海外進出する企業が良く陥りがちなのが、日本で受け入れられているものは他国でも受け入れられるという幻想です。ビジネスや経済が違えば求められる製品もまったく違います。今回はアメリカ経済や社会構造の特徴をまとめました。

GDP比でみる日本とアメリカ

世界経済は全参加者が我先にと駆け出して順位が決まるというよりは、ミスコンテストのように勝者となる国が選ばれる構図になっています。つまり、勝者と勝者以外がはっきりと分かれるような形です。名目GDPで日本とアメリカを比較してみましょう。

1995年は日本の経済規模はアメリカの7割程度を保っていましたが、2017年には4分の1程度まで差が生じています。もちろん、アメリカは国土も広大で人口も日本と比較して多い国です。

では1人当たりGDPで比較するとどうでしょうか。1人当たりGDPで比較した場合、1995年の日本はアメリカを上回っていたものの、近年はアメリカの3分の2程度の水準となっています。国際通貨基金(IMF)が発表している2019年の世界1人当たりGDPでは、日本は26位で、ドイツやイギリスなどの国々よりも低い水準です。

これらの違いは金融政策にも原因があるでしょう。中央政府がおこなう金融政策は経済成長率を上げるだけでなく、失業者の発生を防ぐといった目的もあります。日本の経済政策の特徴が財政、金融政策の積極的な活用です。

日本では景気が拡大局面にあれば財政支出を抑制して引き締めをおこなってインフレが進むのを抑制します抑えます。逆に景気が後退した場合は、財政支出を増やし、減税、金融引き締めをおこなって景気を刺激しようとするのです。このように景気と逆になる経済政策を行うことで雇用や国民の生活を安定させます。

このような経済政策は必ずしもベストのタイミングでおこなえるわけではありません。逆に景気変動に拍車をかけてしまうこともあります。しかし、失業の発生を抑制して緩やかな成長を目指すためにはある程度の政府の介入は必要になります。

リーマンショックからの回復で見るそれぞれの特徴

政府による経済への介入が欠かせないという論調になったのは、2008年のリーマンショックもあるでしょう。しかし、リーマンショックが起きたアメリカの経済は他の国々よりもスピーディーに回復しています。一方で、日本やヨーロッパの方がリーマンショックのあおりを受けて、低迷が長期化しました。

リーマンショックが起きた2008年、アメリカでは実質経済成長率が-0.1%に落ち込み、2009年には-2.5%とマイナス幅を広げています。一方で、日本では2008年に-1.1%、2009年は-5.4%でした。これだけを見れば日本の方がより傷が深いように見えます。

しかし、失業率でみるとアメリカでは10%近くまで失業率が上昇しているのに対して、日本では2009年から2010年にかけて5%台に上昇した程度です。これはそれぞれの経済政策の特徴があらわれているといっていいでしょう。

富裕層が増加したアメリカの経済格差

富裕層が増加したアメリカの経済格差
リーマンショック以降、アメリカでは緩やかに景気拡大が続きました。この景気拡大によって多くの富裕層が生まれ、アメリカでは資産10億ドル以上を持つビリオネアがこの景気拡大で2倍以上増えたといわれています。

また、連邦準備理事会(FRB)の2016年のデータでも、アメリカでは富の88%が上位20%の富裕層に集中していることを指摘しています。この比率はリーマンショック前よりも拡大しました。アメリカには無料の食事を得られるフードスタンプという制度があります。現在、フードスタンプを受けている人の数は3,900万人、2008年と比較するとおよそ4割増加しています。

リーマンショック直後はアメリカがこれほどの急回復を成功させるとは多くの人が予想できなかったでしょう。しかし、市場は安定を取り戻し、資産価格も以前の水準に押し戻されました。その一方で政府は所得格差や富の変調といった問題が置き去りにされていたといわれています。

経済統計的には好景気が続くアメリカでは順調に物価も上昇しています。そのため貧困層や失業者は上昇する家賃や物価に苦しむこととなりました。アメリカ経済の特徴ともいえる所得格差は景気後退局面になればより一層強調されます。仮に金利低下や減税の効果が薄れたタイミングで景気が低迷すれば、真っ先に生活に困るのは低所得層でしょう。

失業者や貧困層が増加すれば、消費が減退するだけでなく社会不安も高まります。そうならないために早い段階での格差是正の取り組みが求められています。

まとめ

アメリカは現在、中国向け輸出の減少が続き、さらにEUや中南米向け輸出も減少となりました。これは世界経済の先行き不安から外需が減速していることを示します。アメリカを支える内需を確かなものにするためにも格差社会の是正が求められます。アメリカは消費を武器に経済成長してきたという特徴があります。アメリカの今後の先行きや経済を左右するのはどれだけ確かな内需を育てられるかにかかっているでしょう。

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