経済格差の大きさによって消費市場の様相も変わります。これから海外進出を目指す企業にとってその国の中間層の厚みはとても大きなポイントとなるでしょう。コロナ禍で加速したアメリカの経済格差とその原因をまとめました。

アメリカの経済格差

アメリカといえば市場原理主義の国というイメージは多くの人が持っているでしょう。市場原理主義とは小さな政府を推進して、個人や企業の経済活動の自由を認める立場をいいます。市場原理主義では、政府は市場や個人の行動への介入を基本的に避けます。その結果、社会保障制度は最小限、公的医療保険も整備されていないという事態に陥るのです。

アメリカの経済格差は数字にも表れています。OECDの調査によると2018年のアメリカの相対的貧困率は17.8%で、これは世界4位の数字です。世界トップは南アフリカ、2位がコスタリカ、ブラジル、アメリカ、ラトビアと続きます。アメリカは先進国にあって一際高い貧困率といえます。

「相対的貧困率」と「絶対的貧困率」の違い

貧困率とは、どのくらいの割合の人々が貧困状態にあるのかを表す数字ですが、相対的貧困率とは、その国の一定基準(貧困線)を下回る等価可処分所得しか得ていない者の割合をいいます。相対的貧困は、その国や地域の生活水準や文化水準と比較し、大多数よりも生活が困窮している状態を表すため、先進国内の格差の大きさとしても見ることができます。

それに比べ絶対的貧困率とは、その国や地域の生活レベルとは関係なく、人間として必要最低限の生存条件が満たされていない状態の割合を示します。わたしたちが「貧困」と聞いてイメージするのは、こちらの貧困が一般的かもしれません。絶対的貧困は発展途上国に集中をしているため、国単体の問題ではなく、国際社会として取り組むべき課題といえるでしょう。

参考:グローバルノート
世界の貧困率国別ランキング・推移

アメリカの社会保障が整備されていない理由

アメリカは先進国の中で唯一公的な国民皆保険制度が無かった国です。医療費も高く、高齢者向け、低所得者向けの公的医療保険があるものの、医療保険市場のメインは民間の医療保険となっています。

アメリカの医療費はインフレ率以上の上昇を続け、それに追従して保険料も値上がりしました。貧困層にとって保険料の負担は大きく、人口の約15%に相当する約4,900万人の無保険者が生まれています。

福祉予算を削る背景には、福祉に頼るよりも自分で働いて道を開くべきというような考え方もあります。しかし、アメリカの雇用率は長期的に低い状態で、これから単純労働はますますオートメーション化されていくでしょう。

オバマ元大統領によるアメリカの医療保障制度改革

オバマケアとアメリカの医療制度改革

アメリカの高い貧困率を背景に生まれたのが医療保険制度改革法、通称オバマケアです。これはオバマ大統領が公約として掲げていた無保険者の医療保険への加入を促し、医療の質をキープするための制度です。

医療保険への加入を義務付けることは個人の意思を尊重していないといった批判はあったものの、2010年に制定されてから段階的に導入が進みました。このことによって医療保険に加入できなかった個人や中小企業が、手軽な民間の医療保険に加入できるようになったのです。

歴史的な医療保険制度改革法が制定されることで、医療保険加入者は順調に増加、無保険者率が確実に低下しています。また、医療費の伸びも以前よりも抑えた水準で推移しています。医療費の伸びを抑制することで医療費に使われなかった資力があまり、生活水準の向上が期待できます。また、雇用主が払う保険料の伸びも抑えられるため、雇用の促進や投資など経済面でもプラスが期待されます。

アメリカでは新型コロナウイルス感染拡大により、貧困層では高額な医療費を払えず自己破産に至るケースや、無保険者が医療サービスを受けられないという問題が大きな社会問題へと発展しています。

バイデン大統領は2021年1月末、医療保険の加入要件を緩和する大統領令に署名をしました。医療保険制度を厳しく運用してきたトランプ政権から方針転換し、トランプ政権前の医療制度を取り戻すと述べているため、今後は医療保険の拡充、より積極的な支援が期待されています。

コロナ禍でさらに拡大する格差

アメリカの経済格差は、コロナ禍でさらに深刻化しています。アメリカ国内の感染者数は人口の約12%、死者数は67万人を超え、死者数が約100年前のスペイン風邪を上回ったと報道されました。

コロナ禍では、飲食やスーパーマーケットなどの小売・流通業、食品や生活品工場、農作業の労働者などが大きな打撃を受けました。リモートワークが出来ない業種では、労働者の多くが職を失い、もしくは感染の可能性がありながら出社をするという厳しい状況が続きました。ワクチン接種が進み失業率は徐々に減少傾向にあるものの、再就職の目処がつかない人も多くいるのが現状です。

それでもパンデミックで困窮する低所得者層を横目に、株などを保有する富裕層・超富裕層は米国株が上昇傾向にあったことで資産価値が増え、国内での所得格差がさらに広がっているのです。

アメリカでの格差が大きい理由の一つとして、富裕層優遇の所得税制が挙げられます。バイデン政権は、富裕層への大幅な増税を財源とし、育児や教育を支援することで格差是正を目指す、経済政策「米国家族計画」を公表しました。しかし増税への反発も強く、調整の難航や見直しが予想されています。

まとめ

アメリカでは一部の富裕層に富が集中し、さらには新型コロナウイルスの拡大により大きな経済格差が生じています。しかし、所得格差が大きくなれば、政治や教育などでも差が大きくなりアメリカが掲げる民主主義をも脅かすことになるでしょう。今後はバイデン政権が提案した、富裕層への増税による格差是正への新構想の行方にも注目です。

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