都内スタートアップの海外進出を支援するX-HUB TOKYOは6月12日、2023年度 X-HUB TOKYO キックオフイベント「日本のスタートアップが世界で勝負を仕掛ける方法」を開催しました。

本イベントでは、事業全体の概要説明をはじめ、日本のスタートアップが海外で戦うための5つの条件や、グローバルに活躍するスタートアップの成功の秘訣など、都内スタートアップが海外展開を目指す際に有益な情報をお伝えしました。

イベントの前半では基調講演として、株式会社ユニコーンファーム代表取締役CEOである田所雅之氏が「日本のスタートアップが海外で戦うための5つの条件」を共有。世界を視野に入れて海外展開を目指す際に、あらかじめ戦略を立案する重要性を語りました。

後半では、環境配慮型の素材「LIMEX(ライメックス)」の開発及び製品製造・販売を行う株式会社TBMの常務執行役員 CSOかつLIMEX事業本部本部長である山口太一氏、内視鏡AIの開発研究を行う株式会社AIメディカルサービスの海外事業推進室長の吉田健士氏、周回衛星向けGround Segment as a Service(GSaaS)を提供する株式会社インフォステラの共同創業者/代表取締役CEOの倉原直美氏にご登壇いただき、「グローバルに活躍するスタートアップの成功の秘訣」をテーマに、パネルディスカッション形式でお話しいただきました。

その後は現地参加者による交流会が開催され、会場は盛り上がりを見せました。


基調講演『日本のスタートアップが海外で戦うための5つの条件』

田所雅之
株式会社ユニコーンファーム代表取締役CEOほか
田所雅之氏

今回のイベントは、国内外で連続起業家として広く活躍されている株式会社ユニコーンファームCEOの田所氏による基調講演からスタートしたいと思います。はじめに、日本のスタートアップが海外進出を目指す際に重視すべきポイントについて教えてください。
これまでの様々な海外経験をふまえて、僕は「戦略」、そして「勝つための条件」を徹底して考えることが非常に重要だと考えています。なぜならば、戦略を明確に設定すると「ムリ、ムラ、ムダ」を減らすことが可能になります。つまり戦略というのは「努力しないための努力」と言い換えることができるでしょう。

例えば米テック大手のGAFAがこれだけ急速に成長したのは、海外でのサービス展開にあたって、バリューチェーンや狙うべき市場、そしてその規模を見極め、それらに間違いがなかったからです。もしこれらの方針が不明瞭で、かつ商品やサービスが具現化できていない段階で海外進出してしまうと、コストばかりがかさみ失敗に終わるケースも少なくありません。
ありがとうございます。それでは、海外展開にあたってどのように戦略を立てるのが望ましいのか、ご見解をお聞かせください。
海外展開に向けた戦略の立案にあたっては、5つの重要なポイントがあります。

まず1点目は、海外進出を本当に望んでいるかどうかという「Want」の見極めです。創業者や経営陣が海外市場のカスタマーに対して共感を持っているか、現地の課題を解決したいという強い気持ちを抱いているかどうかを見極めましょう。

2点目としては、海外で戦う際に技術力やコスト、プラットフォームなどが優位性を持ち得ているかを確認しましょう。これまでの実績や技術力を分析し、実力を客観的に測ることを重視しましょう。

3点目の「Needed」は、自社のプロダクトやサービスに対して、現地でどのくらいのニーズがあるかというポイントです。海外市場の潜在的な規模は大きいのか、どのくらい根深い課題が現地にあるのかを判断しましょう。4点目の「Get paid」は、企業が成長して生き残るための方法として、海外市場への参入が適切かどうかという視点です。

最後の「Growth Story」では、海外展開のストーリーが自社の成長軸とあっているかどうかを見極めること。成長戦略に齟齬がないかを事前に確認しましょう。

僕は海外で様々な事業を行い、これまで数多くの事例を見てきましたが、日本は海外で高い評価を受けていることが多いように感じています。今後は海外の中でも、特に新興国において色々な需要が拡大することが期待できますので、ぜひ皆さんも海外進出を通じて挑戦の幅を広げてみてください。

パネルディスカッション『グローバルに活躍するスタートアップの成功の秘訣』

ファシリテーターCIC Tokyo Community Development Lead 加々美綾乃氏、 株式会社TBM常務執行役員CSOほか 山口太一氏、株式会社インフォステラ共同創業者 倉原直美氏、株式会社AIメディカルサービス海外事業推進室長ほか 吉田健士氏
左上からファシリテーターCIC Tokyo Community Development Lead 加々美綾乃氏
株式会社TBM常務執行役員CSOほか 山口太一氏
株式会社インフォステラ共同創業者 倉原直美氏
株式会社AIメディカルサービス海外事業推進室長ほか 吉田健士氏

