輸出還付金制度は、海外へ製品やサービスを輸出する企業の税負担を軽減し、事業の効率化を図るうえでも重要な制度です。ただし、輸出還付金制度を受けるためには、さまざまな条件や手続きが必要となります。

この記事では、輸出還付金とは何か、どのようなメリットがあるのか、そして手続きの流れや注意点について解説します。海外進出を円滑に進めるために、輸出還付金制度を効果的に活用できるよう、必要な知識を事前に習得しましょう。

輸出還付金とは

輸出還付金の制度を理解することは、企業が海外市場での競争を有利に進めるための鍵となります。この制度がどのように機能し、どのようなメリットがあるのかを確認していきましょう。

輸出還付金とは

海外に商品を輸出する際に、輸出企業は国内で仕入れた原材料や製造費用に対して消費税を支払います。しかし、輸出商品は国内で消費されないため、本来消費税はかかりません。

そこで、輸出事業者が既に支払った消費税を国から還付してもらえるのが「輸出還付金」です。

還付される税金の種類

国内で仕入れた原材料や製品にかかった消費税が主な還付対象です。商品などの棚卸資産の購入代金のほか、その輸出事業のために支出した諸経費(事務用品の購入や交際費、広告宣伝費、海外渡航費、展示会出展費用など)も含まれます。

輸出還付金の仕組み

輸出還付金の仕組みを理解するには、まず消費税の基本を押さえましょう。消費税は、事業者が売上時に顧客から預かる「預かり消費税」と、仕入れ時に取引先に支払う「支払い消費税」の差額を国に納めるものです。

輸出取引の場合、「預かり消費税」は発生しません。理由は、輸出は国外での消費とみなされ、日本の消費税法では課税対象とならないからです。

一方で「支払い消費税」は、輸出事業者が国内で仕入れた原材料や製品、経費などに関連して既に支払っているものです。通常は「預かり消費税」から控除することで差し引かれる「支払い消費税」分は、輸出還付金制度を使うことで還付として受け取れます。

輸出還付金を受けるメリット

輸出還付金制度は、企業が海外市場へ進出する際の後押しとなるものです。国内で支払った消費税が還付されることで資金繰りが改善され、その資金を設備投資や研究開発などに活用することで、生産性向上や新製品の開発が可能となります。

結果として国際競争力の強化が図られ、海外事業の拡大につながる可能性が高まります。

輸出還付金を受けるための条件

輸出還付金を受けるための条件を見ていきましょう。

消費税課税事業者であること

消費税の納税義務がある課税事業者である必要があります。原則として、基準期間(前々年)の課税売上高が1,000万円を超える事業者が該当します。

一方で消費税免税事業者は、納税義務がないため対象外です。ただし、本来は免税事業者であっても、税務署に「消費税課税事業者選択届出書」を提出することで課税事業者を選択した場合には、輸出還付金制度を利用することができます。

輸出取引であること

国内で生産された商品・サービスを海外へ販売する取引の場合、消費税が免除されます。輸出免税の適用を受けるためには、証明書(輸出証明書、納品書、領収書など)が必要です。

輸出免税を受けられる輸出取引には、日本国内から海外へ直接輸出する場合が該当します。間接輸出と呼ばれる、国内の輸出事業者に製品を販売し、その製品が海外へ輸出される取引の場合は該当しないため注意してください。

消費税額の計算と申告

消費税の確定申告を行う際に、輸出にかかわる消費税額と仕入税額控除額を申告しなくてはなりません。仕入税額控除とは、輸出のために購入した原材料やサービスにかかった消費税額を、輸出にかかる消費税額から控除する仕組みです。

なお、消費税の計算方法には一般課税と簡易課税がありますが、簡易課税の場合は還付されません。一般課税は実際の売上高と仕入高に基づいて消費税額を計算する方法で、簡易課税は売上高に「みなし仕入率」を乗じて仕入れ額を計算する方法です。

簡易課税は、中小事業者の事務負担を軽減するために設けられましたが、輸出還付金を受けたい場合は、一般課税を選択する必要があります。

還付手続きの流れ

還付手続きは以下の流れで進めます。

1.申告書の作成
確定申告書や還付申告書など、税務署に提出する書類を作成します。

2.必要書類の添付
申告書に加えて、輸出許可書、領収書といった還付の理由を証明する書類を添付します。

3.税務署へ書類提出
作成した書類を納税地の税務署に提出します。提出方法は税務署へ郵送するか、直接窓口へ提出します。e-Taxを使用した電子申告も可能です。

4.審査
税務署が提出された書類の審査を行い、還付額が確定します。

5.還付金の受け取り
審査結果に基づいて、還付金が指定口座へ振り込まれます。

必要書類・申告期限・申請時の注意点

輸出還付金の申請には多くの書類が必要です。期限や注意点を把握することで、手続きをよりスムーズに進められます。

必要書類

輸出免税を受けるためには、取引が輸出取引であることの証明が必要です。法人か個人事業者か、輸出する商品・サービスの種類、輸出先の国、輸出の目的によって必要な書類は変わります。

一般的に必要な書類の例

・消費税及び地方消費税確定申告書
事業者の基本情報や、計算した消費税額などを記載する書類

・課税売上割合・控除対象仕入額等の計算表
課税売上額や免税売上額などをもとに、課税売上割合などを計算するための書類

・消費税の還付申告に関する明細書
消費税の還付を受ける理由や、仕入れの明細などを記載する書類(法人用と個人事業者用あり)

・その他
輸出許可書、積込承認書または税関の輸出証明書、取引先との契約書、請求書、領収書、インボイス(適格請求書)、輸出貨物の船積書類、運送書類、保険証券、代金決済に関する書類、など

申告期限

申告期限は以下の通りです。

法人の場合

課税期間の末日の翌月から2ヶ月以内

個人事業者の場合

課税期間の翌年3月末日まで

注意点

輸出取引等の区分に応じて輸出許可書、税関長の証明書または輸出の事実を記載した帳簿や書類を整理し、納税地等に7年間保存する必要があります。申請が終わってすぐに破棄しないようにしましょう。

還付までの期間

還付を受けるまでには一定の期間がかかります。e-Taxで申請した場合は約3週間、書面で申請した場合は約1ヶ月~1ヶ月半が目安です。ただし、確定申告期間に該当する2月、3月は申告書の提出が集中するため、通常よりも処理時間が長くなり、還付までに期間を要することがあります。

専門家への相談

輸出還付金の手続きは複雑で、専門的知識を必要とします。税理士などの専門家に相談することで、手続きをスムーズに進めることができます。

まとめ

輸出還付金は、海外へ製品やサービスを輸出する企業の資金繰りの改善や競争力強化につながる重要な制度です。この制度を正しく理解し活用することで、海外進出への大きな後押しとなるでしょう。法人の消費税に関する手続きを円滑に進めるためには、税理士など専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。

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出典:
国税庁「No.6551 輸出取引の免税」
日本貿易振興機構(ジェトロ)「輸出時の消費税:日本」

【この記事の執筆】

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「X-HUB TOKYO」Webマガジン編集部

この記事は、東京都主催の海外進出支援プログラム「X-HUB TOKYO」の編集部が監修しており、スタートアップの海外進出に関して役立つ情報発信を目指しています。

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