都内スタートアップの海外進出を支援するX-HUB TOKYOは6月24日に「#1海外展開セミナー 最新のアメリカ市場動向を解き明かす!ニューヨークとシリコンバレーのスタートアップエコシステム」を開催しました。
本セミナーでは、世界のスタートアップをリードするアメリカ市場の中でも、特に象徴的な存在であるニューヨークとシリコンバレーに着目し、アメリカのスタートアップエコシステムの最新動向や海外展開を目指す企業にとっての具体的なビジネスチャンスについて掘り下げました。
イベントの前半では、Pasona N A, Inc. Vice President(副社長)の大山哲生氏にご登壇いただき、アメリカの政治・経済情勢を背景に、ニューヨークとシリコンバレーそれぞれの特性や進出時に留意すべき点について、多角的な視点から解説いただきました。
イベントの後半では、大山氏のファシリテーションのもと、アメリカで事業を展開するクレイ・テクノロジーズ株式会社 代表取締役CEO 中田智文氏、Capy株式会社(キャピー) 代表取締役社長CEO 岡田満雄氏にご登壇いただき、アメリカ市場における取り組みから得られた学び、そして海外進出を目指す起業家へのアドバイスなど、実践的かつ示唆に富んだ内容をご共有いただきました。
ニューヨーク・シリコンバレーのエコシステム紹介
Pasona N A, Inc. Vice President
大山 哲生氏
- はじめに、Pasona N A, Inc.でVice Presidentを務める大山哲生氏に、アメリカ進出を検討するスタートアップが知っておくべき、現在のアメリカ経済や政治状況についてお伺いします。
-
報道などでご存知の方も多いかと思いますが、2025年6月現在、アメリカでは政治的不確実性が高まっています。特に関税政策の変更や、イラン・イスラエル間の緊張といった地政学的リスクが、企業活動にも直接的な影響を与えているのが現状です。こうした政治的な不安定要素は、アメリカ市場を目指す海外スタートアップにとって、無視できない検討材料になるでしょう。
一方、日本の状況をグローバルな視点で見てみると、経済力の相対的な低下は否めません。たとえば2024年のドル換算GDPにおいては、カリフォルニア州単独で日本を上回り、世界第4位にランクインしました。これは象徴的な出来事であり、日本のスタートアップにとって「海外展開」はもはや選択肢の一つではなく、成長を志向する上で避けて通れない戦略の一つとなりつつあります。中でもアメリカは、最有力な進出先として検討すべき市場だと言えるでしょう。
- ではアメリカ国内の中で、ニューヨークとカリフォルニアのスタートアップエコシステムにはそれぞれどのような特徴があるのでしょうか?
-
カリフォルニア州、特にシリコンバレーは、ベンチャーキャピタル(VC)やエンジェル投資家が数多く集積しており、ディープテックやAI、エネルギー分野など初期投資を必要とするスタートアップにとって理想的な環境です。一方で、同州は全米でも労働規制が最も厳しい地域でもあり、現地採用を行う際は雇用慣習や法制度に対する慎重な理解が必要です。
ニューヨークは、非常に高い人口密度と人種的多様性を背景に、BtoC領域やフィンテックに強みを持つ市場です。大手企業や金融機関が集積しているため、ビジネスパートナーや顧客との距離が近く、スピード感を持った展開が期待できます。
- アメリカ市場でスタートアップが成功を収めるためには、どのような点に留意すべきでしょうか?
