日本企業の海外展開が加速するなかで、現地の法制度への適切な対応は、海外進出成功の鍵を握る重要な要素の一つです。中でも「外資規制」は、外国資本による出資や経営への関与に一定の制限を設ける制度であり、国や業種によって内容が大きく異なります。

規制への理解が不十分なまま進出を進めた結果、想定外の事前承認や手続きが必要となり、事業開始の遅延や事業構想の変更を余儀なくされるケースも少なくありません。この記事では、外資規制の基本的な考え方や制度の目的、具体的な国別の事例、そして日本企業がとるべき実務対応のポイントを解説します。

外資規制とは何か、基本構造と目的

海外進出を考える上で避けて通れない外資規制。まずは、その定義と主な目的を理解することから始めましょう。

外資規制の定義と役割

外資規制(Foreign Investment Regulations)とは、外国企業や外国投資家が自国内で事業活動を行う際に、出資比率や経営への参入について、国が一定の条件や制限を設ける制度です。国家の安全保障、経済秩序、社会の安定を維持するために導入されています。

外資規制は、外国資本を一律に排除するものではなく、事前の届出や審査・許可を通じて、国の政策方針との整合性を保ちながら投資を受け入れる仕組みです。例えば、国によっては「外国資本が○○%を超える場合は、政府の事前承認が必要」といった基準が設けられています。

外資規制の主な目的

このような規制を設けている目的は大きく三つに分けられます。第一に、通信やエネルギー、防衛といった国家の根幹をなす分野を保護するため、安全保障の観点から特定の外国資本からの影響を制限することです。第二に、自国の基幹産業を育成し、雇用や技術の国内維持を図るため、過度な外資の流入を調整するという政策的な意図があります。そして第三に、農業、教育、医療などの公共性が高い分野で、外資参入を慎重に判断し、地域社会や文化的価値を守るという考え方が背景にあります。

国別に見る外資規制の特徴と注意点

外資規制の内容は、国や地域、業種によって大きく異なり、規制対象となる業種や外国人の所有に関する法的制限があります。ここでは、各国の具体例と注意点を解説します。

アジア各国における代表的な制度事例

タイでは、「外国人事業法」により、外国投資家による特定のサービス業への参入が制限されています。また、法人を含む外国人による土地の所有は法律上認められていません。ただし、一部条件下での例外的な取り扱いも存在します。

フィリピンでも同様に、外国投資家による土地の所有は禁止されています。農業関連ビジネスを行うには、現地法人との合弁やリース契約などを通じた間接的な方法による参入が求められます。

ベトナムでは、外国企業が事業を行うには、「投資登録証明書(IRC)」と「企業登録証明書(ERC)」を取得しなければなりません。特に医療、教育、小売などの特定分野では、政府が定めた条件を満たす必要があります。これにより、外国資本のビジネス展開については一定のルールの下で管理されています。

インドでは通信インフラ分野で外国資本による出資が49%までは自動承認されますが、それを超える場合には政府の事前承認が必要です。また、防衛や保険、報道メディアなどの分野でも、出資比率の上限や承認区分が厳密に定められています。

出資比率だけでなく「実質的支配」にも要注意

近年では、形式的な出資比率だけでなく、実質的な経営支配の有無が審査対象となる国が増えています。例えば、以下のようなケースでは、出資比率が低くても規制の対象となる可能性があります。

  • 取締役の過半数を外国側が任命できる体制になっている場合
  • 重要事項について外国側が拒否権を持つ合弁契約の内容になっている場合
  • 技術供与やブランド契約などによって、外国企業が経営に強い影響力を持っていると判断される場合

このように、「出資比率が低ければ規制対象外である」とは限らず、外国企業が経営を実質的にコントロールしているかどうかが重視される傾向があります。

海外進出後の変化で規制対象になるリスク

海外進出時点では外資規制の対象外であっても、その後の事業内容の追加や変更、出資比率の引き上げ、あるいは合弁の解消により、後発的に規制の対象となることがあります。さらに、現地政府の法改正やガイドラインの見直しにより、新たに規制業種に指定されるケースもあります。

例えば、インドネシアでは2021年に「ポジティブ投資リスト」が導入され、外国投資家の参入業種と条件が明確化されました。こうした制度変更が事後的に適用される場合もあるため、進出後も継続的なモニタリングが欠かせません。

外資規制に対応するための実務とリスク管理

日本企業が海外進出するにあたり、進出先における外資規制に対して適切に対応するためには、事前の情報収集と社内体制の整備、そして継続的なリスク管理が重要です。ここでは、具体的な対応策を見ていきましょう。

事前調査と専門家との連携

外資規制に適切に対応するためには、進出前に各国の制度をしっかり理解することが必要です。投資や外資関連の法律、業種別のガイドラインは公開されていますが、実際の運用や審査基準については曖昧な部分も多く、個別判断が求められることもあります。そのため、公的機関の情報を積極的に活用するとともに、現地の法律事務所やコンサルタントと連携して、最新の制度運用状況を常に把握することが重要です。

社内体制の整備

外資規制への対応は、制度の理解だけでなく、社内の体制整備も不可欠です。具体的には、外資規制を所管する担当部署や責任者を明確にし、出資、合弁、M&Aなどの投資判断を行う際に、規制該当性を事前に確認するフローを導入することが有効です。

また、意思決定プロセスの中に外資規制への対応の視点を組み込むことで、社内全体としてのコンプライアンス意識の向上にもつながります。

制度改正へのモニタリング体制

海外の法制度は流動的な国も多く、外資規制も例外ではありません。制度改正や審査基準の見直しが行われる際には速やかに社内で情報共有し、必要に応じて出資構成や契約内容を再検討する柔軟性が求められます。

さらに、外資規制は他の法制度(競争法や税制、ライセンス制度など)と関連することもあるため、制度全体を見渡した総合的なリスク管理が必要です。

(まとめ)

外資規制は、海外進出を検討する企業にとって、事業の可否やスキーム設計に直接影響する極めて重要な制度です。単に出資比率の制限にとどまらず、経営支配の実態や契約内容、法改正の動向まで視野に入れる必要があります。

海外進出を成功させるためには、制度理解を基盤とした事前調査、社内体制の整備、そして継続的なモニタリングと対応力の強化が欠かせません。外資規制を「前提条件」として捉え、海外進出時のリスク管理を万全なものにし、戦略的に対応することが企業の持続的成長の鍵となるでしょう。

東京都が主催する「X-HUB TOKYO」は、都内スタートアップの海外進出を支援しています。海外市場攻略に必要な情報提供や現地VC・大企業とのネットワーク構築、メンタリングなどを通じて、グローバル展開を多角的にサポートします。詳しい情報やプログラムへの参加を希望される方は、ぜひ「X-HUB TOKYO」の最新イベント情報をチェックしてください。

【この記事の執筆】

hawaiiwater

「X-HUB TOKYO」Webマガジン編集部

この記事は、東京都主催の海外進出支援プログラム「X-HUB TOKYO」の編集部が監修しており、スタートアップの海外進出に関して役立つ情報発信を目指しています。

「X-HUB TOKYO」について詳しくはこちら