都内スタートアップの海外進出を支援するX-HUB TOKYOは7月16日、2024年度 X-HUB TOKYO#3海外展開セミナー「ニューヨーク、シリコンバレー展開の今~アメリカスタートアップの2大拠点を徹底解説~」を開催しました。本イベントでは、事業全体の概要説明をはじめ、ニューヨークとシリコンバレーの特徴や魅力をお届けしました。

イベントの前半では、日系コンサルティングファームのアメリカ法人Skylight America Inc. CEOの大山哲生氏に、ニューヨークとシリコンバレーを中心としたアメリカの市場概況や最新トレンドなど、現地の空気感が伝わる生の情報をご紹介いただきました。

イベントの後半では、ニューヨーク及びシリコンバレーの先輩起業家によるパネルディスカッションとして、ニューヨークへ事業を展開されているUbie株式会社 共同代表取締役 久保恒太氏、及びシリコンバレーへ事業を展開されているメドメイン株式会社 代表取締役CEO 飯塚統氏にご登壇いただき、Skylight America Inc. CEOの大山氏のファシリテーションのもと、ニューヨーク、シリコンバレーへの展開戦略の描き方や支援プログラムの活用についてお話しいただきました。


ニューヨーク・シリコンバレーのエコシステム紹介

Skylight America Inc. CEO
大山 哲生氏

はじめに、Skylight America Inc.にて、スタートアップ支援や進出支援を行う大山哲生氏に、アメリカと日本の経済、及びスタートアップエコシステムの違いについて伺います。
私は2017年からアメリカでビジネスを展開しており、日本とアメリカでは経済成長の勢いが大きく異なることを肌で感じています。例えば1991〜2019年の30年間の名目GDP成長ランキングを見ると、残念ながら日本は世界全体で最下位です。また、企業の経営面に関しては、グローバル企業の経営層に日本人が入っていないことは危惧すべきポイントでしょう。今後世界を相手に日本がどのように戦っていくのか、真剣に考えなくてはならない局面に差し掛かっていると言っても過言ではありません。
対して、アメリカをみるとMagnificent 7(マグニフィセント・セブン)と呼ばれる、GAFAやテスラなどのテクノロジー業界を代表する7社は全てアメリカ、その中でも西海岸から誕生しています。また、カリフォルニア州のGDPは、日本全体のGDPとほぼ同じで、さらにシリコンバレーの上場企業全体の時価総額は日本の全企業を合わせた時価総額を超えていることから、カリフォルニアやシリコンバレーの勢いを感じていただけるかと思います。
日本のスタートアップがアメリカ進出を考える際、事前に検討すべきポイントについて教えてください。
大きく分けて3点あります。1点目は、アメリカ進出と一言で言っても、どのエリアで事業を行うのかを見極めることが非常に重要である点です。広大なアメリカはエリアごとに産業群が形成されているため、事業によって場所の選択肢は変わります。日本の東京一極集中に比べて、地域ごとに色や特徴が異なることに留意しておきましょう。
例えばシリコンバレーにはITやAI関連の企業やスタートアップが集積している一方で、ニューヨークを含む東海岸地域は金融、フィンテック、バイオ、ヘルスケアに強みがあります。また、ニューヨークではニューヨーク市、とりわけマンハッタンに多くのビジネスが集中していますが、カリフォルニア州は州全体に人口や産業が分散しています。こうした特徴を踏まえて①実際に会社を登記する場所 ②ヘッドクオーターを置く場所 ③オペレーションを行う場所と、機能を3つに区別して進出先を検討しましょう。
2点目は人材についてです。スタートアップが競争力を持ってサービスを展開し、研究開発を進める上では、人材獲得は極めて重要です。拠点を構える場所によって、アクセスできる基本的な人材プールは大きく変わります。例えば西海岸にはスタンフォード大学やカリフォルニア大学バークレー校、東海岸にはマサチューセッツ工科大学やハーバード大学などが位置しています。
3点目は資金調達についてです。世界においてもアメリカにおいても、カリフォルニア州は群を抜いて資金調達額が大きく、VCや投資家が多く集積しているため、資金調達を考える際は特におすすめです。
最後に、アメリカ進出を目指すスタートアップへメッセージをお願いします。
アメリカ進出においては資金、エネルギー・情熱、ビザの3点が非常に重要な鍵になります。また、これは個人の感覚ですが、アメリカの西海岸には「業界の既存の巨大プレイヤーを破壊し続ける」カルチャーがありますが、東海岸では対照的に、伝統やしきたりが重んじられる傾向があります。こうしたエリアごとのビジネスカルチャーを理解することも、事業を展開する上では重要です。
昨今の為替相場を含む経済状況を考えると、日本からアメリカ、そして海外に進出するハードルは年々高くなっているように感じます。さらに近年アメリカが保護主義に走り始めている中では、今後日本の企業やスタートアップの皆さんに何らかの影響がある可能性も否めません。しかし法制度や企業の安定性、そして資金調達のどの面から見ても、アメリカは非常に恵まれたビジネス環境であると言えます。アメリカという唯一無二のマーケットに、是非皆さんも思い切り挑戦してみてください!

