新規顧客の獲得や市場の成長は多くの企業にとって悲願です。それを求めて海外法人を設立する会社も多くあります。海外法人を設立することで、会社にとってどんなメリットとデメリットがあるのでしょうか。

海外法人を設立するメリット

まずは海外進出のメリットを見ていきましょう。販路の拡大や現地ニーズの把握以外にも、さまざまなメリットがあります。

情報収集・ニーズを把握

多くの企業に共通して挙げられるメリットは、現地にいないとわからないような「リアルタイムの情報」を集められるという点です。たとえば駐在員事務所の場合、営業を行うことはできません。しかし、現地でマーケティングをして情報収集することで、将来の事業につなげることができるでしょう。

製品を販売するような事業の場合には、現地の慣習や日常を知ることによってローカライズした製品を提供できるようになります。海外は一般的な常識やルールが日本とはまったく違います。現地で製品を販売するには、その国の法律や規制だけでなく、宗教上のタブーなども知っておく必要があるでしょう。

海外法人を設立することで、それらを理解しながら、海外進出や新しいビジネスを進めることができます。

市場開拓・売上高の増加

海外進出は、売上高を増やすための一つの手段です。新しい市場への参入によって、企業は新しい顧客を獲得することができます。

また、新しい市場で競合他社との競争力を高めることで、売上をアップできる可能性があります。海外市場での成功は、企業のブランド価値を向上させることができ、結果的に企業や投資家にも利益をもたらします。

リスクの分散

海外進出をすることによって、国内市場に依存するリスクを分散することができます。国内市場一本では、景気の変動や地震や洪水など自然災害のリスクもあるため、ビジネスに悪影響を与える可能性があります。海外市場へ参入することによって、企業はリスクを分散し、ビジネスの安定性を確保することができるのです。

新しい技術の獲得

海外市場は、国内市場とは異なる文化やビジネス環境があるため、企業は新しい技術や知識を獲得することができます。新規のアイデアや視点の発見もできるでしょう。また国内市場と比べ、競争が激化している場合や、市場の成長率が高い場合も多いです。

競合他社との競争によって、企業はより高品質で革新的な製品を提供することが求められるため、新しい製品やサービスを展開するためのきっかけにもなるでしょう。

人件費削減・人材の確保

海外法人の設立に際し、現地の人材を採用することで、日本よりも平均賃金の安い新興国など、進出国によっては人件費を削減することができます。日本から社員を派遣すると高額な経費がかかってしまうため、現地での人材獲得は派遣する社員の数を減らすことにもつながります。

また現地での採用は、現地市場におけるビジネスや文化に対する理解を深めることに対し優位に働きます。現地の言語や文化に精通しているため、市場における戦略的なビジネス展開が可能になっていくのです。

日本から出向する従業員にとっても、海外市場で働くことはメリットがあります。新しいスキルや知識を習得すること、グローバルな視野を持てることなど、自己成長につながるでしょう。ただし現地の人材採用には、言語や文化の壁があるため、採用時には慎重な対応を心がけることに注意してください。

海外法人設立における税制面のメリット

海外進出をする理由として、市場の開拓や事業の拡大ではなく、節税を第一の目的とする企業もあります。

法人税の安い国へ

日本における法人税は近年段階的に引き下げなどが行われていますが、世界的に見ればさらに法人税や所得税を安くしている国は珍しくありません。そのため節税を目的として海外で法人を設立する企業もあります。

アメリカをはじめとして、世界的に法人税が引き下げられている傾向があります。経済のグローバル化が進み、企業の拠点として外国企業誘致を狙っていることも一つの原因です。税率を低くして海外企業を誘致できれば、現地での雇用も生まれます。また、人や家族が住むことで経済的に活発化して国内の経済成長が期待できるのです。

タックスヘイブンを利用した租税回避

「タックスヘイブン」といって、他の地域に比べて課税が著しく下げられている地域もあります。こういった地域には節税として多くの富裕層やAppleやGoogleのようなグローバル企業が集まります。

たとえば、地中海のマルタでは外国籍で居住権を持つ者の国外から受け取る収入に対して所得税がかかりません。また、モナコも所得税0%、相続税0%、贈与税0%の国です。もちろんそれぞれ適用を受ける条件はあるものの、富裕層や企業など税金に悩む人々にとって大きな魅力といえるでしょう。

ただし、日本では2017年度の税制改正によって「タックスヘイブン対策税制」の範囲が拡大されました。ペーパーカンパニーやキャッシュボックスなどに該当する場合は、日本の親会社で会社単位の合算課税の対象となるので、判定基準を確認してください。

海外法人のデメリット

海外法人のデメリットでは、海外進出のデメリットはどのようなものがあるのでしょうか。資金問題やカントリーリスクなど、詳しく解説します。

資金面の問題

海外法人を設立するデメリットとして挙げられるのが、外国の子会社の場合、国内の子会社と比べて資金などの融通が利きにくいという点です。たとえば海外子会社が運転資金に行き詰まった時、日本であれば国内の金融機関や公的機関からのサポートが受けられます。

しかし、外国子会社の場合は、日本本社の影響下にあったとしても外国にある別法人であるため、銀行からの融資等は受けられないこともあるのです。外国法人を設立する場合は、現地パートナーと協議するなどあらかじめ資金繰りの検討を付けておくようにしましょう。

