海外進出は、企業にとって大きなチャンスとなる一方で、多くのリスクも伴います。その中でも注意すべきは、各国の異なる法律です。法律を適切に理解することは企業の利益を守り、損失を防ぐことにつながります。しかし、進出先の国の法律を完全に把握することは容易ではありません。
本記事では、海外進出を検討している企業に向けて、押さえておきたい法律の基礎知識や、契約交渉のポイント、知的財産権の保護など、海外進出成功のためのヒントを解説します。
海外進出において法律が重要である理由
海外進出は新たな市場を開拓し、企業の成長を加速させる絶好の機会です。しかし、海外でビジネスを展開する場合には各国独自の法規制が存在するため、適切に対応しなければ、企業活動に大きな支障をきたす可能性があります。
例えば、海外の法律を理解せずにビジネスを進めると、さまざまなリスクが伴います。罰金や損害賠償などの法的トラブルに巻き込まれたり、法律違反による事業活動の停止や市場からの撤退を余儀なくされたりするケースも考えられます。
さらに海外の法律に違反した場合には、罰金や損害賠償などの法的責任が発生するだけでなく、企業の信用を失墜させ、ブランドイメージを大きく損なう恐れがあります。そのため、法令順守には細心の注意を払いましょう。
国際取引における準拠法と契約交渉時のポイント
国際取引では、異なる法制度下でビジネスを行うため、契約書にどのような法律を適用するかを定める「準拠法」の選択が重要です。準拠法の選択一つで、企業間の紛争解決の過程や結果が大きく変わることがあります。また、将来のトラブルを未然に防ぐためにも、契約交渉時におけるポイントをあわせて確認しておきましょう。
準拠法とは
準拠法とは、「契約上の権利義務について適用される法律」を指します。国際取引では、一つの国または地域の法律を事前に合意のうえで準拠法として定めなくてはなりません。
これは、契約後に予測できなかったトラブルが発生した場合でも、公平に対処できるようにするためです。どの国・地域の法律を適用するかは、契約交渉の過程で決定します。
準拠法はどのような法的リスクが生じるかを予測する重要な要素となるため、慎重な協議のうえで決定する必要があります。
契約交渉時のポイント
契約交渉の際の5つのポイントとそれぞれの注意点を解説します。
1.事前準備の徹底
交渉の前には、相手方の企業情報や契約内容について十分に調査・準備をしましょう。また、事前に契約書のひな形を作成しておくことも重要です。ひな形があれば、各条項の意義や重要度をあらかじめ整理でき、譲歩可能な部分とそうでない部分の判断が容易になります。
2.相手国の文化や商慣習を尊重
契約交渉時には、取引先の国の文化や商慣習の配慮が欠かせません。国や地域によって交渉の進め方が異なる場合もあるため、事前に調べたうえで契約交渉に臨むようにしましょう。
3.妥協点を探る
契約締結の際は、自社の利益を守りながらも、適切な妥協点を見出すことが円滑な交渉を進めるためには重要です。事前準備で整理した優先事項に基づき、どこを重要視し、どこを妥協できるかを明確にしつつ、相手の立場も考慮して、双方が納得できる合意を目指します。
4.書面で残す
国際取引においては、原則として契約書に明記された内容が全てです。国内取引では口頭や協議での解決が可能な場合もありますが、国境を越えた取引では口頭での合意は証拠能力が弱く、国際的な紛争解決において不利になる可能性があります。そのため、取引に関する重要な内容は必ず書面に明記することを忘れないようにしてください。
5.専門家に相談
法的文書には専門用語や特殊な表現が多く含まれるため、弁護士など専門家のアドバイスやリーガルチェックを必ず受けましょう。契約書の翻訳を依頼する際も、法務知識を持つ翻訳家に依頼するようにします。
知的財産権のリスクと対策・保護の必要性
企業の技術やブランドは、競争力を高めるための重要な要素です。海外での模倣リスクや知的財産権を守るための対策を事前に検討しましょう。
知的財産権侵害のリスクと対策
海外進出の増加に伴い、知的財産権侵害の被害も拡大しており、適切なリスク管理が不可欠となっています。特に一部の国や地域では、日本と比べて模倣品や海賊版の販売、技術の盗用が横行しているところも少なくありません。
自社の知的財産権を守ることはもちろん、第三者の知的財産権の侵害にも注意が必要です。特にアメリカなどでは、日本と比べて知財訴訟の件数が多いといった背景から訴訟に巻き込まれたり、侵害した場合に巨額の損害賠償が発生したりするリスクがあります。
