都内スタートアップの海外進出を支援するX-HUB TOKYOは3月17日、2024年度 X-HUB TOKYO成果発信イベント「世界への挑戦 –グローバルスタートアップの未来–」を開催しました。
イベントの前半では、東京大学大学院工学系研究科の各務茂夫教授が「日本からグローバルスタートアップを創出する!」と題した基調講演を実施。起業家教育やベンチャー支援といった豊富なご経験をもとに、日本のスタートアップが世界を目指すことの必要性や、海外進出を検討する際のポイントを共有しました。
続く後半では、サンドボックス株式会社和泉宏治代表取締役、株式会社Asterの山本憲二郎取締役COO、株式会社Mathmaji大隅文貴取締役COO兼CFOの3名に登壇いただき、パネルディスカッションを開催。海外の展示会やピッチ会への参加等を通じて、海外での事業展開を図る「OUTBOUND PROGRAM」と、海外展開に必要な知識の習得を支援し、海外のスタートアップやVCとの交流を行う「SCRUM PROGRAM」に実際に参加したスタートアップ3社から、X-HUBプログラムに参加した実体験や今後の海外展開に向けた展望などをお話しいただきました。
■基調講演『日本からグローバルスタートアップを創出する!』
東京大学 大学院工学系研究科 教授/産学協創推進本部 副本部長
一般社団法人日本ベンチャー学会 前会長
各務 茂夫氏
- はじめに、東京大学大学院工学系研究科教授で、一般社団法人日本ベンチャー学会 前会長である各務茂夫氏に、日本のスタートアップの成長戦略や、成功するためのポイントについてお話を伺います。
- 私はこれまで、大学での研究活動やオープンイノベーションなどを通じて、数多くのスタートアップと関わりを持ってきました。客観的な情報として、2024年2月時点で日本のユニコーン企業数は世界で12位に位置していますが、日本の潜在的な技術やアイデアは国際的にもっと高く評価されるチャンスがあるように感じています。そしてそのためには、海外市場における競争力を高め、勝ち筋を見極めることが重要です。
例えば、私が所属する東京大学では年間600件の発明が生まれていますが、これをビジネスに転換する可能性は非常に大きいと考えています。研究成果をもとにビジネスプランを立案し、PoC(概念実証)実施後に事業をスケールアップするためには、マーケットに出て顧客のフィードバックを得ることが不可欠です。そしてこの過程で、知的財産をしっかりと保護し、グローバル展開を目指すための基盤を築くことが成功への鍵となるように感じています。
- スタートアップが海外進出を目指す際、どのようなポイントを考慮すべきでしょうか?
- 最も重要なのは、最初からグローバルな視点を持つことです。多くのスタートアップは、日本国内の市場で成功した後に海外進出を試みますが、そうすると失敗してしまうことが多いように見受けられます。特に日本では、上場すると株主から増収増益を求められるため、大きな投資をすることが難しくなります。最初からグローバル市場を意識した事業計画を立て、技術やアイデアが国際的に通用するかを検討することが必要です。
また、グローバル市場に進出するためには、展開先の市場知識も欠かせません。同時に、海外の市場環境や顧客ニーズを理解し、それに基づいた戦略を立てるためには、適切なグローバル人材も必要です。特に、技術やアイデアをグローバルな競争力に変えるためには、海外市場での経験があるパートナーとの連携や、ビジネスプランを作る力が求められます。
日本は課題先進国と呼ばれ、少子高齢化などの課題に先んじて直面しています。これらの課題を解決する先進国として、日本の経験はグローバルな社会課題の解決にも貢献できるはずです。最初から日本国内にとどまっていては、どんなに素晴らしい要素を持っていても、大舞台で活躍することはできません。ぜひ、世界に向けて挑戦していきましょう!