-
ポイントは大きく3つあります。第一に「ビザ」などの法的要件、第二に、前述の「政治リスク」への対応、そして第三が「AIの活用」です。
まず、ビザに関しては、取得までのプロセスやルールを把握した上での計画立案が不可欠です。政治リスクについては、不確実性が高まっている今だからこそ、進出先の政策や国際情勢への関心と情報収集がより重要になっています。
また、AIについては、単なる技術導入にとどまらず、人材活用戦略との接続が問われています。たとえば昨今は、投資家の多くが「既存の業務や人員をどうAIで補完・代替するか」といった視点を非常に重視しています。今後の組織設計や採用方針においても、AIリテラシーを前提とした柔軟な体制づくりが求められてくるでしょう。
海外展開を検討する際には、地理的条件や制度環境、経済・社会の変化を総合的に捉えた判断が求められます。その上で、アメリカは依然として非常に大きな可能性を秘めたマーケットであり、スタートアップにとって魅力的な市場であると感じています。
先輩起業家を交えたパネルディスカッション
左上からPasona N A, Inc. Vice President大山 哲生氏
クレイ・テクノロジーズ株式会社 代表取締役 CEO中田 智文氏(中央下)
Capy株式会社 代表取締役社長 CEO岡田 満雄氏(右上)
- 続く後半では、前半から引き続きPasona N A, Inc. Vice Presidentの大山氏にファシリテーターをお務めいただき、クレイ・テクノロジーズ株式会社 代表取締役CEOの中田 智文氏、Capy株式会社 代表取締役社長CEOの岡田 満雄氏をパネリストにお迎えします。はじめに皆さまの自己紹介と、現在のアメリカ市場での事業展開状況について教えてください。
-
中田智文(以下、中田):私は2023年にクレイ・テクノロジーズを創業し、AIを活用した採用アセスメントやグローバル人材紹介のサービスを提供しています。AIによって一次面接やコーディングテスト、履歴書審査を自動化し、スクリーニング精度の高い人材を日本やアメリカ、欧州の企業へマッチングしています。創業当初は日本を拠点にしていましたが、事業の成長性や市場規模を考慮して1年後に本社機能をアメリカに移しました。現在はシリコンバレーに滞在しながら、アジアやアフリカ、南米の優秀なエンジニアをグローバルでつなぐ仕組みづくりを行っています。
岡田満雄(以下、岡田): 当社Capyは、オンライン認証やボット対策などを中心としたサイバーセキュリティソリューションを提供するスタートアップです。私自身は現在、サンフランシスコのSoMa地区とニューヨークのミッドタウンを拠点に、アメリカ国内外の顧客や投資家とのネットワークを広げ、事業開発に取り組んでいます。
- 実際にアメリカで事業を展開して感じた、ギャップや課題があれば教えてください。
-
中田:日本と比べて大きく異なるのは「営業の難しさ」と「競争の激しさ」です。アメリカでは、メールや電話をしても返事が返ってこないことは日常茶飯事です。むしろ、ネットワーキングの中でいかに信頼を得て、紹介を通じて関係性を築いていくかが鍵だと感じました。また、私たちの業界に関しては、AI関連のスタートアップが多く存在し、競合も非常に激しいように感じています。そのため技術そのものだけでなく、「どう届けるか」「どんなストーリーを語るか」などを含めて考えることが重要だと学んでいます。
岡田:私はアメリカ市場のスピードと規模感、その中でも意思決定のスピード感とネットワーキングの密度に非常に驚きました。たとえば、サンフランシスコのミートアップやピッチイベントに参加すると、わずか1〜2時間の間に複数の投資家や業界関係者と濃密な議論ができます。こうしたスピード感や情報の質・量は、他の国や地域ではなかなか体験できないものです。その場で次々とビジネスチャンスが生まれていくダイナミズムを肌で感じました。
- 最後に、アメリカ進出を検討しているスタートアップに向けて、アドバイスをお願いします。
-
中田:私からは2つのポイントをお伝えしたいと思います。まず、アメリカ市場と日本市場の両方に同時に注力するのは、予想以上に体力・時間・資金が必要です。特にタイムゾーンの違いによって連日の深夜会議が続くと、かなりの負荷がかかります。自身の経験もふまえて、どの市場にどのタイミングでリソースを集中するか、戦略的に見極めることが重要だと思います。また、ネットワーキングが苦手な場合は、自社でイベントを主催することもおすすめします。私たちもVCやスタートアップ関係者を招いたイベントを定期開催しており、先日は350名超の参加登録がありました。イベントを通じて認知度を高め、自社の文脈で関係構築ができる点は非常に有効です。
岡田:アメリカは、日常の全てが学びの連続です。その中でも、ローカルコミュニティに入っていくことを意識しています。地元のイベントに参加すると、業界のキーパーソンに出会えることもあり、その場でエレベーターピッチをして興味を持ってもらうことを心がけています。こうした出会いを通じて親しくなり、ネットワークを広げていくことができます。
また、生活面や文化面、仕事面で日本とは異なる点を日々体感し、それに柔軟に対応していくことが求められると感じています。そして何より、サンフランシスコには遊びが少ないので、自然と仕事に集中できるというメリットもあります(笑)。ぜひ皆さんにも、自分なりのスタイルでアメリカというフィールドに飛び込んでいただければと思います。
- 皆様、貴重な体験に基づくアドバイスをありがとうございました!
- 当イベントでは、最新のアメリカ市場動向として、ニューヨークとシリコンバレーの特徴や魅力をお届けしました。引き続きX-HUB TOKYOでは、海外スタートアップエコシステムの特徴や魅力といった最新情報や、海外進出にあたっての戦略的アプローチなどをお伝えしていきます。