都内スタートアップの海外進出を支援するX-HUB TOKYOは9月5日、2023年度 X-HUB TOKYO#4海外展開セミナー「海外展開に向けた最初のハードルを乗り越える!」を開催しました。本セミナーでは、海外展開初期の課題にフォーカスした知見や、海外展開の実体験などを共有しました。

セミナーの前半ではCreww(クルー)株式会社取締役 COOの水野智之氏が、海外展開を目指すスタートアップの多くが抱えやすい課題や、抑えておくべきポイントを共有。後半では、創業初期から海外展開を経験している株式会社ONE ACT代表取締役の浅野裕亮氏、そしてインパクトサークル株式会社代表取締役社長/CEOの高橋智志氏に、海外展開時に直面した困難をどのように乗り越えてきたのか、実体験を交えながらお話しいただきました。


スタートアップが海外展開時に直面しやすい課題や、抑えておくべきポイント

水野智之氏Creww株式会社 取締役 COO
水野智之氏

はじめにCreww株式会社取締役の水野智之氏に、会社概要や海外事業の進捗についてお伺いします。
私たちCrewwは「大挑戦時代をつくる。」をビジョンに掲げ、オープンイノベーションプラットフォームを運営しています。プラットフォームにご登録いただいているスタートアップの数は7300社、そして事業会社数は400社を超えました。また、これまでに多くの地方銀行と連携し、日本全国で地域のオープンイノベーションを推進しています。
弊社の特徴は、従来の社会や産業構造に対して、新しい価値の創造や課題解決に挑戦する人の成長を「テクノロジー」を用いて支援している点にあります。Crewwではこの領域を、Growth (成長・育成) とTechnology (技術) を掛け合わせた「GrowthTech領域」と定義し、サービスを展開しています。
近年は皆さんからのご要望に応じて海外での事業展開も積極的に進めており、国内スタートアップの海外展開、そして国内事業会社と海外スタートアップとの連携のサポートにも力を入れています。
これまでの経験をふまえて、日本のスタートアップが海外展開を目指す際に抑えておくべきポイントがあれば、教えてください。
第一に「なぜ海外展開を目指すのか」を明確に言語化することが重要です。これは業界や会社の規模によって異なりますので、ぜひ皆さんそれぞれでじっくりと検討してみてください。例えば資金面から考えると、近年は海外投資家から投資を受けた実績というのは一定の評価につながり、上場時においてプラスのポイントになる傾向にあります。
また、特に海外展開前や初期段階では、マインドセットを変えることも必要です。「英語ができない」「英語が苦手」と言い訳にせず、積極的に現地の方々とやりとりをすることで、ビジネスは確実に前進していきます。起業後まもない時期から日本在住の外国人やバイリンガルを採用し、海外の文化や言葉、習慣に慣れておくというのも効果的でしょう。
そのほか市場調査に関しては、現地パートナーの獲得が非常に有効です。ユーザー候補やエコシステムのビルダー、そしてVCなどから現地市場の状況を聞くことで、徐々にサービスの形も出来上がってきます。尚、日本にいる間に現地で勤務経験がある方とつながることができると、事前に情報を得やすくなります。
インターネットやテクノロジーが発達している今の時代、皆さんが想像している以上に、チャンスや機会は多く巡ってきます。せっかくスタートアップとして事業を展開するのであれば、ぜひ世界を目指して頑張っていただけたら嬉しいです!

