近年海外で日本食の人気が高まっており店舗数も増加傾向にありますが、海外進出するにあたって、単に店舗を海外に構えるだけだと考えていると、想定外の出来事に遭遇してしまう可能性があります。日本の飲食店が海外で成功するために事前に知っておくべきリスクにはどのようなものがあるでしょうか。

ブランドとしての独自性を保ちながら現地に馴染むためには、さまざまな工夫や事前の情報収集が必要です。資金面での負担軽減、現地での想定外のトラブルを回避するためにも、これから紹介するリスクとその対策を知った上で海外進出の準備に取り掛かることをおすすめします。

日本の飲食店の海外進出と市場動向

2023年に農林水産省が発表した資料によると、同年の海外における日本食レストランの店舗数は、2021年と比較して約20%増加し18.7万店ほどとなりました。地域別にみると、北米ではコロナ禍の影響でやや減少したものの、アジア、中南米、欧州における日本食の店舗数は増加傾向にあります。

もともと日本食は海外での人気が高く、2013年にはユネスコ無形文化遺産に登録されたほどです。加えて、近年は世界的に健康への意識が高まり、ヘルシーで安心・安全な食事として日本食の人気が加速しているのです。

日本食レストランの海外進出が増加しているのは、日本食の人気以外にも理由があります。日本国内での外食産業が激化していることから、海外へ販路を拡大していることもその一つとなっています。海外進出をした場合のメリットは、収益の拡大はもちろん、ブランドの知名度が上昇することで新しい顧客の獲得が見込めるという点です。

また、進出先によっては「高品質で安心・安全」「味がおいしい」「盛付けが美しい」等の日本食ブランドのイメージが定着しており、かつ現地の物価が安い場合があります。そのような場合、日本食ブランドとしての付加価値を活用し価格設定を高くした上で、仕入れ値を抑えることが可能となるため、より利益を生み出しやすくなるでしょう。

日本国内は人口減少やコロナ禍などの影響もあり、外食産業の市場規模は一時縮小傾向にありました。2023年5月の5類感染症移行後は、インバウンドの増加や外出機会の増加により緩やかに回復しつつありますが、パブレストラン・居酒屋業態はコロナ禍前の水準まで戻り切らないのが現状です。日本国内の経済悪化や災害などのリスクに備え、海外へ進出して事前に販路の拡大をしておくことで、経営リスクの分散につながるため、現地企業を買い取る形で進出する企業も増加しています。ただし、進出先のカントリーリスクやセキュリティリスク、世界的な感染症の流行等によるリスク増加の可能性も忘れないようにしておきましょう。

日本食に注目が集まる今、国や都道府県・各自治体の海外進出に向けた支援、補助金・助成金もこれからの海外進出への後押しとなるでしょう。企業の方針や海外展開の準備状況により、最適な補助金・助成金の活用を検討してみてください。

>支援制度について詳しくはこちら

出典:
農林水産省「海外における日本食レストラン数の調査結果(令和5年)の公表について」

日本の飲食店の海外進出におけるリスク

海外進出を成功させる上で、注意しておかなくてはならないリスクや課題もあります。

味の現地化と標準化のバランス

海外進出する上で課題として上げられるのが、「味の現地化と標準化のバランス」です。飲食店として大切な要素である「味」ですが、日本の味が現地でそのまま受け入れられるとは限りません。

その土地の文化なども考慮した上で、場合によっては、現地化していく必要もあります。現地の味の傾向や、食文化などの市場を事前にリサーチしておくことが大切です。

一方、ブランドの独自性や魅力を失わないよう、味の標準化も忘れてはいけません。一例として、日本国内でも提供しているメニューに加えご当地メニューを開発するなど、現地化と標準化のバランスの工夫が必要となります。

各国の法律や慣習に適応する必要がある

その国の法律や慣習に適応しなくてはなりません。法律に関しては、食品衛生に関するルールや労働法、税制などの違いの確認も不可欠です。

特に飲食業は国ごとに厳しい規制があるため、確認が必須となります。法律に関しては高度な専門知識が必要となる場合が多く、現地の法律に詳しい弁護士にサポートしてもらうことをおすすめします。

