都内スタートアップの海外進出を支援するX-HUB TOKYOは3月20日、2022年度X-HUB TOKYO成果発信イベント「グローバル競争力を備えるためのスタートアップの戦略と海外展開」を開催しました。

本イベントでは、X-HUB TOKYOの概要説明をはじめ、基調講演やベンチャーキャピタルによる講演を実施。冒頭には、株式会社リバネスの創業者で、アジア最大級のベンチャーエコシステムの仕掛け人として世界各地のディープテックを発掘し、地球規模の社会課題の解決に取り組んでこられた丸幸弘氏にご登壇いただき「国内スタートアップが海外に出る意義と海外スタートアップが日本に上陸したい理由」と題して、海外展開を進めている各分野の先進的なスタートアップの事例をご紹介いただきました。

続いてi-nest capital株式会社パートナーである本蔵俊彦氏が「グローバルスタートアップへの成長の仕方」と題し、ベンチャーキャピタル(VC) の視点から資金調達や事業連携の留意点、海外拠点設立のポイントや多国籍組織のマネージメント方法を共有しました。

イベントの後半では、2022年度X-HUB TOKYOの各種プログラムに参加した国内外のスタートアップが成果を発表。それぞれの立場からプログラムで得た学びや気づき、本事業の魅力や成果を語りました。


国内スタートアップが海外に出る意義と海外スタートアップが日本に上陸したい理由

丸幸弘
株式会社リバネス 代表取締役 グループCEO
丸幸弘氏

はじめに、株式会社リバネスで代表取締役グループCEOを務める丸幸弘氏に、事業内容と、日本のスタートアップが海外展開する意義についてお伺いします。
私たちリバネスは2002年の設立以降、科学教育や創業支援を手掛けてまいりました。現在はシンガポールやマレーシア、フィリピン、イギリス、アメリカなどの海外にも子会社を展開しており、29のグループ会社約300人体制で、教育、人材、研究、創業の4分野に焦点を当て、パートナー企業と共に現場を応援するプロジェクトを推進しています。

2014年からは課題解決型のアクセラレーションプログラムを運営。今ではアジア最大級のディープテックやディープイシューが集まるプラットフォームに成長を遂げています。

私自身、2022年までの約8年間で1000社を超える世界中のスタートアップとつながりましたが、そこで強く感じたのは、日本の企業が保有する技術が東南アジアの社会課題解決になる可能性が非常に高いということです。海外で活躍しているスタートアップの方々に実際に会い、意見を交換すると、現地の社会課題をリアルに体感できると思います。

皆さんもご存知の通り、ASEANは6.5億人の人口を抱え、平均年齢が29.1歳と非常に若く、今後人口ボーナスを享受できる地域です。一方で、急激な都市化による環境破壊や生物多様性の損失など、様々な社会課題に直面しています。これらを日本の企業が解決することができれば、一気にユニコーンに成長する可能性もあると言えるでしょう。
これまで様々なスタートアップを支援されてきたご経験をふまえて、海外進出の具体的な事例について教えてください。
まず一つ目の事例として、風力発電に取り組むチャレナジー(東京・墨田)をご紹介させてください。同社は台風などの強風でも回転を止めずに発電できる風力発電機を開発し、台風の襲来頻度が高いフィリピンで実証実験を行い、現地に合弁会社を設立しました。フィリピンではいまだに約800万人が未電化地域に住んでいるため、チャレナジーは自社の発電機によってこうした課題、そして世界のエネルギー問題の解決を目指しています。また、現在は日本の災害時の非常用電源としても注目を集め始めています。

ほかにも、再生医療のマイキャン・テクノロジーズ(京都市)や妊婦の遠隔医療システムを提供するメロディ・インターナショナル(高松市)などは、東南アジアの大学との臨床実験を経て、現地のヘルスケア課題に挑んでいます。

このように、日本のスタートアップの皆さんの市場は世界に広がっています。ですから、サービスや事業を自国の視点のみで作り上げるのではなく、始めから海外の方々とグローバルなチームを構成していただけたらと思います。