海外展開のハードルを乗り越えた実体験や、海外展開を目指すスタートアップに向けたアドバイス

浅野裕亮氏株式会社ONE ACT 代表取締役
浅野裕亮氏

続いて、株式会社ONE ACT代表取締役浅野裕亮氏に、会社概要や海外事業についてお伺いします。
ONE ACTは、ソフトウェア開発とAI技術開発に従事するグローバルスタートアップです。これまでソフトウェア開発においては、プロジェクトの予算や時間が肥大化してしまったり、ITエンジニア人材が不足したりという様々な課題が長い間生じていました。そこで私たちは、機能単位の小さなソフトウェアの“部品”から、パッケージに近い大きな部品までを調達できるソースコードのマーケットプレイス「PieceX」を世界に向けて提供しています。
現在登録ユーザーは約15万社を突破し、内訳としては海外ユーザーが99%を占め、世界200以上の国・地域の企業と取引を行っています。この海外展開を下支えしているのは、フランス、インド、イギリス、アメリカ、そして日本の5つの拠点で働く、多様なバックグラウンドを持つ社員です。チームは13カ国出身のメンバーで構成されており、社内では英語が主要なコミュニケーション言語となっています。
海外展開を進める上で直面したハードルや、それらを乗り越えた実体験について教えてください。
特に海外展開の初期段階では、資金面や採用面など、様々なハードルに直面しました。その際私たちの場合は、国内外のアクセラレータープログラムに数多く参加したことで、非常に多くの知見を得ることができました。初めて海外展開を進める際には、こうしたプログラムでメンターからアドバイスをもらったり、何度もやり取りをして完成度の高いピッチデックを制作したりというのがおすすめです。弊社もアメリカやイギリス展開の際は、本X-HUB TOKYOのプログラムに参加し、非常に多くの学びを得ることができました。
こうしたプログラムや海外イベントに参画する際は、徹底して準備を行うことで、得られる学びや知見は最大化されます。また、イベントには複数人で参加することで会場の多くの方とネットワークを形成できるので、しっかりと人員を確保しましょう。
最後にお伝えしたいのは「海外進出で失敗したらどうしよう」という心のハードルの乗り越え方です。海外展開には数えきれないほどの失敗が付き物ですし、日々が成功と失敗の繰り返しと言っても過言ではありません。ですが全ての失敗は、成功やゴールまでの途中経過で発生します。私たちも「とにかく行動すること」を今後も大事にしていきますので、皆さんも目の前の失敗に一喜一憂せずに、とにかくアクションを起こして前に進んでみてください!

高橋智志氏インパクトサークル株式会社代表取締役社長/CEO
高橋智志氏

最後に、インパクトサークル株式会社代表取締役社長/CEOである高橋智志氏に、会社概要や海外事業についてお伺いします。
弊社は、経済的リターンと社会課題解決の両立を図る「インパクト投資」のプラットフォームを構築し、主に新興国を対象としてサービスを展開しています。現在は日本とフィリピン、そして東南アジアで事業を展開しており、フィリピンには子会社を設立しました。
近年はSDGsやESG投資をはじめ、事業を通じて社会課題の解決を行うことへの期待が高まっています。しかし、事業を通じて生み出される「社会的なインパクト」が可視化されている事例は未だ少なく、社会課題解決を重視する事業への投資が限定的になっているのが実情です。そこで私たちは、独自のノウハウとネットワークを活用し、社会インパクトを可視化する事業に挑戦しています。
現在フィリピンでは、これまで金融サービスを受けられなかった方々を対象に、IoTとFinTechを組み合わせたサービスを提供しています。例えばドライバーとして就業して所得を向上させたいと願う、三輪タクシー(トライシクル)のローンを希望する個人に対してモビリティファイナンスを提供したり、漁師として就業するために船体やエンジンのローンを希望する個人にボート・エンジンローンを提供したりしています。
今後海外展開を目指す日本のスタートアップに向けて、アドバイスをお願いします。
どの国や地域で事業を展開するのかを決める際には「自社のサービスが本当に現地で受け入れられる素地があるか」という“手触り感”を大事にすることをおすすめします。あくまで私たちの事例ではありますが、フィリピンを展開先に選んだのは、私自身が過去にフィリピンで事業を推進した経験があったことに加えて、金融マーケットや人口動態といったマクロ環境を総合的に判断したものの、それ以上に実際に現地に足を運び、現地の方々と話を重ねたことで「ここでビジネスをしよう」という気持ちを固めることができました。
そして海外での事業推進においては、徹底して現地のローカルネットワークを構築することが重要です。企業や業界によっては、日系コミュニティ内のつながりを重視する場合もありますが、我々のように新興国でビジネスを展開する際にはとにかく現地に根ざし、そこで生まれたネットワークを最大限に活用することで事業が前進していきます。
もちろん海外では商習慣や文化が大きく異なり、事業運営にも少なからず影響が出てきます。そこで大切になってくるのが、常識を疑う姿勢です。例えば社員のマネジメントについては、業務マニュアルに記載がない仕事を頼むのは難しいと割り切るなど、新たなマネジメントスタイルを開発するような気持ちで臨んでいます。
私たちは今後、フィリピン以外の国へのビジネス展開も視野に入れており、事業がどの程度グロースする可能性があるのか、また、ビジネスモデルが適用できるのかといった検証を進めています。今日お伝えしたのは、私たちが海外展開においてどのようなポイントを重視してきたのかというほんの一例ですが、今後も社会インパクトを可視化できる投資プラットフォームの構築を目指していきますので、皆さんの挑戦も応援しています!

当イベントでは、海外展開初期の課題にフォーカスした知見や、海外展開の実体験をご紹介しました。引き続きX-HUB TOKYOでは、国内外のスタートアップとの交流機会の創出や、オープンイノベーションの最新トレンドなどを発信していきます。