ニュースや経済誌などでも聞くことが増えたユニコーン企業という単語。日本でも多くのユニコーン企業を生み出すための試みがスタートしています。ユニコーン企業の定義や代表的なユニコーン企業をまとめました。
目次
ユニコーン企業とは?
ユニコーン企業に条件はあるのでしょうか。一般的には、次に挙げる4つの条件を満たしていることとされています。
評価額が10 億ドル(約1,360億円)以上
企業としての評価額が10億ドル(約1,300億円)以上であること。
非上場のスタートアップ企業
非上場のスタートアップ企業であること。上場を果たしたり、起業してから長くなったりすると条件から外れてユニコーン企業ではなくなります。つまり、新しく生まれるユニコーン企業もあれば、条件から外れてユニコーン企業とは呼ばれなくなる企業もあるのです。
設立10年以内
調査会社によっても違いがありますが、一般的には設立10年以内と言われています。10年で10億ドル以上の利益を投資家にもたらすのは非常に稀であること、設立10年を越えた企業は「スタートアップ企業」と呼べないことなどが理由とされています。
テック企業
必須というわけではありませんが、ユニコーン企業はテック企業であることも条件とされています。テック企業とは、ITテクノロジーを活用・駆使してビジネスを行っている企業のこと。時代に即した、もしくは先行するような企業が価値を認められユニコーン企業と呼ばれます。
デカコーン企業・ヘクトコーン企業・ゼブラ企業とは?
ユニコーン企業の上位クラスとして、デカコーン企業とヘクトコーン企業、さらにゼブラ企業と呼ばれる企業もあります。
デカコーン企業
デカコーン企業は企業の評価額が100億ドル以上、ユニコーン企業の10倍となったユニコーン企業に使用されます。「デカ」は10倍を意味する言葉で、10億ドルの10倍の100億ドルを突破した企業に使用されます。
ヘクトコーン企業
ヘクトコーン企業は1,000億ドル以上のユニコーン企業に使用される言葉です。ヘクトは「100倍」を意味し、ユニコーン企業の100倍である「1000億ドル以上」が基準となっています。
ゼブラ企業
ユニコーン企業と反対の位置にある企業として、「ゼブラ企業」があります。ゼブラ企業は、社会貢献と企業の利益追求、この両方を重視したスタートアップ企業のことを指します。
ゼブラ企業とユニコーン企業との違いは、企業としての利益追求だけではなく、SDGsやサステナビリティ(持続可能性)といった社会や地球環境、より大きな社会的使命を果たすことを目的としていることです。
社会的な問題や課題解決に価値を置いて、CSR(企業の社会的責任)を超え、自らが持つビジネスや技術力を活かしていきます。社会問題の解決への取り組みから、新たな市場の獲得やビジネスチャンスを生み出すこともあり、注目を集めています。
ユニコーン企業と呼ばれはじめた理由
ユニコーン企業という言葉は、アメリカのベンチャーキャピタルの一つ、カウボーイ・ベンチャーズの創業者アイリーン・リー氏が使い始めたと言われています。ユニコーンは想像上の一本角が生えた生き物です。この当時は多大な利益を狙えるベンチャー企業も少なく、伝説にしかいない幻獣になぞらえてユニコーン企業と呼ばれるようになりました。
ユニコーンのように稀で、多大な利益をもたらす可能性がある企業を世界中の投資家が探しています。ベンチャーキャピタルは高いリターンを求めて、さまざまな先進的な企業に積極的に投資を行います。
ユニコーン企業という言葉が生まれた当時はユニコーン企業とみなされる企業は世界に39社だけでした。しかし、2023年2月のデータでは世界のユニコーン企業数は1,211社、ユニコーン企業の合計評価額は3兆8,700億ドルとなっています。
世界の有名なユニコーン企業
ユニコーン企業の中には私たちがすでに知っている企業も少なくありません。米調査会社CBインサイツに掲載されている、有名なユニコーン企業を紹介します。
ByteDance(バイトダンス)
ByteDanceは2012年に北京で創業された、ショート動画投稿アプリ「TikTok」や、ニュースアプリ「Toutiao(今日頭条=トウティアオ)」などを運営する中国発の企業です。2022年の企業評価額は3,000億ドル(約40兆円)と、世界最大のユニコーン企業と言われています。
TikTok は、15秒~60秒という短い動画を投稿するサービスとしてはじまり、現在は3分までの動画を簡単に編集・投稿することが可能になりました。10代~20代の若年層に人気のあるアプリで、中国国内では「抖音(ドィーイン)」、海外では「TikTok」として展開しています。バイトダンスはEC事業にも力を入れはじめ、中国版のTikTokでの2022年の取引額は約28兆円にも達し、ベトナムやフィリピン・シンガポール・アメリカなどにも市場を広げています。
SpaceX(スペースエックス)
