海外ビジネスへの参入には多額の資金が必要となり、資金繰りの問題から断念するケースがあります。特に中小企業では、資金力の制約から海外進出を躊躇する企業が少なくありません。

しかし、このような中小企業を支援するため、無利子や低金利、返済不要といった有利な条件を持つ補助金・助成金制度が整備されています。さらに、スタートアップ企業の成長と海外展開を促進するための支援プログラムも存在します。

本記事では、海外進出を目指す企業が利用できる主要な補助金・助成金を、事業フェーズ別に解説します。これらの制度を活用することで、資金面の不安を解消し、海外ビジネス成功への足がかりを築きましょう。

補助金・助成金の種類

まずは、海外進出を支援する補助金・助成金には、どのような種類があるのか把握しておきましょう。大きく分けて、以下の3つの種類があります。

海外展開支援型

海外展開支援型補助金は、企業の海外展開に必要な費用を幅広くサポートする制度です。対象となる費用には、海外市場調査、展示会出展、現地法人設立などがあります。具体的には、国際的な需要調査のための市場分析、海外取引先との商談のための展示会出展、現地法人設立時の法的手続きなどの費用が含まれます。

日本貿易振興機構(ジェトロ)や中小企業基盤整備機構が代表的な支援機関であり、企業の海外進出を促進するための多様なプログラムを提供しています。

技術開発・研究開発型

技術開発・研究開発型補助金は、海外展開を見据えた革新的な技術や製品の開発を支援する制度です。スタートアップや中小企業が国際競争力のある技術や製品を開発し、海外市場での成功を実現することを目的としています。

経済産業省やNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が提供しており、新技術の研究開発、製品の試作、特許申請などにかかる費用を補助対象としています。

人材育成型

人材育成型補助金は、海外展開に不可欠な語学力やビジネススキルの習得を支援する制度です。海外市場での成功には、現地の文化やビジネス慣習を理解し、適切なコミュニケーションを図れる人材の育成が重要となります。

多くの地方自治体や商工会が実施するこの制度では、語学研修、ビジネススキル向上のための研修、海外インターンシッププログラムなどの費用が補助対象となります。これにより、企業は国際的なビジネス環境で活躍できる人材の育成に投資することができます。

計画・ブランディング戦略のための補助金・助成金制度

海外進出の準備段階では、綿密な計画と効果的なブランディング戦略が不可欠です。ここでは、計画段階から活用できる代表的な補助金・助成金制度を紹介します。

ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金(グローバル市場開拓枠)

中小企業庁及び独立行政法人中小企業基盤整備機構で実施している事業で、海外事業の拡大・強化等を目的とした中小企業等へ向けています。製品・サービス開発、または生産プロセス・サービス提供方法の改善に必要な設備・システム投資等を支援するための補助金です。

国内拠点の生産性を高めるための事業なのか、海外顧客へ向けた事業なのかなど、事業内容によって、「海外直接投資型」「海外市場開拓型(JAPANブランド)類型」「インバウンド市場開拓型」「海外事業者との共同事業類型」と分かれています。

補助金額 100万~3,000万円
※大幅な賃上げに取り組まれる場合は更に上がります
補助率 中小企業は1/2、小規模企業・小規模事業者は2/3
公募 年に複数回

出典:「ものづくり補助金総合サイト」

外国出願補助金(中小企業等海外出願・侵害対策支援事業費補助金)

特許庁で実施している補助金制度です。受付は日本貿易振興機構(ジェトロ)と各都道府県等中小企業支援センター等を通じて行います。中小企業の外国出願促進のための補助金で、海外進出を計画している中小企業の出願費用の一部を助成するものです。補助対象になる費用は、出願料や国内・現地代理人費用、翻訳費用などです。

日本貿易振興機構(ジェトロ)と各都道府県等中小企業支援センター等では公募期間が異なるため、それぞれ確認するようにしてください。

補助金額 1企業あたりの上限額300万円(複数案件の場合)
補助率 補助対象費用の2分の1以内
案件ごとの上限 特許150万円、実用新案・意匠・商標出願60万円、冒認対策商標30万円
公募 令和5年度は年に3回実施
対象 中小企業者または中小企業者で構成されるグループ
(構成員のうち中小企業者が2/3以上を占める者)
ただし、みなし大企業を除く
地域団体商標の外国出願については商工会議所、商工会、NPO法人等

