社員を雇う上で必ず考えておかなければならないのが福利厚生です。労働保険と社会保険に加入させた社員が海外駐在になった場合、どのように取り扱えばいいのでしょうか。海外進出を見据えてあらかじめ考えておきましょう。

厚生年金保険の制度と海外での加入

日本において、全ての法人と常時5人以上の従業員がいる個人事業所は厚生年金保険の適用となります。外国企業の在日支店や営業所は法人扱いです。また、駐在員事務所の場合は個人事務所として扱います。

厚生年金として受け取ることができるのは老齢年金と障害年金、遺族年金です。保険料は被保険者の標準報酬月額(上限62万円)及び標準賞与の額(上限150万円)の18.3%を被保険者と事業主で折半して負担します。では、日本で厚生年金に加入している人が海外赴任になった場合はどのように厚生年金保険に加入するのでしょうか。

海外赴任になった場合、日本の給与支給額を残して厚生年金保険を継続するのが一般的な方法です。健康保険や雇用保険も、同様に加入条件を満たす国内給与があればそのまま維持することができます。一方で、維持できない社会保険制度が労災保険です。労災保険は海外赴任中には喪失します。ただし、特別加入制度があるのでそれを利用して一定の条件下で加入することができます。

日本の雇用保険や厚生年金を維持するためには、日本で一定の給与を残しておかなければなりません。そのため、海外赴任を命じる場合には、厚生年金を維持するための給与設計が必要です。

社会保障協定とは

海外赴任者に対しては、日本での給与を維持することで赴任中も社会保険制度の継続加入が可能です。一方で、海外赴任先でも独自の社会保険制度があり、加入を求められるケースもあります。すると、日本と赴任先の国それぞれの社会保険に保険料を支払わなければならないケースも発生してしまいます。

海外赴任者が赴任先で年金制度に加入したとしても多くの場合、加入期間は短期です。そのため受給資格が得られることはなく、保険料をかけ捨てたような状態になってしまうことも。これらの問題を解決するために、国ごとに社会保障協定が結ばれていることがあります。

社会保障協定の内容とは

社会保障協定の内容は、海外への派遣期間が5年を超えない見込みの場合には、その期間中は海外法令が適用されず、日本の法令だけを適用するというものです。5年を超える見込みの場合には海外の法令を適用します。また、社会保障協定によって保険期間も通算されます。

日本と海外赴任先の両国の加入金を通算して年金受給条件を満たす期間を超える場合には、それぞれの加入期間に応じて両国から年金を受けられるよう、社会保障協定で定められています。

社会保障協定が適用となる国


2019年7月時点において社会保障協定が結ばれているのは以下の国です。
【協定が発効済の国】
ドイツ イギリス 韓国 アメリカ ベルギー フランス カナダ オーストラリア オランダ チェコ(ただし2018年8月に一部改正)スペイン アイルランド ブラジル スイス ハンガリー インド ルクセンブルク フィリピン スロバキア

【署名済未発効の国】
イタリア 中国 スウェーデン

日本は22ヶ国と社会保障協定を締結済で、そのうち19ヶ国は発効しています。また、イギリス、イタリア、韓国及び中国については、保険料の二重負担防止のみが有効です。上記の国であれば海外法人に海外赴任となった場合でも、保険料を二重負担することはありません。

参考サイト:
https://www.nenkin.go.jp/service/kaigaikyoju/shaho-kyotei/kyotei-gaiyou/20141125.html

自営業者の社会保障協定はどうなる

これまでは労働者の社会保険について紹介してきました。しかし、自営業者が海外赴任先で一時的に自営活動をおこなうケースも想定されます。そのような場合は、一定の条件のもとで一時派遣者として取り扱われます。相手国と社会保障協定を結んでいれば、社会権制度加入が免除になることもあります。

具体的には、赴任期間中も日本の保証制度に加入し続ける場合や、日本での従事していた自営活動と同一の事業を相手国でもおこなう場合や、就労期間が開始時点で5年以内と見込まれる場合などが原則的な条件です。社会保障協定は相手国によってその条文が違うため、それぞれを確認して対応しましょう。

まとめ

近年、海外進出する企業が増加し、企業から派遣されて海外で働いて将来的に海外で生活する人も増加しています。しかし、海外で働くということは働く国の制度の下で生活するということです。

海外で働く人の便宜や利益を守るために締結された協定が社会保障協定です。その国ごとに就労期間の延長や随伴家族についての取り扱いが違うこともあります。社会保障協定相手国別の注意事項は日本年金機構のホームページからも確認できます。社会保険協定共通の条件を確認するとともに、各国特有のルールについても確認しておくようにしましょう。

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