インドやシンガポールなど日本にとってビジネスを行いやすい海外進出先はたくさんあります。それらの国々の特徴の一つが経済特区を持っていること。世界の経済特区や外資誘致戦略についてまとめました。

経済特区とは

経済特区は英語で”Special Economic Zone” (SEZ)。経済発展を目的に、法的、行政的に特別な地位を付与されている地域を指します。経済特区がはじめて作られたのは1979年の中国です。「改革開放」政策の一環として、深セン、珠海、汕頭(以上、広東省)、厦門(福建省)の4つの地域に設置されました。そして1988年に広東省から分離・独立した海南省が加わり、5つ目の経済特区となりました。

その後イギリスでも経済特区に似た地域として「エンタープライズゾーン」が設置され、アメリカでも「エンタープライズ法」が提出されました。日本では2002年4月に施行した「沖縄振興特別措置法」の中で、沖縄県にある「経済金融活性化特区」「国際物流特区」「情報通信産業振興地域・特区」を特別地区として、企業に対して税制などの優遇措置を行うことが定められました。その後の小泉政権時には、全国の地方自治体に「構造改革特別区域」が設置され、さらにスーパー特区や復興特区、国家戦略特区などが作られました。

中国の経済特区

中国において経済特区とは、外国資本や先進技術の導入が認められている地域のことです。また輸入関税の免除や所得税の据え置きなどを実施しました。これは改革開放政策の一環で、指定された地域には多くの外国企業が進出し、工業・商業・金融業などが発展しました。外国企業にとっては税制優遇を受けられて安価な労働力を獲得することができます。

中国にとっても経済特区が発展することで金融や商業などの発展が進みました。中国の高度成長は経済特区によって支えられたものといえるでしょう。近年、香港に隣接する深センは「中国のシリコンバレー」や「アジアのシリコンバレー」と呼ばれ、起業を目指す多くの若者が集まり、世界でも最先端都市として注目を集めています

また最初に設置された4つの経済特区のうちの一つであるアモイ(厦門)は、台湾の対岸に位置し、台湾島との距離は台湾海峡を挟んで200キロほど。深センほどではないものの、IT企業を多く誘致していることで知られています。深センが香港からの玄関口だとすると、アモイ(厦門)は台湾から中国大陸市場への玄関口といえるでしょう。

日本企業の進出

日本企業の中でも経済特区に進出している企業はたくさんあります。たとえば韓国の仁川(インチョン)経済自由区域(IFEZ)は、複数の日系企業が製造・研究・教育施設を相次いで作るなど投資を拡大している地域です。日本企業には部品産業が発達した企業が多くIFEZに進出することで、現地で部品を生産して韓国企業に供給する戦略を採用しています。

カンボジアのように海外進出先として実質的に経済特区でないと進出が困難な場合もあるでしょう。経済特区への進出を考える場合は、受けられる優遇策や入居の条件を確認することが必要です。

国によって違う経済特区

インド

広大な国土を持つインドも経済特区をおいています。2014 年に発足したモディ政権は経済特区への投資に期待を寄せており、 開発を促進するため、様々なインセンティブを用意しました。一定期間の法人税の免除や物品税、サービス税、中央販売税等も100%免除です。

シンガポール

またシンガポールのように狭い国土の国でも多くの経済特区や工業団地を抱えています。政府は大掛かりな再開発によって数多くのビジネスパークを設立しました。国土が狭い分、高速道路や交通インフラが整っていてアクセスや利便性に優れています。

フィリピン

フィリピンでは外資企業の受け入れが積極的で経済特区(Philippine Economic Zone Authority:PEZA)が300以上あります。フィリピン経済区庁(PEZA)が管轄しているエコゾーンや、オロンガポ市にあるスービック経済特区などがあり、税免除などの優遇措置が受けられます。

PEZAに登録するには基本的に輸出企業で、生産品の70%以上を輸出していることといった要件を満たす必要があります。PEZAの登録事業者は輸出企業、パイオニア企業、 施設企業、サービス企業など11種類。それぞれの業種に応じた優遇を受けることができます。

登録された企業は4~6年間、30%の法人税が免除され、その後も5%の低税率が適用されるなど手厚い優遇を受けられる一方で、手厚い外資優遇に反対の声も上がっています。フィリピン政府は外資大手ばかり恩恵を受けて不公平だとして優遇を撤廃し、代わりに法人税を25%に下げて幅広い産業を誘致する方針も掲げています。海外進出前には今後の政策動向も調査しておきましょう。

ミャンマー

ミャンマーには、「ティラワ経済特区」「ダウェー経済特区」「チャオピュー経済特区」など3ヶ所の経済特区がありますが、現在稼働しているのはティラワ経済特区のみです。ティラワ経済特区は、ミャンマー・日本共同事業体(MJTD)が主体となって開発し、日本の援助も入り大規模な整備が進められています。

経済特区エリア内に大規模な工業団地や住宅地、大学、研究機関などを設置する都市開発構想に基づいて開発が行われています。ティラワ経済特区はミャンマーの最大都市ヤンゴン近郊にある経済特区で、進出企業は土地代や税制の優遇を受けることが可能です。

進出企業は、業種により5~7年の間法人税が減税/免税、輸入関税においては建設資材・製造設備の輸入が免税もしくは5年間の減税/免税といった優遇が受けられます。ミャンマーは周辺に巨大な消費市場を有する「大メコン経済圏、東西経済回廊」に近い地理的な要所にあり、低い価格で確保できる労働力、豊かな資源などが魅力です。

ラオスのパクセー・ジャパン日系中小企業専用経済特区がビジネスチャンスに

ラオスのパクセー・ジャパン日系中小企業専用経済特区がビジネスチャンスに

少数民族の国として知られ、東南アジア最後の桃源郷とも呼ばれるラオスも経済特区を相次いで新設しています。その一つが人口約10万人の都市、チャムパサック県パクセーに設立されたパクセー・ジャパン日系中小企業専用経済特区です。東西経済回廊が開通したこと、パクセーからカンボジアに車を使って約1時間半で到達できる陸路の整備などが進み、日本企業からも注目されるようになりました。

アジア諸国で人件費が上昇している一方でラオスは比較的低い水準にあります。そのためコストカットを目的に製造拠点をラオスに移している企業が増加しています。ラオスはもともと農作業や手作業が盛んで細かな作業に慣れている人が多いことも魅力です。電力が安く、経済特区では税務上の恩恵が受けられるためコストカットを目的に進出している企業は多いでしょう。

日系の中小企業のみが誘致の対象

パクセー・ジャパン日系中小企業専用経済特区では日系の中小企業のみが誘致の対象となっています。今までの経済特区は大企業と中小企業など多くの企業が混在していました。その結果、賃金格差や従業員の引き抜きが生まれてしまうという事態もよく起こっています。

そこでパクセー・ジャパン日系中小企業専用経済特区では中小企業に限定して、企業間の経済交流の活発化も促進する狙いです。ここでは経済特区としての恩恵だけでなく現地で情報収集や人材確保に至るまで、トータルサポートを受けることができます。海外進出で特に課題となるのがパートナーの確保です。バックアップを受けられることで、海外進出がより効率的になることが予想されます。

まとめ

世界中に経済特区が点在しています。経済特区は税制面の優遇などが受けられることがメリットです。しかし、国によって経済特区の特徴が違うため、制度面で有利な経済特区を選ぶことになるでしょう。また経済特区の優遇も政策の変更によって変わってしまうリスクがあります。経済特区の制度的な特典だけでなく、インフラや環境整備なども考慮して海外進出先を選ぶようにしてください。

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