出典:特許庁「外国出願に要する費用の半額を補助します」

普及・実証・ビジネス化事業

国際協力機構(JICA)で実施している制度です。途上国の課題解決に貢献できるビジネスの事業化を目指す中小企業から企画書(事業提案書)を公募します。採択された企業には、ビジネスモデルの検証やODA事業への活用可能性の検討等を通じて、事業計画案策定を支援します。

ただし、提案法人が有する製品・サービス等の海外展開という観点から、提案する製品・サービス・技術等は日本国内または海外での販売実績があることが前提となっています。

・中小企業支援型

補助金額 上限1億円(大規模・高度な製品の実証を行う場合には上限1.5億円、
インフラ整備技術推進案件・地域産業集積海外展開推進案件は上限2億円)
公募 年1回
対象 中小企業、中堅企業、中小企業団体

・SDGs ビジネス支援型

補助金額 上限5,000万円
公募 年1回
対象 中小企業/中堅企業以外の営利法人、非営利法人、
本支援事業の中小企業支援型をすでに2回 実施済の法人による 3回目の応募となる法人

出典:
独立行政法人 国際協力機構「普及・実証・ビジネス化事業(中小企業支援型)
独立行政法人 国際協力機構「普及・実証・ビジネス化事業(SDGsビジネス支援型)」

技術協力活用型・新興国市場開拓事業費補助金(社会課題解決型国際共同開発事業(製品・サービス開発等支援事業))
名称:「J-Partnership 製品・サービス開発等支援事業補助金」

経済産業省が公募している事業で、アフリカ諸国やインド、中南米をはじめとする新興国・開発途上国の社会問題解決のための製品・サービスの事業展開を目指す企業が対象です。

「J-Partnership 製品・サービス開発等支援事業補助金」という名称で、製品・サービスの開発や実証・評価など、本事業終了後2年以内に事業化を目指すビジネスプランに対し、事業開発にかかる費用の一部を補助金として提供します。

補助金額 一社最大1,000万円
補助率 補助対象経費のうち、中堅/中小企業は2/3、大企業は1/3

出典:
経済産業省「令和7年度「技術協力活用型・新興国市場開拓事業費補助金(社会課題解決型国際共同開発事業)」に係る補助事業者の公募について」
J-Partnership事務局「J-Partnership」

海外展開を発展させる融資・サポート制度

海外展開の準備・計画段階が整ったら、次は本格的な事業展開へと進んでいきます。この段階では、さらなる成長を促進するための資金調達が必要不可欠です。ここでは、海外展開を次の段階へと進めるために活用できる代表的な融資、サポート制度を紹介します。

中堅・中小企業向け融資

国際協力銀行(JBIC)で行っている融資で、開発途上国へ進出する中堅・中小企業に対して日本の金融機関と協調融資の下で長期融資します。企業規模は、中小企業であれば資本金3億円以下または常時使用する従業員数300名以下(製造業の場合)、中堅企業であれば資本金10億円未満が対象。

資金用途は、対象国の事業において必要な設備投資資金(新規、増設、更新)やM&A資金等の長期資金です。原則所要資金の一定割合(7割)を融資割合の上限として、民間金融機関(地銀/信金/メガバンク等)と協調して融資を行い、融資金額についての定めはありません。

出典:国際協力銀行「中堅・中小企業分野」

海外展開・事業再編資金

日本政策金融公庫による融資で、海外展開や海外事業の再編を必要としている企業へ長期運転資金や設備資金を融資します。直接貸付の場合には14億4千万円、代理貸付の場合には1億2千万円が融資限度額です。

基準利率は上限2.5%、信用リスクや融資期間に応じて所定の利率が適用されます。返済期間は、設備資金であれば20年以内(うち据置期間2年以内)、運転資金であれば7年以内(うち据置期間2年以内)が基本です。

