かつて世界の工場として名を馳せた中国は現在、消費大国として存在感を増しています。しかし、中国は経済格差が拡大しており、社会問題ともなっています。中国経済の課題ともいえる格差の原因についてまとめました。

「爆買い」からは見えてこない中国国内の格差

「爆買い」はごく一部の富裕層

有名ホテルや観光地などでは頻繁に中国人観光客を見かけます。さらに2015年頃からは中国人観光客がツアーで日本に訪れて商品を買いこむ「爆買い」を多くのメディアが取り上げました。2015年の流行語大賞の年間対象に選出されたことも記憶に新しいでしょう。

とくに春節の期間中は日本で多くの消費をしていて、日本企業にとっては大きなビジネスチャンスとなっています。爆買いをする理由としては、中国の税制では日本製品を中国で買うよりも、日本で買って持ち帰ったほうが安くなることがあるからです。

また家族や親族とのつながりが深い中国は、化粧品や食品などを大量に買いこんでお土産として渡す目的もあると言われています。しかし、しここまで旺盛な消費をしている中国人は14億人以上いる人口の中でもごく一部です。

中国の富裕層は総人口の0.3%

2019年の調査結果によると、中国の富裕層(100万米ドル以上の資産を保有する富裕層の人数)が、アメリカの人数を初めて上回ったといい、この富裕層の数は約420万人と推定されています。かたや14億人のうちの約6億人は、可処分所得を除いた月収が1000元(約1万5650円)という低所得で暮らしており、これは全人口の約42%をも占めているのです。

都市部の住民と農村部の住民との所得比は全国平均で3倍、もしくはそれ以上とも計算されています。富裕層は海外のブランド品を購入し、海外旅行をする経済的余裕がある一方で、農業では生活するだけの所得しか稼げないというのが現状です。

都市圏から離れた農村部は交通インフラも整備されず、多くの不便を抱えています。モノが不足しているため格差は加速する傾向にあり、さらに農村部から都市部に出ようとしても制度上の制約が存在します。こうした複合的な要因によって貧困層が多い地区では社会的なトラブルも発生しているのです。

中国の経済成長を進めた「改革開放」と不動産バブル

共産圏で格差が生まれる原因

中国は歴史がある社会主義国家です。社会主義とは、国民が協力して労働して得た利益を国が配分し、経済的に平等な社会を築き上げることを理念としています。ただし中国の経済体制は、政治的には社会主義を維持しながら市場経済を導入するという「社会主義市場経済」が採用されています。

鄧小平氏が提示した「先富論」

経済発展を重視する鄧小平氏が主権を握った1978 年から「改革開放」政策が始まりました。国土が広く人口の多い中国では国内を一度に豊かにすることは難しいと考え、沿岸部などの豊かになれる条件を持った地域から発展させ、その後に内陸部へ開発を進めていくという「先富論」を打ち出したのです。

この政策によって作られたのが沿岸部の経済特区や経済技術開発区です。中国は経済特区を設けることで外国資本や外国の先進技術に取り込もうとしました。また外国企業にとっても、労働力が安価で税制面でも優遇措置のある中国に進出することは経済合理性のある投資だったといえます。

沿海部に経済特区が設けられたのも、原材料や製品の輸送に利便性があったからです。このことによって中国の工業は沿海部の都市を中心に発展しました。その結果、急速に都市化が進み、住民の生活水準も向上しました。いまや中国のシリコンバレーと呼ばれ、上海や北京と並ぶ大都市となった深センは経済発展の象徴ともといえるでしょう。

不動産バブルによる格差拡大

現在の中国は、国有企業と民間企業が混在しています。1998年の「住宅制度改革」により、国有企業が福利厚生として行っていた「住宅実物分配」を禁止し、従業員へ住宅補助の一時金や積立金制度を導入するという「貨幣配分」へと方針転換されました。

住宅市場は活性化し、結婚時には男性が家を用意するという中国の慣習もあり、個人によるマイホーム購入が進みました。中国では住居は投資の対象であり、財産を増やすための手段として認識されています。そのため富裕層の多くは投資対象として不動産を購入し、中国の不動産価格は一気に高騰したのです。

