少子高齢化社会によるGDPの停滞が、日本企業を海外進出へと向かわせています。日本国内ではこれ以上の成長を見込めなくなったと感じる企業は多く、大企業だけでなく中小企業でも、積極的な海外進出を開始しています。海外進出した企業の割合や傾向を知り、今後の対策に活かしましょう。

海外進出する日本企業の変化

日本では、以前から大企業の生産拡大により、海外での生産拠点の確保が行われてきました。安価な土地や人件費などを求める企業がアジア圏への海外進出を積極的に行い、成功させてきたのです。ところが近年では、海外進出の傾向が変化しています。

高度成長期は「大企業の海外進出が増加」

日本の大企業は、高度経済成長期に安価な労働力と広大な土地を求めて海外へと進出していました。その際の主な進出先はASEAN地域であり、生産拠点を築いていったのです。このような海外進出によって、日本の大企業は新たな市場を開拓し、国内市場だけに頼ることなく、海外市場でもビジネスを展開することができるようになりました。

また、海外進出によって、現地の人々の生活や文化などを学ぶことで、多様な視点からビジネスを展開することができるようになったと言えるでしょう。

1990年代から「中小企業の海外進出の割合が増加」

大企業の後を追うように中小企業の海外進出が増えてきたのが、1990年代です。中小の製造業も大企業に倣って中国、ASEAN地域へと進出していきました。大企業のさらなる進出と中小企業の海外進出の活発化によって、海外で日系企業が競合することも起こるようになりました。

これにより、日系企業は新たな課題に直面することになります。たとえば、国際的なビジネス環境に対応するための戦略の見直しや、新しい市場での競争力の向上です。また、海外進出には、現地の文化や法律・制度にも精通する必要があるため、企業はより戦略的な海外進出計画の策定が求められるようになりました。

海外進出は、企業にとって非常に大きなチャンスではありますが、成功のためには慎重な計画と戦略的な仕掛けを欠かすことはできません。

近年は「消費市場を目指す海外進出の割合が増加」

アジアなど新興国への海外進出は、生産拠点設立を目指したものにとどまらず、活発化する消費市場もターゲットになりました。新興国には、日本国内に比べて少子高齢化が進んでおらず、市場がまだまだ成長の余地があったため、販路を拡大する重要な機会だったのです。

一方、アジアを中心とした新興国各国ではIT人材などの育成が進み、人件費の高騰も起こっています。そのため、海外進出を果たしていた企業でも、人件費高騰に耐え切れず、撤退を余儀なくされるケースも珍しくありません。こうした状況の中で、生産拠点としてだけではなく消費市場へのアプローチが重視され、海外進出の割合が増加する傾向になってきたのです。

現在の海外進出の割合と傾向


現在の海外進出する企業の割合や傾向を見ていきましょう。アジアでの生産拠点の確保を中心としてスタートした日本の海外進出の流れは、徐々に変化しています。

日系企業の海外進出数

外務省による「海外進出日系企業拠点数調査(2021年)」によると、2021年10月1日時点での海外進出している企業の数は77,551件です。

国別としては中国が31,047件と最も多くの割合を占めており、ついでアメリカ8,874件、タイ5,856件、インド4,790件、ベトナム2,306件、インドネシア2,046件と続きます。アジアへの進出が多い中、ドイツが1,934件で6位となっています。

中国への海外進出の模索

進出企業数からもわかるように、中国は以前から海外進出する日本企業が多くありました。しかし現在では、法整備や人件費急騰などによって、以前のようなビジネススキーム・ビジネスモデルでは成功できないケースが増えています。とはいえ、大企業を中心に、中国をターゲットとして海外進出を検討する企業はいまだに多く、中国人の所得向上をビジネスチャンスと捉える企業も増加傾向にあります。今後も成長性を期待する日本企業の参入は続いていくでしょう。

日本貿易振興機構(ジェトロ)による、「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査(2022年度)」では、今後輸出の拡大を図る企業のうち23.1%が中国を輸出先として重要視しています。このことからも、中国国内の需要への期待値が高くなっているのがわかります。ただし、前年に比べると4.7ポイント低下しており、アメリカと僅差となってきました。

今後の動向においては、中国を足がかりに東南アジアや北米・EU圏へと市場開拓へ取り組むという企業の声も多くみられています。中国の需要に対応するだけではなく、新たなビジネスモデルやマーケティング戦略の開発などを進める必要があるでしょう。