出典:日本政策金融公庫「海外展開・事業再編資金」

海外見本市・展示会出展支援

日本貿易振興機構(ジェトロ)の行う、海外の見本市・展示会のジャパンブース(ジャパンパビリオン)への出展支援制度です。出品申込み等の手続きもジェトロが行い、ブースのデザインや出品物の通関・輸送などもパーッケージで提供。

ジェトロのジャパンブースへの出展することで、単独出店に比べ出店に関わる負担やコストの軽減ができます。また対象見本市・展示会によっては、ジェトロが一部出店経費を補助してくれる場合もあります。

出典:日本貿易振興機構(ジェトロ)「展示会・商談会への出展支援」

海外展開の資金調達を支援する制度

海外展開への直接出資や融資以外でも、資金調達を支援するさまざまな制度があります。

スタンドバイ・クレジット制度

日本政策金融公庫や地方銀行、商工組合中央金庫(商工中金)等が行っている、現地法人の資金調達のための制度です。海外現地法人が現地金融機関から現地流通通貨建ての融資を受ける際に、現地金融機関に対し信用状を発行します。日本政策金融公庫や銀行等が信用保証をすることで、融資が受けやすくなるようサポートします。

日本政策金融公庫の場合、保証限度額は1法人あたり4億5千万円。信用リスクや信用状の有効期間等に応じて所定の補償料率が適用されます。

出典:日本政策金融公庫「スタンドバイ・クレジット制度」

特定信用状関連保証

全国信用保証協会の行う、資金調達をサポートする制度です。海外子会社を有する国内中小企業が対象で、海外子会社が現地の金融機関から融資を受ける際、国内の金融機関が発行する「信用状」に関しての債務保証。国内の金融機関に対して、国内の親会社が負担する債務を信用保証協会が債務保証し、信用力を高めます。

資金使途は海外子会社の現地金融機関からの借入金であり、信用状の額面は2億5千万円、限度額は2億円です。運転資金や設備資金のどちらにも活用することができる「一般保証」とは別枠で利用することも可能です。

出典:一般社団法人 全国信用保証協会連合会「海外展開をお考えの方」

ファンド出資

中小企業基盤整備機構(中小機構)が行っているファンド出資。中小企業に対する投資事業を行う民間機関などとともに投資ファンドを組成し、ベンチャーや中小企業への資金提供を行います。新事業の展開の促進や事業の拡大、事業再生などの支援をします。

ファンド出資事業は投資先に応じて、創業または成長期の段階にある中小企業を支援する「起業支援ファンド」、成長が見込まれる新事業展開を支援する「中小企業成長支援ファンド」、再生に取り組む中小企業を支援する「中小企業再生ファンド」の3種類に分かれています。

出典:中小機構「ファンド出資」

補助金・助成金申請時の注意点

補助金や助成金は、申請すれば必ず受給できるわけではありません。これらの資金を受給し、海外展開をスムーズに進めるためには、いくつかのポイントを押さえておく必要があります。

申請要件と公募期間

補助金・助成金ごとに、企業規模、事業内容、売上高等の要件が定められています。また、公募期間が限られているため、事前に募集要項をしっかりと確認し、余裕を持って申請準備を行いましょう。

審査

提出書類に基づいて審査が行われますが、中でも、事業計画書は、事業の内容、実現可能性、将来性、そして補助金・助成金の必要性を具体的に示す、最も重要な書類です。審査員を納得させられる、説得力のある事業計画書を作成しましょう。

交付時期

補助金・助成金の交付は、申請から一定期間後になります。事業のスケジュールに合わせて、資金計画に余裕を持つことが重要です。補助金が交付されるまでの間、事業資金をどのように賄うのか、事前に計画しておきましょう。

使途制限と返還義務

補助金・助成金は、特定の目的のために支給される資金であるため、使途が制限されています。そのため申請においては、資金の使途に関する明確な計画が求められます。利用目的を誤って申請したり、不正な使用が発覚したりした場合、補助金の返還義務が生じることもあります。必要な情報を的確に収集し、事前にしっかりと準備をしておきましょう。

