東南アジアは、世界でも有数の経済成長を遂げる地域として注目を集めています。特に、ASEAN加盟国である10カ国は、豊富な労働力、拡大する消費市場、そして政府の支援など、魅力的な要素を備えており、多くの企業が海外進出先として検討しています。

しかし、国によって経済状況や文化、ビジネス環境が異なるため、「どの国に進出したら良いか分からない」「現地で成功するためには、どのような準備が必要か」といった悩みを抱えている企業も多いのではないでしょうか。

本記事では、東南アジアの中からシンガポール、インドネシア、ベトナム、タイ、フィリピン、マレーシアの6カ国を比較し、それぞれの国が持つ特徴やビジネスチャンス、そして進出にあたっての課題などを解説します。

東南アジアの地域概況

東南アジアは、アジアの東南端にある11の国と地域で構成されています。そのうちASEAN加盟国は、インドネシア、カンボジア、シンガポール、タイ、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、マレーシア、ミャンマー、ラオスで、非加盟国は東ティモールです。

人口

東南アジア全体の人口は2023年時点で約6億9000万人に達し、特徴的なのは平均年齢の若さです。豊富な労働力と多様な消費市場を有しており、若い平均年齢を背景に、今後も安定した労働力の供給が見込まれています。

特にインドネシアやフィリピンではそのような傾向が顕著で、人口増加に伴う消費市場の拡大が、さまざまな製品やサービスへの需要を押し上げています。また都市部へ人口が集中しており、多くの国で都市化が加速しているため、インフラ整備や不動産開発の必要性が高まっています。

経済

東南アジアの中でもASEAN加盟国は、近年貿易が活発化し、世界経済における存在感を増しています。主な貿易相手国・地域は、中国、アメリカ、EU、日本、韓国など、経済規模の大きな国々が中心です。

ASEANは、域内の経済を活性化させるため、自由貿易協定(FTA)を積極的に締結しています。1992年に発足したASEAN域内のAFTA(ASEAN自由貿易地域)を皮切りに、中国、日本、韓国などとの間でASEAN+1 FTAが結ばれました。

2022年には、ASEAN加盟国10カ国に加え、中国、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドの15カ国が参加する世界最大の自由貿易協定、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)が発効しました。これらの協定により、関税の引き下げや非関税障壁の撤廃が進み、ASEAN域内の貿易・投資が大幅に拡大しています。

産業

高い経済成長を続けるASEAN加盟国は、製造業、農業、観光業など、さまざまな産業を抱えています。シンガポールは金融センターとして、マレーシアは電気・電子製品の製造拠点として、インドネシアは資源豊富な国として、タイは自動車産業が盛んな国として、それぞれ特徴を持っています。

また近年では、インターネットやIT技術の普及に伴い、eコマースやデジタルサービスが急速に発展しており、デジタル経済も大きな成長を見せています。ASEAN域内は、豊富な労働力、7億人に迫る人口を抱える巨大な消費市場、そして政府によるビジネス環境の改善といった魅力的な要素を備えており、多くの外国企業にとって魅力的な投資先となっています。

課題

一方で、インフラの不足、政治的な不安定さ、環境問題などの課題が存在します。特に、インフラ整備が遅れている地域では、物流コストの上昇や事業展開の遅延が懸念されます。また、急速な経済成長に伴い、大気汚染や水質汚染などの環境問題も深刻化している地域も見られます。

東南アジアは高い成長ポテンシャルを持つ魅力的な市場ですが、これらの課題をしっかりと理解し、適切な対策を講じることで、成功へと繋げることができます。進出にあたっては、各国ごとの特徴や課題をしっかりと把握し、慎重な検討を行いましょう。

出典:
外務省「アジア」
アジア大洋州局地域政策参事官室「目で見るASEAN -ASEAN経済統計基礎資料-」

シンガポール進出のメリット・デメリット

まずは、シンガポール進出のメリット・デメリットを紹介します。

安定した政治経済

安定した政治体制を維持しているため、政治リスクが低いことがメリットの1つです。金融や物流のハブとして発展しており、アジアにおけるビジネスの中心地としての地位を確立しています。

