都内スタートアップの海外進出を支援するX-HUB TOKYOは7月12日、2024年度 X-HUB TOKYO#2海外展開セミナー「英国・ヨーロッパの今に挑む~英国・欧州市場トレンドと戦略的アプローチ~」を開催しました。本イベントでは、事業全体の概要説明をはじめ、英国を含む欧州の市場概況や最新トレンド、および現地進出のリアルな情報をお届けしました。

イベントの前半では、グローバル・ブレイン株式会社で欧州部門を統括し、ロンドンオフィスの代表を務める上前田直樹氏が、英国や欧州の市場概況や最新トレンドなど、現地の生の情報をご紹介。そしてイベントの後半では、欧州および英国展開の先輩起業家によるパネルディスカッションとして、上前田氏のファシリテートのもと、株式会社天地人グローバル事業開発マネジャーの浦部雄平氏、及びdatagusto,inc. CEOのパー麻緒氏にご登壇いただき、英国・欧州への展開戦略の描き方や実体験を踏まえたアドバイスをお話しいただきました。


英国・欧州のエコシステム紹介

グローバル・ブレイン株式会社 投資グループ
欧州部門統括 ロンドンオフィス代表
上前田 直樹氏

はじめに、2019年に日系のベンチャーキャピタル(VC)として初めてヨーロッパに拠点を構えたグローバル・ブレインのロンドンオフィスで代表を務める上前田直樹氏に、英国や欧州の市場概況を伺います。
米調査会社のStartup Genomeが今年2024年に発行したレポートによると、世界都市別のスタートアップエコシステムランキングのTOP20にイギリス・ロンドン、オランダ・アムステルダム、フランス・パリ、ドイツ・ベルリンなど多くの欧州都市がランクインしました。これらの都市には世界でも有数のスタートアップハブが形成されており、特にロンドンは、米国のシリコンバレーやニューヨークに並ぶスタートアップハブとしての認知度が近年更に高まっています。
2023年以降のスタートアップエコシステムの主な特徴としては、地政学的な影響を受け、欧州内で製造業への投資が一気に加速しています。都市別でみると、ドイツのフランクフルトやシュトゥットガルトをはじめ、製造業の強い都市への投資が増加傾向にあります。
英国や欧州のスタートアップシーンの最新トレンドについて教えてください。
主に3つの点をお伝えできればと思います。1点目は、イギリスやドイツ、イスラエルやフランスを中心に生成AIに関するスタートアップが多く設立され、投資が集中していることです。こうしたスタートアップの多くは、GAFAの卒業生や、イギリスの大学でAIの最先端研究に携わった経験を持つCEOが起業しているケースが多いことが特徴です。
2点目は、昨今の政治情勢を受けて「Defence Tech」、つまりはクラウド・AIなどのデジタルテクノロジーによって防衛上の課題を解決するソリューションやサービスに関する議論が活発であることです。多くのスタートアップが「Dual-use only」(民間および軍事用途の双方に使用できる技術)のポリシーを掲げて事業を開発しており、道徳的な観点に注目が集まっています。
3点目は、ギリシャがターンアラウンド、つまりは国として事業再生や経営改革を進め、2021年以降はエンジニアのクオリティ、居住環境、物価や賃金水準を理由に世界から注目を集めるエコシステムに成長している点です。英国や欧州への進出を検討する際は、こうしたトレンドを踏まえて進出先の選定や準備を進めると良いかと思います。
最後に、英国や欧州進出を目指すスタートアップにアドバイスをお願いします。
欧州では国ごとに法律や会社法が大きく異なるため、可能な限り事前に調査することで、事業やサービスの解像度が上がるでしょう。また、市場調査をする上では、「LONDON TECH WEEK」や「VIVA TECHNOLOGY」など、欧州で開催されているスタートアップイベントに参加して情報を集めるのも有用です。また、日本の政府機関や民間機関も多様なサポートを提供しています。一方で、現地の政府機関が必ずしも日本企業や日本のスタートアップの現地進出支援に積極的ではない点にも留意しておきましょう。

パネルディスカッション:英国・欧州への展開戦略と成功の秘訣

左上からグローバル・ブレイン株式会社投資グループ 欧州部門統括 ロンドオフィス代表 上前田直樹氏、株式会社天地人グローバル事業開発マネジャー 浦部雄平氏、datagusto,inc. CEO/Founder パー麻緒氏

