誰もが知っている世界的大国である中国。中国はその成長力によってアジアをけん引してきました。これまで中国が成長してきた背景には中国が持つ国力があります。中国経済が発展してきた理由、そして中国経済の今後の見通しについて解説します。

中国経済の高度成長を振り返る

中国の高度成長は決して最近のものではありません。まずは中華人民共和国が発足したころからみていきましょう。

南巡講話をきっかけに経済が成長

中華人民共和国発足時、中国は平均6.9%以上の成長率をキープしていました。しかし、それは安定的な成長ではなく、20%以上成長する時もあれば大きなマイナス成長になってしまうこともありました。

変化したのは1970年代後半でした。とくに1990年代からの急速な中国の経済成長は、1992年に改革・開放の促進を号令した南巡講話によって本格化したといわれています。鄧小平は湖北省、広東省、上海市を約1カ月かけて視察し、各地で改革開放を呼びかけました。このことで農村部から都市に人口が流入し、後の工業大国への進展を支えました。

市場経済のグローバル化

南巡講話をきっかけに、市場経済のグローバル化が進みました。華僑資本や外資を活用することですぐに頭角を現したのが製造業やサービス業です。WTOへも加盟をしたことで中国は世界の工場としての役割を担うようになりました。1992年からの30年ほどで米中貿易総額は200倍に拡大したのです。

中国が外貨準備高世界一になった背景

世界一の外貨準備高

中国の外貨準備高は2024年8月時点で3兆2,880億ドルです。これは2位の日本の外貨準備高1兆2,357億ドル(2024年8月末)を大きく引き離して世界一の数字です。

この外貨を稼いでいるのが中国の工場群です。中国からの輸出を決済する場合必ず国外から外貨を送金することになります。つまり、中国では国外向けの商品を製造すればするほど、外貨として還元されるという仕組みでした。

とくに途上国にとっては国際貿易をスムーズにおこなうために、ある程度の外貨準備高を蓄えておくことが重要であるといわれています。しかし、中国では外貨準備高が多い一方で対外債務も膨れ上がり、問題視する声が上がるようになりました。

また、為替相場も無視することができない要素です。GDPの計算はドルベースでおこなわれます。中国人民銀行は人民元のレートが安くなると外貨準備高として保有している外貨を売って、人民元を買ってレートを支えることになります。

この結果、2014年には4兆ドル近くあった外貨準備高が2024年には3兆2000億ドルほどに減少しました。今後また人民元が安くなれば、外貨準備高にも変動が起きることが予想されます。

中国の成長を支えた人口という財産

中国の成長を支えた人口という財産
2013年が生産年齢人口のピーク

中国の高度成長を支えたのは世界一の人口です。南巡講話では農村部の安価な労働力が都市部に移動することで工業の発展、サービス業の成長を支えました。人口の増加が経済成長を支えていたといえるでしょう。

しかし、残念ながら2013年をピークに生産年齢人口は減少に転じています。生産年齢人口が増えることによって労働力の増加や消費の拡大につながるため、経済成長率の推移とも連動しています。

日本の生産年齢人口は16歳から64歳ですが、中国では15歳から59歳までです。中国の生産年齢人口は2013年の10億1,041万人をピークに、2022年には9億8,430万人となりました。 国連の「世界人口統計2022」によると、2040年に8億6,663万人、2050年には7億6,737万人にまで低下すると予測されており、中国経済の先行きを不安視する要素でもあります。

一人っ子政策の影響

2013年からの生産年齢人口の減少は、一人っ子政策による影響が大きいでしょう。中国は2015年に一人っ子政策を廃止しましたが、生産年齢人口への影響は時間をおいてあらわれます。1979年から36年間続いた人口抑制策が社会に与えた影響は甚大です。少子高齢化によって経済の支え手が少なくなることは避けられません。

今まで世界の工場として存在感を発揮してきた中国ですが、生産年齢人口の減少、人件費の増加によって、その戦略は転機を迎えました。生産年齢人口の減少を反映して人件費は上昇し、世界の工場である競争力を維持することに課題を抱えています。

中国経済の今後

最後に中国経済の今後について、具体的な数字でみていきましょう。

不安定な経済状況が続く

中国の経済状況は、不動産価格の下落や若年失業率の増加、節約志向の高まりから消費低迷が続くなど、2024年に入っても不安定な状態が続いています。中国内の主要70都市の住宅平均価格を見てみると、2022年1月~2024年9月の間で新築が7.9%、中古が14.2%下落するなど、不動産不況が長期化しています。

国家統計局の発表によると、2024年1月~9月の実質GDP成長率は前年同期比4.8%となりました。政府の成長率目標である5.0%前後に対して、達成が危ぶまれる状況です。この状況を打開するため、中国政府は2024年9月下旬以降、さまざまな景気刺激策を発表しています。

