都内スタートアップの海外進出を支援するX-HUB TOKYOは6月17日、キックオフイベント「日本のスタートアップが海外進出するためには 」を開催しました。
本イベントでは、X-HUB TOKYOの概要説明をはじめ、日本のスタートアップを取り巻く状況や、創業初期から世界を視野に入れて海外展開を目指すことの重要性等をふまえながら、都内スタートアップが海外展開を目指す際に有益な情報をお伝えしました。
イベント前半では、海外展開を含む新規事業開発コンサルティングやVC事業を展開する株式会社インディージャパン(https://www.indee-jp.com/)代表取締役テクニカルディレクターである津田 真吾氏をお招きし、基調講演を行いました。講演では、「機会をとらえるスタートアップの海外展開」をテーマに、スタートアップが成長を目指す上でぶつかりやすい壁や、海外市場を選定・調査する際に意識すべきポイントを語っていただきました。
イベント後半では、基調講演でご登壇いただいた津田様の進行の下、モバイルバッテリーのシェアリングサービスを展開する株式会社INFORICH(インフォリッチ)のExpert 大林 武氏、ミッションクリティカル業務へのAI導入支援を行う株式会社ABEJA(アベジャ)の代表取締役CEO 岡田 陽介氏に登壇いただき、「海外で活躍するスタートアップの成功の秘訣」をテーマにお話しいただきました。
その後の交流会では、海外展開に関心を持つスタートアップの経営者や、事業構想段階の起業準備者に加え、スタートアップ支援者・支援機関関係者など多様な参加者が集まり、活発なネットワーキングとなりました。登壇内容を受けた具体的な相談や意見交換も行われ、終了時間を過ぎても多くの参加者が残っているほどの盛況ぶりでした。
基調講演『機会をとらえるスタートアップの海外展開』
株式会社インディージャパン代表取締役テクニカルディレクター津田 真吾氏
- はじめに、株式会社インディージャパン代表取締役テクニカルディレクターの津田 真吾氏に、スタートアップの海外展開についてお伺いします。まずは、日本のスタートアップを取り巻く現状やビジネス環境について、どのように捉えていらっしゃいますか?
- 日本では現在、年間12万社が創業しており、設立1年以内の企業が25社に1社という割合を占めていることから、起業の裾野が広がっています。特に東京では、就業者の約8%がスタートアップに従事しているという統計もあります。一方で、成功しているビジネスモデルの陳腐化は急速に進行しており、企業の新陳代謝のサイクルはこの40年で倍速化しました。これは、従来の事業運営モデルがもはや通用しづらい時代に入っていることを示していると言えます。また、日本では起業率よりも廃業率が低く、結果として企業数が増加し続けていますが、小規模企業が多数を占める「小粒化」の傾向が強まっています。ユニコーン企業の数は米国の約100分の1に留まっており、日本にはスケールアップの大きな余地があるはずです。今後、多くの人が直接起業はしないまでも、スタートアップで働く、あるいは関わる可能性はますます高まっていくでしょう。
- そうした中で、スタートアップが成長を目指す上ではどのような壁があり、海外展開は事業にどのように寄与するのでしょうか?
- スタートアップの失敗理由で最も多いのは「市場ニーズがなかったこと」で、全体の約42%に上ります。続いて、資金不足、チームの機能不全、競合に敗れることが主な原因です。特に市場ニーズが見出せないという課題に対しては、海外展開がひとつの有効な打開策になります。日本国内では需要が見つからなかったプロダクトでも、海外に目を向けると新たな市場やニーズが存在する可能性があります。また、海外市場に出ることで市場規模が拡大し、資金調達がうまくいくほか、企業価値が上がることもあります。もちろん、多国籍チームのマネジメントなど、海外展開ならではの課題もありますが、日本よりも商習慣の柔軟性が高い国も多いため、むしろ事業を推進しやすい側面もあります。海外展開は、スタートアップが陥りやすい失敗リスクを軽減する可能性を秘めた戦略的な一手だと捉えています。
- スタートアップが海外市場を選定・調査する際、特に意識すべきポイントはどこでしょうか?