知的財産権を保護するための具体的な対策としては、商標の登録や特許の取得などが挙げられます。さらに、関連企業との守秘義務契約の締結や、従業員への教育も必須です。
知的財産権の保護のカギとなるライセンス契約
ライセンス契約とは、サービスなどの自社の知的財産を第三者が使用することを許可する契約のことを指します。契約を締結する際には、使用許諾の範囲、契約期間、ライセンス料などの使用条件を明確に定めるようにしてください。
海外進出時の税務と労務管理の注意点
海外進出は、企業の成長戦略において重要な選択肢の一つです。税制と労務管理については、企業の収益性や持続的な成長に直接的な影響を与える重要な要素のため、必ず押さえておきましょう。
税制の違い
海外進出において関係する税金は法人税、所得税、消費税などさまざまです。進出先の国によって税率や計算方法も異なるため、課税期間や課税対象などを事前に十分確認することが不可欠です。
・現地法人を設立した場合
現地法人を設立した場合は、現地の法律に則って納税する義務が生じます。また、租税条約への理解も必要となります。租税条約は、二重課税の防止と脱税の抑制を目的とし、所得の帰属、税率、二重課税の調整方法などについて定めています。
・現地法人が日本本社との間で取引を行う場合
海外にある現地法人が日本本社との間で取引を行う場合、移転価格税制の適用対象となります。これは、関係会社間における取引価格の操作を通じた所得移転や租税回避を防止するための制度です。
例えば、日本本社が製造した製品を海外の現地法人に通常価格より安く販売した場合、その取引は現地法人への所得移転を目的とした「移転価格操作」とみなされる可能性があります。所得の計算をする際は、独立した企業間で行われる通常の取引価格(独立企業間価格)に基づいて行う必要があります。
労務管理の注意点
・労働法の違い
厳密には労働法と呼ばれる法律はなく、労働に関するさまざまな法律の総称です。日本では労働基準法、労働組合法、男女雇用機会均等法、最低賃金法などがこれにあたります。
海外の労働法は日本とは大きく異なり、国ごとに独自の特徴があります。例えば、ドイツや韓国、フランスでは解雇に関する規制が日本よりも厳しいため、経営悪化時でも労働者を解雇することが困難となる場合があるのです。また、北欧諸国は労働組合の組織率が高く、労使関係で問題が生じる可能性があります。
・海外で従業員を雇う場合
現地の労働法に基づいて雇用契約を結ぶ必要があります。国によっては現地人の雇用が義務付けられており、その割合に応じて外国人を雇用できる人数が制限されています。
例えばカンボジアの場合、外国人の雇用者数はカンボジア人の10%までと定められています。インドネシアの場合は、現地住民の雇用を優先することが大原則となっており、外国人は特定の役職に限り、特定期間の雇用が認められています。
・日本から現地法人に従業員を派遣・出向させる場合
従業員の派遣・出向には、就労ビザの取得や税金・社会保険の手続きに関する知識が必要となります。従業員が海外勤務により不利益を被らないよう、適切な配慮が大切です。
・文化や言語が異なる従業員を管理する
文化や言語の違いはコミュニケーションの壁となり、意図したことが伝わらず誤解が生じたり、相手の行動を失礼だと感じたりといったさまざまな問題が生じる可能性があります。お互いの文化を尊重することで、信頼関係を築いていくことが必要です。
まとめ
海外進出の成功には、進出先の法律に対する十分な理解が欠かせません。契約交渉では不利な立場に陥らないよう、入念な事前準備をして交渉に臨むことがポイントです。企業の権利を保護することも海外進出では重要になるため、知的財産権にも細心の注意を払うようにしましょう。さらに、企業の持続的な成長に関わる税制や労働に関する法律に関しては、確実な理解が求められます。
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海外進出には多くの準備と知識が必要です。専門家への相談、セミナーへの参加、書籍やオンラインコンテンツの活用など、さまざまな方法で学ぶことができます。X-HUB TOKYO事業のような支援事業も積極的に活用することで、よりスムーズな海外進出が可能になります。ご興味のある方は、「X-HUB TOKYO」の最新のイベント情報をチェックして、海外進出への第一歩を踏み出しましょう。