近年、アフリカ市場は人口増加を背景に急速な成長を遂げており、新たな事業展開先として注目を集めています。アフリカ進出の主なメリットは、さらなる人口増加が見込める巨大な市場と急速なデジタル化にあり、事業内容次第で大きなビジネスチャンスが期待できます。一方で、治安面や文化的な違い、法規制など、考慮すべきリスクも存在します。
本記事では、アフリカ市場の可能性、具体的なメリット、そして想定されるリスクについて詳しく解説していきます。アフリカ進出の判断材料として、ぜひご活用ください。
アフリカ市場の可能性とは
アフリカ大陸は54カ国で構成され、人口は急速な増加を続けています。アフリカの総人口は2024年に15億1,514万人となり、2050年には24億6,665万人、2100年には38億1,388万人にまで増加する見込みです。2050年には、世界人口の4分の1をアフリカが占めると予測されています。特にナイジェリアは、人口・経済規模ともにアフリカ最大の国であり、今後数十年にわたってアフリカ大陸の発展を牽引していくと期待されています。
世界銀行の発表によると、2024年の世界全体の経済成長率が2.4%と予測される一方、サブサハラ・アフリカの経済成長率は2024年に3.8%、2025年に4.1%に達すると予測されています。アフリカ市場の継続的な成長の背景には、豊富な天然資源・鉱物資源、技術革新の潜在力、そして都市化に伴う労働人口の急増があります。労働人口が増え、所得が増加することで、食料や消費財の市場も拡大しています。特に中産階級や富裕層は、高品質な製品やブランド品を好む傾向が強く、これが市場の成長を一層加速させると見込まれています。
2021年からは、エリトリアを除くアフリカ連合(AU)加盟国による「アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)協定」が運用開始されました。この協定は域内の関税撤廃と貿易ルールの共通化を通じて、アフリカの経済発展と国際競争力の強化を目指しています。
貿易相手国としては、中国がフランス、ドイツ、アメリカを上回り、圧倒的な首位に立っています。今後も中国との取引規模は拡大すると予想されていますが、中国からの融資による途上国の過剰債務や、政治的影響力の増大を懸念する声も上がっています。実際2020年にはザンビア、2022年にはガーナ、2023年にはエチオピアが債務不履行に陥りました。これらの債務不履行の背景には、新型コロナウイルス感染拡大による経済の停滞、ロシアによるウクライナ侵攻に伴う急激なインフレなどのグローバルな経済環境の悪化に加え、高金利融資や過剰な借り入れも原因の一つとして指摘されています。
中国企業は、低コスト生産体制による価格競争力、政府による積極的な支援、インフラ整備への大規模投資などの優位性を活かしてアフリカ市場でのシェアを急速に拡大しています。その結果、日本企業は市場シェア獲得が困難になる可能性に直面しています。しかし、日本企業の人材育成力と技術指導力はアフリカでも高い評価を受けています。中国企業が価格競争で優位に立つ中でも、日本企業は高品質な製品・サービスの提供と、人材育成・技術指導という強みを活かした差別化戦略により市場開拓の可能性を広げることができるでしょう。また、現地企業との共同プロジェクトや技術移転を通じて信頼関係を構築し、長期的なパートナーシップを築くことで、持続的な市場拡大が期待できます。
出典:国連「世界人口推計2024」
アフリカ進出のメリット
アフリカ進出のメリットは大きく分けて2つあります。
市場拡大への期待
労働人口の増加に伴う消費と生産活動の拡大は、アフリカの経済成長や株価の上昇につながります。今後も人口増加が見込まれるため、市場のさらなる拡大が期待できます。
一方で、アフリカには多くの課題があります。インフラ整備、農業生産性の向上、貧困対策、水・衛生環境の改善、教育の拡充、医療サービスの質の向上、産業人材の育成などが挙げられます。これらの課題を解決するようなビジネスを展開できれば、大きなチャンスとなるでしょう。
課題解決の例として、アフリカでは高い輸送コストと劣悪な交通事情による遅延が課題となっています。この巨大な市場を結ぶ物流インフラの整備は喫緊の課題であり、新たなプラットフォームの開発やテクノロジーの導入により、サプライチェーンの形成・改善におけるビジネスチャンスが存在します。
アフリカ進出を検討する際の最初の候補地としては、日本企業の進出実績が多い南アフリカ、エジプト、ケニア、ナイジェリアなどが推奨されます。ただし、各国の最新状況を十分に確認し、慎重に判断するようにしてください。
イノベーションを加速させるデジタル化
アフリカでは、「リープフロッグ現象」と呼ばれる、先進国が段階的に経てきた技術発展過程を飛び越え、最新技術を導入する現象が見られるようになりました。代表的な例では、固定電話網の整備を経ることなく、3Gや4Gなどのモバイル通信網が急速に普及しました。その結果、アフリカではスマートフォンを通じたインターネットアクセスが一般化し、最先端技術を活用したテクノロジーやサービスが急速に発展しています。
現在、アフリカのインターネット利用者数は世界の14%を占めています。固定電話を持たない層にもスマートフォンが普及し、情報技術の導入で生活の利便性が向上しました。今では金融・医療・教育などのさまざまなサービスへのアクセスが可能となり、ヘルスケア、電子商取引、フィンテックなどに新たなビジネスチャンスが生まれています。
先進国ではすでにさまざまな規制が設けられていることが多いのに対し、規制が十分に整備されていない国では、法規制や既存システムとの連携・運用方法の調整が不要、あるいは柔軟な運用が可能なケースが存在します。そのため、新しい技術を導入しやすいというメリットがあり、世界中の企業がアフリカ市場に注目し、新たなビジネスチャンスを求めています。
