経済成長を続けるインドネシアは、ASEAN最大級の人口と豊富な資源を背景に、海外進出先として多くの日本企業から注目されています。市場の拡大や多様な投資機会が期待される一方で、外資の受け入れには一定の制限が設けられています。こうした外資規制の仕組みを正しく理解しておくことは、円滑な事業展開のために欠かせません。
本記事では、インドネシアにおける外資規制の制度概要と近年の制度改正の動き、主要業種ごとの現状、そして進出を検討する際に日本企業が確認しておきたい留意点を整理します。
インドネシアの外資規制とは
まず、インドネシアにおける外資規制の基本的な枠組みと、その背景となる法制度を確認しておきましょう。
外資規制の目的と法的枠組み
インドネシアにおける外資規制の目的は大きく分けて、①戦略的分野における国内管理の確保、②中小・零細事業者の保護、③技術移転や雇用促進の推進にあります。これらを通じて、投資の促進と国内産業保護の両立が図られています。
こうした方針のもと、外国投資の基本的な枠組みは、2007年制定の「投資法(Law No.25/2007)」に基づいて整備されてきました。その後、2020年に成立した「雇用創出法(オムニバス法)(Law No.11/2020)」および関連政令により、投資や許認可の制度が大きく再編されています。
この再編において重要な転換点となったのが、2021年に導入された二つの制度です。一つは、政府規則第5号/2021年(PP No.5/2021)に基づく「リスクベース許認可制度(OSS-RBA)」で、事業リスクに応じて許認可手続きを効率化するオンラインシステムです。もう一つは、大統領令第10号/2021年(同第49号/2021年で改訂)による「ポジティブリスト制度」であり、これは外資参入が認められる分野を明示する新たな方式です。
これらの制度は、2025年に施行された政府規則第28号/2025年(PP No.28/2025)によって運用が再整理されています。投資行政を所管するのは、インドネシア投資省(BKPM)であり、外国企業による投資は基本的に同省を通じて行われます。
ネガティブリストからポジティブリストへ
従来、インドネシアでは「ネガティブリスト」によって外資の参入を禁止・制限する分野を列挙する方式がとられていました。しかし、2021年の大統領令第10号および第49号により、この仕組みは「ポジティブリスト」に移行しています。
ポジティブリストでは、原則すべての分野で外資参入が可能となり、禁止・制限の対象となる分野のみが例外として明示される仕組みになりました。例えば、製造業(自動車・電池・電子機器)、通信サービス(インターネット・クラウド等)、データセンター運営、観光、物流など多くの分野で外資100%の出資が認められています。一方で、中小・零細事業者(MSME)の保護を目的として、「MSME専用分野」や「連携義務付き分野」が設定され、特定の業種では外国企業に現地企業との協業や連携が求められます。
ポジティブリスト制度の概要

ここからは、現在の外資規制の中核となっている「ポジティブリスト制度」について、その仕組みと特徴を見ていきます。
優先投資分野と開放方針
ポジティブリストでは、インドネシア経済の成長に対する寄与が大きいと考えられる分野を「優先投資分野(Priority Investment)」として指定しています。再生可能エネルギー、製造業(自動車・電池・電子)、通信関連サービス、観光、物流などが代表的な例で、これらの分野には税制優遇や関税の減免、人材育成支援、手続きの簡素化など、各種の優遇措置が用意されています。
一方で、国家安全保障や公共の利益の観点から、天然資源、メディア、武器、公共インフラなどには一定の制限が残されています。具体的な禁止業種としては、国防関連活動、賭博、大麻栽培、酒類製造、珊瑚採取、化学兵器製造、オゾン層破壊原料の製造などが挙げられます。また、外資比率の上限やローカル企業との合弁義務などの条件が課される「条件付き分野」も存在し、武器・火器、軍事用車両・船舶・航空機、レーダー、国内海運・航空輸送、宅配、メディアなどが含まれます。
なお、新首都「ヌサンタラ(IKN)」における投資は、政令2023年第12号に基づく特別規定の対象となり、一部の分野では一般の外資規制が適用除外または緩和される場合があります。
出資比率制限の基本ルール
外資比率の上限は、事業分野やインドネシア標準産業分類(KBLI)ごとに定められており、大きく分けると、次の三つの類型に整理できます。
- 外資100%出資が可能な業種
- インドネシア資本との合弁が求められる業種(例:49%、67%など上限が設定されるもの)
- 外資参入が禁止される業種
多くの製造業やサービス業では外資100%出資が認められていますが、公益性の高い分野(電力・港湾・航空など)や国家戦略分野では、出資比率の上限設定に加え、引き続き厳格な審査や特別な条件が課される場合があります。
また、外国投資会社(PMA)には投資規模に関する基準も設けられており、原則として投資計画額100億ルピア超(土地・建物除く)が求められます。そのうち、払込資本金として最低25億ルピア以上が目安とされており、これは2025年に緩和された基準です。
主要業種における外資規制の例

