバレーの魅力があれば、教えてください。
「世界トップレベルを知ることができる」というシリコンバレーの環境は、ビジネスを推進するうえで、やはり大きな魅力と言えるでしょう。それぞれの企業が課題に対してどうアプローチしているのかを間近で見ることも、大変勉強になります。その一方で、海外に拠点を構えることで改めて、日本との違いや日本の良さも発見できるように感じています。
また、「変わったことをしていても許容される」という寛容性があり、むしろ変わったことをする人が多いという環境が当たり前であることも、素晴らしいですね。こうした土壌からイノベーションが生まれ、そしてダイバーシティーが広がっているのだと、日々実感しています。
今日は色々なことをお話しさせていただきましたが、私たちのシリコンバレー進出もまだまだ「成功例」とは呼べず、道半ばです。シリコンバレー進出を目指される際は、皆さんもお気をつけながら、挑戦してみてください!

シリコンバレー進出を目指すスタートアップが知るべき事業戦略の描き方

グローバル・ブレイン株式会社 Partner and US Office Representative
加藤貴士氏

最後に、日本を拠点とするベンチャーキャピタルのグローバル・ブレイン株式会社でPartner and US Office Representativeを務める加藤貴士氏に、スタートアップが知るべき事業戦略の描き方について伺います。
私たちグローバル・ブレインは、世界各国に広がるグローバルなネットワークを活用し、ITからDeepTech、最新のテクノロジー、そして社会課題を解決に導くビジネスモデルまで、幅広い領域のスタートアップを支援するファンドの運用や、ベンチャー企業への投資などを行なっています。私自身は2019年からサンフランシスコオフィスに赴任し、北米における投資活動に従事して約3年が経過しました。今日はそのなかで得た経験から、いくつかお話しさせていただけたらと思います。
私たちが北米進出を目指す企業の方々とやりとりをしていると、主に4つの課題を体験される方が多いように感じています。まず一つ目は、言語についてです。私は、海外進出への強い思いがあるのであれば、語学力の向上にも力を入れていただくのが良いのかなと思います。時々「英語が話せるようになったら海外に進出します」という方がいらっしゃるのですが、そのタイミングで本当に良いのかどうか、もう一度考えてみてください。
二つ目は、適したパートナーの選び方です。北米進出にあたって、コネクションが全くない場合には、まずは商品やサービスの輸出を目的としたパートナー契約をおすすめします。ただ、「良いパートナー探し」に明確な答えはありません。個人的には、外部からの紹介を待つのではなく、ご自身でコンタクトを取ることを推奨しています。そうすることで、今本当に必要なパートナー像を言語化することにつながり、それは事業を進めるうえでも大きな気付きとなるはずです。
そして、事業を一定期間継続するのか、もしくは撤退も視野に入れるのかというラインを明確に決めておくことも大切です。そのためには、ベンチマーク対象となる日本国内の企業と定期的に比較して、ご自身の立ち位置を客観的に捉えてみてください。自社の事業計画において北米進出の重要度が明確になっていれば、自ずと答えも見えてくるでしょう。
北米進出で結果が出るまでには、長い時間が必要です。その前提に立って、それぞれの事業計画と照らし合わせながら、チャレンジしていただけたらと思います。皆さんの挑戦を応援しています!

当イベントでは、日本のスタートアップ企業がシリコンバレーへの進出を検討する際に有益な情報や体験談をお伝えしました。引き続きX-HUB TOKYOでは、様々なイベントを通じて、海外のオープンイノベーションの最新トレンドやエコシステムの特長などを発信していきます。