都内スタートアップの海外進出を支援するX-HUB TOKYOは8月8日、2024年度 X-HUB TOKYO#4海外展開セミナー「スタートアップのための海外顧客開拓必勝法~展示会を有効活用しよう!~」を開催しました。本イベントでは、事業全体の概要説明をはじめ、海外顧客開拓の方法や海外展示会の活用をテーマとしたセミナーをお届けしました。
イベントの前半ではEDGE of INNOVATION CEOの小田嶋アレックス氏が、海外における顧客開拓の方法論や海外展示会の活用に関する基調講演を実施。続く後半では、先輩起業家によるパネルディスカッションとして、小田嶋氏のファシリテートのもと、株式会社INFORICH 執行役員グローバル事業部の梶桃郎氏、及びTECHMAGIC株式会社 代表取締役社長 兼 CEOの白木裕士氏にご登壇いただき、実体験を交えながら、海外顧客獲得のための戦略や、海外展示会の活用方法についてお話しいただきました。
スタートアップの海外顧客開拓講座
EDGE of INNOVATION CEO
小田嶋 アレックス氏
- はじめに、国内外のスタートアップ支援、及び事業コラボレーションのサポートを行うEDGE of INNOVATION CEOの小田嶋アレックス氏に、スタートアップが海外戦略を描く際のポイントについて伺います。
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これまで1200社を超えるスタートアップのサポートを行ってきた中で、「こうすれば必ずうまくいく」という必勝法はないものの、フレームワークとなるようなポイントはいくつかあるように感じています。
第一のポイントは、正しい順番で課題に取り組むことです。海外展開を考える際には、現地パートナーの開拓方法や法規制の問題など、取り組むべき課題が山のようにあります。しかし「進出を目指す国や地域にはどのようなローカルな課題があるのか」を最初に認識することが、海外進出の成功においては最も重要です。
第二のポイントは、「ソリューションではなくプロブレムを重視する」ことです。既に日本で事業やサービスを展開している場合、「海外にも同じような課題があるだろう」という思い込みで事業を進めるのは非常に危険です。ローカルの課題にしっかりと向き合い、深く分析しましょう。
第三のポイントは、最適なマーケットにフォーカスすることです。市場規模だけでなく、競合優位性、参入障壁なども合わせて考慮し、展開すべき市場を見極めましょう。特にスタートアップの場合は、人材や資金面でリソースが限られていることが多いため、最初から手を広げすぎず、成功の可能性が高い分野に集中して取り組むことをおすすめします。
- 海外進出では、現地の顧客開拓に苦労するスタートアップも多いかと思います。これまでのご経験から、何かアドバイスをいただけますか?
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最初にお伝えしたいのは、市場調査の前に仮説を立てることです。仮説がなければ、その後の具体的なアクションや質問につながりません。また、こうした調査だけでなく、「たまたま良い事業パートナーに出会えた」「過去に交流があった」といった「Opportunity Driven」で現地の顧客を見つける方法も意外と有効です。
海外顧客を開拓するためには、アクセラレーションプログラムをはじめ、国内外の各種プログラムに参加することも効果的です。事前準備に十分な時間をかけ、事業者や投資家との接点をできるだけ多く持つようにしましょう。プログラム中に隙間時間があれば、個別に予定を組み込むこともおすすめします。
実際にパートナーと連携する際には、慎重さも必要です。現地のノウハウが必要な部分と、自社で対応できる部分を明確に分けて考えるようにしましょう。たとえば、物流は現地に任せ、テクノロジー関連やPRは自社で行うといった役割分担はおすすめです。また、JETROは海外で強力なネットワークを持っているため、必要に応じてリクエストを出すと、適切なアドバイスやサポートを受けられます。
- 海外展開の第一歩として海外の展示会に出展する際は、どのような点を考慮すべきでしょうか?