SpaceXは2002年に電気自動車(EV)大手「テスラ」創業者のイーロン・マスクによって設立された、宇宙開発企業です。カリフォルニア州に本社を置き、正式名称は「Space Exploration Technologies Corporation(スペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ)」。
アメリカでは2005年より宇宙開発能力の維持・向上のため、宇宙事業を民間へ委託する方針打ち出し、この政策転換を機に、多くの民間企業か宇宙開発に参入しています。SpaceXは2010年に民間企業として初めて国際宇宙ステーション(ISS)への有人飛行を実現させました。2022年11月にも世界で最も打ち上げ能力の大きなロケットの打ち上げを成功させており、今後も重要なプロジェクトが次々と控えています。
SHEIN(シーイン)
SHEINは2008年に創業した、中国発の衣料品ネット通販を運営する企業です。その企業価値は1,000億ドル(約14兆円)と、2022年現在、世界で2番目に大きなユニコーン企業と言われています。
価格の安さから、労働環境や生産プロセス、商品の品質に問題があると指摘されているものの、アメリカのZ世代(1996年~2012年生まれ)の若者を中心に人気を集めています。元々がウェブマーケティング会社であったことから、SNS広告やインフルエンサーを使ったマーケティングを積極的に行っていること、AIを駆使して顧客のニーズを予測したデザイン開発を行うことによって、規模を拡大しています。
Airbnb(エアビーアンドビー)
Airbnbは、2020年12月に上場してユニコーン企業を卒業した有名企業です。2007年に誕生し、世界191カ国、220の国と地域で宿泊施設を提供しています。空き部屋を有効活用したい人と、宿泊先をマッチングするサービスで、訪日外国人客の中でも利用する人は少なくありません。世界的に流行した新型コロナウイルスも乗り越え、2023年2月の時価総額は10兆円を超えています。
Facebook社やTwitter社のような世界の有名企業も以前はユニコーン企業の一員でした。現在のユニコーン企業も同様に、大企業へと成長する可能性を秘めています。
参考サイト:CB Insights「The Complete List Of Unicorn Companies」
日本のユニコーン企業
世界的に有名な企業はまだ数えるほどではありますが、日本にもユニコーン企業があります。その一例を紹介します。
Preferred Networks(プリファード・ネットワークス)
プリファード・ネットワークスは、日本初のユニコーン企業。AIのディープラーニングによって制御技術の開発を行う企業です。交通システムや画像解析、物体認識や制御などの事業を行っています。トヨタ自動車、日立製作所、NTTといった国内のさまざまな大手企業とも提携をしており、国内外の投資家から注目を集める存在です。
スマートニュース株式会社
スマートニュースは、ニュースアプリ「SmartNews」を提供する企業です。2012年に設立され、現在は東京、サンフランシスコ、ニューヨークなどに拠点を構え、海外事業を強化しています。総ダウンロード数は日本とアメリカで5,000万を超え、月に2,000万人のユーザーがいます。
元々スマートニュースは、地下鉄など電波の届きにくい場所でも記事を速く読み込めることで人気を集めていました。さらに、さまざまなジャンルや媒体のニュースの中から偏りがないように選別し発信していることから、フェイクニュースの多いアメリカでは大統領選挙を機にユーザーが1年間で2倍となり、躍進を続けています。
株式会社SmartHR(スマートHR)
スマートHR は、2015年に設立された、Saas型人事労務ソフト「SmartHR」を提供する企業。「SmartHR」は、人事労務に関する手続きの効率化を目指すクラウド型のサービスです。入社手続きや社会保険の書類作成・申請、年末調整などの労務手続きをオンラインで行うことにより、労務関係の煩雑な事務処理を削減できるようになりました。採用企業は4万社、企業評価額は1,700億円を超え、海外の投資家からも注目されています。
株式会社TBM(ティービーエム)
株式会社TBMは2011年に設立された、プラスチックと紙の代替となる新素材「LIMEX(ライメックス)」や再生素材「CirculeX(サーキュレックス)」などを開発・製造・販売する企業です。LIMEXは、石灰石を主原料としているのが特徴で、石灰石は世界各地で埋蔵量が豊富なことから、日本だけではなく世界中で使われる素材を目指しています。
紙に比べると割高ではあるものの、すでに2,500社以上の大手企業の名刺として採用されています。油資源の保全やCO2の排出量削減など、サスティナビリティや環境への配慮求める今の時代にマッチした注目のスタートアップ企業です。