日本の技術力の衰退が叫ばれて久しいなか、私はまだまだ非常に高い技術力を日本は持っていると思いますし、日本の文化は東南アジアで愛されていることを実感しています。実際に、高い技術力をもつ日本の企業との連携を模索したい東南アジアのスタートアップも数多く存在しています。

周囲との関係性を重視する日本は、破壊的イノベーションではなく、調和的イノベーションが起こせる唯一の国です。皆さんも積極的に海外に進出して挑戦を続け、世界を変えられる面白さを体感していただけたらと思います。

グローバルスタートアップへの成長の仕方

本蔵俊彦
i-nest capital株式会社 パートナー
本蔵俊彦氏

次に、i-nest capital株式会社パートナーの本蔵俊彦氏に事業内容をお伺いします。
私たちは新産業の創造や社会課題の解決に取り組むベンチャービジネスを支援するベンチャーキャピタルです。i-nest capitalという名前には、innovator(起業家)、investor(投資家)、 そしてincubator(VC)の3者にとって心地よく安心できる場所(nest)でありたいという想いを込めました。

投資領域としては、エンターテインメント&ライフスタイル領域を中心に据えています。また、大学発の先端技術分野にも積極的に投資をしているほか、海外展開を視野に入れているスタートアップのサポートにも力を入れてまいりました。
これまで海外展開を目指す日本のスタートアップを数多く支援されてきたなかで、海外拠点設立にあたって検討すべきポイントを教えてください。
まず、海外拠点の設立にあたっては、しっかりとした軸を持って多様性豊かなチームをリードする必要があります。多国籍組織をマネージメントするのはなかなか一筋縄ではいきませんが、常に同じ軸で判断を重ねることが大事です。そして、何のために海外拠点を設立するのか、現地でどのような仕組みを作り運用するかについても社内で熟考しましょう。海外展開には時間もコストもかかるため、進出の目的やゴールを明確に整理してください。

また、資金調達や事業提携における留意点としては、国によって株主構成が事業展開の足かせになる可能性があることに留意しましょう。さらに、現地のコミュニティに入る努力を継続することも重要です。海外では誰かからの紹介がなければ、アポを取ることすら難しいのが実情です。そのため、共同研究を進めている現地の大学や教授からの紹介、弁護士やメインバンクなどのローカルネットワークも最大限活用しましょう。

私が海外で事業提携の議論や交渉をする際に心がけているのは、はじめにアジェンダを確認し、最後に必ず結論を整理すること。そしてその際に、ホワイトボードを使って議論を整理することが非常に有効でした。多くの関係者と議論をしていると、話が別の方向へそれてしまったり、議論が“空中戦”になったりしがちです。そこでホワイトボードで各自の理解をまとめ、どこに向かっているのかという交通整理ができると、有意義な議論につながるはずです。

海外進出には失敗がつきものですし、何より“現場”で戦っていると、うまくいくことばかりではありません。ですが私は、現場に立っている人こそ称賛に値すべきだと考えております。ぜひ一緒に、世界に向けてホームランを飛ばしていきましょう!

OUTBOUND PROGRAM成果報告

X-HUB TOKYOが2022年に実施したOUTBOUND PROGRAMは、独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)が運営し、海外進出を目指す都内スタートアップを対象に海外展開を支援しました。

コースとしては、ニューヨーク、シンガポール、ドイツ、ロンドン、深セン、シリコンバレーの6コースを提供。各地域のエコシステムに精通しているグローバルアクセラレーターと連携し、ブートキャンプやメンタリングに加え、ビジネスパートナーとの提携や投資家からの資金調達につながる機会を創出しました。

イベントにはOUTBOUND PROGRAMに参加した6社が登壇しました。

はじめにお話しいただいたのは、研究開発特化型のグローバルスキルシェアマッチングプラットフォームを展開するSrust(東京・千代田)の野崎光太代表取締役です。同社はニューヨークコースに参加し、「毎週経歴の異なるゲストに向けて英語でエレベーターピッチを行ったことで、コミュニケーションのハードルが下がり、端的にビジネスの魅力を伝えやすくなりました」と振り返りました。