補助金と助成金の違い

補助金は、特定の目的のために支給される資金で、一般的には、事業計画に基づいて一定の条件を満たした場合に、その費用の一部を補助する形で交付されます。補助金は、原則として使途が厳格に定められており、補助金の使途として認められない費用や領収書の保管方法など、細かいルールが定められている場合があるので注意が必要です。

助成金は、特定の目的や分野に対して支給される資金で、補助金と比べより幅広い目的で利用することが可能ですが、それでも制限はあります。海外展開を検討する際には、それぞれの制度の特徴を理解し、自社のニーズに合った資金調達方法を選択することが重要です。

スタートアップ企業を後押しする支援プログラム

補助金・助成金制度と並んで、スタートアップ企業の海外進出を支援する上で重要な役割を担うのが「支援プログラム」です。これらのプログラムは、スタートアップが持つ特有の課題を解決し、成長を促進させるためのさまざまなサポートを提供します。スタートアップ向けの支援プログラムは、主に以下の3つの種類に分けられます。

支援プログラムの種類

・インキュベーションプログラム

創業間もないスタートアップ企業を対象とした、長期的な視点に立った包括的な支援プログラムです。事業アイディアのブラッシュアップ、事業計画の策定、資金調達支援、オフィススペースの提供、メンターによる指導などを通じて、事業の立ち上げを支援します。さらに、他のスタートアップ企業や投資家、専門家とのネットワーク構築を促進し、情報交換や共同事業の機会を創出します。

・アクセラレータープログラム

アクセラレータープログラムは、成長意欲の高いスタートアップ企業を対象とした短期集中型の事業成長支援プログラムです。東京都が主催する海外展開支援プログラム「X-HUB TOKYO」などがその一例です。通常数ヶ月から半年ほどの期間で実施され、事業計画のブラッシュアップ、資金調達のアドバイス、ピッチトレーニング、メンタリング、投資家へのピッチイベントなど、包括的な支援を提供します。

・メンタープログラム

メンタープログラムでは、経験豊富な起業家や業界の専門家がメンターとなり、スタートアップ企業の成長を支援します。メンターは、企業が直面する多様な課題に対するアドバイスを提供し、ビジネス戦略やマーケティング戦略の立案をサポートします。定期的なミーティングを通じて、企業は実践的な知識や経験を学び、継続的なフィードバックのもとで成長を図ることができます。

支援プログラムは、内容や対象となる企業がプログラムごとに異なります。自社のニーズに合ったプログラムを選び、積極的に活用しましょう。

支援プログラム活用の注意点

・プログラム内容

プログラムによって、対象となる企業、提供されるサポート内容、参加費用、期間などが大きく異なります。自社のニーズや現状を把握し、適切なプログラムを選びましょう。

・申請要件と申請期間

プログラムごとに、参加できる企業の規模や事業ステージ、事業内容などが定められています。自社の事業内容や規模が要件に合致しているか確認しましょう。また、プログラムへの参加は、公募期間が設定されている場合がほとんどです。募集要項をよく確認し、余裕を持って準備を行いましょう。

・審査

提出した書類に基づいて審査が行われます。特に事業計画書は重要な評価基準となるため、内容をしっかりと作成し、明確かつ説得力ある提案を心がけることが大切です。また、面接審査が行われる場合、具体的な質問への準備をしておくことも重要です。

まとめ

海外展開を成功させるためには、多くの資金が必要となります。資金調達に不安を抱える企業は、今回紹介した補助金・助成金制度や支援プログラムを積極的に活用することで、資金調達の道が開け、海外ビジネス成功の可能性を広げることができるでしょう。

これらの制度やプログラムの内容、条件、申請期間などは、年度や状況によって変更される場合があります。最新情報は、各制度やプログラムの公式ウェブサイトや窓口でこまめに確認するようにしてください。さまざまな支援を活用しつつ、国際的な視野を持った事業計画を立て、着実に海外への一步を踏み出しましょう。

【この記事の執筆】

hawaiiwater

「X-HUB TOKYO」Webマガジン編集部

この記事は、東京都主催の海外進出支援プログラム「X-HUB TOKYO」の編集部が監修しており、スタートアップの海外進出に関して役立つ情報発信を目指しています。

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