欧米へのテストマーケットの場としても注目されるオーストラリア。オーストラリアでビジネス展開する場合、どのような法人税の規定があるのでしょうか。
オーストラリアでも日本と同様に、法人税の納付をしなければなりません。さらに、事業を運営するためには、法人税の他にも、さまざまな税金の納付が求められます。州によって税率が異なる税や頻繁に税率が変動する税もあるため、税に関する最新情報を定期的に確認し、適切な対応を行うことが必要です。
まずは、法人税の申告・納付の方法、法人税以外に発生する税金、法人税の軽減に活用できる優遇措置や二国間条約について把握しておきましょう。
オーストラリアの法人税
はじめに、オーストラリアの法人税について詳しく見ていきましょう。
法人税率
オーストラリアでは、居住状況にかかわらず、課税所得に対して原則30%の法人税が課せられます。ただし、合計AUD5,000万未満の中小企業については、税率が25%に軽減されます(2022~23財政年度の場合)。
課税所得は、決算書に記載されている税引前利益に対して、税務上の加算・減算調整を行い算出します。
納税対象者(税金を納める法人)と課税対象
納税対象者は居住会社と非居住会社に分けられ、それぞれ課税対象となる所得の範囲が異なります。
・居住会社と非居住会社
ここでの居住会社とは、所得税法上オーストラリアで設立した現地法人が該当します。また、オーストラリア国外で設立した法人においても、オーストラリアで事業経営をし、中央管理機能もしくは議決権がオーストラリア居住者によって支配されていれば居住会社として扱われます。
一方、非居住会社とは、オーストラリアに支店や事務所、工場といった恒久的施設(PE)を持たないことが条件となります。
・課税対象
居住会社は源泉の所在にかかわらず、国外源泉所得やキャピタルゲインも含むすべての所得が課税対象です。ただし国外源泉所得には、外国で納めた所得税の税額控除が認められています。
非居住会社では、オーストラリアの源泉所得、および「オーストラリアと必然的な関係を持つ」資産のキャピタルゲインが課税対象です。事業所得は日豪租税条約に基づき、恒久的施設(PE)がある場合に限り課税されます。
中小企業の特例
オーストラリアの税制には、中小企業に対して軽減税率が適用される特例があります。条件は、合計年間総収入がAUD5,000万未満であり、なおかつ、ロイヤルティ、賃金・利息収入といった受動的所得の課税所得に占める割合が80%以下であることです。
この特例による法人税率は、2019年度には27.5%、2020年度には26%、そして2021年度からは25%と、年々下がる傾向にあります。
法人税の申告・納税手続き
次に、法人税の申告・納税手続きはどのように行えば良いのかについて見ていきましょう。
課税年度
オーストラリアの法人税の課税年度は、原則7月1日~翌年6月30日までです。6月30日以外を末日として設定したい場合は、海外の親会社の会計年度と一致させるなど、一定の理由がある場合に限り認められています。ただし、事前に税務長官の承認を得る必要があります。
申告納付期限
課税年度末が6月30日の場合は、同年12月1日が確定納付期限で、申告期限は翌年1月15日です。6月30日を年度末としない場合は、その年度が終了した6か月後の月の1日が確定納付期限、申告期限は課税年度を終えた7か月目の月の15日となります。
ただし代理人によって申告書を提出する場合は、申告期限の延長が認められます。
中間納付
年次通常収入額(annual instalment income)がAUD2,000万未満の企業は、前年の申告額をもとに四半期ごとに予定納付を行います。年4回に分けて納税する方法です。
一方、年次通常収入額がAUD2,000万以上の企業は、毎月中間納付を実施します。納税期限は翌月の21日です。
時効
法人税の申告および納税には4年の時効がありますが、故意に申告や納税を避け、租税回避の疑いがある場合には、時効は停止し無期限となります。なお、期限内に申告・納税できなかった場合や申告内容に誤りがあった場合には、罰金(追徴課税)が課せられてしまうことがあります。
法人税以外に生じる主な税金
