海外進出をするために日本から海外赴任する人も多くいるでしょう。海外在住で働く日本人の数も増加しています。しかし、心配になるのは海外赴任中に病気やケガになってしまった場合です。海外法人で働くことになった場合の健康保険についてまとめました。
海外の医療費事情とは
海外赴任したことがない人であっても、海外旅行に行く人であれば海外の医療費が高いということはよく知られていることです。まずは、海外の医療費について主要国の情報を紹介します。
例えば、救急車の料金です。日本に住んでいれば救急車の料金と聞いて違和感を覚えるかもしれません。日本では無料の救急車ですが、アメリカの場合は平均123,000円かかります。タイでは日本と同様に無料と、国によって料金はさまざまです。よく知られた話ではありますが、日本で盲腸になった場合かかる費用は60万円前後なのに対し、アメリカの場合は100万円を超える金額になります。
入院にかかる費用も国によって違います。日本の場合は個室であっても一日30,000~100,000円が一般的ですが、アメリカだと平均204,900円かかります。
海外の医療費用が高くなる理由は、医療制度や医療事情によるものです。アメリカやヨーロッパは医療費が高いイメージがありますが、近年ではアジア圏も急激な経済発展によって医療費が高騰しています。日本から多くの企業が進出している中国も、医師や看護師の需要が増加したことや、医療ビジネスの発展が原因で医療費が高騰してきます。
海外赴任の医療保険
海外赴任先によっては医療制度や保険制度が未成熟なこともあります。そういった場合、海外旅行保険に加入させるという選択肢もあります。海外旅行保険というと旅行の時に使うものというイメージがあるかもしれません。しかし、保証期間を長くして補償内容を拡充することで駐在員向けの保険商品として利用することができます。
そのほか、赴任先の現地医療保険に加入するという方法もあります。例えば、アメリカには公的な医療保険がありません。多くの国民が民間の現地医療保険に加入しており、それに加入する形となります。多くの場合は福利厚生の一環として法人が加入します。それ以外の国でも社会保障制度に合わせて対応が可能です。一定条件を満たすことで外国人でも公的保険への加入が認められるケースや、社会保障協定によって現地で保険料の負担をしなくてもいいケースがあるので、赴任先の国に合わせて対応するといいでしょう。
海外赴任でも日本の健康保険が使える
海外赴任先でもあっても、日本で国民健康保険に加入していれば海外滞在中に発生した医療費を後から還付してもらえます。これは海外療養費制度といい、国内健康保険では日本の水準の7割程度相当が還付金として支給されます。
海外療養費制度には、あらかじめ立て替えで支払いしなければいけない点や、海外療養費支給申請のために提出する書類が煩雑であることなどデメリットもあります。必要となる書類は健康保険組合の海外療養費支給申請書と医師の証明を受けた診療内容明細書、医師の証明を受けた領収明細書です。さらに上記の書類の内容を翻訳したものを翻訳者の氏名捺印を添付して用意しなければいけません。
駐在期間中であっても健康保険の保険料を支払っている以上、還付金は受け取りたいものです。しかし、上記の書類の準備や翻訳につまずいて申請に乗り気になれないという人も少なくないでしょう。また、支給される療養費は実際に支払った金額ではなく日本の医療機関で治療を受けた場合の診療料金を基準として計算されます。
海外赴任でも日本の健康保険を使うためには
健康保険の扱いは海外赴任した時の立場によっても異なります。日本企業での雇用関係を継続したままの在籍出向の場合は、出向元との雇用契約は継続されているとみなされるため、健康保険の資格も継続します。ただし、その場合であっても給与が赴任先の企業から全て支払われる場合は雇用契約が継続していないとみなされ、健康保険の被保険者資格は喪失します。そのため、健康保険を継続させるためには日本での給与支払いを維持しておく必要があるのです。
日本企業との雇用関係を一旦終了させる移籍出向の場合、健康保険の被保険者資格は喪失します。任意継続被保険者手続きを行うことで継続できますが、これも資格喪失日から最長で2年しか加入出来ません。
そのほか、国民健康保険に加入するという選択肢もあります。国民健康保険は市区町村に居住することが対象となっており、住民票を除票していると加入できないので注意しましょう。
まとめ
コスト削減を目的に海外進出を目指す企業も少なくありません。そんな企業にとって海外での医療費は頭を抱える問題です。国内健康保険の海外療養費制度を活用しながら赴任先の国に合わせて必要な補償をプラスするような形が理想的と考えられます。海外駐在員にとって、国内で勤務した場合と比較して不公平感を与えないような福利厚生制度も必要でしょう。