イベントの後半ではパネルディスカッションを行います。パネリストには、株式会社天地人グローバル事業開発マネジャーの浦部雄平氏、datagusto,inc. CEO/Founderのパー 麻緒氏をお招きしています。また、ここからのファシリテーションはグローバル・ブレイン株式会社 投資グループ 欧州部門統括 ロンドンオフィス代表の上前田直樹氏にお願いします。まず、皆さんの自己紹介と英国・欧州で展開しているビジネスについてお伺いします。
浦部雄平氏(以下、浦部): はじめまして、浦部と申します。私たち天地人は、宇宙の衛星データを活用した新規事業開発や衛星ハードウェア開発などを手掛ける、2019年創業のスタートアップです。近年は宇宙ビッグデータを活用した水道管の漏水リスク管理事業が伸長しており、水道インフラの老朽化という社会課題解決に向けてサービスを展開しています。

海外展開の進捗としましては、私たちは東京に本社を構えながら、海外に在住するメンバーを中心にヨーロッパやアジア向けに営業を行っています。私がフランスに常駐している他、オーストラリアやグアムから参加しているメンバーもおり、合わせて70人程で事業を行っています。営業チームが現地でヒアリングしたニーズを日本の開発側に伝えることで、各地の文化や商習慣に合わせた開発、デザインを進めることができているように感じます。

パー 麻緒氏(以下、パー):こんにちは。私たちdatagustoは生成AIの分野で、開発者向けのSaaS型の分析ツールを開発しています。2020年に創業し、AI 製品およびデータに関わる製品の企画から開発、コンサルティングまでを担っています。これまでに何度かのピボットを経て、現在のツール開発に至りました。

海外展開の進捗としては、イギリスとアメリカで事業開発を進めています。イギリスで事業を進める中では、アメリカや欧州をはじめ世界中から経営者や企業の意思決定者が集まりやすいため、比較的気軽に会って話がしやすいという点は非常に魅力に感じています。
創業間もないタイミングで英国や欧州展開を決めた理由を教えてください。
パー:イギリスに進出を決めたのは、AI人材が豊富な点が主な理由でした。国内にはオックスフォード大やケンブリッジ大をはじめ世界有数の大学が集積しており、AIの分野でもまさに「トップオブトップ」の人材が多いように感じます。かつ、米国のサンフランシスコなどと比べると人件費を抑えることも可能です。さらに、現在日本とイギリスは政治的に強い結びつきがある点も魅力でした。また、治安が良い点はお金に変えがたい価値だと感じています。

浦部:日本は様々な分野で「課題先進国」と言われていますが、弊社の水道インフラのソリューションに関しては、特に欧州、中でもフランスやドイツが同様にインフラの老朽化問題を抱えていたため、進出先に選びました。ただ実際に進出をしてみると、予想していたことではありますが、現地の自治体向けにサービスを提供するには長い時間を要すると感じました。そのため、弊社のこれまでの実績や獲得した世界的なアワードなどをお伝えしながら、地道に信頼関係をつくり、一歩一歩ビジネスを前に進めています。
最後に、これから英国、欧州進出を目指すスタートアップの皆さんにメッセージをお願いいたします。
パー:海外進出というと、できるだけ事前に計画を立てなければと考える方もいらっしゃるかと思いますが、現地に行かなければわからないことが多いのが実情です。そのため、おおまかに計画を立て、状況に応じて臨機応変に対応し、その都度計画を修正することをおすすめします。また、良いビジネスパートナーと巡り会うためには、とにかく打席に立つことが重要です。まずは一歩を踏み出さなければ何も始まりませんので、ぜひ皆さんも少し肩の力を抜いて、気軽な心持ちで動いてみていただけたらと思います。

浦部:僕もまさにパーさんと同じ意見ですが、事前に唯一準備できることとしては、「自分が本当に海外で仕事をしたいのか」を問いかけることかと思います。海外事業ではとにかく気合いが必要です。辛くても続ける覚悟があるかどうかを確認しましょう。それさえできていれば、「動いて考える」のプロセスを繰り返すことで、少しずつ道は開いていきます。ぜひ皆さんも一緒に世界を目指して頑張っていきましょう!

当イベントでは、英国や欧州市場の特徴やスタートアップエコシステムの魅力をご紹介しました。引き続きX-HUB TOKYOでは、海外スタートアップエコシステムの特徴や魅力といった最新情報や、海外進出にあたっての戦略的アプローチなどをお伝えしていきます。