高度なインフラ

世界トップクラスの空港であるチャンギ国際空港、効率的な港湾施設、そして高速道路網が整備されており、物流コストを大幅に削減し、ビジネスの効率化を図ることができます。さらに、高速なインターネット環境と最先端のITインフラは、デジタル化が進む現代において不可欠な要素であり、これらの高度なインフラは、ASEAN加盟国の中でも際立っています。

英語が公用語

英語が公用語の1つとして広く使用されており、国際的なビジネスコミュニケーションがスムーズです。シンガポールは多様な文化背景を持つ人々が集まる国際都市であり、国際的なビジネス環境が形成されていることも特徴で、グローバルな人材を確保したい企業にとって最適な環境です。

高スキルな人材が豊富

教育水準が高く、英語をはじめとする複数の言語を操る優秀な人材が豊富です。また、政府による積極的な人材育成支援により、高度な技術開発や研究開発に携わる人材を確保することができます。

自由貿易地域

シンガポールはASEAN加盟国との貿易・投資の拠点として、戦略的に重要な位置にあります。ASEAN加盟国をはじめ多くの国と自由貿易協定を結んでおり、ASEAN市場への進出を検討している企業にとって、シンガポールは最適な拠点となります。

デメリット

高い人件費と生活費、特定の専門分野における人材不足が挙げられます。加えて、市場規模の小ささ、外国人の就労に関して厳しい規制があることもデメリットとして挙げられます。ただし、シンガポールはASEAN加盟国へのアクセスが容易であり、ASEAN市場全体への進出を視野に入れることで、国内市場の規模が小さいというデメリットを補うことができます。

>シンガポールの法人税について詳しくはこちら

インドネシア進出のメリット・デメリット

次に、インドネシア進出のメリット・デメリットを紹介します。

2.8億人の巨大市場

インドネシアは、2023年時点で人口約2.8億人を擁する世界第4位の巨大市場です。若年層が多いのが特徴で、特に都市部の中間所得層が急速に拡大しており、スマートフォンや家電、自動車といった耐久消費財への支出が増加しています。これにより、消費市場は今後ますます拡大すると予想されます。

高い経済成長率

2000年以降、コロナ禍の影響を除けば、年平均5%程度の安定した経済成長を遂げています。政府がインフラ整備や規制緩和、外国投資誘致に力を入れているため、今後も高い成長が期待できる巨大市場です。

豊富な天然資源

石炭や天然ガスなどの豊富な天然資源を保有しており、資源関連産業への進出に適しています。再生可能エネルギー分野への投資も活発で、環境に配慮したビジネス展開も可能です。

製造業の拠点としての魅力

インドネシアは製造業が活発で、政府が物流インフラの改善にも力を入れています。若い労働力が豊富で人件費が比較的安く、低コストでの生産が期待できるため、製造業の拠点としても適しています。

デメリット

インドネシア進出には、税制の複雑さ、インフラ整備の遅れ、電力供給の不安定さなどの課題があります。また、公用語がインドネシア語であることによるコミュニケーションの問題、政治的な不安定さも、進出を検討する上で考慮すべき点です。

出典:
外務省「インドネシア共和国」

>インドネシアの経済成長と今後の課題について詳しくはこちら

ベトナム進出のメリット・デメリット

次に、ベトナム進出のメリット・デメリットを紹介します。

高い経済成長率

ベトナムは、近年目覚ましい経済成長を遂げている東南アジアの中でも特に注目されている国の一つです。2000年から2019年までは平均7%前後の高い経済成長率を記録しており、東南アジア諸国の中でもトップクラスの成長を記録しています。政府によるインフラ整備や規制緩和が進み、外国からの投資も活発化しています。

人件費の低さと豊富なIT人材

ベトナムの人件費は、他のASEAN加盟国と比較しても低く、コスト競争力が高いです。特に製造業においては、若い労働力が豊富で、政府の支援も得られやすいことから、多くの日本企業が製造拠点を設けています。

