都内スタートアップの海外進出を支援するX-HUB TOKYOは7月27日、2023年度 X-HUB TOKYO #3海外展開セミナー「ニューヨークで成功を掴む方法~スタートアップ進出のリアルと成功へのカギ~」を開催しました、本セミナーでは、ニューヨークのスタートアップエコシステムの特徴や市場の魅力をテーマに、日本のスタートアップが進出を目指す際に知っておくべき最新情報を共有しました。

セミナーの前半では、JETROニューヨーク事務所でディレクターを務める中嶋大騎氏が登壇し、ニューヨーク市場の概要や産業の特徴、最新のスタートアップエコシステム情報をご紹介いただきました。

後半ではPeatix Inc.の原田卓CEOが、ニューヨーク展開の実体験や現地でのビジネスの進捗を共有。最後に、SOSVゼネラルパートナー及びHAXマネージングディレクターであるDuncan Turner氏が、日本のスタートアップがニューヨーク展開を目指す際に重要な戦略の描き方について話しました。


ニューヨークのスタートアップエコシステム紹介

中嶋大騎氏JETRO ニューヨーク事務所 ディレクター、ビジネスディベロップメント
中嶋大騎氏

はじめに、JETROニューヨーク事務所でディレクター兼ビジネスディベロップメントを務める中嶋大騎氏に、ニューヨーク市場の特徴をお伺いします。
皆さんもご存知の通り、ニューヨークは米国内でも全米最大の規模を誇る大都市です。人口は国内で最も多く、GDPは約2兆ドルを超えています。また、ニューヨークで暮らす人々の内訳を見ると、海外出身者が37%と全米平均の倍となっており、人種が非常に多様な点も特徴と言えるでしょう。日本のスタートアップの皆さんにとって、こうした多様性に溢れる場所で日々起業家やクリエイターに会って対話することは、インスピレーションや新しいアイデアの創造につながるはずです。
ビジネス面の主な特徴としては、コンシューマー向けの企業が多く、ニューヨーク市政府がスタートアップ支援に注力している点などが挙げられます。この背景には、金融サービスに依拠した従来型の産業構造から脱却を図りたいという狙いがあり、ネットワーキングイベントの開催をはじめ、日々様々なスタートアップの振興政策が実施されています。
それでは、ニューヨークのスタートアップエコシステムについて詳しく教えてください。
世界の都市別のスタートアップエコシステムランキングによると、ニューヨークはシリコンバレーについて第2位にランクインしているほか、フォーチュン誌が年に1回発表する米国の上位500社のリスト「Fortune500」に掲載されている企業の数がニューヨークは国内で最も多いことからも、全米で有数のコミュニティが形成されていることがお分かりいただけるかと思います。
最近の動向としては、バイオやものづくり関連の研究・ラボ施設の新設が続いており、創業期から成長期の「シリーズB」のスタートアップや、女性起業家が立ち上げたスタートアップへの投資も活発です。また、金融やアート、ファッショやヘルスケアといった巨大な産業に結びついた「ハイフンテック(-tech)」と呼ばれる成長分野にも注目が集まっています。
このように、ニューヨークには非常に魅力的なスタートアップエコシステムが形成されています。皆さんがニューヨーク展開を目指す際には、現地の情報をしっかりと収集していただけると、多様な人や機会と巡り会えるはずです。現地では毎日のようにネットワーキングイベントが開催されていますので、こうした機会を活用してぜひ積極的に挑戦してみてください。

ニューヨークへの展開手法や成功の秘訣

原田卓氏Peatix Inc. CEO
原田卓氏

続いて、ニューヨークに拠点を構えるPeatix Inc. CEOの原田卓氏に、事業内容と現地進出の経緯について伺います。
私たちPeatixは小規模コミュニティの支援を柱に、有志のイベントから大型フェスまで様々なシーンで活用できるイベント・コミュニティ管理サービスを提供し、日本をはじめ米国やシンガポールなど海外でも幅広く事業を展開しています。
私たちがニューヨークにサービス開発とグローバル展開の拠点を構えたのは、2013年に遡ります。米国進出を考えた当初は、シリコンバレーやロサンゼルスも候補地として検討していました。そのなかで、十分な市場と顧客ベースの規模があり、コミュニティに焦点を当てて事業を展開する企業が多く、かつ私自身がニューヨークで育った点などを総合的に判断して、ニューヨークに拠点を構えることにしました。
米国進出を目指す皆さんに向けて、アドバイスをお願いします。
私たちも米国進出前は法人設立のプロセスや投資家との交渉方法をはじめ、色々な不安要素がありましたが、現地の事情に精通した弁護士の方などと一緒に一つひとつ課題を解決していきました。とにかく足を使って色々な人に会い、話しを進めることで、徐々に道は拓けてきます。
とはいえ、私たちも米国事業はまだまだ試行錯誤を繰り返している部分もあります。今後はUXを現地向けにカスタマイズしてサービスを本格展開すべく、目下準備を進めているところです。米国進出は、片手間に手がけることはできません。皆さんもしっかりと現地の事業にコミットすることで、少しずつ結果が見えてくると思います。まさに「行動あるのみ」ですので、応援しています!

ニューヨーク進出を目指すスタートアップが知るべき事業戦略の描き方

Duncan Turner氏SOSVゼネラルパートナー HAXマネージングディレクター
Duncan Turner氏

最後に、SOSVゼネラルパートナー兼HAXマネージングディレクターのDuncan Turner氏に、事業内容と現地進出の経緯について伺います。
私たちSOSVは米国や日本、中国をはじめ、様々な国や地域でアクセラレータープログラムを展開するベンチャーキャピタルです。現在はアジアと米国に注力して、ディープテック領域の投資を加速させています。
アクセラレータープログラムの「HAX」では、ロボットやセンサー、家庭用電化製品、医療機器などを扱うスタートアップ200社以上をこれまで支援してきました。日本では、ハードウェア製品の開発に取り組むスタートアップの成長を加速するプログラム「HAX Tokyo」を展開しています。
私たちがニューヨークエリアを進出先に選んだ決め手としては、コーネル大学やエール大学をはじめ、数多くの非常に素晴らしい理工系大学が集まっているほか、成功した起業家やメンター、テックタレントが多く集まっている点が挙げられます。もちろん市場規模が大きく、顧客が多い点も大きな魅力です。また、ワシントンやボストンなど米国の主要都市へのアクセスの良さもプラスの要素だと思います。
それでは、日本のスタートアップがニューヨーク進出を目指す際に考慮すべき戦略の描き方について教えてください。
日本のスタートアップや企業の皆さんをみていると、日本でしっかりと成功を収め、すでに多国籍な顧客を抱えている企業が多いように感じます。そのため、例えばニューヨークをはじめ、多国展開を進めている日本の大手企業と現地でつながり、お客さんを紹介してもらうことができれば、有力な顧客候補となり得るはずです。また、進出時には現地の事情に詳しいローカルの人材を採用したり、現地でネットワークを築いている投資家とつながることも重要なポイントとなってきます。
これらの戦略は、企業の事業内容や規模によって異なるかもしれませんが、皆さんもこれまでの実績を活かし、ぜひグローバルな視野で挑戦していただけたらと思います。

当イベントではニューヨークの魅力やエコシステムの特徴についてお伝えしました。引き続きX-HUB TOKYOでは様々なイベントを通じて、海外展開を目指すスタートアップにとって有益な情報のほか、オープンイノベーションの最新トレンドなどを発信していきます。