続いてイベントの後半では、パネルディスカッションを行います。本プログラムのファシリテーターは、CIC TOKYO Community Development Lead の加々美綾乃氏です。
加々美:はじめまして。CIC(ケンブリッジ・イノベーション・センター)は1999年米国での創立以降、20年以上にわたってイノベーションを起こすイノベーターの方々をサポートしてきました。そして私たちCIC Japan合同会社、そしてCIC Tokyoは、日本最大級のイノベーション拠点を運営しており、世界中のイノベーターや投資家、そして企業が集うイノベーション・コミュニティを創出しています。今日は皆様とお話しできるのをとても楽しみにしていました。よろしくお願いいたします。それではまず、登壇者皆様の自己紹介と海外展開の進捗についてお伺いします。

山口:山口と申します。私たちTBMでは、プラスチックや紙の代替となる石灰石由来の素材「LIMEX(ライメックス)」を開発しています。LIMEXはリサイクルが可能な素材であり、かつ製造にあたっては水や木材をほぼ使用しないため、水や森林、石油などの資源保全につながることが特長です。

資源の枯渇に関しては、日本よりも海外の方が強い危機感を抱き、課題解決に向けた取り組みを実施しています。そこで我々は2011年の創業当初から海外展開を見据え、2016年には海外進出を具体的に検討すべく、外部のアクセラレーションプログラムに参加しました。そこで海外展開の可能性を強く感じたことがきっかけで、現在は米国・シリコンバレーやベトナムに拠点を構え、韓国では大手財閥と資本業務提携を締結しています。

吉田:胃がんの診断を支援する内視鏡AI システムを開発しています、AIメディカルサービスの吉田です。私たちは「がんという社会課題」の解決に向けて、サービスを展開しています。がんは先進国において死亡者数が最大の病気で、その数は年間1,000万人を超えます。そしてそのうち、胃がんをはじめとした消化官系のがんが占める割合は約3割に上ります。そこで私たちはこの分野に焦点を当て、消化器系のがんの早期発見をサポートして患者の生存率を上げるべくサービスを開発しています。

海外展開に関しては、米国・シリコンバレーとシンガポールに法人を構えており、現地医療機関との共同研究および製品化を本格化しています。弊社の創業者が医師であり、彼が執筆したAIに関する論文に興味を持ってくださる方が多かったのは、海外のパートナーと繋がることができた理由の主な一つだと考えています。

倉原:インフォステラの共同創業者兼代表取締役の倉原です。私たちは2016年に創業し、衛星用地上アンテナのシェアリング事業を展開しています。従来、衛星運用会社それぞれがアンテナを所有するのは高コストで非効率とされていました。そこでその解決策として、多くの衛星会社がアンテナを共同利用できるクラウド環境を築くことで、衛生の利用可能性の拡大を目指しています。

私たちは創業初期からグローバルにサービスを展開しようと決め、日本本社を起点に、現在は英国と米国に子会社を構えています。弊社の海外展開を振り返ると、2017年にシリーズAの資金調達をしたタイミングが大きな転機となりました。当時フランスの会社から出資を受けたことを機に、ヨーロッパの様々な企業をご紹介いただくことができ、本格的な海外展開につながっていきました。

加々美:ありがとうございます。これまでのご経験を基に、海外展開を推進するうえでどのようなポイントが重要だったとお考えか、ご見解をお聞かせください。

山口:私たちは国内実績もまだまだこれからという初期のフェーズで、海外のアワードやアクセラレータープログラムに積極的に参画し、海外での外部評価を獲得してきました。それを機に海外企業からの問い合わせも多くいただき、具体的な協業や連携を通して現地の動向やニーズを見極め、海外展開のマーケティング戦略の立案に役立ててきました。現在は世界中の既存設備を活用できるLIMEXの特性を活用して、現地法人の設立を機に、現地のパートナーとの連携による生産力の強化やグローバルでの販路拡大を進めています。短期・中期・長期と会社のフェーズに応じて海外展開の戦略を立てることも重要だと思います。

吉田: 私たちは海外展開にあたって、現地にはどのような課題があるのか、複数の仮説を立てた後に検証を進めるようにしてきました。また、初めて海外展開を目指す際には知識も経験も不足していたため、本X-HUBのシンガポールコースに参加しました。プログラムではメンターの方々がプレゼンテーションのフィードバックをとても丁寧にくださったほか、現地でのネットワークづくりをサポートしてくださり、大変ありがたかったです。ぜひ皆さんも、まずは仮説を検証すべく、海外で根を張って頑張っていただけたらと思います。

倉原:海外展開の理想としては、マーケット調査を事前に行い、戦略を立ててから進出することが望ましいでしょう。しかしどんなに入念にマーケットを調査しても、思うような結果が出ないことは多々あります。そんななかでも、海外の企業や市場と接点をもつ機会を戦略的に作ることは可能です。その最初のきっかけを、どのようなプログラムや経路を通じて創出するかを考えるとともに、「海外で挑戦するんだ」と決心することは、海外展開を目指すスタートアップにとって大きな一歩になるはずです。

当イベントでは、海外展開を進めるスタートアップや先輩起業家の皆様にご登壇いただき、実例を交えながら、都内スタートアップが海外展開を目指す際に有益な情報お伝えしました。引き続きX-HUB TOKYOでは、様々なイベントを通じて、海外進出時のポイントや海外のエコシステム・市場の特長などを発信していきます。