出典:国際金融公社(IFC)「Digital Opportunities in African Businesses」
アフリカ進出のリスク
アフリカの一部の国では、テロや内戦などによる治安リスク、政治・経済の不安定性、インフラの未整備、文化的な違いなど、さまざまなリスクが存在します。アフリカ進出におけるこれらのリスクは主に以下の5つに分けられます。
安全面のリスク
アフリカでは、宗教対立、民族紛争、政治的な不安定さなどを背景に、テロ活動が頻発する地域があります。また、強盗やスリは都市部だけでなく、地方都市や郊外でも発生する可能性があります。事前に計画されたグループによる強盗事件や武装強盗なども発生しており、進出時には具体的な安全対策を考えておきましょう。
さらに、マラリア、エボラ出血熱、ジカ熱などの日本にはあまり馴染みのない感染症が流行しています。従業員の健康管理が課題となるため、予防接種や予防薬の服用を推奨するなど、万全の対策を講じることが求められます。
政治・法規制・行政手続きのリスク
アフリカの法規制は、歴史的な経緯や多様な文化の影響から複雑な側面を持ち合わせ、クーデターや政権交代などの不安定な政治情勢によっても政府の方針が大きく変動する可能性があります。外国企業の参入規制が強化されたり、外国人の就労ビザ取得が厳格化されたりするなど、予期せぬ政策変更も起こり得ます。また、ビジネス関連の制度や規制が不透明な国や、自国産業保護・雇用創出を目的として厳しい外資規制を設けている国も存在し、これが海外進出の大きな障壁となる可能性があります。
さらに、アフリカにおける汚職・贈収賄は深刻な社会問題として認識されています。政府官僚や政治家への賄賂が横行しており、企業活動の円滑な遂行のためにこうした不正な要求に応じざるを得ない状況が生じることがあります。これは企業の評判を損なうだけでなく、法的問題に発展し、事業の継続を危うくする可能性があります。
そのため進出を検討する際は、対象国の政治・経済状況および治安に関する最新情報を収集し、適切なリスク管理を行うことが重要です。現地事情に詳しい専門家の知見を活用することも効果的な対策の一つです。
経済面のリスク
経済面の主なリスクとして、為替変動リスクとインフレリスクがあります。アフリカ諸国の通貨は先進国通貨と比べて変動幅が大きく、短期間で大幅な値動きが生じることがあります。主な要因は、原油や鉱物資源などの商品価格の変動、政府の金融・財政政策、クーデターなどの政情不安です。
また、アフリカ諸国の中には、高いインフレ率に直面している国が多く存在します。これは政府が財政赤字補填のために行う通貨供給量の増加、食料やエネルギーの供給不足による需給バランスの崩れ、そして為替レートの変動が主な原因です。自国通貨の大幅な下落は輸入品の価格上昇を招き、国内の物価を押し上げ、さらにインフレ期待の形成を通じてインフレを加速させる可能性があります。進出先の経経済状況の変化に迅速に対応できるよう、柔軟な事業計画を立てる必要があるでしょう。
インフラ整備のリスク
インフラ整備は経済成長とともに進展していますが、依然として課題も残っています。例えば道路は未舗装の割合が高く、整備された道路でも維持管理不足により舗装の劣化が目立ちます。物流面では、限られた国際港湾への貨物集中により長時間の待機を強いられ、都市部では人口増加に伴う交通量の増加で慢性的な渋滞が発生し、コスト上昇や納期遅延の原因となっています。
電力供給の不安定さも大きな課題です。停電や電圧変動が頻繁に発生することで、精密機器の故障や生産性の低下を引き起こしています。さらに、水資源が不足している地域では、乾期の深刻な水不足に加え、都市部では生活排水による水質汚染も問題となっています。通信インフラについても、通信網の整備不足によりインターネット接続が遅い、電波が届かないという地域も存在します。
これらの問題は企業活動に大きな影響を与える可能性があるため、事業展開前に関連インフラの整備状況を十分確認しておきましょう。電力や水の供給が不安定な地域では、状況に応じて自家発電設備や独自の井戸の設置を検討してください。
文化・商習慣の違いによるリスク
アフリカには多様な言語、民族、宗教が存在し、国や地域、コミュニティごとに独自の文化やビジネス習慣が根付いています。多くの国で英語やフランス語が公用語として使われていますが、現地固有の言語も日常的に使用されています。
南アフリカを例にとると、11の公用語があり、家族やコミュニティの絆が非常に強いことが特徴です。地域社会におけるコミュニティの役割が非常に大きく、互いに助け合い、支え合う関係が築かれています。このような特徴を背景に、ビジネスでは対面でのコミュニケーションが重視され、メールだけでは物事が進展しにくい傾向にあります。
エジプトでは人口の約90%がイスラム教徒で、イスラム教が社会に大きな影響力を持っています。例えば、ラマダン期間中は帰宅時間が早まるなど、宗教行事が日常生活と密接に結びついています。また、時間に関する認識が異なるため、約束した時間通りに物事が始まることは稀です。これにより、納期遅延や品質管理の問題が発生することがあります。このような文化の違いを理解し、適切に対応することが重要です。
まとめ
アフリカは、2050年には世界人口の4分の1を占めると予測される、巨大かつ成長著しい市場です。都市化が進み中産階級が拡大するにつれ、消費意欲が高まり、多様な商品やサービスへの需要が急拡大しています。
一方で、アフリカ進出には政治・経済の不安定性、治安リスク、インフラ不足、文化の違いなど、多くの課題も存在します。これらの課題を乗り越え、成功を収めるためには、綿密な現地調査と文化理解に基づいた戦略が不可欠です。
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