海外進出の足掛かりとして、まずは拠点を作ろうと考える企業は少なくありません。海外法人設立(会社設立)にあたっては、日本の法人を設立する場合とはまったく異なるため、さまざまな留意点を知っておかなければいけません。はじめに、海外法人とはどういったものなのかを説明していきます。

海外法人設立における代表的な3つの形態

海外で事業を行うには、現地の法人や法人口座があった方が取引をスムーズに進められます。海外法人といってもその形態には種類があり、大きく現地法人(外国子会社)、外国支店、駐在員事務所の3つに分けられます。

現地法人(外国子会社)

現地法人(外国子会社)は現地に設立した法人で、日本本社と関係がありながらも独立した存在です。そのため現地法人は、日本と同じように法人登記をする必要があります。

本社とは異なる事業を行うことが出来る一方で、現地の法律に従って登記や労務関係の資料を準備しなくてはいけないという大変さはあるでしょう。また現地での国内法人となることで、現地の税制にもとづいて営業利益に対し法人税を支払うことになります。

外国支店

外国支店の場合は、あくまでも日本本社の支店です。同一事業体と考えると理解しやすいでしょう。企業が日本以外の国で円滑に営業活動を行うため、外国に部署を置くイメージです。定款や社内規定もそのまま本社と同じものを使えるパターンが多く、経理なども日本同様に行います。

外国支店は駐在員事務所とは異なり、営業活動を行うことが可能です。ただし利益は会計上、日本本社の利益と合算されますので、節税という面での効果はありません。

企業は現地と日本、それぞれの国で申告納税の義務が発生します。そのため一種の「二重課税」が生じてしまう可能性もあるのです。しかしこれは「外国税額控除制度」という二重課税の排除をする制度のもと、外国での課税分を日本の法人税額の範囲内で控除することができます。

駐在員事務所

最後に駐在員事務所は、先に述べたふたつと比較すると小規模です。駐在員事務所は日本本社のために海外で市場調査をしたり、情報収集や事務連絡をしたりという事業の補助的な業務しか行いません。

駐在員事務所名義では銀行口座の開設もできませんので、海外進出を目的とするのであれば、あくまでも海外進出の準備をするために設置するものという位置づけになります。駐在員事務所では直接的な営業活動が禁止されているため、利益は出ず課税もされません。

海外法人を設立するメリットとは

海外法人を設立するメリットにはさまざまなものがあります。

情報収集や人脈のネットワーク拡大

たとえば営業を行わない駐在員事務所であっても、現地にいないとわからないような情報を入手することが出来ます。その国にしかない特性を見つけることが出来れば企業に大きな利益をもたらすことも可能です。

節税効果や材料費の削減

また、現地法人(外国子会社)を設立することには税制面のメリットもあります。その国や地域によっては外国企業誘致のため法人税が抑えられていたり、法的に優遇したりしていることもあります。法人税を抑えられるということは、その分費用を少なくできる、つまり企業の収益拡大につながるのです。

日本は世界の中でも土地や建設費が高い国に分類されます。海外に進出することで、不動産や建設にかかるコストカットにつながるでしょう。また、円高による製造コストの上昇をヘッジするためにも海外法人は有効な手段の一つです。

人件費の削減

コストカットという観点では、安い労働力も海外法人の魅力です。日本は少子高齢化の影響によって労働力の確保が難しく、人件費も高くなりがちです。一方で、新興国などの場合は日本よりも人件費が安く、製造業などでは人件費を抑えるために海外工場を設立する例が多く見られます。

ただし、新興国であっても経済的な成長とともに人件費が高騰していくケースは珍しくありません。これから労働力を求めて海外法人を設立する場合は、目先の人件費のコストカットよりも長期的展望で進出先を決めるべきでしょう。

海外法人を設立するデメリットとは

海外法人のデメリットとは

政治や経済状況の変化

海外法人のデメリットとしてまず挙げられるのがカントリーリスクです。政権が変わったり、情勢が変わったりすることで営業活動に影響を与えることがあるのです。とくに新興国は政情が不安定なことも多く、日本からの駐在員などの安全確保も考えなくてはいけません。

人材派遣によるコスト増

また日本から人材を派遣すると日本で雇用する場合の何倍ものコストがかかることがあります。海外勤務手当や帯同家族手当、子女教育手当など多くの費用が企業負担となるでしょう。そのため安い労働力を求めて海外法人を設立したのに結局費用が大きくなってしまうこともあります。

人材育成上の課題

また現地採用の従業員は育成にお金や時間がかかることも見込まれます。日本とは教育体系が違うため、独自の研修プログラムが組まれることになるでしょう。その一方新興国でも経済成長することで賃金が上昇していきます。実際に近年アジア各国では毎年最低賃金の引き上げが続いており、従業員の賃金上昇に日系企業が頭を悩ませています。

また身につけたスキルを活かして、より高い賃金の企業に転職されてしまうこともあるでしょう。日本よりも転職に対する抵抗が少なく、他によい条件の企業があれば転職を繰り替えることも一般的といえます。

海外法人を設立する際の注意点

当たり前のことになりますが、海外法人は日本以外の法律やルールにもとづいて設立・運営されることになります。そのため、国によって海外法人を設立しやすい国とそうでない国があるのです。

外国企業の参入しやすさ

たとえば法律や規制が厳しくない国や会社の設立登記に手間がかからない国は、海外法人を設立するために適した国と考えることができます。

世界銀行が毎年発表していた “ビジネスのしやすさ”を採点したレポートがあります。この「ビジネス環境の現状2020」によると、1位がニュージランド、2位がシンガポール、3位が香港、その後デンマーク、韓国と続きます。このランキングは、起業のしやすさや建築許可の取り扱い・資産登記や資金調達のしやすさなど計10項目を数値化し、順位付けをしているものです。

ニュージランドが起業しやすい国と言われているのは、その登記作業の手軽さにあります。オンライン上で申請を行うことができ、初期費用も比較的安く済みます。また政府の後押しもありスタートアップに最適な環境であるシンガポールや、法人税率の低い香港も他国に比べて優位性があると言えるでしょう。

節税を目的にしない

単純に節税だけを考えてしまうと、法人税率の低い国を選びがちですが、租税回避を目的としたタックスヘイブンの取り締まりは年々強化されています。タックスヘイブン(租税回避地)とは、税制上の優遇措置で極端に法人税率や所得税率を引き下げている国や地域のことです。タックスヘイブン自体は違法ではありませんが、税逃れや資金洗浄に使用されたりと問題点が多いのも事実です。

日本には「タックスヘイブン対策税制」と呼ばれる規制が存在します。これは外国子会社の利益を日本国内の所得とみなし、合算して課税をするという制度です。ただし定められた基準を満たす企業は、タックスヘイブン対策税制の適用除外となりますので、税務申告や手続きが難しい場合には税理士などの専門家に相談するとよいでしょう。

事業内容との親和性を考慮する

また事業内容がその国にあっているかどうかも重要なポイントです。景気が拡大して内需が高まっている国であれば、さまざまな商品を売り込むことが出来るでしょう。どれだけ需要のあるマーケットが眠っているかが一つの指標となります。

まとめ

海外法人はどういう目的で設立するのか、どこの国なのかによってその形態を変えて設立することが出来ます。海外法人を設立することで、その国の社会通念や慣習宗教関係のタブーといった現地でしか得られない情報を得ることも出来ます。

海外法人を立ちあげるということは経営的に見ても大きな決断です。現地視察や他の海外法人とのコンタクトを通じて慎重に判断することをオススメします。

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hawaiiwater

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