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まず、海外の展示会に出展するメリットとして、単独で行動するよりも現地でコネクションを作る機会が増える他、多様なフィードバックを得られる点が挙げられます。参加する際は、イベントの特徴をしっかりと把握し、参加者用のツールを活用するなどしてアポイントを積極的に取りましょう。また、海外ではLinkedInが重要ですので、事前にアカウントを準備しておくことをおすすめします。
海外の展示会には、上級英語レベルのメンバーを連れて行くと効果的です。難しい場合は、現地で一緒にブースに立ちながら営業をサポートしてくれる人を雇うことも検討しましょう。最低でも2人、可能であれば3人程のチームで参加するのが望ましいです。
また、その場で意思決定ができるメンバーを同行させることも重要です。イベント直前に話題を仕込んでおくと、取材の誘致にもつながります。海外の展示会には多くのメディア関係者も参加しますので、英語のメディアキットの準備も忘れないようにしましょう。
パネルディスカッション:海外における顧客獲得の戦略と展示会出展の経験談
(上)EDGE of INNOVATION CEO 小田嶋アレックス氏
(左下)TECHMAGIC株式会社 代表取締役社長 兼 CEO 白木裕士氏
(右下)株式会社INFORICH 執行役員 グローバル事業部 梶桃郎氏
- イベントの後半では、ファシリテーターにEDGE of INNOVATION CEOの小田嶋アレックス氏、パネリストに株式会社INFORICH執行役員グローバル事業部の梶桃郎氏、TECHMAGIC株式会社代表取締役社長 兼 CEOの白木裕士氏をお迎えし、ディスカッションを行います。まずは皆さまの自己紹介と海外展開の進捗についてお願いします。
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梶:はじめまして。スマートフォンのモバイルバッテリーのシェアリングサービスを手掛けるINFORICHで主に海外事業を担当しております、梶です。弊社は「どこでも借りられて、どこでも返せる」をコンセプトに2018年4月からサービスを開始し、全国の駅、空港、商業施設や飲食店、コンビニエンスストア、公共施設などを中心に設置場所を拡大しています。海外では香港、中国、タイなどに進出しており、フランチャイズ展開も行なっています。
白木:こんにちは。TECHMAGIC代表の白木と申します。私たちは「ロボットテクノロジーで、人類の幸せの質を高めていく」をミッションに掲げ、2018年に創業しました。主に業務用の調理ロボットを開発しており、現在様々な外食チェーンやレストランに導入いただいております。海外展開に関しては、2024年9月に米国に進出予定です。
- 海外展開の準備、及び実際に現地で事業を推進する中で、ビジネス面で日本と海外の違いを感じたことがあれば教えてください。
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梶:海外では、冗談抜きで「命をかけているスタートアップ」が多い印象です。特に東南アジアでは、家族から資金を借りて、起業をしたり事業を継続するようなケースも稀ではありません。いわば「家族全員の成功を背負っている」状態のため、パッションが非常に強いように感じます。そのため、そうした経営者に対してハートで負けないような、折れない心を持つことが重要です。「一度海外に行くと決めたら世界を相手に挑戦し、勝つまで帰ってこない」という覚悟が必要だと思います。
白木:私たちは米国での本格展開を見据え、世界最大級のテクノロジーの見本市「CES」などの展示会に参加しましたが、米国の企業の意思決定のスピードに驚きました。海外で事業を行う上では、こうしたスピード感に対応できる社内体制を築くことが大切だと思います。
- これまでの実体験から、海外の展示会に参加する魅力やポイントを教えてください。
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梶:海外の展示会では、オンライン商談では得られない「実機を直接見てもらう」効果が非常に大きいです。たとえば、10回のオンラインミーティングで決まらなかったことが、1回の対面で決まることもあります。事前の準備ではJETROなどのサポートを活用することもできますので、ぜひ検討してみてください。
そして何より、現地ならではの世界観を直接感じ取ることができるのは、海外の展示会に出展する大きな魅力の一つです。肌で得た感触というのは、後に投資家と話をする際にも役立つでしょう。
白木:弊社はこれまで米国の展示会に2度参加したのですが、それぞれ目的を明確にしていた点が成功の要因だったと考えています。「CES」ではブランド認知の獲得を目指しており、幸いにも「イノベーションアワード」を受賞できたことが追い風となって、米国市場でのブランド認知を高めることができました。事前に多くの潜在顧客に声をかけておき、「ぜひCESに実機を見にきてください」と伝えていたことで、成果が一層大きくなったと感じています。
一方、レストラン業界に特化した展示会では顧客獲得を目指し、業界関係者とのネットワークを築くことができました。「とりあえず連絡する」という曖昧な約束ではなく、その場で次のステップを具体的に固めることができたことも非常に大きな成果だったと思います。また、海外の展示会では競合やパートナー候補のリサーチも可能です。こうした点を総合的に踏まえると、「未来を見据えた勉強代」として、海外の展示会出展は非常に価値があると思います。
- 最後に、海外展開を目指すスタートアップへ応援メッセージをお願いします。
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梶:スタートアップにとって、海外展開は爆速成長を目指す上で重要な選択肢です。ぜひ果敢に行動してみてください。自分の目で現地をみて、必要であれば外部からの支援を活用しながら少しずつ進めることが成功への鍵となるでしょう。
白木:海外展開の成功には、ブランド認知の向上や強力なネットワークの構築が不可欠です。そして海外の展示会やイベントへの参加は、そのための絶好の機会と言えます。積極的に挑戦し、次のステップへの準備を進めてみてください!
- 当イベントでは、海外展開を進めるスタートアップや先輩起業家の皆様にご登壇いただき、実例を交えながら、海外顧客開拓の方法や、展示会の具体的な活用方法をお伝えしました。引き続きX-HUB TOKYOでは、様々なイベントを通じて、海外のエコシステム・市場の特長や海外進出時のポイントなどを発信していきます。