新しいチャンスを求めベトナムへ

中国への期待が高まる一方で、ベトナムへの海外進出にも注目が集まっています。その理由は、ベトナムが急速に成長していることにあります。ベトナムは人口が多く、若い人材が豊富であることから、多くの企業が海外進出を希望しています。さらに、ベトナムは日本との関係が深く、多くの日本の企業が進出しています。日本語が通じる職場も多く、日本人の駐在員の数も多いです。

ASEAN諸国全体も事業拡大を希望する企業の中で高い人気を誇っており、ベトナムを含むASEAN諸国に進出する企業も増加しています。

好調だったロシアは調査開始以降、最悪の業績へ

近年、ロシアにおける海外進出企業は黒字傾向で進んでおり、経済制裁の問題は感じつつも、今後拡大を目指す企業も見られていました。その理由は、ロシアの人口は1億4千万人以上であり、市場規模も大きいため、海外企業にとっては魅力的な市場だったこと。また、ロシアには石油、天然ガス、石炭などの天然資源が豊富で、それらを活用した事業展開が可能であることも魅力の一つでした。

2022年2月のウクライナ危機以降、多くの経済制裁を受けるロシアは、進出している企業にも影響を与えています。とくに製造業においては、国産品への移行が進んでおり、海外企業にとっては売上減少が懸念されています。2022年度の営業利益の見込みを「赤字」と答える企業は半数を超え、2023年度の見通しも約6割の企業が「悪化」と予想しているため、今後は事業の縮小や第三国への移転・撤退が増えると予想されます。

参考サイト:
日本貿易振興機構(ジェトロ)「2022年度日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」
日本貿易振興機構(ジェトロ)「2022年度 海外進出日系企業実態調査(ロシア編)」
外務省「海外進出日系企業拠点数調査(2021年)」

海外在留邦人の推移

企業の海外進出では、現地へ駐在員を派遣することが必要なケースも多いもの。輸出やライセンス契約などで海外進出を果たすケースもありますが、直接投資をするならば日本から常駐する社員を派遣することも増えます。海外で暮らす在留日本人の増加も、海外進出の増加が影響を与えているといえるでしょう。

海外在留邦人数

外務省の2022年10月1日時点の海外在留邦人実態調査では、海外で暮らす邦人総数は130万8,515人と、前年比で約2.7%にあたる3万6,385人の減少となっています。この減少は、新型コロナウイルス感染拡大の影響が続いていることが要因の一つとされています。

海外在留邦人の地域別分布を見ると、北アメリカが約37.7%のおよそ49万人ともっとも多く、アジア、西ヨーロッパと続き、この3地域で全体の約8割を締めています。中米や、東ヨーロッパ・旧ソ連、アジア地域などでは、前年に比べ減少傾向にあります。このような状況から、外務省では引き続き、海外在留邦人の安全に向けた対策を講じていくことが求められています。

在留邦人数が多い国

国別の在留日本人が多いのは、アメリカ、中国、オーストラリア、タイ、カナダです。この5か国に在留日本人の約6割が集まっています。前述の日本企業の海外進出の多い国(アメリカ、中国、タイ)とも重なっているため、在留日本人が多くなっています。

一方、都市別では、ロサンゼルス都市圏には全体の約5%にあたる6万人ほどが在留しており、バンコクには約4.3%にあたる5.6万人ほどが在留しています。また、ニューヨーク都市圏、上海、大ロンドン市にも在留日本人が多く、この5都市で在留日本人の約17.5%を占める数字です。

それぞれの都市には、国際的な企業が多く進出しており、在留日本人もビジネスや研究のために多く滞在しています。海外での学びや研究によって、日本に貢献することも期待されています。

※在留日本人数はアメリカがトップですが、長期滞在者は民間企業の勤務者以外に学生や研究者なども含まれています。

まとめ

日本企業の海外進出は、大企業だけでなく中小企業まで広がっています。また、時代の流れとともに、市場拡大のための生産拠点設立を目的として海外を目指す企業だけでなく、活発化する消費市場の開拓を目的に、海外進出に魅力を感じる企業の割合も増えてきました。

各国の傾向を元に自社の海外進出の方向性を検討してみましょう。

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hawaiiwater

X-HUB TOKYO
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