パネルディスカッション「ニューヨーク・シリコンバレーの特徴と相違点」

(左上)メドメイン株式会社 代表取締役CEO飯塚 統氏
(右上)Skylight America Inc. CEO大山 哲生氏
(下)Ubie株式会社 共同代表取締役久保 恒太氏

イベントの後半では、パネリストに、メドメイン株式会社代表取締役CEOの飯塚統氏、Ubie株式会社共同代表取締役の久保恒太氏をお招きし、ディスカッションを行います。ファシリテーションはSkylight America Inc. CEOの大山哲生氏にお願いします。まず、皆さんの自己紹介とアメリカで展開しているビジネス、そしてニューヨークやシリコンバレーの特徴について伺います。
久保:皆さん、こんにちは。私たちUbieは「テクノロジーで人々を適切な医療に案内する」をミッションに掲げる、2017年創業のヘルステックスタートアップです。AIをコア技術とし、医療機関向け、生活者向け、製薬企業向けにサービスを展開しています。2022年にアメリカ・ニューヨークに現地法人を設立し、おかげさまでアメリカでは約200万人のユーザーが弊社のサービスを利用しています。

私たちは創業時から世界で戦える会社になりたいという思いを持って、医療というフィールドで事業を展開することを決めました。アメリカの中でもニューヨークをはじめとした東海岸には、製薬会社がプロモーション部門を構えていることが多く、彼らと近い距離に身を置くことで事業展開のスピードを上げたいと思い、進出先に選びました。

飯塚:はじめまして、飯塚と申します。私たちは2018年創業の医療系AIのスタートアップです。世界中の医療従事者のパートナーとして、Deep Learning / AIを用いた病理画像診断の解析システム「PidPort」を開発、運営しています。私たちも創業時からグローバルな課題を解決したいと考え、アメリカ・シリコンバレーのほか、インド、ベトナム及び中東で事業展開を進めています。日本発のグローバルスタートアップになれるよう、現在はシリコンバレーで実績を作り、今後アメリカ国内での横展開を進めていく想定です。

アメリカは市場の大きさに惹かれたことに加えて、スタートアップの発信地、かつ中心地であるシリコンバレーに魅力を感じ、進出しました。私は現在、1年の3分の1はシリコンバレーにいますが、やはり人材や資金をはじめとした現地のエコシステムの魅力は非常に高いと実感しています。また人材に関しては、突き抜けて優秀な一方で「バカなこと」をしている起業家が多く、刺激に溢れています。
実際にアメリカで事業を展開する中で感じた課題や、そこから得た教訓があれば教えてください。
久保:私の場合はビザを取得するのに想像以上に時間を要し苦労しました。また、当初は日本からアメリカ向けに営業を行おうと考えていたのですが、ニューヨークと日本の時差が大きく、社内のコミュニケーションが難しいことが判明したため、現地で人を採用しました。結果として、そのおかげで事業開発は大きく前進しました。

飯塚:既に他の国や地域で展開しているサービスでも、事業展開の手法や戦い方については、進出先の文化や商習慣に合わせて変えていくべきだと感じています。例えばアメリカでは、医療機関向けのシステムを提供するだけでなく、医師の診断もセットにして欲しいなど、新たなニーズがあることが見えてきました。
最後に、これからアメリカ進出を目指すスタートアップにアドバイスをお願いします。
久保:私たちは進出前に様々な角度から検討を行ったのですが、いざニューヨークに来てみると、自分たちの競合となる企業はまだ目立っておらず、「もっと早く進出すれば良かった」と後悔しました。臆病になりすぎずに飛び込むべきだったと感じています。最初の1年を生き残ることができれば何とかなりますので、是非皆さんも「思い立ったが吉日」の気持ちで、これから一緒に頑張りましょう!

飯塚:僕たちはアメリカへ本格進出する前に、X-HUB TOKYOやアメリカ現地のアクセラレータープログラムに参加し、事業をブラッシュアップしてきました。海外に単身で飛び込み、ゼロからネットワークを形成するのは難しいので、まずはこうしたプログラムを活用して市場の理解を深めることがおすすめです。また、実際に現地に身を置くことで初めて見えてくるものも沢山あります。幸いなことに、シリコンバレーには全くと言って良いほど娯楽がなく、ビジネスに非常に集中できる環境です。是非皆さんも果敢にチャレンジしていただけたらと思います!

皆様、ありがとうございました!
当イベントでは、ニューヨークとシリコンバレーの特徴や魅力をお届けしました。引き続きX-HUB TOKYOでは、海外スタートアップエコシステムの特徴や魅力といった最新情報や、海外進出にあたっての戦略的アプローチなどをお伝えしていきます。