イギリスはEU離脱後もなお、その地理的優位性や豊富な人材、そして活発なスタートアップエコシステムなど、多くの魅力を備えた進出先として注目されています。しかし、イギリスの法人税制は日本とは異なり、税率や納付方法など複雑な点も多いため、進出前に十分な準備が必要です。

本記事では、イギリス法人税の基礎知識から具体的な手続き、二国間条約や優遇措置について網羅的に解説します。

イギリスの法人税

イギリスで事業を行う企業にとって、法人税は重要な要素です。 まずは、イギリスの法人税の基本的な仕組み、税率、納税対象者、課税対象となる所得について解説します。

法人税率

2023年4月1日以降、以下の法人税率が適用されています。

  • 課税所得が5万ポンド以下の法人: 19%
  • 課税所得が5万ポンドを超え25万ポンド以下の法人: 25%(一定の減額措置あり)
  • 課税所得が25万ポンドを超える法人: 25%

ただし、特定の業界の企業には、追加・個別税率が適用される場合があります。例えば、銀行の利益には、3%の追加賦課金が課されます。

納税対象者

英国法人

英国に法人を設立している企業、管理支配地が英国である法人、有限責任パートナーシップ、その他法人格を有する団体は、国籍を問わず英国法人税の納税義務があります。

外国法人

英国に支店や営業所を設けて事業を行っている外国法人も、英国における事業所得に対して法人税が課されます。具体的には、英国に恒久的施設(Permanent Establishment)を有する場合や、英国で事業活動を行う代理人をおく場合などが該当します。

課税対象

イギリスの法人税は世界所得課税を採用しており、イギリス国内外の所得が課税対象となります。課税所得は、企業の収益から経費を差し引いた金額で算出されます。

国内所得

イギリス国内で発生した所得(売上高、不動産収入、国内株式の配当金など)

国外所得

イギリス国外で発生した所得(海外の支店からの配当、海外不動産収入、海外子会社の配当金など)

外国法人がイギリスに営業所や支店を設けている場合、その営業所から得た所得についてもイギリス法人税が課されます。課税対象には、イギリス国内で発生した所得だけでなく、関連する国外所得も含まれます。

法人税納付の申告・納付手続き

ここでは、法人税の申告から納付までの手続きについて解説します。スムーズな納税を行うために、それぞれの項目をしっかりと確認しましょう。

課税期間

法人税は会計年度に基づいており、一般的には4月1日から翌年3月31日までとなります。ただし、企業は独自の会計年度を設定することも可能です。

税務申告書の提出

提出期限

課税期間終了後、12か月以内に提出が必要です。

提出方法

HMRC(イギリスの歳入税関庁)のオンラインサービスを利用した電子申告が推奨されます。

申告内容

売上高、配当、利子、不動産収入などの収入、経費、資産、負債など会社の債務状況に関する詳細な情報を記載します。

納付

納付期限

課税期間終了後、9か月と1日以内に納付する必要があります。大企業については、分割納付が求められる場合があります。

納付方法

オンラインバンキング、クレジットカード、小切手、銀行振込などの方法があります。

分割納付

年間の納税額が一定額を超える場合は、分割納付が義務付けられます。年間課税所得が150万ポンドを超え2,000万ポンド以下の大企業は、課税期間が開始してから7、10、13、16か月目に分割納付が必要です。

年間課税所得が2,000万ポンドを超える場合は、課税期間開始後3、6、9、12か月目に分割納付を行わなければなりません。

延滞税

納付期限を過ぎた場合、未納税額と延滞日数に応じて延滞税が課されます。延滞税の利率は、HMRC(イギリスの歳入税関庁)が定期的に見直します。

時効

原則として課税期間終了から4年です。ただし、納税者の不注意による場合は6年、故意の場合は20年となります。

二国間租税条約と各種優遇措置

イギリス政府は、企業の投資や雇用創出を促進するため、さまざまな優遇措置を設けています。また、日本との間には二国間租税条約が締結されており、二重課税を回避し、投資を促進するための措置が講じられています。

二国間租税条約

日本とイギリスの間には、所得に対する二重課税の防止に関する条約が締結されています。この条約により、企業の所得に対する課税は日本とイギリスのいずれか一方の国でのみ行われ、国際的な事業活動を円滑に進めることができます。

例えば、日本企業がイギリスで得た配当所得は日本においては非課税となり、イギリスでのみ課税されます。この条約は、法人税にだけでなく、所得税、相続税、贈与税などにも適用され、租税回避行為を防ぐための規定も含まれています。

研究開発税額控除

企業が支出する適格な研究開発費の一部を税額から控除できる制度です。新規製品やプロセスの開発、既存製品やプロセスの改良など、技術的な課題解決のための活動が対象となります。控除率は企業規模や研究開発の種類によって異なります。

適格研究開発費として認められるのは、基準を満たした研究開発費用です。これには人件費、材料費、治験参加者への謝礼、光熱費等、ソフトウェア(ライセンス購読料含む)、その他適格と認められた間接費(外部研究委託費含む)が含まれます。控除を受けるにはHMRC(イギリスの歳入税関庁)への申請が必要です。

パテント・ボックス

イギリスもしくは欧州の特許権や特定の種類の適格知的財産(IP)に基づく所得に対して、通常の法人所得税率ではなく10%の低い税率が適用される優遇措置です。この制度は、特許などを活用した研究開発に積極的に取り組む企業を対象としています。

適用対象となる権利には特許権、補充的保護証明書(特許期間の延長)、医薬品、動物用医薬品、植物保護製品の規制上のデータ保護、および植物品種権などが含まれます。

その他の優遇措置

フリーポート

特定地域に設置された自由貿易地域で、関税やその他の貿易制限が免除されるなど、さまざまな税制上の優遇措置が適用される区域です。主な優遇内容には、関税の免除・軽減、VAT(付加価値税)の優遇措置、印紙税の免除、事業用不動産税の軽減などがあります。

インベストメント・ゾーン

インベストメント・ゾーンとは、企業の投資を促進するために指定された特定地域です。法人税の減税、事業用不動産税の軽減、インフラ整備支援などの優遇措置が提供されます。

まとめ

イギリスの法人税率は、日本と比較して比較的低い水準に設定されています。ただし、実際の税率は企業の規模、業種、年度の税制改正によっても変動することがあり、各企業の状況により異なります。さらに、法人税だけでなく、VAT(付加価値税)や地方税、社会保険料なども考慮が必要です。イギリス進出を検討する際は、最新の税制情報を把握し、必要に応じて税理士などの専門家にご相談ください。

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(本記事の内容は、2025年2月22日時点の情報に基づいています。最新の情報については、税務当局のウェブサイトなどの関係機関や、税理士などの専門家にご確認ください。)

出典:
経済産業省「各国・地域の税制概要とホットトピックス 英国」
日本貿易振興機構(ジェトロ)英国「税制」
日本貿易振興機構(ジェトロ)英国「英国会計・税務ガイドブック」

【この記事の執筆】

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「X-HUB TOKYO」Webマガジン編集部

この記事は、東京都主催の海外進出支援プログラム「X-HUB TOKYO」の編集部が監修しており、スタートアップの海外進出に関して役立つ情報発信を目指しています。

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