またIT人材の育成に力を入れており、質の高いITエンジニアを多く輩出しています。ホーチミン・シティやハノイなどの大都市では、ITスタートアップ企業が数多く誕生しており、活気のあるIT産業が形成されています。

若年層の多い人口構造

ASEAN加盟国の中でも、ベトナムは若年層の比率が最も高く、人口ボーナス期を迎えています。労働意欲の高い若年層が増加することは、将来的な内需拡大につながり、経済成長の原動力となることが期待されています。

親日的な国民性

日本のODAによる支援(※投稿時削除 や交通インフラの整備)により、ベトナムの人々は日本に対して好印象を持っています。そのため、ベトナムへの進出障壁が低く、多くの日本企業がすでに進出を果たしています。さらに、若者を中心に日本のアニメやマンガが人気を集めており、日本文化への関心が高まっています。

デメリット

一方で、インフラ整備の遅れによる物流コストの上昇や、法制度の未整備が課題となっています。さらに、公用語がベトナム語であることによるコミュニケーションの課題、政治的な不安定性、環境問題なども進出時の重要な検討事項です。

>ベトナム経済の現状と今後の課題について詳しくはこちら

タイ進出のメリット・デメリット

次に、タイに進出するメリット・デメリットを紹介します。

成長が期待される消費市場

タイは、2023年時点で人口が約7,000万人に達し、インドネシア、ベトナム、フィリピンに次ぐASEANで4位の人口を有する、成長が期待される消費市場です。ASEANの中心に位置するため、周辺国へのアクセスが良いことが特徴です。特に、バンコクを中心とした都市部では、ショッピングモールやレストランが数多く存在し、中間所得層の増加に伴い、日本製品を含む高品質な商品やサービスへの需要が高まっています。

観光大国・農業大国

年間4,000万人近い観光客が訪れるタイは、世界的に有名な観光大国です。ホテル、レストラン、旅行会社など、観光関連産業を中心に、サービス業でのビジネスチャンスが豊富です。

また、漁業や農業などの一次産業が盛んであり、農業資源が豊富です。食品関連産業への進出にも適しています。

親日的な国民性

日本とタイは長年にわたって友好関係を築いており、タイの王室・日本の皇室間の親密な関係が文化交流の深化につながっています。また、日本のアニメや映画、テレビ番組などのコンテンツを通じて、タイの人々の間で日本の製品や企業に対する親近感が高まっています。

デメリット

タイでは、過去に複数回のクーデターが発生し、政治的な不安定さが継続しています。また、人件費の上昇による労働力不足や、公用語がタイ語であることによるコミュニケーションの障壁も主要な課題として挙げられます。

出典:
外務省「タイ王国」

>タイにおける会社設立の流れや費用について詳しくはこちら

フィリピン進出のメリット・デメリット

次に、フィリピンに進出するメリット・デメリットを紹介します。

高い経済成長率と成長市場

フィリピンは、2023年時点で人口約1億1,000万人を超え、インドネシア、ベトナムに次ぐASEANで3番目の市場規模を誇ります。平均年齢が約26歳と若く、豊富な労働力を抱えています。特に、中間所得層の人口が急速に拡大しており、消費意欲の高い層が多いのが特徴です。

2023年の経済成長率は5.6%と、ASEAN加盟国の中でも高い水準を維持しており、今後も安定的な成長が見込まれます。

英語の普及率の高さ

フィリピンでは、人口の約9割が英語を話せるといわれており、ビジネスシーンにおいても英語が広く使用されています。そのため日本企業にとっては、コミュニケーションの障壁が低く、人材採用やビジネス展開がスムーズな点がメリットです。

人件費の低さ

フィリピンの人件費は他のASEAN加盟国と比べても低水準で、高いコスト競争力を持っています。特にBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)産業では、優れた英語力と費用対効果の高い人材を豊富に確保できるため、コールセンターやBPO拠点として注目を集めています。