国によっては外資規制により、外資の出資比率が決まっている場合や参入できない業種もあるため、入念にリサーチしておきましょう。

慣習に関しては、宗教・風習などにより食べられない食材や適切な処理が必要なものがあります。たとえば、宗教上の理由で豚肉や酒類を摂取しないことで知られているイスラム教の信仰者は、世界人口の4分の1とされているため、海外進出の際は必ず考慮しなくてはなりません。

法律や慣習を知らないことにより、法律違反で海外での経営が困難になったり信用を損ねたりすることのないよう、入念にチェックしておきましょう。

現地で働く人材の教育と言語

現地で日本と同等レベルのサービスを提供できる人材の確保が難しいことも、課題の一つとして挙げられます。働く人材を単に集めるだけでなく日本の接客マナーやサービスの教育、調理や衛生管理の指導も行わなくてはなりません。

現状では、基本的な知識や技能が不足しているスタッフが日本食の調理を行っていることも少なくありません。日本食・食文化の海外発信強化を目的として、農林水産省は2016年に「海外における日本料理の調理技能の認定に関するガイドライン」を定めています。このガイドラインに基づき民間団体が認定する認定制度を利用することも、日本食の魅力を伝えるために有効な手段となるでしょう。

また、海外では一つの国でも多言語を用いているところがあるため、看板やメニューを多言語化し、かつ英語や現地の言語を話せるスタッフを配置することも計画の中に入れておく必要があります。

出典:
農林水産省「海外における日本料理の調理技能認定制度」

海外進出のためのリスク対策と事前準備

海外進出へ向けてのリスク対策や事前準備は、大きく3つに分けられます。

情報収集とコンセプトの設計

まずは、市場調査をして情報収集を行いましょう。市場調査をする内容の具体例として、出店国・現地の法律、ニーズ、競合状況、治安、人口密度などがあります。

集めた情報をもとに、ターゲットとする顧客層を明確にしてコンセプトやブランドイメージを確立します。流行やニーズは常に移り変わるため、手広く情報を集めていると多大な時間を要します。

そのため、事前に方向性を決めた上で進出先の国や集める情報を絞り、効率化していくことが必要です。

出店戦略と顧客層の調査・分析

次に、出店戦略として、物件選びも重要になってきます。周辺環境や競合、コンセプト設計を行った際に明確にした顧客層の属性や行動パターンを調査・分析し、出店場所を決定します。

調査の際には店舗の視認性、デザインやアクセスの良さなどを考慮することも忘れないようにしてください。店舗の立地は海外進出成功のカギとなるため、慎重に選定しましょう。

他にもメニュー作りや内装、人材確保・教育などは現地事情に詳しい専門事業者やパートナーを確保し、相談しながら進めていくと良いでしょう。

事業計画と資金調達の計画

そして事業計画は、売上目標や利益目標、KPIなどを明確にした上で実現可能な計画を立てます。海外進出には多額の開業資金が必要になるため、資金調達も考えておきましょう。

自己資金だけではなく、投資家からの援助や金融機関からの融資といったサポートも視野に入れておく必要があります。適切な資金を調達することで、想定外の経済の変動や予期せぬハプニングにも対応できる可能性が広がり、その後の事業展開にも役立ちます。

まとめ

今回の記事では、日本の飲食店が海外進出を成功させるために知っておくべきリスクと対応策について紹介しました。日本食人気に伴い海外進出を計画する場合には、事前のリサーチ、市場調査を行い現地のニーズや特色を正しく把握し、金銭面や人材育成の面など周囲との調整・協力もしっかりと行っていく必要があります。

その飲食店独自の特色を残しつつ、現地との融和を図るバランス感覚が求められるため事前準備は入念に行っておきましょう。事前にリスクと対策を知識として得た状態で海外進出の準備に取り掛かることにより、大きく成果が変わると考えられます。

X-HUBでは海外進出を考えている方に向けて、さまざまな海外進出支援プログラムを準備しております。海外進出を検討中の方は、ぜひ最新のイベント情報をチェックしてみてください。

著者情報

hawaiiwater

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