次に、主な産業分野ごとに、インドネシアにおける外資規制の現状を見ていきます。
出資比率の基本枠組み
禁止業種を除き、外国資本による出資は広く認められていますが、一部の業種には外資出資比率の上限が設けられています。これは大統領令2021年第10号(同年第49号で改訂)などに基づいており、各業種の開放度は以下のように整理されています。
製造業
製造業分野は、ポジティブリスト制度の導入により、原則として外資100%出資が可能です。自動車、電池、電子機器、食品加工などは優先投資分野にも位置づけられており、外資導入による産業高度化や雇用創出が期待されています。ただし、製造工程の規模や事業内容によっては、中小・零細事業者との連携が求められる場合もあります。
建設業
建設事業分野では、政令第5号/2021年(PP No.5/2021)などに基づき、外資出資比率が67%まで、ASEAN加盟国からの投資の場合は70%までと定められています。ポジティブリスト導入後も、インフラ整備と密接に関連する建設業には、引き続き外資規制が適用されています。
金融・銀行業
金融・銀行分野では、インドネシア金融サービス庁(OJK)の監督のもと、外資出資比率が個別に定められています。例えば、保険会社については政令2018年第14号(2020年第3号で改正)により、外資比率が80%までに制限されています。証券会社や銀行などその他の金融業についても、OJK規則に基づき個別に審査・承認が行われ、証券会社では高い出資比率(最大99%程度)が認められるケースもあります。
通信・インフラ
通信関連分野は、ポジティブリスト制度のもとで比較的開放が進んでいる領域です。通信サービスのほか、データセンターやクラウドサービスなど、多くの業種で外資100%出資が可能となっています。一方で、発電所や空港、有料道路といった大規模な公共インフラについては、引き続き外資比率の上限や追加の許認可条件が設けられています。
小売・流通業
小売・流通分野は、中小・零細事業者保護の観点から一部業種に制限が残されています。ショッピングモールや百貨店などの大規模小売業態は比較的開放されている一方で、日用品を扱う地域商店や露店など、伝統的な市場業態は外資参入が制限されています。また、宅配サービスについては外資出資比率が49%までに制限されており、この分野では現地企業との合弁が事実上前提となる場合があります。
外資出資比率の目安
| 外資出資比率の上限 | 主な対象業種・条件 |
|---|---|
| 20%まで | 民間・有料放送局(設立時内資100%、拡張時20%まで) |
| 49%まで | 武器・火器、軍事用車両・航空機、レーダー、国内海運・航空輸送、宅配(物流)など |
| 67%まで(ASEAN投資は70%まで) | 建設事業 |
| 80%まで | 保険業(既存80%超の非上場企業は例外) |
| 85〜99%まで | 証券会社(非証券系85%、証券系99%) |
| 原則100%可 | 製造業、通信、データセンター、観光、物流など |
※上記は大統領令2021年第10号・第49号、政令2021年第5号、政令2018年第14号(2020年第3号改正)、政令2022年第31号などの関連法令に基づく一般的な整理です。詳細はOJK・BKPMの最新発表をご確認ください。
日本企業が確認しておきたいポイント

これまでの内容を踏まえ、インドネシアで事業を展開する際に、日本企業が押さえておきたいポイントを整理します。
事前の業種分類と許認可の確認
外資規制の判断基準は、インドネシア標準業種分類(KBLI)に基づいています。事業内容に応じたKBLIコードの選定を誤ると、実際の事業と許認可との整合性に問題が生じるおそれがあります。進出を検討する段階から、BKPMが公表する最新のリストを確認し、自社の事業に該当するKBLIコード、その事業分野に適用される出資制限や許認可要件を把握しておくことが重要です。
現地パートナーとの合弁形態
外資比率に上限が設けられている業種では、現地企業との合弁が求められます。合弁契約を締結する際には、資本構成に加え、経営権の配分、利益分配の方法、技術移転契約の内容なども含め、できる限り明確に定めることが望まれます。これらの点を十分に確認しないまま事業を進めた場合、事業開始後の経営トラブルにつながるおそれがあります。
法改正・政令改定への継続的対応
インドネシアでは投資関連法令や政令の改正が比較的頻繁に行われています。政府方針の転換や政令の改訂に伴い、出資比率や優遇措置が変更されることも珍しくありません。そのため、進出後もBKPMの公式発表やOJK、在インドネシア日本大使館やJETROジャカルタ事務所などから最新情報を継続的に収集し、現地の専門家と連携しながら対応することが推奨されます。
まとめ
インドネシアの外資規制は近年大きく緩和され、多くの分野で外資参入が可能となっています。一方で、公益性の高い分野や中小・零細事業者保護を目的とする分野では、引き続き一定の制限が残されています。外資規制の制度趣旨と仕組みを理解し、自社の事業内容に即した形でKBLIや出資比率、許認可要件を確認したうえで、最新情報を踏まえて投資方針を検討することが円滑な進出につながります。
インドネシアを含む海外市場への展開を検討する際には、進出先の制度や事業環境に関する情報収集とあわせて、各種支援プログラムを活用していくことも有効な手段の一つです。東京都が主催する「X-HUB TOKYO」事業では、都内スタートアップ企業を対象に、海外展開に関する情報提供や専門家への相談機会、海外企業・投資家との交流機会などを提供しています。最新の支援内容やプログラムの詳細は、「X-HUB TOKYO」公式サイトをご確認ください。
出典:日本貿易振興機構(ジェトロ)インドネシア「外資に関する規制」