経済特区

フィリピン政府は、外国企業の誘致を促進するため経済特区を設け、法人税の減免やインフラ整備の支援など、さまざまな優遇措置を提供しています。これにより、外国企業は低い税負担でビジネスを展開することが可能となり、フィリピンへの投資が活発化しています。

デメリット

インフラや法の整備の遅れ、電力不足などにより、ビジネス環境が不安定であることがデメリットです。また、都市部への人口集中が進み、地方の貧困問題が深刻化しているという側面もあります。

>フィリピン進出のメリット・デメリットについて詳しくはこちら

マレーシア進出のメリット・デメリット

最後に、マレーシアに進出するメリット・デメリットを見てきましょう。

安定した政治経済

マレーシアは政治的な安定性と経済成長を兼ね備えた国として知られており、外国企業にとって魅力的な投資先の一つです。長期的に見ても、2009年のリーマンショック後、コロナ禍の影響を受けた年を除き年間4~5%の経済成長率を維持しており、安定した経済成長を続けています。

インフラ整備

クアラルンプールをはじめとする主要都市部では、道路、鉄道、空港などの交通インフラが整備され、都市部における移動が非常に便利になっています。これらのインフラの整備により、物流コストが削減され、ビジネスの効率化が図られています。

また、高速インターネットなどの通信インフラも整備されており、デジタル化社会への対応も進んでいます。

生産性と人件費のバランス

マレーシアの人件費はASEAN全体では必ずしも安いわけではありませんが、地理的に近いシンガポールと比較すると比較的安価です。

加えて、英語を話すことができる人材が多く、教育水準も高いため、優れた生産性が期待できます。 この人件費と生産性の良好なバランスは、コスト競争力と質の高い労働力の両方を求める企業にとって魅力的な要素となります。

多民族国家

マレー系、中国系、インド系など、多様な民族が共存する多民族国家であり、それぞれの文化が調和した独特な社会を形成しています。人口の約6割がイスラム教徒を占めることから、ハラール食品やサービスに対する需要が高く、イスラム市場への参入機会が豊富です。このような多様な文化が共存する社会は、グローバルなビジネス展開において、幅広い顧客層へのアプローチを実現する強みとなっています。

また、英語が準公用語として広く使用されているため、スムーズなコミュニケーションが可能です。

マレーシア政府の支援

外国企業誘致に積極的で、外国企業に対する支援制度が充実しています。税制上の優遇措置や投資促進政策など、さまざまな支援策が用意されています。

デメリット

ブミプトラ政策に基づく外資規制、特定の専門分野における人材不足など、いくつかのリスクが存在します。外資規制は事業展開に大きな影響を与える可能性があり、また人材不足は長期的な事業継続の課題となるため、これらの課題に対して事前に十分な対策を講じる必要があります。

>マレーシアにおける会社設立や法人税制度について詳しくはこちら

まとめ

東南アジアは、世界でも高い経済成長率を誇る地域の一つであり、多くの企業が海外進出先として注目しています。各国が独自の支援策を用意していたり、若い労働力が豊富だったりするなど、メリットは多岐にわたります。

しかし、国によって政治情勢や経済状況、文化などが大きく異なるため、進出先の選定は慎重に行う必要があります。人材不足が深刻化している国や、政治情勢が不安定な国、言語の壁が高い国など、事前に東南アジア各国の特徴を把握し、自社の特徴やニーズに合った国を選ぶことが重要です。

東京都が主催する「X-HUB TOKYO」は、海外進出を目指す都内スタートアップへ向けた支援事業です。海外進出に役立つ情報発信やノウハウの提供、各種イベントの開催など、海外進出を成功させるためのサポートを提供しています。X-HUB TOKYOの支援を活用して、海外市場への挑戦を始めましょう。

【この記事の執筆】

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「X-HUB TOKYO」Webマガジン編集部

この記事は、東京都主催の海外進出支援プログラム「X-HUB TOKYO」の編集部が監修しており、スタートアップの海外進出に関して役立つ情報発信を目指しています。

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