海外進出のためには、ノウハウや情報なども必要ですが、現実的な資金面の確保も大切です。資金に余裕がない場合には、融資や補助金などの制度を検討しましょう。

海外進出へ向けての融資の必要性

海外進出を考えるにあたって、まず必要となるのは資金です。中小企業やベンチャー企業などではとくに、自己資金だけでその予算をカバーすることは難しいため、資金調達のために利用できる融資制度や補助金・助成金制度などを利用することになります。

融資や補助金・助成金制度は、公的な機関を中心に行われており、海外進出のための貸し付けはより有利な条件下での利用が可能です。利用するには諸条件を満たす必要がありますが、活用できれば非常に便利な制度となっています。

また、こうした海外進出へのサポート制度には、資金面のサポートだけでなく、情報の提供や事業計画策定・販路開拓、信用状発行などの支援も含まれています。最初の足掛かりとしてこうした支援も検討してみるとよいでしょう。

日本政策金融公庫による融資

「海外展開・事業再編資金」は、日本政策金融公庫による融資。財務省の財政投融資により、小規模事業者や中小企業の海外進出や事業再編を支援します。「海外展開・事業再編資金」は、国民生活事業と中小企業事業に分かれており、それぞれサポートする対象が異なります。

国民生活事業

国民生活事業は海外展開を開始・拡大する中小企業が対象です。本社が日本国内にあることを前提とし、原材料の供給事情や労働力の問題から海外進出をする企業など、いくつかの項目に該当する企業を支援しています。

具体的には海外進出や事業再建のための資金として、設備や運転資金を外貨で貸し付けます。融資限度額は7,200万円で、そのうち運転資金は4,800万円です。

中小企業事業

中小企業事業の対象は、これから海外で事業を開始する中小企業、または海外展開の再編に取り組む中小企業です。

こちらも日本国内の本社を存続させることや、事業の延長での海外進出であることなど、いくつかの項目を満たした場合に融資を受けられます。融資限度額は14億4,000万円、そのうち9億6,000万円が運転資金です。代理貸付の場合は1億2,000万円までとされ、さらに条件を満たす場合には、4億円を上限として特別利率が適用されます。

その他の資金制度

日本政策金融公庫では、海外展開支援として国際化に対応する中小企業の海外展開を積極的にサポートしています。上記の他に利用できる資金制度としては、債務の保証と同様の目的のために信用状を発行する「スタンドバイ・クレジット制度」があります。現地流通通貨での資金調達がしやすくなり、日本政策金融公庫と提携する金融機関から長期資金の借り入れも可能です。

さらに、国内の親会社と共同で取り組む海外法人に対し、日本政策金融公庫が直接融資する「クロスボーダーローン制度」もあります。海外の投資先がタイ・ベトナム・香港・シンガポールまたはフィリピンと限られていますが、国内の親会社から資金調達をする場合に比べ、送金手続きの必要がなく為替リスクも軽減できます。

参考サイト:日本政策金融公庫「海外展開:事業再編基金」
参考サイト:日本政策金融公庫「海外展開・事業再編資金(クロスボーダーローン)」
参考サイト:日本政策金融公庫「スタンドバイ・クレジット制度」

各省庁による支援・融資

厚生労働省

厚生労働省の行っている助成金には、海外進出支援奨励金の他に「人材開発支援助成金(旧キャリア形成促進助成金)」があります。人材開発支援助成金は、厚生労働省の雇用関係助成金の1つであり、海外進出に特化したものではありません。

しかし、助成金のコースの中に「成長分野等・グローバル人材育成訓練」という、海外関連業務の人材育成のための訓練費用の助成金があります。Off-JTにより実施される訓練を前提とし、大学や大学院の教育施設などで実施する訓練に対し、中小企業は3分の2、中小企業以外は3分の1の助成が受けられます。

経済産業省

「コンテンツ等の海外展開を行う際のローカライズ及びプロモーションに関する補助金」は、映像産業振興機構が事務局として交付する補助金制度です。ローカライズやプロモーション活動のための補助金を交付し、日本のコンテンツの海外展開を促進します。