オーストラリアで法人税以外に支払う税金として、「給与税」「財・サービス税」「印紙税」が挙げられます。
給与税
オーストラリアの各州では、労働者に対する給与に「給与税」が課せられます。税率は各州により異なりますが、給与の約5~7%が目安です。
給与税は、年間で従業員へ支払った給与総額が一定額を超える場合に適用されます。課税対象の「給与」には、賃金、賞与、各種手当のほか、従業員持株制度による株式なども含まれます。一定額の基準も州によって異なり、この基準は頻繁に変わるため注意が必要です。
雇用者は毎月、給与税調整申告書の提出と給与税の支払いをしなくてはなりません。会計年度終了後に過不足があった場合には、それも納税対象となります。
財・サービス税(GST)
付加価値税にあたる「財・サービス税」は、2007年に導入され、オーストラリア国内のほぼすべての財とサービスに対し、10%の税率で課税されます。ただし、野菜・果物・肉・魚などの一部の食料品、教育関連費や医療・ケアサービス費など一部のサービスは、課税対象外です。
印紙税
印紙税は取引や法律文書に課される州税です。具体的には、オーストラリアのすべての州と特別地域で、土地または土地と特定の資産の権利を譲渡するときに課されます。
各州や特別地域により、印紙税率と免除規定を含む独自の法律や規定があり、対象となる資産も異なります。これらは給与税と同様、頻繁に税率が変わるため、注意が必要です。
二国間租税条約と優遇措置
ここでは、オーストラリアと日本の間で締結されている「二国間租税条約」と、法人税の優遇措置である「研究開発税制」について説明します。
二国間租税条約
通常、配当、関係会社間の貸付による利子、およびロイヤリティの非居住会社への支払いは源泉税の対象となります。しかし、日本とオーストラリア間の二国間租税条約により、これらの課税が減免されています。
この条約は、所得に対する二重課税を避けるとともに、脱税防止が目的です。具体的な税率は、配当所得においては「議決権が直接8割以上かつ12か月保有している場合」や「適格配当の場合」は0%、「議決権を1割以上持つ場合」は5%、「その他のケース」では10%です。
利子への税率は10%、ロイヤリティに対する最大の源泉税率は5%と定められています。
研究開発税制
研究開発税制は、「オーストラリアの会社法に基づいて設立された法人」「オーストラリアで売上のある海外法人」「オーストラリアと租税条約を結ぶ国・地域に居住し、オーストラリアにある恒久的施設で研究開発を行う法人」を対象とした税制優遇措置です。オーストラリアに進出した日本企業や現地法人も対象となります。
この制度は企業の研究開発(R&D)を促進する目的で設けられ、適用を受けた企業は法人税の還付または相殺が受けられます。2020/2021年度の連邦予算案においてR&D投資促進策の拡充が発表され、2021年7月1日より税率が改正されました。
・総売上高AUD2,000万未満(還付型 R&D 税控除)
総売上高がAUD2,000万未満の場合、直接法人税の還付が受けられます。これまでの還付金上限(AUD400万)が撤廃され、「25%の法人基本税率+18.5%」の還付が受けられるようになりました。
・総売上高AUD2,000以上(非還付型 R&D 税控除)
総売上高がAUD2,000万以上の場合、法人税の相殺が適用されます。R&D集約度2%までの対象R&D支出に対しては「25%の法人基本税率+8.5%」の相殺、集約度2%を超える対象R&D支出に対しては「25%の法人基本税率+16.5%」の相殺が受けられます。
まとめ
オーストラリアへの海外進出や海外展開を検討する際には、法人税だけでなく、給与税や財・サービス税など事業に関連する税の理解も必要となります。また、企業の規模や事業内容によっては適用される特例や優遇措置があるため、進出前に確認しておきましょう。
「X-HUB TOKYO」は、東京都が主催し、都内スタートアップのグローバル展開を支援する事業です。海外展開に必要な情報発信だけでなく、実例に基づいたアドバイスやサポートも提供しています。海外のエコシステムの特徴や海外進出に必要なノウハウを伝えるイベントも定期的に開催しているため、最新のイベント情報をチェックし、海外展開の一歩を踏み出してみてください。