日々新しい価値や技術を生み出し続けている、米国のシリコンバレー。世界中でスタートアップ(SU)エコシステムが形成されている一方で、同エリアは現在もなお投資家や優秀な人材を引きつけながら数多くのスタートアップやユニコーンを輩出しています。

新型コロナウイルス感染症の影響で米国内のビジネスシーンにも様々な変化が見られるなか、シリコンバレーのSUエコシステムはどのように進化を遂げているのでしょうか。シリコンバレーの最新トレンドのほか、シリコンバレーを中心に米国全体に広がるSUエコシステムの現在地についてまとめました。

スタートアップエコシステム(SUエコシステム)とは

SUエコシステムとは、起業家や起業支援者、企業や大学、そして金融機関や公的機関が結びつきながらスタートアップを次々と生み出し、それらがまた優れた人材や技術、資金を呼び込んで発展を続ける様子を生態系になぞらえたものです。異なる強みをもつプレーヤーが集まり共同体として事業を営むことで、新たな市場の創造にもつながります。

エコシステムの形成には、起業家などの優秀な人材と大学などの教育機関、そして資金(投資家)の3つの要素が欠かせません。

SUエコシステムという言葉はもともと米国のシリコンバレーで誕生しました。しかし現在は米国を飛び出して、世界中の様々な地域にSUエコシステムが広がっています。(SUエコシステムについての詳細はこちらから)

シリコンバレーのSUエコシステムの特徴とは

シリコンバレーとは、カリフォルニアのサンフランシスコベイエリアの南部に位置するサンノゼ、マウンテンビュー、サンタクララ、サンフランシスコなどが集まるエリアの名称です。IT企業や半導体(シリコン)メーカーが多く集積していることから同名称が名付けられ、現地では「ベイエリア」とも呼ばれています。

米国では様々な地域でSUエコシステムが形成されていますが、シリコンバレーは現在もなお、世界中のSUエコシステムの中心地と呼べるほどの求心力を持ちます。世界のトップ10のAI(人工知能)企業のうち、Google(グーグル)やFacebook(フェイスブック)、Apple(アップル)をはじめとした7社がシリコンバレーに拠点を設置。また、グローバルな金融機関がFintechのイノベーションハブを開設するなど、各業界の先端技術も同エリアに集まっています。

スタートアップのデータベースを運営するCB Insightsの「2020年未来のユニコーン50社リスト」によると、リストにランクインした企業の7割が米国発企業という結果が公表されました。また、エリア別で最も多くのユニコーン候補企業を輩出したのはシリコンバレーが位置するカリフォルニア州で、24社がランクインしました。

昨今のシリコンバレーのSUエコシステムの特徴としては、新型コロナウイルス感染症の拡大をきっかけに人々の働き方が変わり、健康や衛生への意識も高まったことで、DX(デジタルトランスフォーメーション)やヘルステック分野が盛り上がりをみせています。ライフサイエンス分野では大規模な投資が続いており、現在は約280万平方メートル規模の研究所や研究開発スペースの建設が進んでいます。また、2020年にライフサイエンス業界に投入された公的および民間の資本は約700億ドルで、2021年は約900億ドルにまで成長すると予想されています。同エリアに拠点をおくフィンランド発のヘルスケアスタートアップは、2021年までに100億円以上の投資を成功させました。

シリコンバレーではポストコロナに向けた動きも顕著です。その一例として、オフィス需要の回復傾向が見られています。2021年5月にはアップル社が同エリア内のサニーベールに3000人分のスペースを増強。NetApp(ネットアップ)はグローバル本社を同エリア内のサンタナロウに移転し、大規模拠点の開設を進めています。不動産会社のSavills(サヴィルズ)の調査によると、2021年の第二四半期の同エリアのテナントの平均賃料は1平方フィートあたり月額5.32ドルと、同年前期と比べて約2%上昇しました。

教育機関や投資家、そして優秀な人材が集積していることはもちろん、シリコンバレーには起業家や投資家がビジネスの手法や文化を口頭で伝える伝統が残っており、同エリアでしか得られない経験があることも魅力の一つです。また、シリアルアントレプレナ(連続起業家)も多く、成功した起業家が新たな起業家の支援(エンジェル投資やメンター)にまわる例も多いとされています。

シリコンバレーを中心に広がる、新たなSUエコシステム形成の波

シリコンバレーを中心に、米国内では様々な地域で新たなSUエコシステムが形成されつつあります。ここでは3つのエリアをご紹介します。

オースティン(テキサス州)

近年「次世代のシリコンバレー」として人気の高まりをみせているのが、南部テキサス州の州都オースティンです。同エリアは生活費が安価で豊かな自然に恵まれており、のびのびとビジネスができる環境と定評があります。2020年12月には、TSLA(テスラ)代表のイーロン・マスク市が移住を公表。Oracle(オラクル)も本社を同市に移転しました。テキサス州には個人所得税が設けられておらず、所得に対する課税は連邦税のみという特徴も起業家たちを引きつける要素の一つになっています。

ヒューストン(テキサス州)

世界最大規模の医療施設群テキサス・メディカル・センター(TMC)や米航空宇宙局(NASA)ジョンソン宇宙センターのほか、エネルギー業界の大手エクソンモービルなどが位置するヒューストン。同エリアにはヘルスケアやAI(人工知能)、ビッグデータ分析に強みをもつスタートアップが集まり始めています。ハードウェア製造を手がけるヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)は、本社を同市に移転する方針を打ち出しました。

リサーチ・トライアングル・リージョン(ノースカロライナ州)

ノースカロライナ州に位置するリサーチ・トライアングル・リージョン(チャペルヒル、ダーラムなどで構成された都市圏)には、東海岸有数の大学や研究機関が集まり、地域一帯に大手企業からスタートアップまでハイテク産業が集積しています。Appleは今後、同エリアに10億ドル以上を投資し新たなキャンパス兼エンジニアリング拠点の建設を開始すると発表しました。

まとめ

シリコンバレーには投資家や教育・研究機関だけでなく、ビジネスシーンにおいて圧倒的な存在感を放つ企業が集積し、SUエコシステムが形成されています。日本から海外、そして世界への展開を見据える企業やスタートアップにとって、シリコンバレーは魅力的な海外進出先の一つと呼べるでしょう。

都内スタートアップの海外進出をサポートする「X-HUB TOKYO」では、日本のスタートアップや企業が海外に進出する際の戦略の描き方のヒントや、世界のSUエコシステムの最新情報をオンラインで発信するイベントを随時開催しています。イベント情報をチェックして、海外展開に向けた第一歩を踏み出してみましょう。

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