日本にユニコーン企業が少ない理由
なぜ日本には、ユニコーン企業が少ないのでしょうか。その理由は大きく2つあると言われています。まずは、ユニコーン企業の多いアメリアや中国の事情から見てみましょう。
アメリカ・中国にユニコーン企業が多い背景
中国はスタートアップ企業が資金調達しやすい環境があり、IT分野での起業ブームの時に生まれた企業が、現在まで生き残ってユニコーン企業に成長している例が多いことが要因とも言われています。またアメリカのシリコンバレーはスタートアップ企業が生まれてきやすい、投資によりグロースするエコシステムが成熟した環境です。
日本にユニコーン企業が生まれにくい理由
日本では、従来のビジネスモデルに固執する企業文化が根強く、新しいアイデアや技術を積極的に導入する文化がまだ浸透していません。そのため、新しい市場を開拓するためのアイデアやビジネスモデルが生まれにくく、ユニコーン企業の誕生がアメリカや中国に比べ遅れています。
また、グローバルなマーケットへのアプローチが不十分なことも、ユニコーン企業の誕生を妨げている要因として挙げられます。具体的には、日本の英語教育が不十分であることや、海外市場に進出する際のリスク管理に対する意識が低いことです。そのため、グローバルな市場に進出することがなかなか難しく、日本市場だけでのビジネスにとどまる企業が多くなってしまっています。
さらに、日本市場が狭いことや、大手企業の寡占状態が続くことも、ユニコーン企業の成長を妨げている要因となっている可能性があります。日本市場は、人口が減少傾向にあり消費が低迷しているため、新しい市場を開拓することが難しい状況が続いています。また、大手企業が市場を独占しているため、新しい企業が参入しにくく、競争が制限されてしまっています。
ベンチャーキャピタルの不足
ベンチャーキャピタルの不足も、ユニコーン企業の誕生を妨げている要因の一つです。日本においては、投資家がリスクを取りたがらない傾向があり、さらにベンチャーキャピタルの数が少ないため、スタートアップ企業が資金調達に苦労することが多いです。その結果、急速な成長を遂げることができるユニコーン企業の誕生も遅れてしまうことになってしまいます。
このような要因が重なり、日本にはユニコーン企業が少ないのが現状です。しかし近年では、政府や大手企業がスタートアップ企業を支援する取り組みを進めており、ベンチャーキャピタルの供給も増えてきています。今後は日本でも新しいアイデアや技術を持つスタートアップ企業が誕生し、ユニコーン企業の増加を期待することができるでしょう。
日本のユニコーン企業を増やすための試み
ユニコーン企業は多くがアメリカや中国から生まれています。残念ながら2023年2月現在、日本のユニコーン企業は6社。これは韓国の14社、オランダの7社と比べても少ない数字です。
ユニコーン企業を育成するための試み
日本では、2019年にスタートアップ企業を育成するための総合戦略を発表しました。スタートアップ企業が集積する「拠点都市」を2~3か所選び、規制緩和や起業家、投資家の招致といった形でサポートする戦略です。スタートアップ企業は特定の都市に集積する傾向があるため、日本でもシリコンバレーのような集積地を作る計画を立てたのです。
実際に2020年には「スタートアップ・エコシステム拠点都市」として、グローバル拠点都市が4か所、それに次ぐ推進拠点都市が4か所の計8か所を選定しました。アクセラレーションプログラムや大企業との連携、海外のアクセラレーターやベンチャーキャピタルの参加を目指し、さまざまなスタートアップ関連の取り組みを行っています。
また大学との連携も進めて、起業家育成のためのプログラムを設けた大学には運営費交付金などを通じて支援を行います。会社経営の観点からより実践的な講義を行うことで未来の起業家を育成します。
企業環境の整備
ユニコーン企業の数においても、先進国や新興国から後れを取った印象のある日本ですが、2019年5月にデジタルファースト法(デジタル手続法)が可決・成立されたことは記憶に新しいでしょう。将来的には、補助金や助成金の申請から妊娠・出産の手続きまで、行政のあらゆるサービスをオンラインで行うことが目標です。
インターネットを利用して法人設立が可能になるなど、より効率的に電子化され企業のための制度面で企業環境を整備しています。スタートアップ・エコシステムの形成とともに、政府が力を入れている政策の一つにも注目しておきましょう。
まとめ
ユニコーン企業が増加している世界の環境は起業を目指す人にとっても、投資家にとっても魅力的です。多くのユニコーン企業が新しいアイデアで生活をより便利にしたり、新しいテクノロジーをもたらしたりと世界の成長発展に貢献しています。もちろん新しく起業を一から立ち上げることも選択肢ではあります。事業の多角化や他企業との合弁など既存の企業にも多くのビジネスチャンスがあるでしょう。