カントリーリスク

海外に法人を設立するにあたって、カントリーリスクは避けられません。国によっては政権が変わることで、外国企業への規制や税制など大きく変わることもあります。一般的に先進国は低く、発展途上国は高いとされています。政情が不安定な国においては、なんらかの事件に巻き込まれることも予想しておいたほうがよいでしょう。

もしも日本から社員を赴任させるという場合は、それらのリスク管理や安全な場所に住宅を用意するなどの対策も必要になるでしょう。駐在員やその帯同家族に対する福利厚生に費用が掛かってしまうことも留意点の一つです。

コスト面での負担

海外進出には多大なコストがかかります。たとえば、現地でのオフィスや工場の建設、現地での人員採用やトレーニング、現地での法務や税務、海外出張費用や移転費用などが挙げられます。これらの費用は、海外進出によるビジネス拡大効果に対して、短期的には収益を生み出さないこともあります。

また、現地での労働力や資材調達において、国内と比べてコストが高くなる可能性もあります。このようなコスト面での負担を理解し、適切な資金計画を立てることが必要です。

文化や法律の違い

海外市場でビジネスを展開する場合、現地の文化や法律、ビジネス習慣などの違いがあるため、これらを理解し柔軟に対応する必要があります。たとえば、現地の人々の価値観や行動パターンが異なる場合、製品やサービスの需要が国内とは異なる可能性があるでしょう。

また法律面においても、国内とは異なるルールが存在するため、現地のルールに適合させなければなりません。現地の税法や労働法規制、知的財産権などについて理解し、遵守することが求められるでしょう。文化や法律の違いに対応できない場合、海外のビジネス展開に失敗する可能性がありますので注意してください。

言語の壁

海外市場でビジネスを行うには、現地の言語に対応しなくてはなりません。言語の壁がある場合には、コミュニケーションの円滑化や問題解決が難しくなる可能性があります。また、現地でのマーケティング戦略の立案や顧客対応においても、現地の言葉や文化に精通した人材が必要になるでしょう。

リスクを回避するためにできること

前述したようなデメリットやリスクを回避するためには、どのような対策をすればよいのでしょうか。具体的なリスク回避策を少し紹介します。

市場調査の徹底

まず市場調査を行い、市場の需要や競合状況、ビジネス展開の可能性を把握することが重要です。また、ビジネスプランを策定することで、具体的にどのようなビジネス展開を行うのか、どのような問題が予想されるのかを明確にすることができます。

専門家やアドバイザーに相談

現地の専門家やアドバイザーの支援を受け、現地の法律や規制、文化、ビジネス環境に関する情報を正確に把握するようにしてください。これによって、課題を早期に発見・把握し、対策を講じることができます。

リスクマネジメント計画の策定

リスクマネジメント計画の策定は、予期せぬリスクに柔軟に対応していくため欠かせません。具体的には、従業員の安全やビジネスの継続性を確保するために、リスクシナリオを想定し、適切な対策を講じることです。さらに、現地の政治情勢や自然災害など、予期せぬリスクに対応するために、危機管理のプロセスを策定しましょう。

これらのリスク回避策を講じることによって、海外法人の設立に伴うリスクを少し軽減することができます。しかし、リスクを完全に回避することはできないため、常に現地の情報を収集し、状況に応じた対策を講じることが必要になります。海外法人を設立する際には、専門家の支援を受けながら、慎重に検討するようにしましょう。

外国企業誘致のための優遇制度

海外進出には、多くのメリット・デメリットがあり、進出先を決めるのは容易ではありません。国や地域によっては、次のような新規法人の設立を優遇する制度を採用していることがあるため、進出候補先に優遇制度があるかどうか、まずは確認してみましょう。

アメリカ(デラウェア州)

アメリカのデラウェア州は多くの海外法人が設立されている州です。デラウェア州の会社設立は容易で、州外居住者の取締役就任が可能であったり、事務所を設置しなくても良かったりと州外から法人設立を希望する人に有利な州法が敷かれています。

また、税制面ではデラウェア州外の事業の課税はないなどさまざまな優遇制度があります。加えて、司法制度が発達していることも大きなポイントです。

マレーシア・ポーランド

シンガポールの隣にあるマレーシアは3つの民族が混在しテストマーケティングに適した国と言われています。市場規模も十分なので東南アジア進出の足掛かりには適した国といえるでしょう。さらにポーランドのように地域振興を目的に経済特区を設立している国や、海外法人への助成などで外資企業呼び込みに力を入れている国は多くあります。

制度や法律は変わることもあるため、それだけを目的に進出先を決めるのは危険ではあります。しかし、海外でのビジネスを有利に進めるためにも進出しようとしている国にどのような制度があるのか、あらかじめ調べておくことをオススメします。

まとめ

海外法人を設立する理由は、税金や人件費の削減、新規市場の開拓などさまざまな理由があります。海外進出する時にはメリットだけに目を向けるのではなく、そのメリットがどのように会社戦略に役立つのか、将来的な経営ビジョンを描くことが大切です。また、現地パートナーを探したり、視察を繰り返したり情報収集は怠らないようにしましょう。

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