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最も重要なのはPMF(プロダクト・マーケット・フィット)に到達するまでの「スピード」です。市場がどんなに大きくても、そこにフィットするまでに時間やコストがかかりすぎると意味がありません。また、BtoBであれば企業の意思決定がどこで行われているのか、BtoCであれば人口構成や経済成長の動向がビジネスの追い風になるかを見極めることが必要です。
国や地域を選定する上では、私が拠点を構えるシンガポールのように、会社設立手続きの簡便さ、助成金の充実、多民族国家としての市場テストのしやすさといった「ビジネスのしやすさ」も大切な判断材料となるでしょう。
現地の肌感覚を得るためには、個人的にはVCと面談するよりも、まずは業界ごとの海外展示会に出向くことをお勧めします。その場で商談が成立することもあり、買い手・売り手の反応を実感できるのが大きなメリットです。
国や文化というのは一様ではなく、日本人一人ひとりが異なるように、各国にもそれぞれの事情や背景があります。市場としてだけでなく、その国や文化に関心を持つことで、より良い関係性を築くことができ、ビジネスの成功にもつながっていく。海外進出は「するかしないか」ではなく、「いつ、どこから始めるか」を考える段階に来ています。今こそ、一歩踏み出してみてください。
パネルディスカッション『海外で活躍するSUの成功の秘訣』
株式会社INFORICH Expert 大林 武氏
株式会社ABEJA 代表取締役CEO 岡田 陽介氏
ファシリテーター:
株式会社インディージャパン 代表取締役テクニカルディレクター 津田 真吾氏
- 続いてイベントの後半はパネルディスカッションに移ります。ファシリテーターは、基調講演から引き続き、株式会社インディージャパン 代表取締役テクニカルディレクター 津田 真吾氏が務めます。パネリストには株式会社INFORICH Expert 大林 武氏、株式会社ABEJA 代表取締役CEO 岡田 陽介氏をお迎えしています。まずは皆さまの自己紹介と海外展開の進捗についてお聞かせください。
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大林 武(以下、大林):はじめまして。INFORICHでは「ChargeSPOT(チャージスポット)」というバッテリー充電サービスを展開しています。弊社は2015年に創業し、2023年に東京証券取引所に上場しました。現在、日本国内に7拠点、海外では広州、香港、オーストラリア、台湾、イギリスの5拠点を中心に展開しています。直営とフランチャイズを組み合わせることで、スピーディな国際展開を進めています。
岡田 陽介(以下、岡田):ABEJAは2012年創業のAIスタートアップで、ディープラーニングの研究開発と社会実装を進めています。私自身はシリコンバレーでAIの可能性に触れたことが起点となり、帰国後に起業しました。海外展開は2017年のシンガポール進出に始まり、2019年にはアメリカにも展開しました。2017年には半導体大手のNVIDIAとの資本業務提携が実現し、日本では初の事例として注目を集めました。海外との連携は当社の成長戦略における重要な柱だと捉えています。
- 海外展開において、成長や成功のカギとなった要素をどのようにお考えですか?
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大林:当社は創業時から複数国への展開を前提としており、国ごとの特性や収益性を分析しながら戦略的に展開地域を選定してきました。現在は収益性の高い欧州市場を重視しています。また、現地採用を基本とし、その国の文化や市場に最適な人材をリーダーに据える体制を整備。今ではグループ全体で約7割が外国籍社員であり、社内では日本語・英語・中国語が日常的に使われています。また、シンガポールの事例を少しご紹介させていただくと、2023年末に競合がひしめく中参入した際、弊社がこれまで蓄積した知見を活かして主要コンビニチェーンとの提携を実現しました。そこからシェア拡大に注力した結果、2024年にはマーケットシェア1位を達成しています。競合が多い環境でも、的確な戦略と実行力があれば十分に勝機はあるように感じています。
岡田:当社の場合、NVIDIAやGoogleとの資本業務提携など、戦略的パートナーシップが転機となりました。海外展開では、準備を怠らず、的確なタイミングでアプローチすることが非常に重要です。また、シンガポールではサンドボックス制度が活用しやすく、実証実験の場として有効でした。そうした取り組みから得た知見を日本に逆輸入する流れも構築しています。チーム構成については、AIやリモート環境を活用することで、言語の違いはありながらも、効率的なグローバル連携が可能となっているように思います。一方で、海外展開の際には宗教・文化の違いに配慮し、現地の価値観を尊重する姿勢も不可欠だと感じています。
- 最後に、これから海外展開を目指すスタートアップに向けて、メッセージをお願いします。
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大林:私自身、X-HUB TOKYOのプログラムに参加し、現地でのメンタリングやネットワーク構築、BtoBマッチングなど、実践的かつ多角的な支援を受けました。自社単独では得がたい知見や横のつながりを得ることができ、グローバル展開を加速させる大きな推進力となりました。このようにスタートアップにとって、これほど心強い支援は他にないと実感しています。プログラムへの参加は確実に価値のある選択で絶対に損はありませんので、ぜひ積極的に活用されることをおすすめします。
岡田:海外展開は、単に市場拡大を目指すだけでなく、人材育成や組織成長の場としても活用できます。現地での経験を通じて、メンバーの視野が広がり、企業全体の力になります。たとえ失敗しても、挑戦を通じて得られる学びは大きいです。長期的に見て必ず企業の資産になるので、恐れず一歩を踏み出してほしいと思います
- 当イベントでは、海外展開を進める先輩起業家の皆様にご登壇いただき、経験談を交えながら、都内スタートアップが海外展開を目指す際に有益な情報をお伝えしました。引き続きX-HUB TOKYOでは、様々なイベントを通じて、海外のエコシステム・市場の特長や海外進出時のポイントなどを発信していきます。