続けて、現地のネットワークづくりが非常に役立ったと語ったのは、睡眠の予防、診断、治療の開発ならびに世界各国に提供を目指すACCELStars(福岡県久留米市)の矢本あや執行役員。「私たちはシンガポールコースに参加しましたが、プログラム全体を通じて細やかで実践的な印象を受けました。現地の研究機関や行政の方々とつないでいただいただけたことで、現状のプロダクトをどう現地に合わせるか、更なる検討を進めています」と話しました。

また、体内の免疫細胞を増殖・活性化させるタンパク質を、がんなどの患部のみに到達させるドラッグデリバリーシステムを開発する創薬ベンチャー・Red Arrow Therapeutics(東京・文京)の宮崎拓也代表取締役社長は「ロンドンコースに参加しました。プログラム内のネットワーキングを通じて、海外のアカデミアとの共同開発、そして知財の管理に向けて法律事務所との連携も進み、自社の課題を明確にすることにもつながりました」と振り返りました。

さらに、OUTBOUND PROGRAMを通じて、海外市場や現地文化の理解につながったという声も上がりました。

金属ナノインクのインクジェット印刷技術を展開するエレファンテック(東京・中央)で執行役員COOを務める小長井哲氏は「ドイツ現地5社のアクセラレーターにメンタリングいただけたことで、市場の解像度が上がりました」と発言。

人体データ取得技術、およびパーソナライズサービスのプラットフォーム事業を手掛けるVRC(東京・八王子)の謝英弟代表取締役社長は今回深圳コースに参加し、「多くの現地企業が当社の技術やサービスに興味を示しており、日本の強みでもあるコンテンツクリエーションや医療に関する技術との組み合わせが高く評価していただいた。現地企業と連携を行い、グローバル市場を形成していく上では、現地ビジネスの特性やニーズを理解することが重要であると感じています」と述べました。

最後に、競走馬に装着するIoTデバイスを開発するABEL(東京・品川)CEOの大島秀顕氏は「シリコンバレーコースに参加し、米国では海外展開が前提となっていることを学びました。私たちも“いつか海外に進出する”のではなく、“今すぐに”というマインドを持てるようになり、現在はグローバル進出を前提とした組織づくりを進めています」と共有しました。

INBOUND PROGRAM成果報告

X-HUB TOKYOは2022年、Life Science & Healthcare、Mobility、CleanTechの3つの事業領域において、海外スタートアップと都内企業・スタートアップ等の交流をサポートするオンラインプログラム「INBOUND PROGRAM」を実施しました。経験豊富なビジネスプロフェッショナルによるメンタリングや東京進出に必要なリーガル・マーケット等に関するレクチャーのほか、都内の大企業・VC・スタートアップ等とのビジネスマッチングやネットワーキング、そしてピッチイベントを開催しました。

ヘルスケアソリューションを展開するJendo Innovations(スリランカ)のKeerthi Kodithuwakku CEOは「当社は創業時から海外展開を目指しており、日本は有望な進出先、そして有力なパートナーになり得るのではないかと感じ、参加しました。プログラムを通じて、日本でビジネスを進めるにあたっては、日本に適した手法を用いることが重要だと学びました。また、資金調達に向けての具体的なノウハウのほか、多数のビジネスパートナーを紹介してくださり、大きな成果につながっています」と述べました。

一方、都市型バッテリーエネルギー貯蔵システムを開発、製造するRaitan(シンガポール)創業者のRaymond Tan氏は「日本は地震などの自然災害が多いため、自社のシステムを導入いただくことで、安全で信頼性の高いエネルギーシステムを構築できたらと考え、プログラムに参加しました。シンガポールと日本の商習慣は類似点が多いように感じましたし、何より法律事務所や事業会社の会社などをご紹介いただけたことで、日本進出の門戸が開かれたように思います。この経験を今後に活かしていきます」とまとめました。

また、自動車に搭載するナビシステム開発を手がけるBareways(ドイツ)のCEO兼創設者であるMoritz von Grotthuss氏は「日本には大きな自動車メーカーが多くあり、市場として魅力を感じ、プログラムに参加しました。日本では信頼と信用がビジネスを進める上での要だと学ぶことができました。そして、パートナー候補である日本の自動車メーカーの本部や事業部の方と直接接点を持てたことは、非常に大きな収穫でした」と、INBOUND PROGRAMの魅力を伝えました。