住宅価格が上昇したことでマンションや不動産を保有していた富裕層の多くは、その資産価値が膨れ上がり膨大な利益を得ました。そこで得た利益を次の不動産投資に充てるという、まさに不動産バブルを形成し、中国の経済格差はさらに広がりました。

西部大開発

経済発展が加速する一方、内陸部や農村部との広がる経済格差について、中国では沿海部の都市と内陸部の農村の格差を解消するべく「西部大開発」というプロジェクトを推進しました。

これは内陸に位置する12の省・市・自治区を西部地域として指定し、鉄道・道路・空港や工業団地などのインフラ整備を行うものです。また、エネルギー資源を開発して沿海部に供給する目的もありました。この西部大開発によって新しい雇用が生まれるなど期待が寄せられています。

格差の遠因となる農村戸籍の廃止

都市部と農村部の格差の象徴ともいえるのが中国の戸籍制度です。中国の戸籍は、農村戸籍と都市戸籍に分けられていて、農村戸籍は都市戸籍と比較して職業面や教育面などで制約が設けられています。

この所得格差への是正を目的に、2014年からスタートしたのが戸籍制度改革です。政府は、戸籍制度改革によって最終的に全国民の戸籍を都市戸籍にするという方針を示しました。その後2020年までに達成すると表明していた「1億人の農民工へ都市戸籍を与える」という目標も順調に実現しています。

この戸籍制度改革は一定の成果が期待されているものの、中国の抱えている格差問題はこれで解消するとは断定できません。戸籍面での格差がなくなったとしても、都市部に出稼ぎにきた農民工が低賃金で、都市部のホワイトカラーが高収入であることに変わりはありません。

また、都市部で働きやすくなるということは、農村では急激に過疎化するリスクも秘めています。戸籍制度改革だけでなく所得自体の拡大も格差是正には欠かせません。

習近平政権が掲げたスローガン「共同富裕」

習近平国家主席は2021年の7月、「小康社会の建設を全面的に実現させ、絶対的貧困という問題を歴史的に解決した」と宣言しました。そして8月には、「共同富裕」というスローガンを大々的に掲げたのです。

小康社会とは

中国を経済大国へと導いた鄧小平氏は、経済発展の段階的目標として「小康社会」という概念を全面的に打ち出しました。これは中国の近代化を実現するために必ず通過しなくてはいけない目標です。

中国でいう「小康」とは、もともと儒教の経典「礼記(らいき)」に由来しており、ユートピアに近い理想社会である「大同」とは対照的に、優れた為政者が治め社会秩序が安定している現実社会のことを指していました。その意味が時代とともに少しずつ変化し、今日では「衣食が充分に満ち足りて、経済的にゆとりがある家庭」として認識されています。

小康社会から共同富裕へ

達成したと宣言された「小康社会」の次なる目標として示されたのが「共同富裕」です。共同富裕とは、貧富の差を縮小して社会全体が豊かになる、つまり格差是正のことを指しています。これは文化大革命を発動した毛沢東が初めて提唱した概念でもあります。

習近平国家主席は共同富裕を実現させるための具体的な政策として、「三次分配」という方法を提唱しました。企業から労働者へ給与など経済や市場メカニズムによる第1次分配、低所得者へ社会保障や税金による第2次分配、高所得者からの寄付や慈善事業による第3次分配が示されました。この報酬・税制・寄付の3つの分野を通じて、所得の再分配を促します。

3次分配にあたる大企業や富裕層に対しての要請により、アリババやテンセントなどの巨大IT企業から、寄付や社会問題解決に向けた投資を行うという発表が相次ぎました。富裕層から富の再分配が進むことで、中所得者層の規模が厚みを増すこと、低所得者層の収入が上がることなどが期待されています。

教育レベルの改善や富裕層でなければアクセスできなかった公共サービスなど、不均衡な発展を是正するため、共同富裕は段階を踏みながら促進し2050年頃までの実現を目指しています。世界各地で課題となっている経済格差について、中国の政策がどのような効果をもたらすのかその行方に注目です。

まとめ

中国経済は、世界経済にも大きな影響を与えます。中国での失業率上昇等によって経済が低迷すれば、世界にとっても大きな問題となるでしょう。中国の動向は、海外からの関心も高いトピックです。今後も変革が予想される地方の動向を注視しておきましょう。

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hawaiiwater

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