パネルディスカッション:X-HUB TOKYOを活用した海外展開
- 続いてイベントの後半ではパネルディスカッションを行います。ファシリテーターは、X-HUB TOKYO運営事務局の河﨑麻衣子が務め、パネリストにはサンドボックス株式会社和泉宏治代表取締役、株式会社Asterの山本憲二郎取締役COO、そして株式会社Mathmaji大隅文貴取締役COO兼CFOをお迎えしています。まずは皆さまの自己紹介とX-HUB との関わりについてお伺いします。
- 和泉宏治氏(以下、和泉):はじめまして。サンドボックスの和泉です。弊社はIoTセンサー付きのフィットネス機器として、サンドバッグを開発しています。2023年度にはX-HUBの「OUTBOUND PROGRAM」のヨーロッパコースに参加し、ポルトガル・リスボンで開催された「Web Summit」に出展。1日で200人ほどのユーザーにご利用いただくことができ、米国、英国、EUの投資家やフィットネス関連企業とコネクションを構築できたおかげで、現在も継続的な商談につながっています。また、2024年度も引き続き「OUTBOUND PROGRAM」のニューヨークコース・ヨーロッパコースに参加し、現地のパートナー探しを実施してきました。
山本憲二郎氏(以下、山本):こんにちは。Asterでは「地震犠牲者ゼロ」をミッションに掲げ、耐震材料として耐震用塗料を開発しています。2023年度に「SCRUM PROGRAM」に参加し、海外VCと交流できたことが、海外展開を進めるうえで非常に役立ちました。また、2024年度には「OUTBOUND PROGRAM」のインドネシアコースに参加し、現地エコシステム関係者とのネットワーキングや、ビジネスマッチング、メンタリングなどをサポートいただきました。
大隅文貴氏(以下、大隅):Mathmajiは、日本の算数教育を取り入れたグローバル向け算数学習アプリを米国で展開しています。私たちは市場の大きさや課題の大きさなどから、米国を展開先に選び、現在はテキサスを中心に事業を展開しています。2024年度に「OUTBOUND PROGRAM」のシリコンバレーコースに採択いただき、ビジネスパートナーとの提携につながる機会を提供いただきました。また、帰国後に「SCRUM PROGRAM」にも参加し、海外展開における考え方やセオリー等を学ぶことができました。
- 海外進出を目指された理由や展開状況、そしてX-HUBのプログラムに参加したご感想を教えてください。
- 和泉: 私の場合は海外の方にも自社製品を使っていただきたかったため、創業当初から商品の海外展開を目指していました。展開先としては、居住スペースやマーケットの規模を考慮し、まずは北米をターゲットに据えており、今後はヨーロッパやアジア各国への展開も視野に入れています。
現地のニーズ把握を進める上で、X-HUBのプログラムを通じて展示会に出展し、そこで生の声を聞いたり、日本との反応の違いを実感できたりしたのは大変学びになりました。一方で、初めて参加した海外の展示会では、具体的に協業に関する交渉ができる状態まで準備ができていなかったため、二度目の参加時は、渡航前に潜在顧客のリストを作成するなど準備を念入りに行い、現地では協業内容に関する議論もできました。X-HUBの皆さんには、展示会に向けての準備やアポ取りをサポートしていただき、大きな助けとなりました。
山本:私は地震の影響を受けやすい地域で育ったことから、地震に関する課題を解決したいという思いを持ち続けてきました。そのなかでふと海外に目を向けると、石やレンガなどで建築物が構成されている場所が多く、これらは地震による危険性が非常に大きいことから、この課題を優先して解決すべく事業を設計してきました。現在はインドネシア、フィリピンなどのASEAN地域での事業展開を注力しています。
X-HUB プログラムでは、グローバルに展開するスタートアップとして、自分たちが目指す市場が最適であるかどうかなど、投資家やVCの方と壁打ちできる機会があったことは非常に有益でした。また、インドネシアでは、現地の最大手デベロッパーと接点を持てたことは大きな収穫でした。
2ヵ年に渡りプログラムに参加させていただきましたが、振り返ってみると、目的に合致したプログラムであり、大変有意義な経験だったように思います。海外展開における理論を学び、それを海外現地での実践を試みることができたという意味でも、「SCRUM PROGRAM」と「OUTBOUND PROGRAM」の両方に参加できて良かったです。
大隅:弊社の場合は、代表が米国でもともと事業を行っており、現地の学校に教育コンテンツを展開した際に大幅に学習効果が見られたことが、現在の事業につながりました。
米国は州ごとに市場の特性も異なるため、市場調査を行うことが重要だと考え、「OUTBOUND PROGRAM」に参加して現地の声を拾うことができました。現地渡航前には、接点を持ちたい企業や投資家、VCのリストを作り、その準備もX-HUBの皆さんにサポートいただきました。また、帰国後に参加した「SCRUM PROGRAM」では、各社にメンターがつくため、多様な角度からメンタリングを実施して、フィードバックをもらえたことが非常に役立ちました。
- 最後に、海外展開を目指すスタートアップに応援メッセージをお願いします。
- 大隅:X-HUBのプログラムは、現地渡航時のスケジュールも詰まっていて無駄がなく、スタートアップにとって必要なことを確実に実行できる体制が整っています。弊社もプログラム参加で得た学びや気づきをもとに、現地で出会った人々とメルマガ配信などを通じて継続的に接点を持っていこうと考えています。自戒を込めてでもありますが、現地に行って終わりではなく、行くことがきっかけでその後の展開につながるといいなと思います。
山本:日本はどうしても「ルールを作る側」ではなく、「ルールに従う側」になりがちです。しかし、私たちは事業領域に関する部分において、しっかりとルールを作っていきたいと考えています。X-HUB のプログラムは具体的に壁打ちをする機会が非常に多く、事業展開や戦略を検討するうえでも大いに役立ちましたので、海外展開を目指すスタートアップの皆さんにおすすめです。
和泉:私たちは必要最低限のチームで事業を推進しており、資本金も数百万円の小さな会社ですが、プログラムに採択いただき、非常に有意義な時間を過ごさせていただきました。事業規模などを気にし過ぎず、海外展開を目指すスタートアップの皆さんには積極的にプログラムに申し込んでいただければと思います。
- 当イベントでは、海外展開を進めるスタートアップや先輩起業家の皆様にご登壇いただき、実例を交えながら海外現地渡航・海外展示会の具体的な活用方法や、その後の海外展開の道筋についてお伝えしました。引き続きX-HUB TOKYOでは、様々なイベントを通じて、海外のエコシステム・市場の特長や海外進出時のポイントなどを発信していきます。