具体的には、金融緩和や不動産対策、株価対策や特別国債の発行による景気の下支えなどが挙げられます。注目されるのは、2軒目の住宅購入時の頭金比率を引き下げた政策で、全国水準は1軒目が15%、2軒目が25%となりました。

中国経済の減速と「新質生産力」政策

中国の経済成長率は2023年に5.2%を達成したものの、2024年は4%台前半に低下する見込みです。背景には、2022年頃から深刻化した不動産不況があります。しかし、中国経済の減速は近年だけの問題ではありません。2010年頃から成長率は低下傾向へと変わり、農村部の余剰労働力の枯渇や賃金上昇が要因として挙げられます。

さらに2022年からは61年ぶりとなる人口減少が始まり、少子化が想定以上のペースで進んでいます。国連によると、中国の人口は2100年には2024年と比較し、55.4%減少する可能性があると試算されています。加えて、アメリカとの貿易摩擦激化や中国政府の安全保障重視の姿勢も、経済低迷を助長しています。

世界経済における中国とアメリカのバランスも変化をみせています。英シンクタンクの経済ビジネスリサーチセンター(CEBR)による2020年末時点の予測では、2028年には中国のGDPがアメリカを追い抜くとされていました。しかし 2023年末の同予測では、2038年と予測しており、中国とアメリカのGDPの逆転は遠のきつつあります。

一方で、政府による経済政策と外需が経済の下支えに貢献しています。中国政府は「高度な技術」「高効率」「高品質」という特徴を備えた先進的な生産力のことを指す「新質生産力」というキーワードを掲げ、ハイテク産業の振興や設備更新投資の支援策を実施しています。

また経済対策強化のため、2024年から新たに超長期特別国債の発行を進めています。外需については、「シリコンサイクル」と呼ばれる半導体産業の景気変動サイクルの改善により電気・電子製品の輸出が好調となり、また電気自動車(EV)や鉄鋼などの低価格輸出が急増しています。

今後の展望とリスク

国際通貨基金(IMF)の「世界経済見通し」によると、中国の実質GDP成長率は2024年が前年比+4.8%、2025年が同+4.5%と予想されています。2024年は政策効果により公共投資や設備投資が堅調に推移すると見込まれますが、不動産デベロッパーの経営不振により不動産不況の改善は期待できず、下半期には外需の減速も予想されます。2025年に入っても、不動産デベロッパーの資金繰りの悪化や消費者からの信頼低下が続き、不動産市場の低迷が経済成長の足かせとなる可能性があります。

中国政府は2024年10月、経済の持続的な回復と内需拡大を目指し、不動産市場の安定化や企業支援を強化すると表明しました。消費の拡大に向けた関連政策も強化し、介護・保育などのサービス消費の拡大にも注力する方針です。

しかし、今後の中国経済には、国内では不動産市場のさらなる悪化や地方政府の財政悪化、国外では地政学的リスクなど、複数のリスクが潜んでいます。中でも、2024年11月の米国大統領選挙でトランプ前大統領が再選したことで、中国製品への追加関税が課される可能性があり、中国経済に大きな打撃を与えることが懸念されます。米中関係の動向は、企業の海外進出や海外展開戦略に大きな影響を与えるため、今後も注視していく必要があるでしょう。

まとめ

中国は1970年代後半から急速な経済成長を遂げ、とくに1992年の南巡講話以降、改革開放政策により世界の工場としての地位を確立しました⁠。しかし、近年は不動産不況や人口減少などの課題に直面しています⁠。2024年の実質GDP成長率は4%台に落ち込む見込みで、政府目標の5.0%達成が危ぶまれる状況です⁠。

中国政府は景気刺激策を実施していますが、米中貿易摩擦や地政学的リスクなどの不確実性は高まっています⁠。それでも世界経済において中国の存在感は引き続き強く、経済政策や今後の動向に注目しておきましょう。

出典:
・ジェトロ(日本貿易振興機構)
ビジネス短信添付資料「主要マクロ経済指標」
広州市と深セン市、個人住宅ローンの最低頭金比率を引き下げ
低迷する消費、政府は設備投資・買い替え促進を中心に喚起
2025年の中央政府予算内の1,000億元を前倒し支出、内需拡大へ
・国際通貨基金(IMF)
「2024年4月IMF世界経済見通し」
「2024年10月IMF世界経済見通し」
・経済産業省「第Ⅰ部 第2章 各国・地域経済の動向」
・国連「世界人口推計2024」
・英国経済ビジネスリサーチセンター(CEBR)「世界経済リーグ・テーブル2024(WORLD ECONOMIC LEAGUE TABLE 2024)」

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「X-HUB TOKYO」Webマガジン編集部

この記事は、東京都主催の海外進出支援プログラム「X-HUB TOKYO」の編集部が監修しており、スタートアップの海外進出に関して役立つ情報発信を目指しています。

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