中小企業庁

中小企業庁では、「JAPANブランド育成支援等事業費補助金」を実施しています。中小企業等が海外展開を見据えた全国展開をするための支援で、新商品やサービスの開発・改良に加え、販路開拓などを行う経費の一部を補助します。

海外向けの商品の売上が伸び悩んでいる事業者や、海外の展示会への出展費用の高さから海外展開へ足踏みをしている企業の後押しとなる補助金です。補助額の上限は500万円(複数事業者による場合には最大2,000万円)で、補助対象経費の3分2までの補助を行っています。

参考サイト:厚生労働省「人材開発支援助成金(旧キャリア形成促進助成金)」
参考サイト:経済産業省「海外向けのローカライズ&プロモーションを行う事業に関する補助金」
参考サイト:中小企業庁「JAPANブランド育成支援等事業費補助金」

中小企業基盤整備機構による支援


中小企業基盤整備機構は、国の中小企業政策の実施機関として、起業から成長、成熟期までの成長のステージに応じた支援サービスを行っています。自治体や支援機関、国内外の機関など、幅広い連携を持ち、海外進出にも役立つ支援があります。

ファンド出資

ファンド出資事業は、中小企業基盤整備機構が行う中小企業の資金調達を目的としたファンド組成と出資のための事業です。民間機関などと投資ファンドを組成し、中小企業の資金調達をスムーズにして、経営への踏み込んだ支援を行います。

ベンチャー企業やスタートアップ企業の他、既存中小企業の新規事業の展開をサポートしています。それぞれのファンドごとに投資対象が違うため、利用するにはファンドごとに運営する投資会社の審査を受けることが必要です。

参考サイト:中小機構「ファンド出資」

商工組合中央金庫による支援

商工組合中央金庫(商工中金)は中小企業のための金融機関です。中小企業等の海外進出のサポートを強化するために、日本貿易振興機構との業務の連携強化も図っています。

商工中金で行っているのは、中小企業の海外進出や海外現地法人の事業拡大のための資金融資。内容としては、親会社からの転貸形式での海外法人への貸付や現地法人に対する直接貸付の親子ローン、またスタンドバイ・クレジット制度による債務保証により、現地金融機関による融資を可能にする支援などもあります。

融資の他に輸出入にかかる貿易決済や先物為替予約なども利用可能です。

信用保証協会による支援制度

全国信用保証協会連合会では、「海外投資関係保証制度」や「特定信用状関連保証制度」などがあります。こちらは貸付制度ではなく、融資をサポートする支援制度です。

海外投資関係保証制度

海外投資関係保証制度では、海外に法人を設立した日本国内の中小企業が金融機関から投資事業資金を受けるための支援制度です。信用保証協会が債務保証を行うことで、海外直接投資事業資金の融資を受けやすくします。

特定信用状関連保証制度

また、特定信用状関連保証制度は、海外子会社が現地の金融機関から融資を受けるサポート制度です。国内金融機関に対して負担する親会社の債務を信用保証協会が債務保証することで、国内金融機関が現地金融機関に信用状を発行しやすくします。そうすることで、海外子会社が実行する現地金融機関からの資金調達を支援します。

その他の支援事業

この他にもさまざまな機関が支援サービスを提供しています。たとえば国際協力銀行で行っている、中堅・中小企業支援の取り組み。資金調達支援や情報提供、新興国各国の政府や海外地場金融機関との連携などがあります。

もちろん東京都で行っている海外展開支援もあります。東京都産業労働局の「東京都中小企業融資」では、産業力強化融資の枠組みで、海外での販路開拓等を考える中小企業からの資金需要に対応。海外展開に向けた資金を融資するとともに、小規模企業者に対して、東京都が信用保証料の補助を行っています。

それぞれの支援団体や事業内容を比較して、自社の事業展開や必要なサポートに応じた選択をしてください。なお、融資・助成金等の制度内容は記事掲載時点(令和4年11月)でのものです。最新の制度内容については各機関にお問い合わせください。

参考サイト:全国信用保証協会連合会「海外展開をお考えの方」
参考サイト:国際協力銀行「各分野での取り組み/中堅・中小企業分野」
参考サイト:東京都産業労働局「東京都中小企業制度融資」
参考サイト:近畿経済産業局「海外展開支援施策ガイド2022」

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